10 月下旬,親戚に,転倒して脚を痛めたため立ち座りに支障が出てしまった者がいて,その家から手伝って欲しいとの要望があり,行っていろいろと工夫を考えたので,ご紹介。
● トイレの手すり
話を聞いたら,けっこう困ったのがトイレらしい。一時「痛み」のせいでトイレまで行くのもおっくうになり,「オムツ」をしていたとか。とりあえずは「行く」までは何とかできたとして,一旦便座に腰掛けると立ち上がるのがたいへんになってしまっているんで,何とかならないかという話。
まぁ,単純には,立ち上がりを補助する「手すり」を設置すれば済む程度の話だが,じつは脚の痛みのほうが改善されつつあるため,業者に「リフォーム」を頼んで数万ほどの費用をかけるには踏ん切りが付かないといった中途半端な状態。で,筆者に声がかかったというワケ。
◆ 設計
「手すり」に必要な要素は何かと言えば,人の体重を支えられるだけの耐重量性。それと,今回の場合,「仮」設置であっても,掴んだ時に簡単には傾いたり倒れたりしない固定の堅固さも必要になるだろう。
じつはそのお宅には,過去に別の「リフォームもどき」で使った 2x4
(ツーバイフォー)の角材が何本かあり,その後使われなくなり余っていたので,今回それが使えるのではないかと考えた。
2x4 の角材となれば,耐重量性には問題ないと思われる。問題になるのは「固定方法」だろうか。今回は「仮設置」だから,ネジ止めで固定するために壁に穴をあけるのも心許ない。だいたい,該当のトイレの壁が「タイル」だから,ネジ穴をあけるには,タイル用のドリル刃が必要になる。が,今回のためだけにそのコストをかける気しないし。
そこで思いついたのは「突っ張り棒」。トイレの幅なら,90cm 対応の突っ張り棒があれば,「壁に押し付けて」固定できるのではないかと判断した。設置については,この辺りを基本方針としてみる。
いきなり「本格的手すり」を考えるには不確定な面が多過ぎるんで,まず最も簡単なものを考える。てなわけで,支柱が2本,そこに「手すり」に相当する木材を横向きに上と中央に2本渡す簡単な構造とした。つまり木材は4本必要。横2本の手すりの左右だから「4箇所」のネジ止めが必要で,1箇所に2本ずつ使うとして計8本のネジを使う。
一番上は木材の長さそのもの(90cm)の高さとして,中央はどの辺りが適当か。じつは,そのトイレは「洗浄便座(いわゆる『ウォシュレット』)」で,操作パネルが便座と同程度の高さにある。で,脚を痛めた方が立ち上がる時,そのパネルに手を着いてしまうそう。それではヘタするとパネルを破壊してしまう。逆に言えば,その辺りに「手すり」があれば,パネルに手を着かずに済むだろうと考えた。
◆ 素材
で,今回使った素材は以下のとおり。
- 2x4(ツーバイフォー)材(90cm 前後=3尺もの)……4本
- 木ネジ(70mm 前後のもの)……8本
- 突っ張り棒(90cm〔トイレ室内幅〕対応のもの)……2本
- 滑り止めシート……適宜
使用した木材とネジの画像はこちら。
▼ 使用した木材とネジ |
筆者の場合,たまたまその家にあったものを多く使用できたために,実質的な出費はネジの ¥200 くらいのものだったが,全てを購入した場合,2x4 を1本 ¥350 とすると全部で ¥1,800 程度だ。リフォーム業者に頼むよりもずっと安く済むことになる。
