あちらこちらで個人情報の漏えいが起き,問題となっている。それは私立の組織のみならず,省官庁はじめオヤクショも例外ではない。
今年(2022)もある省庁で,「BCC 指定で送るべきメールを他の宛先指定で送信する」という間違いから漏えいが起きた。BCC というのは,メールの宛先の項目の一つ。BCC に指定したアドレスはメールに記載されずに届くから,複数アドレスを指定しても「他に誰に送信したか」が見えないため,プライバシーが守られる。一方,正規宛先である「To」などに指定したアドレスは全てメールに記載されて届くから,他に誰に送ったかが全て丸見えになる。つまり「BCC にしなかった」ということは……同報した相手全員のアドレスを,オヤクショが勝手に公開してしまったような状態。所有者が「非公開」で使っていたアドレスが含まれていたら,それもオヤクショがバラしてしまったようなもの。
そもそもデジタル通信において,メールの宛先の扱いはプライバシー保護の観点で基本中の基本。しかも,やらかしたのが「デジタル庁」という……一番知っているべき省庁がそれ。加えて,昨年も似た間違いで漏えいがあった……つまり「二度め」なんだそうで,おまけに,今年の報道が4月1日だったから,「ヘタな冗談」と思った人もいたらしい。
メールの宛先には,To や BCC など数種類ある。種類による違いなどを含めたメールの基本的な扱い方は,以下の記事で説明している。
筆者は上記のような説明を書ける程度にはメールについて知っているので,メールを複数の宛先に同報する時は個人情報の漏えいが起きないよう「宛先」の扱いは慎重になる。が,現在コロナの影響もあり,年収数万レベルに転落中。一方,漏えいさせたデジタル庁の人たちは,いくらくらい報酬を受け取っているのだろう。我々の納めた税金から。
「収入」がそんな程度なものだから,どうやら「給付金」がもらえるらしい。市が申請書の書類を送ってくれたんで,住所や金融機関の口座番号を記入し,それらが確認できるようにして送付したが,送り返されてきた。「本人確認」できる書類の同封がなかったとか。ただ言わせてもらうと,申請の説明文では該当する書類が思い当たらなかったのだ。
で,改めてその「必要」とされた書類を見れるようにして送付したのだが,また返送されてきた。しかも,今度は別の個人情報の提示を求めている。でもそのデータ,最初の書類の説明では提示を求められていなかった。加えて,なぜそれが追加で必要になったかの説明もない。
多くの個人情報を提示するとどうなるか……「デジタル庁」を見れば言うまでもない気がするが,あえて言えば「オヤクショに提示するデータが多ければ,それだけ漏えいするリスクが増す」ということ。当然,犯罪の被害に遭う可能性も高まる。ここは慎重に対応したいと考えた。
個人情報の提示を求めたからには,求めた側には相応の責任が生じるはず。ここでは,その「個人情報の提示を求めた側が負うべき責任」について考えてみたい。
● 経緯
当初,市から申請書への記載を求められた個人情報は,住所と,金融機関の口座番号くらいのもの。ただその「セット」は既にあちらこちらに記載しているから,ワリとどこに知られていようと不思議ではない。むしろ,それらの提示を渋ってしまうと,「給付金」どころか公共料金の自動引き落としなどもできず,不便で仕方がない。だから,どこかから送られてきた書類にそれらが記載されていたからと言って,「発信元が信用できるとは言いきれないだろう」と割り切っているようなところもあるから,それらの提示には別に抵抗はない。
申請書には,「金融機関口座が記載のものと異なる場合は本人確認の書類を同封」とあった。が,じつは筆者は,そもそも同市には金融機関の口座の登録などしていなかったから,該当欄は何も記載がなく空欄。異なるかどうかという問題ではない。だいたいその「本人確認書類」というのが「マイナン『ば~か』ード」か運転免許証かパスポートとか。「マイナン『ば~か』ード」を読み取るカードリーダーと,それが使えるパソコンとアプリと通信環境と……給付金対象レベルの収入でそれらを整備できると思ったのだろうか。「運転免許証」を持っていてクルマ乗り回すお金はあると思ったのだろうか。パスポート? 海外行きまくり? んな金があれば,給付金対象になどなっていないだろう。低収入だろうというんで,市もその書類を送ってくれたのではなかったのか?
