障害者の可動部位を活かすスイッチ DIY-内転筋編


公開 (UL): 2025-06-09
更新 (UD): 2025-06-09
閲覧 (DL): 2025-06-19

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I'm instructing PC to a handicapped. The person was using "piezo-sensor" sticking above an eyebrow as input method. But there were many miss operation, because of moving whole body instead of only eye. I was watching it, and had an idea putting a switch between thighs. Immediately miss operations decreased. And I started to devolop "adductor muscles switch."

 筆者は障害のある方にパソコンの指導をしている。ある方が「ピエゾ素子」と呼ばれるセンサを眉の上辺りに貼り付けてパソコン入力をしていた。本来は目だけ動かせば入力できるはずが,使っているうちに身体の他の部位を動かす動作を伴うようになり,だんだん目よりもそちらの動きが大きくなって,誤入力が多くなってしまっていた。
 ある時「だったらその身体の動きのほうでスイッチ操作できないか」と考え,チカラを入れた時に両腿を閉じる動きが分かり易かったので,試しにそこに押しボタンスイッチを挟んでみたところ,たちまち正確性が格段にアップ! たまたま一緒に居たご家族の方も驚いて,以降,腿に挟んで使うスイッチの開発が始まったのである。

● もう少し詳しい経緯

 筆者がパソコンの指導をしている障害を持つ方が昨年(2024)あたりから取り組んでいるパソコンの入力方法が,「ピエゾ素子」と呼ばれるセンサを眉の上辺りに貼り付けて,そこを動かすもの。
 「ピエゾ素子」とは,「曲げ」や「圧力」などのチカラが加わることで電気を発生させるものの総称で,物質としては「石英(水晶)」とか「酸化亜鉛」が使われ,それらを薄く加工したものに電極を取り付けたものが「センサ」として使われるらしい。

 筆者がその方のセンサのセッティングをして感じたのは,貼り付ける位置や感度調節がかなり微妙で,操作の正確性が高くなる設定を探すのにけっこう苦労すること。当初,施設の介護担当者から教わったのは,ピエゾ素子を「眉の上辺りにテープで貼り付ける」方法だったが,やれセンサとケーブルの2箇所をテープで止める必要があるとか,その間はケーブルをピンと張っておかないと反応が悪いとか……筆者がいない時は介護担当の方がその都度それをしているのかと思うと,手間と負担は相当なものになるのではないかと思った。
 数ヶ月ほどして,少しでもそのセッティングの手間を軽減したいとの思いで,「水泳帽を被せて縁ゴムと額の間にセンサを挟む」なんて方法も試していた。いちいちテープで貼り付ける手間はなくなったものの,結局は挟む位置や感度の調節が必要で,何とか調整して正確性を高くできても一時的なことが多く,やっているうちに身体が別の動きを伴うようになり,正確性が落ちてくることが多かった。眉の上にあるのだから眉だけ動かせばいい……簡単には,目だけちょっと上を向けば入力できるのに,時間が経つと目よりもその他の身体の部位を動かす動作が強くなって来てしまう。「目だけ上を向けばいいんだよ」と伝えてはみるものの,身体を動かすのは無意識に出てしまうようで,結果として「目を動かす」という意識が弱くなっていってしまっている感じがした。

 そんなことを何度か繰り返していたが,ある時「だったらその身体の動きのほうでスイッチ操作できないか」と考えた。その「動き」とは,結局は全身にチカラを入れる傾向が出るのだが,その時に両腿を閉じる動きが分かり易かったので,試しにそこに押しボタンスイッチを挟んでみた。たちまち操作の確実性が格段にアップ! 一緒に居たご家族の方も驚き,以降,腿に挟んで使うスイッチの模索が始まったのだった。

◆ まずはジェリービーンスイッチ

 最初に「挟んだ」スイッチは,たまたまそこに施設のものと思われるジェリービーンスイッチ(ごく一般的な押しボタンスイッチ)があったため,それを操作者の腿の間に置いた。「置く」と言っても,腿が開いている時は持っていないと落ちてしまうし,だからってずっと持っているわけにもいかないので,ケーブルを腿の上を回して車椅子のフレームに縛り付け,下に落ちないようにしてみた。すると直前まで「ピエゾ」で繰り返されていた誤入力がウソのように激減した。
 ただ,車椅子のフレームに縛り付けただけでは,脚の位置の変化により腿の間にあるスイッチの位置も変わってしまう。脚がフレームに近づけばケーブルが緩んでスイッチは下に落ちるし,逆に離れればケーブルが引っ張られて上に上がり,場合によってはスイッチが腿の上に乗ってしまい,いずれにしても操作できなくなってしまう。
 そこで,腿の間の位置を維持するため,針金を曲げてスイッチを引っ掛けてぶら下げる金具を作った。40cm ほどの棒の中ほどにぶら下げて棒を両腿の上に渡すと,それでかなり操作が安定した感じがした。