◆ 製作
製作と言ったって,「手すり」に相当する木材の左右を,「高さ」を合わせて「支柱」に相当する木材にネジ止めするだけだから,そんなにむずかしくはない。
ただ,こうした製作に慣れていない人が,自作を断念する一因として考えられるのは,「ネジ止め」がうまくいかなかったりすること。今回のような「手すり」として使う木材を固定する場合,ヒートンやヨート(洋灯=?型のねじ込みフック)と同じ感覚でネジ込もうとしてもうまくいかないことが多い。というのは,ヨート辺りをネジ込む深さはせいぜい 1cm 前後だから,「下穴」などなくてもチカラ任せにネジ込めば何とかなることが多いが,木材同士を固定するネジは,数センチほどまで深くネジ込む必要がある。そこまで深いと,摩擦が強くなってなかなか回らなくなるうえ,無理にネジ込むと木材がヒビ割れて使えなくなってしまう。それを避けるため,一般的には「下穴」が必要になる。その「下穴」も,長いドリル刃を使って一機にあけられればいいが,手前と下の木材を別々にあける必要がある時は,「ズレ」が生じやすい。ズレると,当然ネジ止めはうまくいかない。
そこで筆者がしている方法は,まず手前の木材だけにネジの下穴をあけ,そこに実際にネジをネジ込み,下の木材と触れる側にネジの先端を少しだけ出しておく。それを下の木材の「ここに固定したい!」という位置に押し付ければ,ネジ先端の「跡」が付き,下の木材のネジ止め用の下穴をあけるべき位置が分かる。実際に「押し付けた」画像が以下。
▼ 下穴の位置の決め方 |
画像はネジ位置がまっ直ぐではなく少しズレているが,これは,木目に沿ってネジ止めしたことで割れ易くなることを防いでいるつもり。
こんな感じで支柱2本の上下に横に2本の「手すり」に当たる木材を固定したものが,こちら。
▼ 完成した手すり |
……なんだか,一部の方々が忌み嫌いそうな形になってしまったが,あくまでも「手すり」で,別に「くぐる」わけじゃなし。
で,あとは「突っ張り棒」を2本使って,実際にトイレに設置したものが,こちら。
▼ 設置例 |
「手すり」として,チカラがかかる方向が下だけならば,突っ張り棒「だけ」でも問題ないと思われるが,横方向に「ズラす」ようなチカラがかかると,棒が外れて手すりが倒れてしまう可能性がある。で,それにもある程度耐えるようにするために,タイルと木材の間に「滑り止めシート」を挟んでいる。挟んだ位置は,「突っ張り棒」の延長線上にある木材とタイルの間。実際にチカラをかけたが,案外それで外れない。
その後,2本の突っ張り棒のうち1本を便器の下を通したら,見た目が少しスッキリした。もちろん,滑り止めも同じ位置に移動した。
◆ 工事不要の市販の手すり
じつは,両側に同じものを作って設置するつもりでいたのだが,片方だけでもけっこう「ゴツい」感じがするうえ,脚を痛めた方も改善しつつあったので,片側だけでようすを見ていた。
数日後,ホームセンターを見ていたら,市販のトイレ用手すりを見つけた。それは,今回作った「2x4 木材」のように「ゴツく」なく,しかもその製品1つで便器の両側に手すりを設置できるうえ,工事も不要な「置くだけ」のものだったので,早速手に入れてみた。それがこちら。
▼ 市販のトイレ用手すり |
さすがにスマート! ゴツくない!