まぁ「今はコロナでお金がなくても,過去には……」というケースも考えられるが,過去からずっとそんな状況に近い筆者は,持とうとしても持てない書類ばかりだ。そりゃーモテんわ……ダジャレはともかく,これでは,元々低収入な者はオヤクショの言う「本人確認」となるような書類を作る機会は限られてしまう。言い換えると,低収入者のための給付金支給の条件として,ある程度収入があった人でないと持てないようなものの提示を求めているわけで,ヘタすると「元から低収入な者は給付金をもらえないままになる」ことを意味する。元々低収入で,指定された本人確認書類が用意できないと,あきらめて申請書の提出さえしない人もいるかもしれない。そうでなくても,一人暮らしでコロナにかかり,症状がひどくて外に出られず,本人確認の書類の調達や申請書の投函に行けなかったりすると,給付金はもらえないことになる。申請書を「出せなくなる」トラップがこれだけ考えられるわけだが,残念ながら,今どきのオヤクニンはそこまで気づけなさそうだ。申請書が出されない人が多ければ「きっと要らないのだろうから,手続きが減り,お金も支払わずに済み助かった」程度の感覚だろう。あるいは,低収入な人を低収入なまま固定化する政府の策略か。そんな無茶な「本人確認」を求めておいて「格差が解消せずたいへんだ!」とか言っていたりしないか? 解消できずにいる人たちの年収が数百万あったりしないか? それを指摘する筆者は現在(2022-8)年収数万で,給付金対象者なのだが。
指定された「本人確認書類」が持っていないものばかりで困ったが,考えてみれば,そもそも市に登録済みの金融機関口座を「変更する場合に」書類が必要と記載してあり,元々登録していない筆者は「変更ではないなぁ」と思ったんで,書類は同封せず,金融機関の口座番号とその名義が自分と確実に分かる写真を見れるようにして提出したのだった。
で結局,返送されてきた。理由は「本人確認書類が必要」なんだと。持っていないものばかりだっての……と思ったら,「本人確認」として使える書類が追加されていた。でもこれでは,元々低収入で運転免許証やパスポートを作れず,提示を求められた本人確認書類を用意できないために「最初の段階で」あきらめて給付金の申請を出さなかった人は,「別の書類でもいいよー」というその「返送が」来ないから,分からないままだわな。まぁ,申請をあきらめる人が多いほど,市としては助かるのだろうけどさ。
しかもその追加で示された書類も,やはり持っていないものがほとんどだった。ありそうなものもあったが……じつは,引っ越して数年しか経っておらず,多くは宛先が旧住所のもの……となれば,「本人確認」にはなりそうにない。残ったものは,その引越の荷物のどこかにあるのだろうが,めったに使わない書類だとかで,簡単には出せそうにない。
どうしようかと悩んでいるウチ,数週間ほど経ってしまった。フと,年金関連の書類が今の住所に送られて来ていたことを思い出し,それを探し出し,他の燃料費の検針票など現居住地確認の補助になりそうなものと共に分かるようにして,何とか再送したのだった。
ところが,また返送されて来た。しかも,この時返送されてきた書類には,旧住所を提示するようにと記載されていた。
個人情報の提示が2つ程度,それも,「現住所と金融機関口座」などという,どこにでも記載しているような情報だけならまだしも,そこにもう1つ個人情報……しかも「旧住所」といった,一部の人にしか知られていないようなものを提示することには,強いためらいがある。次章で理由を詳しく述べてみる。
● 複数の個人情報を提示した時に起こること
特定の個人の情報が複数の項目まとまった状態で漏えいが起き,特定の詐欺集団に複数の漏えい元からのデータが集まると,「照合」によって悪用される可能性が高まる。「照合」とは,ある漏えい元に含まれていたデータの一部が,他から漏れたデータと一致するものが探されること。「照合」されると,本来は揃って持ち合わせていなければできない連絡も,揃って漏れたデータがなくてもできるようになってしまう。
たとえば今回のような,現住所と口座番号以外に「旧住所」を追加で提示して「漏えい」が起きた場合,その旧住所に住んでいた頃に他から漏れた情報が旧住所で「照合」されると,当時の役所や金融機関などを装った詐欺書類を,「現住所に」送ることが可能になってしまう。
ここは慎重に対応せざるを得ないと考えた。