◆ エアーバッグ・スイッチ

 じつはその方が持っている障害者向けの入力装置に「エアーバッグ・スイッチ」というものもあった。「ピエゾ素子」と同じ検知器に接続して使う小さな空気枕のようなもので,そこに圧力を加えると内部の空気が押し出され,チューブを通って検知器に送り込まれて「オン」の信号を出力するもの。それも腿の間に挟んで試してみた。
 結果としてはあまりうまくなかった。というのは,検知器が敏感過ぎるらしく,その方の脚(legs)の小刻みな動きに過敏に反応して意図しない「オン/オフ」が繰り返されたり,また腿を閉じようとする傾向が多めに出るようになると「オンのまま」になってしまうなど,感度調節がかなりむずかしく感じた。
 前述のジェリービーンスイッチでは腿とスイッチとの間に隙間があったので小刻みな動きではスイッチは押されず,しかもスイッチが押されるまで確実に「腿を閉める」動作にだけ反応していたため,むしろそっちのほうがよかったように思えた。

◆ 内転筋トレーナー

 ジェリービーンスイッチの欠点は,ひとつはうまく固定できない点。前述した「両腿に棒を渡して真ん中辺にぶら下げる」方法でも,スイッチ操作のため脚を動かすことによりちょっとずつズレて行ってしまっていた。特に,車椅子の通常の状態では腿の上が少しナナメになるため,操作しているうちに下になっている膝方向に少しずつ滑って行ってしまう。腿の上が水平になるよう座面を少々後ろに倒して対応していたが,脚の動きが激しくなると同じ場所に止まっていてくれない。継続操作をできるようにするためにも両腿の間の同じ位置に止まっていて欲しい。
 もうひとつの欠点は,操作しているうちにやはり腿を閉じようとする傾向が多めに出て来るため,そうなっちゃうとジェリービーンスイッチでは「押し圧」が軽過ぎて「オンのまま」になり易い点。

 そこで「内転筋,トレーナー」でウェブ検索をかけた。すると,腿の間に挟んで使う「内転筋」を鍛える器具がいろいろ出てきた。あるものはバネによって「開こう」とするチカラに対抗するカタチで腿を閉じようとするチカラを込めて鍛えたり,あるいは器具が振動して筋肉を刺激したりするもの。今回は前者のタイプを,腿を閉じた時にスイッチがオンになるような使い方ができないかと考えた。腿の間に挟んで使うものだから形状としてもそこにフィットするようにできていることが期待できて,しかも「トレーナー」だからバネがわりと強めで,腿が「閉じたまま」になってしまう防止対策にもなるのではないかと考えた。
 ちなみに実際にトレーニングしようと思ったら,別にそんなものなくても,フィットネスボールあたりを股間に挟めば済みそうな気もする。なければビーチボールか座布団あたりを適当に折って挟んでもいいし。「トレーニングのためにゲットしたぜ!」的な「グッズ」を買わないと気が済まない方のためにあるみたいな感じがスゴくする。

 とはいえ,その時点ではそのトレーナーをどう使うか具体案はなく,ご一緒していたご家族の方とひと通り画像を見ながら,「こんな器具を応用してスイッチとして使えたらいいかもですねぇ」などと言いつつその日は別れたのだが,帰宅後に何気なく百均店の名前と共に再び検索をしたら……出てきた。百均店で売られている「内転筋トレーナー」が。まぁ,百円ではなく二百円だったが。
 この話をそのご家族に XMPP(チャット)で伝えたところ,数日後にその百均店サイトで在庫のあるお店を探して入手できたと連絡をもらった。その時から「内転筋スイッチ」はグンと現実味を帯びてきた。

 これが「チャット」ではなかったら,実現していたかどうかは微妙。というのも,以前はその方の Gmail に連絡をしていたのだが,筆者との間で遅延や不達が多発していたため。つまり,「百均店にこんなもの見つけました!」と Gmail 宛にメールしても,気付かれずに終わっていた可能性があったのである。「チャットなら LINE でいいのでは?」と思う方もいるかもしれないが,まず筆者が主に使うパソコンの OS である Linux 用の LINE アプリがない。他にも筆者は新旧取り混ぜ様々な機械を使い,特に古い機械もなるべく捨てずに使い続けることで活動コストを抑えている。だから,LINE や Gmail を利用しようとしても,そこの業者で作ったアプリが動作する機械でないとダメ,しかもそれが「バージョン××以上! 古い機械ではダメ!」では,通信手段として使えない要因だらけ。だいたい「使い続けたいなら新しい機械使え!」みたいな通信手段など,いつ使えなくなるか分かったもんじゃないし。そもそもそうやって古い機械で使えなくすることは,結果的に「新しい機種にバカスカ買い替えさせる」方向に誘導しているようなもので,そんな企業が「サスティナビリティ(持続可能性)」云々言っちゃっていたりするから,ちゃんちゃらおかしい。それを言うなら提供サービスやアプリも持続的に使用可能にしろよって話。しかも LINE に至っては,個人情報のお漏らしが度々あってセキュリティの面でも疑問。
 その点 XMPP というチャットは規格がオープンだから,様々な機械で使える。で,そのご家族にも提案して使っていたというわけ。だから,「内転筋スイッチ」が現実味を帯びたのは,XMPP でのやりとりにより「内転筋トレーナー」の調達の連絡が円滑にできたためとも言える。
 「そんな大袈裟な……」と思う方もいるかもしれないが,じつはそのご家族が購入したものは,近場で手に入る最後の数個だったかもしれなかったので,もし連絡手段を Gmail や LINE に頼っていたら,うまく連絡がつかずに買いはぐり,今回のアイデアは具体化しなかった可能性もあったのですよ。
 こんなことがあるから,Gmail や LINE などの既存サービスへの連絡手段の依存からは早めの脱却をおすすめしたい今日この頃。
 どうすれば XMPP チャットが使えるかは,以下の記事参照。