便器の両側の手すりとの間隔が均等ではなく,ちょっとズレているのは,このトイレが便器とタンクが一体型のため。すると,奥のパイプは便器(洗浄便座の機械部)の上を通すしかない。そのパイプの少し手前の位置に奥の支柱があり,向かって左側の支柱は洗浄便座の操作パネルとぶつからない位置まで左に移動させるしかない。そのため,少し左に寄せざるをえなかったというわけ。もし,便器とタンクが分離しているタイプなら,奥に横に通っているパイプも便器(機械部)の奥を通すことができるから,支柱も操作パネルの奥に持って来れて,左右の手すりと便器の間隔も均等にできるだろう。
手すりの位置が高めなのも,その「タンク一体型」である影響。奥のパイプを便器(機械部)より上にする必要があるために,そのパイプとくっ着いている手すりの位置も高めになってしまっている。
でもまぁ,この状態で何とか使えているようではあった。
じつはこの手すりの下には両面テープが着いていて,床に接着できるようになっている。ただ,ここでは下にマットが敷いてあるため,そのクッションタイプの両面テープの剥離フィルムを剥がさず置いて使っている。場合によっては「ゴム足」を設置する必要が出るかもしれない。
この製品,見かけた複数のホームセンターでは8千円前後。こうしたものがあることを知っていれば,リフォーム業者に工事してもらうよりも数段安く済ませられることになるわけだ。
● 浴槽の手すり
トイレの次に困ったのが入浴だったらしい。浴槽にどっぷりと浸かってしまうと……そう,立ち上がるのにひと苦労するというわけ。そこでやはり風呂にも「手すり」が要るのではないかということになった。
じつは,浴槽の縁に設置する「手すり」が製品としてあるのは知っていた。ただ,ホームセンターでは,そんな頻繁には見かけない。
そうなれば「通販」の出番! 検索をかけて通販サイトを探したのだが,なかなか条件に合うものがない。その「条件」とは? まず,脚の痛みは軽減しつつあるから,やはりそんなにコストかける気はしない。そこそこ安価で,そして,入手した製品に「調整が必要」と分かれば,それを筆者が滞在中にできること,つまり,発送は発注した当日中……とまではいかなくても,せめて2~3日中に発送してもらえるようなものであってほしいわけだが,これがなかなかむずかしい。
何とか条件に合うものを探し出したのだが……Yahoo! ショッピングだった。イヤな予感しかしない。Yahoo! はじめ,ソフトバンク系会社は,筆者は信用していない。というのも,過去には,yahoo.co.jp ドメインを持つ大量の迷惑メールが送られて来て,助けを求めても全く動いてくれなかったし,ある方が Yahoo! に掲載していたブログの記事で,LINE の管理体制について批判する記事だけが,ある日突然何の説明もなく削除されたなんて話があったり,決済サービス PayPay も開始当初不正が横行していたとか,筆者がソフトバンクと契約していた ADSL という通信契約も,同等条件の代替契約の案内もないまま打ち切られて,以降ずっと「つなぎっぱなし」契約が利用できないままと……この系列会社は,ロクなことがないのである。
ただ,今回は他に条件に合う販売店がなかったこともあり,仕方なくその Yahoo! で購入手続きをしたのだった。送料込み5千円弱だ。
商品の説明記事には,発送予定日として「2日後」の日付が記載されていたんで,それなら間に合うと思い購入手続きしたのだが……手続き後に届いたメールの内容の抜粋がこちら。
ご注文頂いた商品は海外発送なので、通常ではご注文確定後10-12日前後のお届けでございます。
ご注文確定後3-7日以内で発送いたします、発送の際に発送通知をメールにてご連絡致します。
……どっちだよ。2日後に発送と書いてあったから頼んだってのに。これだけでもちんぷんかんぷんなのに,追い打ちをかけるように,こんなメールが届いた。
耐荷重ですが136KGの在庫が売り切れでした。100KGならございます。
提案ですが、100KGに変更するか、キャンセルにも承ります。