◆ 分かりやすい悪例「マイナンバー」
例として,以下で「マイナンバー」について詳しく述べている。
簡単な例としては,たとえばある企業から金融機関口座番号と「マイナンバー」が合わせて漏えいし,別の企業からメールアドレスと「マイナンバー」が漏えいした場合,その両方を入手した詐欺組織内で「マイナンバー」で照合されれば,金融機関口座番号とメールアドレスが結び付く。すると,その金融機関を装った詐欺メールを送信できてしまう。
でも,そのメールに「マイナンバー」自体の記載がなければ,「マイナンバーが悪用されたとは言えない」と判断されるだろう。実際には,マイナンバーで「照合」されていたとしても……だ。そこが怖い点だ。
さらに大きな問題は,「漏えい」が起きたどちらの企業からも,金融機関の口座番号とメールアドレスのデータが揃って漏れた事実がなければ,「当企業から漏れたデータが悪用されたものとは考えられない」という主張もまかり通ってしまうこと。そして,詐欺を働く側がこうした点を悪用すれば,どこから漏れたデータを使ったか分からなくすることが可能になり,マイナンバーも「照合」に悪用され続けてしまう。もし後から漏れた新しい個人情報に「マイナンバー」が含まれていれば,やはりそこで「照合」に使われて,結びついた古いデータ内容を引っ張り出して来て,「あなたはこんな状態なので,こちらに送金が必要です」などと,新しい住所やメールアドレス宛に詐欺を仕掛けることができてしまうことになる。「マイナンバー」は,それ自体を記載しないようにすれば,照合に「悪用し続ける」ことのできる,もってこいの素材だ。
でも,もし詐欺被害に遭ってしまっても,「照合」に利用されたことが疑われる企業や組織は,述べたように「シラを切り続ける」ことができてしまう。一方,被害者が「照合された」ことの証拠を集めようとしても,詐欺組織に潜入でもしない限り困難だ。また,最近は詐欺メールの発信元が海外であることも多く,海外ともなれば,たとえ警察であっても捜査は簡単ではない。以下は実際に筆者が受け取った詐欺と思われるメールの発信元が中国だったという話。
被害が出て,警察に駆け込んだところで,あの国まで捜査が及ぶだろうか。つまり,これでもし詐欺の被害に遭ってしまったら,泣き寝入りするしかなくなってしまう可能性が高い。
しかも「マイナンバー」の場合,同じ番号が記載されていれば,確実に同じ人のデータである。これほど詐欺集団にとって「照合」に都合のいいものはない。「照合」しまくり,詐欺しまくれる素材だ。
◆ 旧住所も提示すると……
「マイナンバーに」限らず,提示したデータが多いほど,万一漏えいが起きた際,他から漏えいしたデータと「照合」される要素が増えることを意味するから,当然ながら悪用される可能性も高まる。
今回追加で提示を求められた旧住所も例外ではない。述べたように,提示した現住所と共に旧住所も漏えいすると,もし旧住所で利用していた金融機関の口座番号が既にどこかから漏れていて,それらが「照合」されると,旧金融機関を装って口座番号を示して,「以前××にお住まいだった方にご連絡しております」などと記載した書面を「現住所に」送付し,信憑性を高めて騙し易くするような悪用ができてしまう。
この場合,現住所の市側には古い金融機関の口座番号は提示していないため,市としては「古い金融機関の口座の提示は受けていないから,当市から漏れたデータが悪用されたものではない」と主張できることになる。しかも,旧住所側でも,「新住所のデータは持ち合わせていないから,当方から漏れたデータが悪用されたものではない」などと主張できてしまう。実際には,双方から漏れたデータが「旧住所」で「照合」され,「古い口座データ」と「現住所」が組み合わされて,詐欺に悪用されたとしても……だ。
◆ 理由も「取扱い方針」もなし
それにしても,なぜ急に「旧住所」が必要になったのか。最初の申請書類にはその提示を求める記載はなかったのに。
こうした個人情報の提示を求める側は,「個人情報取扱い方針」……いわゆる「プライバシーポリシー」が開示されているのが普通ではないかと思うが,送られて来た書類にはどこにも見当たらない。とはいえ,「自治体が配布する給付金」だから,「現」住所がそこと分かる書類や振込先の金融機関口座の提示を求めることは,理解できる。述べたように,それらはセットであちらこちらに記載しているようなもので,送付されて来た文書にそれらが記載されているというだけで「信用できる」とも言いきれないようなものだし,わざわざそれに「取扱い方針示せ」などと言うつもりもない。
