NHK サイトでこんなニュースを見つけた。
要約すると「交通事故の被害で重い障害が残った人を支援する事業の財源に,自賠責保険の保険料を充てよう」ということらしい。そして,既に「再来年度以降に賦課金の増額を検討している」のだとか。
一見,交通事故で中途障害を負ってしまった人を支援する福祉目的の値上げで,良いことっぽく思えるが,筆者が抱いたのは「ははぁ~ん」という(いぶか→)訝しさ。というのも,既に以下のニュースを見た後だったため。
要約すると「財務省が自賠責保険の積立金を借りて 6000 億円ほどが返されていないために不足している」とか。後者記事では「自賠責保険は,元々交通事故の障害者支援にも使われるべきお金で,借りたお金を返せず不足するからって,『障害者支援の強化』を口実に保険料を5倍近く値上げするってどーよ?」と,疑問を投げかけている。
一方,それで筆者が思い出したのは,毎年8月終わり頃にある某民放テレビ局のチャリティー番組。とはいえ,筆者はテレビというものをほとんど観ないのでよく知らないのだが,その番組には賛否両論あり,特に「否」のほうの主張としてあるのは,「障害者を『だし』に使っている」ように見えることの是非らしい。
「障害者を『だし』に使っているように見える」……では「交通事故障害者支援強化」と「自賠責保険料の値上げ」はどうなのか,といった思いを抱いたわけだ。
● 「だし」とするのに都合のいい制度
「チャリティー番組」と言えば,「善意」で成り立っていると考えられているわけで,多くの人から支持されていていいような気もするが,(くだん→)件の民放番組は,否定派……いわゆる「アンチ」も多い。じつは筆者もその一人。まぁ,観ないからあまりごちゃごちゃ言う気はないが,否定派の主張の最大公約数的な部分には,「障害者を『だし』に使っている」ように見えることの是非があるような感じがする。
ある年,件の番組の放送中,マサにその裏で,「障害者を『だし』に使うな」という趣旨の番組が放送されていたらしい。しかもそれ,障害を持つ方々当人らの主張もあったようで,ネットで話題になっていた。
当人たちにとっては,別に必ずしも普通の人以上にがんばっているつもりでもないことを,変に特別扱いをされてしまっている点に,違和感があるのかなという気がする。端的に言えば「見せ物」みたいな感じ。だとすれば,快く感じない人がいるのは分かるようにも思う。
では,「自賠責保険から借りたお金が返せないから,不足分は保険料の値上げで対応するね,ついでに交通事故で障害を負ってしまった人の支援を強化してあげるからさ……」的な対応ってどうなのか。筆者は,「障害者を『だし』に使う」のに似たような構図を感じたのだが。
最初に挙げた2つの記事のうち,後者の「財務省の借りパク」記事の著者は,「そもそも自賠責保険は『被害者救済』が目的だろう」と述べている。当然,事故で障害を負った人の支援について「今までも」そこに含まれていたはずなのに,それを「充実させるため」なんて,値上げの口実としてもおかしいだろ,的な話。筆者も,それはそう思う。だいたい,財務省が6千億ものお金を持って行っていなければ,値上げしなくたって充実させるお金があった可能性が高いのだから。
ただそれ以前に,筆者としては,障害の原因が先天的か交通事故かで支援に差があっていいのかという点が疑問。交通事故は自賠責で,以外の障害は別の制度で……などといった扱いでは,すると労災事故で障害を負ってしまった人はまた別の制度が適用されるということなのか。どれかが「手厚く」,どれかは「ほぼ放置」といった差があるとすれば,そのほうが大きな問題のように思う。
たしかに,事故をきっかけに,それまでできていたことが全くできなくなってしまう「中途障害」は,物心ついた時は既にその「障害のある生活」に慣れてしまっている「先天的」なものとは,「ストレス」的な面はかなり違ってくるとは思う。精神面のケアなどは「全く同じ扱い」にはできないかもしれないが,ただ,低下した機能を補ったり,義手や義足装着時の「リハビリ」などは,先天的か事故かで差をつける必要性はないように思う。だいたい,利用できる「リハビリ」の施設やコースが,同じ「事故による中途障害」でも,「交通事故」と「労災」とで,使われる財源が異なるために差ができる……では,問題ではないか。
「交通事故の障害者(に限って?)は自賠責保険で支援する」ような仕組みだとすれば,疑問しかない。「障害者支援」に「原因の違いで差がある」ようなことが元からなければ,「自賠責」云々など関係ないわけだから,保険料の値上げの口実になどできなかったはずではないか。
先天的なもの,交通事故,労災事故……障害の原因により財源が違う制度であるために,たとえほとんど同じ障害でも,受けられるリハビリや利用できる施設が異なる……そんな制度設計が,「変な口実」で国民を煙に巻くことに利用されてはいないだろうか。
● NHK の「訝しさ」
じつはそのチャリティー番組の裏で,「障害者を『だし』に使うな」的な番組を放送していたのは,他ならぬ NHK らしい。度々言うが筆者はテレビを観ないために詳細は知らないので,詳しくは「感動ポルノ」という文言あたりで検索して出てくる記事を参照してみて欲しい。
最初に挙げた NHK ニュース記事は,次の「財務省借りパク」についての記事を先に見つけたため,同じ内容を詳しく報じている記事が NHK
サイトにあるかどうか調べていて見つけたもの。で,「交通事故障害者支援に充てる」という記事はあったので最初に挙げたのだが,とうとう「財務省借りパク」についての記事そのものは出て来なかったのだ。つまり,財務省が6千億もの金額を国民が支払った自賠責から借り入れて半ば踏み倒そうとしているのに,それを報じていない……正確に言うと「検索しても出て来ない」ようにしていることになる。