▼ XMPP - 長く使える安心チャット
http://treeware.jp-help.net/?ssss16

● 設計

 何かを障害者に対応させるために改造しようと思った時,元の製品が数千から数万円もしちゃうと,うまくいかなかった時のことを考えたら少々気が引けるが,その点,百均で手に入る程度のものなら心おきなく加工できる。ご家族の方が手に入れた「内転筋トレーナー」を提供してもらったので,どのような加工が可能か考えてみた。

◆ 調節可能にする工夫

 とはいえ,障害者向けの器具というのは「これがベスト!」と言えるような最終型的状態は,あってないようなもの。一時的にはいい具合に見えても,使っているうち当初気付かなかったダメな点が目立ってきたり,何より,障害の症状が変化して合わなくなることはザラにある。
 今回も,当初はトレーナーの内側に「グルーガン」みたいな接着剤でスイッチを固定してしまおうかと思っていたのだが,それだと前述のように調整が必要になった時,その都度接着をはがして着け変えなければならなくなる。しかも,一発でベストな位置に着け直せるとは限らないから微調整が要ることも多いと思われるが,その度に「接着し直し」を繰り返すのでは手間がかかり過ぎる気がした。
 こうした場合「ネジ止め」で固定すれば,ネジを緩めることで直ぐに調節が可能だ。たまたま自宅に簡単な工作で使う「L字金具」があり,ネジ止めに使うには最適! また「蝶ナット」と呼ばれる,指で締めたり緩めたりできる便利なネジもあったので,今回はこれらを使ってできる方法を考えようと思った。

◆ 使用するスイッチ

 この手の加工でよく使うのは,ゲーム機用押しボタンスイッチかマイクロスイッチ。ここで言う「ゲーム機」は家庭用のものではなくゲームセンターにあるタイプのことで,スイッチも「業務用」になるが,部品単体では ¥200~300 ほど。ただそうしたゲーム機のボタンの押し面は操作盤の上に数ミリ出ているくらいだが,じつはその部品は縦に長い。内部は数センチほど「奥行き」があり,しかも設置に 30mm ほどの大きめの穴をあけてハメ込む「パネル」が必要で,「内転筋トレーナー」のどこにその設置場所を確保するかとか,いろいろ悩ましいところ。

 一方の「マイクロスイッチ」は,ゲーム機用スイッチと比べるとずっと小型のものもある。穴もあいていてネジ穴としても使えるので,今回使うのはこちらのほうがいいと思った。
 マイクロスイッチでよく使われる規格は以下の3種類。いずれもラベルを正面から見た時の「幅×厚さ(奥行き)」を示す。なお同じ型でも端子やレバー形状が異なる製品のバリエーションがあり,「高さ」もそれぞれ異なるが,挙げたものの本体部分の高さは概ね幅の半分くらい。

▼ マイクロスイッチ3種類
マイクロスイッチ3種類

 画像の3つのスイッチはメーカーが異なるが,品番の文字をよく見てもらうと,どれも最初のハイフン直前のアルファベットが型と同じなのが分かる。このように規格の型は品番に含まれることが多いので,部品の調達のために通販を探す際は,「マイクロスイッチ,Z」と使いたい型のアルファベットを付加して検索すると見付け易い。
 ちなみにこの Z 型と V 型のマイクロスイッチにあいている穴の間隔はほぼ同じで 25mm 前後。1mm ほど V 型が短いくらい。今回のような使い方で「ネジ止め」するなら,同じような加工でどちらでも使えると思われる。

 写真はどれもたまたま自宅にあったものだが,これらの中から,まずは内転筋トレーナーの内側に合いそうな大きさに思えた Z 型のレバー付きのものを使ってみることにした。

● 加工

 加工といっても,スイッチにケーブルとプラグを接続して,「内転筋トレーナー」に金具とネジで取り付けるだけで済む……と,当初は思っていたのだが,後に不都合な点も見えてきて使うスイッチを交換したりもしたので,その辺りも含めて説明したい。

◆ 当初案

 とりあえず考えられる最も簡単な加工をしてみたのがこちら。

 ほぼ見たままで,トレーナーにネジ穴をあけ,内側にL字金具を取り付けて,そこにマイクロスイッチをネジ止めしただけ。おそらく,見て「大丈夫なん?」と感じる方もいるかもしれないが,これはこれで入力できて,ピエゾ素子を使っていた時よりも確実性は高くなった。

◆ 見えて来た不都合

 使っているうちに浮上してきた問題は,トレーナーの内側でレバーの先端が当たる部分が削れて来てしまったこと。「やっぱり?」と思っている方もいそうだが,もし放置すると「削れ」がひどくなって操作性が悪化したり,ましてや穴があいてしまうと安全上の問題も考えられるので,これは解消したい。
 じつは同じ型のマイクロスイッチでも,レバーの有無や長さ,方向,形状などの異なる仕様がいくつか存在する。そこで,使用するマイクロスイッチを変更してみた。それが以下。

 スイッチのレバー先端に車輪のようなものが付いているのが分かると思う。この部分が当たれば車輪が回転するためにこすられることなく,内転筋トレーナーの内側も削られないというわけ。
 実際の使用状況は以下のとおり。今のところこれであまり不都合なく使えている。