売り切れた製品を掲示していたのか,この店は。しかも,仕様が低くなって,価格はどうなるのか記載がない。仕様が変われば,デザインも多少は違う可能性も考えられるが,それも書いてない。キャンセルした場合の返金手数料とかは取られるのか? 返信でそれらを問い合わせたところ,こんな回答が来た。
1. 100Kg のもののデザインは「全く」同じ商品です
2. 申し訳ございません、価格も同じです
3. キャンセルの場合はお金は本来の支払い方法に戻ってきます
「本来の支払い方法に戻ってきます」ってどーゆーこと? 意味がよくわからない。やはり Yahoo! なんて利用すべきじゃなかったのだ。
さて,通販の製品が怪しくなって来た一方,他の介護機器などを探すついでもあって,あちらこちらのホームセンターなどを回っていたところ,あるリサイクルショップで別のデザインの「浴槽用手すり」を見つけてしまったのだった。しかも,さらに安い3千円ほどだ。
「予備」の手すりにもなると思い,そちらも購入。それが,これ。
▼ リサイクル店でみつけた浴槽用手すり |
一見何の問題もなく見えるが,じつはちょっと致命的な欠陥が発覚。それは,下にある浴槽の縁を掴んで固定する「クランプ」部分が,これで最も「締めた状態」ということ。傾いて「すきま」があいているのがお分かりいただけるだろうか。そう,「固定できない」のである。拡大すると,こんな感じ。
▼ 手すりのクランプ(固定)部分 |
「3千円が無駄になってしまうのか……」そうはさせない! すきまは「埋めればいい!」のである。
前述の「すきま」の拡大写真を見ると分かるように,この浴槽の縁には「段差」があって,一方でこの手すりのクランプは平面なので,そのまま固定することも困難だ。逆に言えば,その「段差」の解消も含めて可能となるような形状のものをはさめばいいわけだ。
で,この家には,前述した「リフォーム」で使い終わった木材以外にも,中途半端な長さの 2x4 の木材が余っていたので,それを使って何とかしようと思った。前述「段差」を測って,その分だけ木材の厚みを切り落としたものを作る。こんな感じ。
▼ すきまを埋める木材加工 |
で,これをその手すりのクランプにはさんで固定すると,こうなる。
▼ 段差のあるすきまを木材で補間 |
これでけっこうがっちり固定される。体重をかけて揺らしてみたが,ビクともしなかった。とりあえず,実用上は差し支えないと思われる。元がそれなりによくできているのもあるだろうけど。
というわけで,こちらが何とか使えそうと分かったため,Yahoo! の通販のほうはキャンセルした。できればもう使いたくないわ。
◆ 継続使用時の留意点
今回の場合,主に使用することになると思っていた該当者の脚の痛みが改善して,この浴槽手すりを継続使用する必要性も減ったため,これ以上の改良は見送ることにした。逆に言うと,その「継続使用」をするなら,改善が必要だろうと考えていた。それは,クランプのゴム部分で直接浴槽に固定するのと比べ,木材は摩擦が少ないので,横方向のチカラに対する「滑り」の耐性は確実に劣るだろうという問題と,そして,木材は水を吸うため,使っているうち,表面に「ぬる」が出たり,腐食したりして,滑り易さが増していく可能性もあると考えていたため。
そこで考えていたのは,ゴム塗料を塗ること。検索をしたり,ホームセンターを回ったりして,いくつかそんな製品の存在は確認していた。スプレータイプで千円以下だったが,今回は見送った。が,継続使用をするなら,必要になっていたと思われる。
● その他諸々
今回は,行ったついでに,その他にもいくつか頼まれたことがあったので,併せてご紹介。
◆ 部屋の灯りを「後付け」でリモコン化
今回その「脚を痛めた」方は,それまで畳の部屋に布団を敷いて寝ていたのだが,立ち座りが困難になったことで,当然「寝た状態から起きる」ことも少々たいへんになったよう。そこで,ベッドも購入。○メリで1万弱ほどのベッドを購入し,そこで寝起きするようにしたのだが,電灯のスイッチのひもの位置が微妙にズレたためか,夜中に点けづらくなってしまったという。