つなげると,NHK は「障害者を『だし』に使うな」的な番組を放送していながら,障害者支援を「だし」に使って自賠責保険料が値上げされようとしている可能性についてはスルーしている……ということ。NHK
の記事で感じた「訝しさ」とは,その点にもある。
だとしても,NHK が敢えてその報道をしない理由などあるだろうか。たとえば「スクランブル化阻止」とか,「電波オークション制度阻止」とか……まぁ,考えようと思えばいろいろ考えられる。財務省が6千億円ものお金を焦げ付かせているとか,どう考えても普通ではないと思うが,それを報道して政府が反発し,「ほ~ん,じゃスクランブル化して確実に観ている人からだけ受信料を取るようにしてね~」とか,「電波オークション制にするから,NHK も民放と平等に入札してね~」などと言い出されると困るのではないか。それらのない現制度を「変えて欲しくない」から,なるべく政府関係者から「そんな報道をするなら変えてやれ」と思われないようにしているのだとすれば,ありえる話だろう。
でも,受信料はともかくとして,「電波オークション制」と言えば,別に NHK に限った話ではない。他の民放各局も影響を受けるはずだ。実際,「財務省 自賠責」で検索して,その結果にどれほどテレビ局が含まれるかを見れば,その話がいかに避けられているのかが分かる。
テレビ局に限らず,検索では新聞社もほとんど引っかかって来ない。全国紙は「沈黙」に近い状態。出て来るのは,ウェブ独立系のニュースサイトばかりだ。なんたって,新聞も「軽減税率」という「甘い汁」に(あずか→)与っていて,それを変えられると困るのである。
● 日本の国力を弱める人たち
じつは自賠責の保険料だけでなく,自動車関連には他にも新たな負担が考えられているのだとか。それが「走行税」だ。EV(電気自動車)が増えると「ガソリン税」が入って来なくなるから,それに代わるものとして取り沙汰されているらしい。
子供がいる世帯は,保育所などとの送り迎えや,買い物などの時も,なにかと子供を連れ回す必要が生じるから,それにクルマを使いたいこともあるだろう。すると,自賠責とか走行税とかで,クルマを使う時の負担を増やすということは,子育てをますますしにくい環境を作って,育児のハードルを高めるようなもの。クルマを使うほど負担が増加することが分かっていれば,先を考えるチカラがある人ほど,たとえ結婚をしても子供を作るのはためらうことになるだろう。
で,今年(2022)はとうとう出生数が 80 万人を切るらしい。そこまで減るのは,当初はあと数年先の予想だったのが,早まったのだとか。
人口は国力に直結する。子供が減少すれば将来の税収も減るのは言うまでもない。一方,今のお役所と国政政党である自民党は「増税しなければ財政がもたない」などと言っているような話。自賠責や走行税にとどまらず,消費税などもさらなる増税を検討しているとか。家族が多ければ消費も増えるから,消費税が上がればますます子供を作りづらくなる。出生数の減少を早めて将来の税収を減らし,国力を弱めて「財政がもたない」ような状態を作っているのは,あなたたちではないのか。
一方,大手マスコミはといえば,ここで筆者が述べたような因果関係の分析をすることはないし,もちろん報道もされない。なぜならマスコミは「受信料制度」や「非・電波オークション制」,「新聞軽減税率」などの「甘い汁」を吸い続けたいために,「では変えてやれ!」と思われることのないよう,お役所や国政政党自民党を批判するような分析や報道を避け続けているからだ。政治家のスキャンダルの第一報が,軽減税率対象外の週刊誌ばかりである理由は,もうお察しだろう。だから,実際に「負担増」の口実として障害者への支援が利用されていたとしても,主要マスコミからは報道されないから,多くの人は気付かされないままになり,声を上げる気すら起きないだろう。お役所と政府自民党の政治家たちが国力衰退を推進し,マスコミがそれを助長する……そんな構図が実態のような気がする。
「たまたま」自賠責がそうなっただけと思うだろうか。負担金値上げに,「障害者支援」が引き合いに出されたのは。
「電話リレーサービス」というものがある。聴覚障害者が電話を利用する時に手話や筆談で通訳するものらしい。何年か前,その経費が毎月の電話代へ上乗せすることが決められたのだと思う。一方,NTT の内部留保は9兆円ほど(一部の報道では 10 兆円超)あるようだ。国民一人あたり7万円以上ある。既にあるメールや FAX を,聴覚障害者がもう少し便利に使えるように整えれば,一人7万もかからんのではないか。そのほうが安上がりなうえに,しかも使い易いのではないかと思うのは筆者だけだろうか。その内部留保には手を付けず,「聴覚障害者支援のため」として新たな負担を国民に求めることを決めたのは総務省だったか。筆者の手元にある電話代の内訳には,9月分までの「ユニバーサルサービス料他」の項目として,その「電話リレーサービス」の負担金が含まれる旨の記載がある。つまり既に「障害者支援」を口実に負担させられていた事実があり,自賠責が「たまたま」とは言えないのだ。
結局,それらサービスの分担金,自賠責保険料,引いては増税など,「負担を増やす口実として障害者支援が引っ張り出される」ことが常套手段化していると言ってもいいように思う。
内部留保に手を付けさせず,障害者支援を「だし」に末端国民の負担ばかりじわじわ上げておいて,「格差が拡大してたいへんだ!」とか,「SDGs! 人や国の不平等をなくそう!」とか言っていたりしないか?
負担を増やす時の「だし」に使われている人たちは,もっと声を上げて怒ってもいいのではないかと思う。