 今回は使用者のご家族の方がたまたま百均店で入手できたトレーナーに合わせることを意識したマイクロスイッチの仕様を選んだが,どんな形状のスイッチが合うかは加工するトレーナーによっても違って来ると思われるので,製作を考える場合はメーカーサイトのカタログや販売店辺りでどんなスイッチがあるかを見て決めるといいと思う。

◆ かかった費用

 今回の加工に使った部品にかかった費用は,ザッと以下のとおり。

 なお,筆者の加工費や調整費は含んでいない。
 ただ,加工といっても,トレーナーにネジ穴をあけてスイッチをネジ止めしたり,プラグとケーブルをはんだ付けしてスイッチに結線したくらいなもので,この段階で費用的には2千円にも達しませんけど。
 一方で調整費は,パソコンの指導中にそのスイッチの調整もしているため,結果的に指導費に含ませる扱いにしている。

● 今後の課題と応用

 いちおう前掲の写真のもので使えてはいるが,広く様々な方が使えるようにしようとすると問題がないわけではないと思っている。考えられる問題点と,他の操作方法への応用について考察してみたい。

◆ 「軽く閉じてオン」は工夫が必要

 前掲の写真を見てもらうと,レバーが微妙に曲っているのにお気づきだろうか。もちろん元々は真っ直ぐだったが,最初に設置した位置がよくなかったためか,レバーの可動範囲以上に動かすチカラがかかり曲ってしまったもの。その後,設置位置を調整し,とりあえずこれ以上曲ることは防げている。
 さらに実用性を高めるとすれば,そうした「可動範囲以上にかかるチカラ」を吸収する機構があったほうがいいだろうと思っている。今回の場合,スイッチが「動かないように」ネジで固定したため,可動範囲を超えるチカラが全てレバーにかかり曲ってしまったのだから,スイッチをガチガチに固定するのではなく,適当に動いてそうしたチカラを受け流すような何らかの仕組みがあればいいのではないかと考えている。
 具体的には,ネジを「回転軸」として使う方法が考えられる。今回は金具とスイッチをがっちりネジ止めしてしまっているが,スイッチの側を緩く固定することができれば,ネジを軸として回転するようになるだろう。ただ,スイッチがくるくる回ってしまってはオンにならなくなるので,どこかにバネなどを挟み,押された時はまずスイッチが「オン」になり,それ以上押された時にバネがそのチカラを受け止めて回転するような仕組みが必要になると思われる。
 「そこまでする必要があるのか」と感じる方もいるかもしれないが,これは,どれほど腿を閉じればオンになるかを決める重要な要素になると考えている。じつは,レバーが曲ってしまった時は,比較的軽く腿を閉じればオンになるよう調整していた。ただ必ずしも「オン」になった位置で腿を閉じるチカラを止められるわけではなく,さらに閉じようとすることも多くあったため,レバーが曲ってしまったと考えられる。
 だからこのままでは,腿を「軽く」閉じればスイッチがオンになるよう調整するとレバーが曲るのは避けられないことになる。曲ってしまうと「オン」になる位置も変わってしまうから,「軽く閉じればオン」になる調整は維持できなくなってしまう。そのため,「オンになる位置を超えたチカラ」がスイッチにかからないようにする仕組みは必要になるわけで,ネジを「回転軸」として使う方法はそのひとつになるだろう。

 ただ,今回は今のところ前掲の写真の加工でうまく使えている。そこまで加工をすると追加加工費も必要になるので,実際の加工は,今後,必要性が高まって来たり,他から相談があった時などの課題としたい。

◆ 「外転筋スイッチ」は可能か?

 今回は,操作者が腿を「閉じる」動作が分かり易かったため,それで操作するスイッチを考えたが,では腿を「開く」動作で操作するスイッチは考えられるだろうか。
 じつは筆者は,そっちのほうが素材的に手に入れ易いような気がしている。使えそうに感じているものは,たいていの百均店で売られている「布団バサミ」。それで両腿を挟み,腿を「開こう」とした時にうまくスイッチが入る仕組みが作れればいいのではないかと考えている。
 述べたように,使用者のご家族の方が入手した「内転筋トレーナー」は,その方の周囲にある百均店で数個しか在庫がなかったようで,今後も手に入るかは分からない。他の地域のお店も含めて,在庫がなくなり次第販売も終了だと思う。すると,通販で手に入るのは数千円以上するものばかりになる。なかなか改造には使いづらい。
 一方「布団バサミ」なら,どこの百均店でも見かけるから,探し回ることもないだろうと思っている。

 問題はスイッチをどう設置するかだが,引っ張ってオンになる仕組みのスイッチがあれば,それを「布団バサミ」の間に設置すれば,開いた時に引っ張られてオンになるから,比較的簡単に実現しそうに感じる。
 では「引っ張ってオンになるスイッチ」なんてあるのか? じつは,押しボタンスイッチを紐などで引っ張ってオンになるようにする加工はわりと簡単にできる。それと,今回使ったマイクロスイッチには「ノーマルクローズ」という端子があり,それは押されていない時に導通していて,押された時に導通が切れる。それをうまく使えば,布団バサミの「押し」によって導通が切れていて,布団バサミを開いた時に「押し」が開放されて導通するような仕組みを作ることもできるだろう。