それも,原理的には「手元」でオン/オフできればいいわけだから,使っている「引き紐スイッチ」の吊り下げ式のライトを,リモコン操作できる LED ライトに変えてしまえばよさそうに思うが,どうやらその従来のライトがお気に入りのようで,変えたくないらしい。
そこで登場するのは,「後付けリモコン」的な製品。それがこちら。
▼ 後付けリモコン |
これは,電灯を吊り下げている元の部分に設置することで,リモコンでオン/オフできるようにする器具。とりあえずは,これで本人も納得してくれたようだった。暗い中で,スイッチの紐を手探りで探す必要がなくなったらしい。
購入価格は2千円弱だったから,新規でリモコン式の電灯を購入して取り付けるよりも安く済んだ。
この製品の注意点は,吊り下げ(ペンダント)式の電灯専用で,天井に張り付けて設置するような「シーリングライト」には向かないのと,リモコンで明るさ調整(点灯させる電球の変更)まではできない点。でも,単純なオン/オフだけの使い方なら,これで十分と思われる。
◆ なぜか猫ケージ
じつは,筆者がこのお宅に滞在中,仔猫が迷い込んで来た。
▼ 迷い込んで来た仔猫 |
で,その住人のひとりが「飼う!」とか言い出した。以前も猫を飼ってはいたが,その人,足元にまとわりつく猫を避けようとして転んで腰を痛めたことがある。「喉元過ぎれば……」何とやらというヤツか。
数年前,20 年前後も生きた猫の死後は,特に飼う気にはなっていなかったようなのだが,気がつけば家じゅうで猫動画ばかり観ていたりと……少々「猫成分」が不足しがちではあったようだ。
しかし,自分は以前よりもさらに足腰弱っているだろっての。そこに仔猫とか……危なっかしくて仕方がない。
せめて,まとわり付かれたり,置いてあるものがいじられたりすると困る時などに猫を入れておく「猫用ケージ」は必要と考えられた。で,ホームセンターで下調べすると……5桁! 今回買った人が寝るベッドより高価だとぅ? 猫の世話って人の介護よりコストかかるのかよ。
いや,そんなにコストかけている場合ではない。通販なら安価なのもあるが,筆者がそこに居るうち届いて組み立てられるか……というと,やはり微妙。そこで,これも作ることにした。じつは先住猫が居た時,「簡易フェンス」として使用した百均のメッシュ(ワイヤーの格子)があったんで,それに追加で部品を付け足して安く作れないかと考えた。で,作ったのがこちら。
▼ 手作り猫ケージ |
使ったメッシュは,大きい 29×62cm のもの8枚,小さい 29×44cm
のもの 12 枚。なんと,先住猫の使っていたトイレが 44×62cm だったので,大小2枚ずつで四角を作るとピッタリはまる! トイレを一番下に収め,その四角を4段重ねて「結束タイ」で結合。途中に2箇所棚を作る。あとは 1x4(ワンバイフォー)の木材を縦に半分に切ったものを補強枠とし,所々に穴をあけて,メッシュを「結束タイ」で固定した。
費用としては,大きいほうは ¥150 だったので,メッシュの合計は¥2,400 で,追加部品は,上部のプラ鎖がやはり百均で,木材は ¥500
弱……てなわけで,結束タイも含め全部で3千円ほどといったところ。何とか,ホムセの猫ケージの4分の1以下程度で済ますことができた。
● 「介護保険」の存在意義
今回,最も重要だったのは「猫」かもしれない。というのは,その家で高齢の両親の面倒を看ている,いわゆる「カジテツ」に相当する者がいるのだが,「老人力」バリバリの方々から,特に見当違いの指示やら干渉やらをされた時など,さすがにストレスで体調を崩すことがあったようで,干渉を反らす「何か」があればいい……と思っていたらしい。そこに現れた仔猫だったのだ。で,かつて猫で腰痛めた人が「飼う!」と言い出した時も,特に反対する気は起きず,むしろ歓迎だったよう。
筆者が作った「猫ケージ」はかなり重要な気がしないだろうか。
今回の介護向けリフォームでは,諸々の雑費にベッドを含めても(猫ケージ除く)3万弱だろう。まとめると,こんな感じ(価格は概数)。