ところがそこに「旧住所も」となると,それらがセットで漏れた時に過去のデータと照合できるようになるなど,悪用される可能性がぐっと高まるのは,これも述べた通り。そうなれば「なぜ必要で,どのように扱われるか」について,慎重な対応が必要と考えるのが常識だろう。
だが,市からは「なぜ必要か」も「個人情報取扱い方針」も示されていない。これで「信用しろ」と言われても無理だ。
◆ 被害者は調査や証明は不可能
大きな問題は,もしそれで実際に詐欺被害に遭ってしまっても,被害者が「漏えいして悪用された」ことを証明する方法が何もないことだ。
もし,漏えいや悪用があったことを「証明せよ」と言うなら,その人に捜査権限を与えなければ不公平だ。漏えいや悪用の有無を調べるためには,警察の取調べや現場検証と同レベルの捜査権限が与えられなければできないはず。役所内で多少なりとも個人情報を扱った可能性のある人とその関係者全ての人への聞き取りを許可し,聞き取りを求められた側も必ず応じ,虚偽の内容を伝えたら罰則を受ける覚悟くらいは要る。そして,多少なりとも個人情報を扱った可能性のある全てのパソコンなどの機器も,その扱った状態のまま,ウイルスに感染していないかや,不正アクセスがないかなどを調べさせなければならない。
そんな権限を与えられるのか。公務員の側には「守秘義務」がある。当事者だけでなく,他者のデータも扱うパソコンを調べさせることなどできないだろう。だから,たとえ捜査権限が与えられたとしても,証言もパソコンの調査も,「守秘義務」を根拠にすればいくらでも拒否できる。つまり実質的に「警察と同等の捜査権限」など不可能だ。
するとこれでは,もし役所内に,裏でお金を得られるがために,個人情報を外部に「意図的に」漏えいさせている人がいても,「守秘義務」を根拠にすればいくらでも証言を拒否できてしまうことになる。だとしても,そんなオヤクニンがいるのか? 「持続化給付金」の詐欺では,官僚が中心的に関わっていた。しかも1人ではなかった。他にいないと言えるのか。同様に,私利私欲で意図的に外部に漏らすオヤクニンがいないという保証もない。公務員を「性善説」で扱うべきではないのだ。
捜査権限も与えられないのに,「漏えいを証明せよ」と言われても,不公平以外の何者でもない。「平等の原則」を謳う憲法に反する。
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的、又は社会的関係において、差別されない。(第②,③項省略)
そして,憲法に反することを伝えられても「効力を有しない」のだ。
この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、勅令及び国務に関するその他の行為の全部または一部は、その効力を有しない。(第②項省略)
つまり,個人情報を「提示した側」には,実質的な捜査権限が与えられない以上,漏えいや悪用があったことを「証明する責任を負わせる」ことは憲法違反であり,効力を有しないと考えられる。
であれば,「悪用」の有無を調査する責任があるのは,提示を「求めた側」と考えるしかない。今回の場合,もし提示した旧住所が「市の側から漏えいし照合されるなどの悪用があった疑い」が出た場合,旧住所の提示を求めた市の側で漏えいや悪用を否定するなら,否定できるだけの「客観的証拠」を挙げる必要があり,それが不可能なら「悪用があった」と認めなければならないと考えられる。提示した側に調査する権限が与えられないとなれば,残るは「内部調査」しかないのだから。
とはいえ,詐欺集団内で他から漏れたデータと「照合されていない」ことを,客観的な根拠を示して証明することなどできるだろうか。示せないなら,そんなデータの提示を求めるべきではないのではないか。
◆ 提示を求める側が意識すべき点
まとめると,以下のようなことになる。
- 1. 【データ提示者側では調査不可能】