◆ その他の部位で使う

 「内転筋トレーナー」でウェブ検索して出てきた通販あたりのサイトで商品説明のページを見てみると,必ずしも腿の間に挟んで使っている画像ばかりではない。両手で掴んで閉じようとするチカラを込めれば肩や腕の筋肉のトレーニングになるし,膝や肘の内側や,脇の下に挟んで使っている画像もあった気がする。つまり……そう,そうした部分でスイッチ操作をする器具として使える可能性もあるわけだ。
 他にも,トレーナーを壁やベッド,車椅子のフレームなど,周囲のものとの間に挟んで使えば,必ずしも「身体で挟む」動きに限らない使い方もできるだろう。クッションでも挟んでネックレスト(自動車座席の頭の後ろにある枕みたいなの)のように首の後ろに置けば,頭を後ろに倒す動作で使えることになる。
 いずれにしても,「トレーナー」というだけあってバネが強いので,「このまま使う場合」は,使う部位がどこであれ強めにチカラを込めてしまうタイプの方専用になると思われる。製品によっては「強さ調節」ができるものもあり,若干弱めの調節も可能かもしれないが,どれほど可能かは未知数。もしバネを交換したい場合,加工が多少複雑になるかもしれないが,全く不可能でもないと思っている。詳しくは次節参照。

◆ バネの強さ調節

 今回加工に使ったトレーナーは造りが簡単なため,バネが強過ぎるようなら近い形状のバネを探して交換することも考えていた。ただ実際に使っていると,とりあえずその「強いバネ」のおかげで,使用者が腿を「閉じたまま」にしてしまう傾向が多少軽減されるような感じになっているので,今のところは交換せずに様子をみている。
 一方,たとえば「もう少し軽くオンになるようにしたい」などという要望が出る可能性も考えられる。その場合はどうしたらいいだろうか。
 バネは大きく分けて「押しバネ」と「引きバネ」の2種類ある。今回の加工に使ったトレーナーには「押しバネ」が使われているが,じつは「強さ調節」の仕組みは「引きバネ」のほうが作り易い。しかも,ホームセンターなどで市販されているバネも,「引きバネ」のほうが種類が豊富で「ちょうどいいチカラ」のものも見つかる可能性が高い。ただ,トレーナー自体が「押すチカラを込める」性質のもののため,そうした器具に「引きバネ」を使うには少々工夫が必要になる。
 できないわけではないと思う。たとえば「パンタグラフ」という機構は,「押し」と「引き」のチカラ関係を切り替える。同方式の「ジャッキ」を想像してもらうと分かるかもしれない。それはネジを「締める」ことで「持ち上げる」チカラになる,つまり「狭める→広げる」の変換をしている。ひょっとすると,市販の「内転筋トレーナー」で調節機能のあるものは,その仕組みを使っているかもしれない。

 前述のように,今回の加工では今のところバネの強さの調節はそれほど必要性は出ていないが,これも今後,必要性が高まって来たり,他から相談があった時などの課題としたい。

● おわりに

 こうした記事を公開する度に疑問に感じることがある。今回のように障害者や介護福祉の方面に役立ちそうな工夫を安価で比較的簡単に実現できると,こうして記事にして公開し,たいていその方面の「メーリングリスト」にも紹介している。その方面では「人手不足,資金不足」が長い間叫ばれ続けていると聞いているから,手間を省くのに役に立ちそうな器具が,たいしてお金もかけずに作れるとなれば,「もっと詳しく教えて!」といった要望が来そうな気がする……が,めったに来ない。これでは「自作までして手間や経費の削減は必要ない」……つまり実際は,そこまで人手も資金も足りてないわけではないということなのかと思いたくなる。果たして日本の介護福祉の現場はホントに「人手不足,資金不足」の問題を抱えているのだろうかと。「いや,問題は深刻だ」というなら,国内からもっとアクセスなり問い合わせなりがあってもいいように思うが,ほとんどないのだから。これほどまで関心が示されない状態で問題が解消するとは思えないのだが。

 どれほどアクセスがないのかというと,筆者サイトのログ(記録)を見ると,「メーリングリスト」で紹介した記事にはとりあえず紹介直後はたくさんアクセスがあるが,日本の障害者や介護福祉関係の組織からと分かるものは数件程度。多くは海外からのアクセスで,しかも人間が読みに来ていると思われるものより「ロボット」や「クローラ」と呼ばれる情報収集目的のコンピュータからと思われるアクセスが多い。そして数日も経てば,日本の関係者からと思われるアクセスはほとんどなくなり,以降は海外からの情報収集が断続的に続くだけとなる。
 これが何を意味するかというと,つまりメーリングリストは,もっぱらそれら海外の検索サイトあたりの情報収集に利用されるだけになってしまっているような感じ。メーリングリストというものの開設の目的が日本の障害者や介護福祉関係者による情報交換であるなら,述べたような状況ではその目的を全く果たしていない気がする。だとすれば「もっと詳しく教えて!」といった要望が来ないのは当然のようにも思う。