- トイレに手すり設置(8千)
- 浴槽に手すり設置(3千: ただし中古)
- ベッド(1万)+ベッドガード(3×¥1,600)
- 部屋の灯りをリモコン化(2千)
なんたってベッドが「○メリで1万弱♪!」……見つけた時は「○メリ」の上でアルペン踊りしたくなったレベル。これが結構コストダウンに貢献している気がする。
ちなみに,「○メリ」はある程度大きなお店でないと,ベッドの在庫はない模様。今回も,3番めに遠い店舗までクルマを走らせた。ただ,もし「直ぐ」でなくてもいいなら,通販で入手可能なようだ。
ちなみ2,トイレ手すりとベッドガードは「○インズホーム」です。
果たしてこれに「介護保険」とやらを利用していたら,いくらかかっていただろうかと思う。「保険」と言っているくらいだし,そのために「保険料」だって徴収しているのだから,こちらでごちゃごちゃやるより安く済んでもよさそうに思うが,おそらくそうはならない気がする。
ひょっとして「ケアマネ」とかいう方に計画を立ててもらうだけで,3万どころでは済まなかったりするのか。それとも,計画を立ててもらう費用は,全額介護保険とやらから出るのか。だいたい,介護保険制度を使えば,3万でここまでできるだろうか。「猫を避けようとして転倒することを避けるためのケージ」の費用は出してもらえるだろうか。猫を考慮した設備は……まぁ,普通は介護保険の対象外だろうけど,そうなると,「癒し」のないストレス満タンの介護現場に突き落とされることになるかもしれない。「介護保険」を利用してストレスに耐えるか,あるいは,利用せず猫と遊べる環境をとるか……充実した「介護生活」を過ごすには,どちらが適当と言えるだろうか。
ひょっとすると,介護設備の整備以前に,手続きに継ぐ手続きで忙殺されることになるかもしれないが。
まぁ,それ以前に,今回のような「在宅介護での設備の計画」までケアマネがしてくれる制度になっているかどうかまで,筆者は知らない。ひょっとすると,それは「介護保険」の対象外かもしれない。
でも,介護施設なんて不足しまくっているのだから,「在宅介護」で済めばそれに越したことはないはず。ここで紹介したような,「自宅にちょっとした工夫をすれば解決する」ような問題でも,大がかりな設備と人員が必要な場所に押し込んで済ませるための「ハコモノ」を作るのに,何千万とか何億とかコストをかける。それで,誰も彼も「資金不足だぁ~,人手不足だぁ~」と嘆いている……筆者の目には,そう映る。
一方,そうならざるを得ない事情も察するところではある。今回のように,親戚など,事情をよく知り得た身近な人であれば,「この人ならこうするのが適当」と分かるが,施設に預けるとなれば,そうした見当は付けられない。建造物や設備は,少々間違った使い方をされても事故につながることのないように……といった考慮をせざるをえなくなる。すると,最も乱暴な扱いをする人に耐えられるような「造り」のものに揃える必要性に迫られ,「必要最小限の耐久性で済ませる」ことが困難になる。「施設」だと,そのコストも負担する必要が生じるわけだ。
しかし,コストを抑えたいのなら,「ケースバイケース」で対応するのがベストだと思う。たとえば福祉施設で,入所者全員が「筋力が弱い障害」の場合と,自制が利かず「チカラまかせ」で行動してしまう知的障害の方を含む場合とで,どちらにも「ガチガチに頑丈な造りの設備」が必要だろうか。前者は必要性に疑問符が付くだろう。設備費用としては,前者のほうが安価なもので済ませられる可能性が高い。
ところが「ケースバイケース対応」をしようとすると,被介護者について,かなりきめ細やかな「分析」をする必要が出てくる。そのため,入所前の段階でけっこうたいへんな作業が生じる可能性がある。たとえば被介護者の嗜好や行動パターンなどを分析し,「チカラ任せに備品を扱うことがない人たち」は耐久性の弱い建物に集めるなど,どの程度の耐久性なら済むのかで設備を選定したり,それでも手荒に扱われないよう他の人と部屋で衝突しないようにするため,ではどんな人たちと一緒にすればいいのかなど,容易に分かるようなことではない面が多い。