 なぜそうなるのか……ひょっとして関心を持つ方が少ない理由の1つは,紹介した内容が「役立つ」と感じる方が少ないからだろうか。今回の場合でいえば,腿に挟んで使うスイッチの利用が適すると思い当たる人が身近にいないため,関心を持てない方も多いかもしれない。
 でも考えて欲しいのは,筆者がこのスイッチの製作を思い付いた相手の方は,それまで腿にスイッチを挟んで使っているわけではなかったという点。他のスイッチ(ピエゾセンサ)が,たまたま使いづらそうだったことが発端。つまり「今使っているスイッチよりもっと他に操作性のいいスイッチはできないか」と考えたため。言い方を換えると,「既にピエゾスイッチを使っているからいいや」と思っていたら製作することはなかっただろうと思うのです。
 「これまでと違う操作ができる器具が簡単に作れますよ」的な情報がいくらあっても,「既に使っているスイッチがあるからそれでいい」と考える方ばかりでは状況は変わらないだろう。今使っている器具よりも「操作性がよくなるかもしれない」とか,「セッティングが簡単になるかもしれない」といった「今よりよくなるかも?」という方向性の考えがなければ,それまでやっていたこととちょっと違う内容を紹介されても興味が示されないことはあるかもしれない。
 ただ述べたように,素材として使ったトレーナーは,腿以外の身体の部位……両手や脇の下,肘や膝の内側など,様々な場所で使用することもできるわけで,それらの部位でスイッチの操作を実現する機器としても使える可能性もある。「既に使っているスイッチがあるからいいや」と考えて,他の部位での操作を一切試さないのでは,「もっといい操作方法」にめぐり逢う機会もなくなることになる。

 ひょっとすると,今回のような加工が「人手不足,資金不足」の解消につながるイメージが湧かない方もいるかもしれない。でも,今回製作したスイッチは,今までの「ピエゾ素子を額に貼り付けてセンサの感度を調節する」方法より手間を削減する効果が期待できることは分かってもらえると思う。それで節約できる時間はせいぜい数分程度かもしれないが,これがバカにならないという話をしておきたい。というのも,腿の間に「カポッ」とハメるだけでピエゾで5分かかっていた作業が要らなくなったと考えると,それを一日一回やっていた場合,年間 30 時間の手間削減になる。つまり年間 30 時間働きに来てくれるパートさんをひとり増やしたのと同じ効果なわけです……スイッチを変えただけで。
 しかも,もし「施設」で,入所者それぞれに何か「1日5分程度」の手間を削減できるグッズを作れたとすると……たとえば,入所者が 20 人いたとすると年間 600 時間の手間削減になる。すると,もしそうしたグッズが一人につき2つ,3つと増やせれば……1年を通じ働いてくれる人を1人くらい増やすのに近い効果も期待できる。おまけに今回のスイッチは,一度セットしたら「あとは本人だけで操作できる時間」が長くなったため,再調整が必要かどうかようすを見に行く頻度も減らせる可能性もある。こうした「自分でできる」を補助する器具の効果は,1つあれば 10 分,20 分ぶんの手間削減につながり,それが人数分,1年の日数分ともなれば,何人か分の人員に匹敵してくる……じつはこれこそが,筆者がこうした器具を紹介する大きな目的のひとつ。

 介護福祉の現場は「人手不足,資金不足が問題」と言われてはいるものの,本当にそこが問題なのだろうかと思うこともよくある。介護の質を高めるということは,ある意味被介護者の QOL(生活の質)を高めることにも通じると思うが,それはその人が「介護を受けながら」という制約がある中で,やりたいことができるかとか,しかもそれがやりたい時に比較的自由にできるような環境が重要なはず。でもそこで「そのためにもっと人員や資金が必要」なんて考えに陥ってしまうと,人手不足や資金不足では「何もできない」ことになってしまい,結果的に「人手不足,資金不足が問題だ」なんて結論になる。でも今回作ったスイッチを見て,QOL を上げるためにはどうしても人員やお金がなければできないことばかりと言えるのかどうか考えてほしい。実質的に QOL を向上させられるかどうかを,人員や資金があるかどうかで判断するのではなく,その人にとって「ベスト」を実現するのに手間のかからない工夫,しかも,お金もかからない方法をどれほどいろいろ知ることができて,実際に試し,そしてどれほど「合うもの」を見つける機会を増やせるかに重点を移すべきだと思うわけです。「人手不足,資金不足」が問題であるのなら,どちらも不要な手段を探して実践することこそ,そうした問題を「回避」する近道なのではないかと。

 それでも筆者のサイトにアクセスが少なく,あまり興味を持たれない別の理由があるとしたら何か。ひょっとすると介護福祉関係者は,オヤクショや政治家が何か適切な「制度」を作ってくれない限り「改善することはない」と考えていたりしないだろうか。
 でも,そうした方々が「適切な」制度を出して来たことがあったろうか。出していれば「人手不足,資金不足」になどならないでしょって。だから,オヤクショや政治家が,なんか「うまい制度」を作ってくれて状況が改善するかといえば,全く期待できないわけですよ。だいたい今まで何十年も,何ひとつ有効な手立てを打ち出せないどころか,「現場の事情をよく調べずに制度を作る」みたいなことを繰り返して,むしろ状況を改悪させて来たのが実態でしょ。だからこそ手間を省ける工夫や安く自作できる器具など「手間も費用もかけずに現場でできること」を考案して紹介することが改善への近道だと,筆者は考えているわけですが,「国内からのアクセスの低さ」を見るにつけ,どんなに紹介したところで,現場にいる人たちがそうした情報に興味を示さず,実践する人が誰もいないのでは改善するわけないなと感じる今日この頃。このままでは永遠に「人手不足,資金不足」であり続ける気がするわけです。

 最近,マスコミの報道姿勢が,この状況を悪化させているのではないかと思うことがある。長く問題となっていることなのだから,「問題を解消しうる情報」を現場の方々に伝える記事や報道がもっとあってもよさそうに思うが,そうしたものを見たことがないからだ。
 テレビや新聞,雑誌などのマスコミあたりの記事には,「××の魅力を知ってもらおうと……」して活動する方々を紹介するものがごまんとあるが,その××は何かというと,たとえば観賞用植物といった園芸,食材や料理,伝統的芸能や工芸,アートなど,その魅力が「分かる人」がかなり限られそうな内容ばかり。一方,筆者が紹介しているような,介護現場で問題となっている手間や経費の負担を軽くしようという試みを取り上げる記事は見たことがない。もっとも,筆者はテレビも新聞も雑誌も自分から進んで見ることはないから,どれほど「取り上げられていないか」は正確には分からないが,少なくとも,たまたま実家に居る時に点いているテレビを何時間観ても「介護福祉お役立ち情報」的報道はまずない。その反面,前述のような一部の人たちしか楽しめそうにない趣味の話は,毎日のように……というか,チャンネルを変え時間帯を変えて1日に何度も流れて来るわけで,一部の人の自己満足を繰り返し見せ付けられるようでイヤになる。チャンネルを切り替えると,必ずどこかの局で誰かが何か食べて「すご~い!」とか言っちゃっていたりする。ずっと食ってろよ! かと思うと,関東地区にある地方局で,女装趣味 MC の番組で何回かごとに誰かが余計なこと言って炎上したみたいな話をネットで時々見かける。テレビを見ないからよく知らないが……まぁ,そんな番組だらけだから見なくなったのだが,「そんな番組」を地方税で作っていたりしないか。何のための税金なのかと思う。見たいヤツも居るのだろうが,税金を使って取り上げるべき問題が他にあるだろう。本当に介護現場が人手不足や資金不足で深刻なら,その対策について「介護現場で手間を省ける方法がありますよー,簡単な対策で安く済みますよー」みたいな番組なり記事なりがあってもよさそうなのに,そうしたマスコミの記事を見ることはめったにない。いや,マスコミに限らず,福祉関係のサイトなどでも,筆者のサイトで公開しているような「手間を省くのに役立ちそうな安くて簡単な方法」を広く紹介している記事を見ることはほとんどない。これで本当に介護現場に人手や資金が不足しているのか。実際にそうした問題があるなら,それらのサイトで手間や経費を削減するアイデアがもっと紹介されていてもよさそうに思うが,ないのだから。これでその手のサイトが問題解消に役立つとは思えない。あるいは,そうした情報を「あえて」広く伝えないようにして,「人手不足,資金不足」を慢性化させようとする「圧力」みたいなものがどこかからかかっているのか……筆者にとっては疑問だらけだ。

 具体的な対策が議論されないことで,見えないところで事態が深刻化してしまうことを危惧している。
 最近(2025-05-07),東大前駅で学生が切りつけられる事件があり,「教育虐待」という言葉がにわかに浮上している。子供に過大な期待をかけて様々な強制をしてしまう問題だが,「教育ママ」といった言葉がかなり古くからあるから,以前よりなかった問題ではない。それが事件によって強く意識されるようになった……といったところ。
 これなんかも,以前からあった問題であるのに,マスコミはじめ教育関係者も,長い間,表立って「対策」を論じて来なかったという点で,介護福祉の「人手不足,資金不足」に通じるものを感じる。結果,こじれて重大な事件に発展する可能性が高まり,東大前駅の事件が起きてしまったのではないかという気がしている。
 介護福祉の「人手不足,資金不足」でも,マスコミなどは「対策」に関する報道をほとんどせず,関係者や研究者なども,問題解消に向けた「具体性のある」動きが見えないまま,気付かないところで事態がこじれて重大問題化するケースが今後増えるのではないかと懸念している。実際,「老々介護」とか「ヤングケアラー」などが社会問題として取り沙汰されるようになり何年も経つ。既に「介護疲れ」なんて言葉が囁かれる殺人事件がちらほら起き,介護施設での暴力事件も繰り返されていることを考えれば「現在進行形」とも言える状況でもあるように思う。