でも,コストを抑えたいなら,それをすべきだと思うし,じつは実際にしている施設もある。筆者が知っているのは「オランダ」だけど。
上記記事で紹介している例は,「街」を模した認知症患者の介護施設で,その入所を希望する人の調査に,150 項目もの質問事項があって,何度か家庭訪問も繰り返すという話。一方,ザッと調べた限り,日本の入所申請書類にある設問数は,せいぜい 20 前後といったところ。それでも少なくない感じもするが,その7倍ともなると,回答するだけでもたいへんな気がする。しかも日本の場合は,家庭訪問を繰り返したりせず,主に書類だけで入所可否が判断されるのではないか。
でも,前述したように,その人に適する生活の場を,最小限のコスト負担で提供するには,その人がどのような人であるかを「細かく」知ることが不可欠。それを知ることによって,入所後のトラブルを避けて,快適な生活が実現するわけで,それなりに質問が多くなるのは避けられないのではないだろうか。だから,質問が多ければ,入所申請時に手間はかかるが,それは入所後のコストを抑えるためでもあるように思う。
日本は「面倒くさがり」が多いからなのか何なのか,その施設や制度設計の「入り口」で手を抜いてしまっているような気がして,結果として,入所後にトラブルが多発するようなケースが多そうな気がする。
で,思い出すのは,障害者施設「津久井やまゆり園」のこと。19 人もの入所者を殺害した植松聖は,過去にその施設で働いていたらしい。「障害者」の施設ともなれば,トラブルを防止するためには,それぞれの「障害」の症状に合った対応が必要なはずで,それが円滑にできていれば,そこで働いている人が「殺意」を抱く要因など生まれなかったのではないかという気がする。「適正な対応」のために,どんな方が入所していて,それぞれどう対応するのが適当なのか,詳しく調べて,対応する人に周知されている必要があるはずだが,あのような事件が起きるということは,それが十分だったかどうか,大いに疑問を感じさせる。
今年(2022)の9月に,国連が日本の「特別支援制度」などをやめるよう勧告を出したが,その背景にも似たようなものを感じている。今の日本の障害者をとりまく状況は,「似たような障害の人はまとめて扱えばいい」という安易な考え方で制度を作った結果に感じるのだ。本来,それは障害児に限った話ではなく,いわゆる「健常者」の教育も含め,ひとりひとりに合わせた対応を無視して,極力「みんな同じ」に扱って済ませることに重点を置いた制度を作っているように思う。それでいて「日本では天才が出て来ない!」とか言って嘆いている。
「介護保険」も「みんな同じ扱い」で済ませたい日本のオヤクショが作った制度であることを考えれば,「適切な介護」が期待できるかどうかは推して知るべし。筆者が今回行なったように,制度に期待せず,それぞれの現場で当事者に適当な「できること」を探して対応できれば,そのほうが充実した介護生活になるのではないだろうかと思っている。
むずかしいのは,その「できること」をどうやって見出すかだ。筆者の場合,述べて来たような「工夫」をできる技能を持っていたうえに,対象が気心知れた親戚ということもあったが,ではアカの他人を相手にする施設の現場で同様なことができるかというと,むずかしいのが実態だろう。でも,筆者が現場を知ればある程度アイデアを提供できるかもしれない。ただ筆者の元には,そんな相談も仕事のオファーもないのが現実(2022-11)。それでみんな「資金不足だぁ~,人手不足だぁ~」と嘆いている。
現場を見ず,末端の利用者の事情をよく調べないまま,設計する側,運用する側の都合だけでシステムを作るから,現場が疲弊するものばかりになるのだよ,この国の「制度」は。端的に言えば,ストレスの少ない介護生活をしたいと思ったら,そんな国が作った「介護保険」制度を利用するより,「猫」を飼ったほうがマシかもしれないということだ。