 改めて問いたい,オヤクショや政治家がこれまで作って来た「制度」で状況が改善したことがどれほどあっただろうか。そもそも,今までに「適切な制度」と言えるものがあったのかさえ疑問。これも述べたように,そうした方々は「現場の事情をよく調べずに」制度を作るようなことを繰り返しているわけですよ。では何を念頭に制度作りしているかといえば,自分の部署や省庁で多くの権限を保持し,でも「責任」は他に押し付けられる仕組み作りに邁進していることでしょう。だから,制度を詳しく見れば,「申請」とか「認可」とか,あれやこれや「お伺いを立てに行く」ことはこと細かに規定されている一方,ではそれのオヤクショ側のチェックが不十分だったり,扱いが不適切だったことによって国民に何か損害が出た時にどう責任をとるかについての規定は盛り込まれていないものばかりでしょう。たとえオヤクショのミスで損害賠償が発生したところで,そのお金は税金から出されるでしょうから,ミスした本人も,ミスするような人にやらせた上司も,ミスを防げないような「制度」を作った人たちも,その賠償相当分を減給されるなどの実質的ペナルティはなく,それらの人が税金から受け取った報酬が返されることもないでしょう。つまり最終的にオヤクショのミスの賠償負担は国民納税者になります。で,「社会保証費が足らん! 減税なんて無理!」とか言うわけです。このようにオヤクショは「制度」というものを自分たちのミスを国民が尻拭いする仕組みに作るわけで,いくら新たな制度を導入しても改善することがめったにないのは,制度の悪い面の皺寄せは最終的に全部国民が負担するように作ってあるからとも言えるでしょう。制度を作り,運用するオヤクショは,いくらミスしても報酬が減らされることがありませんから,現場をよく調べず実態に合わない制度を作り,それでどんなに末端が苦しんでも,痛くも痒くもないのです。
 だから速やかに問題を解消したいなら,「制度」に頼らず現場の方々が自分で動くしかありません。でも,何をしたらいいか分からない方も多いでしょう。だからこそ,そこに何が必要かといえば,現場で誰でも簡単にできて,手間の削減になるようなことだと考えているわけです。

 別の視点としては,「お金を出して買わなければ手に入らないもの」を望むのではなく,「今あるものをうまく使う方法」の情報交換が活発にできていれば,「人手不足,資金不足」の問題解消につながるケースがもっとありそうな気がするのに,そうした情報交換があまりにもなさ過ぎるという点。本来は,前述した「メーリングリスト」や,その他の福祉系サイト,ある意味マスコミなども,そうした情報交換の場としての機能があってもよさそうに思うが,実態は述べたとおり。今はどれも全くと言っていいほどその機能を果たしていない。中には税金が投入されている組織もあるのではないか。そんな税金の使い方をして,それで「資金不足だ!」とか言っていないか? もしある問題が発生している場で「じつは手元にあるものをうまく応用すれば解決する」ケースだったとしても,「どう応用すればいいか」のアイデア,それを考えられる人,そして,アイデアと人の情報と現場を結びつける「ネットワーク」が機能しなければ,いつまでも問題解消に至ることはないだろう。
 それと「応用が継承されない弊害」というのもあるような気がする。それは,何か役に立ちそうなものを実際に手に入れたとして,果たしてそれを施設などで継続して応用していけるのかという問題。たとえば,障害者向け器具を「製作講座」的なところで作って持ち帰った人というのは,何か目的があって作りに行っていることも多いだろうから,帰ってからいろいろ応用して使いこなすこともあるかもしれないが,ただ,施設での異動や退職でその方が居なくなってしまった時,残された器具が「何に使うものか」忘れ去られてしまうことも多いのではないかと。それをうまく応用すれば「人手不足,資金不足」を解消しうる物であったとしても,作った人がいなくなり,「どう応用するものか」が残った人に引き継がれず何だかわからなくなってしまっては,問題解消につながらないままになるでしょう。「作りっぱなし」では,「製作講座」の参加にかけた費用がもったいない感じがするわけです。
 実際,元々ピエゾセンサを使っていた方に筆者が「内転筋スイッチ」を製作し,使用者本人も操作性が高いと実感していたようであっても,介護施設側はしばらくピエゾ使用を継続していたらしい。ピエゾセンサは施設側からの提案でもあったようで,「福祉機器」としてそれなりにしっかり作ってあってそれなりの価格だったろうと思われるのに対し,「内転筋スイッチ」は,そこらの「百均」などで手に入れたもので筆者が作った手作り品で,使い方も詳しく説明していたわけではないから,やはり担当者が使い方を十分に理解してセッティングの方法まで考えた「福祉機器」の側を継続して使いたい気持ちが優るのだろうと思った。でも少し経って筆者のパソコン指導以外でも内転筋スイッチを使うようになったらしい。操作の確実性が高くなり,何と言っても「センサ貼り付け,感度調節」などの手間的な負担が格段に軽くなることが期待できたところに,幸い「見るだけでどう使うか分かる」ものだったため使い始めるのに抵抗がなかったのだろうと思っている。つまり「見るだけで使い方までなんとなく分かった」ことが重要な点だった気がしている。逆に言えば「ピエゾセンサスイッチ」がある日ポンと与えられても,どう接続するかとか,どう調整するかが分からなければ,どんなに高価で高性能な福祉機器でも使われないままになる可能性があるのだと思う。もしそんな物品の調達に「補助金」が使われていたら……それで「資金不足だー」とか言っている場合じゃないような気もするのですよ。

 つまり,どう応用するかがその「もの」とセットになっていないと,どんなに高価で高性能な機器を手に入れても,後々「どういった使い方ができるか」が伴わなくなってしまうと結局使われなくなり,手に入れるために使ったお金が無駄になってしまうと思うのです。「人手不足,資金不足」の介護福祉の現場では,それは解消すべきことだと思う。
 対応としては,何か工夫を考えたら,「応用の提案とセット」で情報提供することが重要になると思う。筆者サイトもそれを目指している。

 筆者は今後も,なるべく身近な物で,なるべく誰でもできそうな分かり易い加工だけで介護福祉に役立つアイデアの発信を続けたい。現場は状況をこじらせないうちに始めてほしいと思っている。



© M.Ishikawa; TREEWARE 2025.