詐欺をはじめとし,犯罪に当たるようなメールや文書が送付されて来た際に,その内容に,組織や機関に提示したデータが漏れて悪用された可能性(「照合」を含む)が疑われても,実際にそれら組織から漏れて悪用されたことを証明するには,警察に匹敵するほどの捜査権限が与えられない限りはほぼ不可能。データの提示者が漏えいや悪用を証明しようにも,守秘義務などを根拠に証言などを拒否できる相手では調査不可能で,ましてやデータが海外に流出したうえで悪用された場合,警察でも捜査は困難で,犯罪被害に遭ってしまったら「泣き寝入り」するしかなくなる。
- 2. 【捜査権限のない側に「証明」を求めるのは著しく不公平】
前項のように,悪用が疑われた際,捜査権限のない「提示した側」には「悪用された」ことを証明する能力はない。そのため,データ提示を求めた側が「漏えい」を疑われた際に,提示した側に対して「当方から漏れたデータが悪用されたことを証明せよ/証拠を出せ」と主張することは著しく不公平になることは確実。
- 3. 【データ提示を求めた側に全ての責任】
提示したデータの管理責任は提示を求めた側にあるのは明白。データを「提示した側」に調査権限が与えられない以上,データ提示を求めた側が「漏えいも悪用もない」と主張する場合,それを証明する責任と義務がある。データ提示を求めた側で「漏えいも悪用もなかった」と言える客観的な証拠を示すことができなければ,つまり漏えいや悪用が「否定できない」ことになるため,それらがあったものとして対処することが妥当と考えられる。
- 4. 【提示データは必要最小限であるべき】
提示していない個人情報が「漏えい」することはない。漏れたデータの悪用による「被害防止」のため,提示を求めるデータは必要最小限とすることで,「照合」などへの悪用の可能性を低く抑えるべき。逆に,提示を求めたからには,その情報に対して,述べてきたような責任が生じると認識すべき。
● 「責任」と「補償」
「責任」の所在を考えるうえで重要なのは,述べたような「漏えい」や「悪用」が,有ったか無かったか証明できるか否か。ここでは,個人情報を「提示した側」で証明することは不可能と述べた。すると,その責任は全面的に「提示を求めた側」にあると考えられる。
では結果的に,提示した個人情報が漏えいして起きたと思われる犯罪に遭って「被害」が出てしまい,提示を求めた側が「漏えいや悪用がなかったと言える客観的証拠」を示せず,「漏えいや悪用があったことを否定できない」状況になった場合の「責任」とは,どういった内容になるだろうか。確実にその被害の「補償」はすべきだろう。「金額」にすると,少なくとも以下のような額が必要と考えられる。
- A. 被害額(被害金額か,搾取された物品があればその評価額。物品の再購入,再製造が必要な場合は→B 原状回復)
- B. 原状回復の実費(搾取や改変されてしまった物品を再購入や再製造,修復をした場合はそれにかかった費用,負傷した場合は全治までの医療費,後遺症が残った場合は,日常生活を差し支えなく送るために必要な設備と,介護や介助の費用などの全額)
- C. 原状回復のための労力相当の報酬(前項の原状回復の製作,修復などの作業や,治療,移動などにかかった時間・期間見合いで,個人情報の提示を求めた組織から報酬を受け取っている関係者のうちの最高額の時給相当額)
- D. 原状回復完了までの間の報酬の補償(被害に遭っていなければ,C の期間に被害者が受け取れたはずの報酬額,つまり被害に遭ったことが直接的な理由,あるいはその「原状回復」への対応を理由にできなかった仕事や業務で受け取れたであろう報酬額,また後遺症がなければ働けていた業務で得られたはずの報酬額)
A や B 辺りは当然という感覚かもしれないが,C や D が必要なのはなぜか。これらがないと,やはり著しい不公平が生じるからだ。以降でこの詳しい内容について述べたい。
◆ 原状回復の費用補償だけでは不十分
「補償」といえば A や B あたりまでと考えるのが普通かもしれないが,以下も含めなければ著しく不公平になると思う。
- C. 原状回復のための労力相当の報酬
- D. 原状回復完了までの間の報酬の補償
C は「原状回復のために費やされた労力」相応の報酬の補償。とはいえ,本来その労力は被害に遭わなければ不要なもの。被害がなければ,「原状回復」の期間にその人本来の仕事や他の仕事で報酬を得られていたはずで,それは C とは性質も計算方法も異なる。そのため,被害に遭っていなければ得られたであろう報酬相当の補償は別にするべきとの考えが D だ。何となく重複している感じもするが,これらを区別して扱わないと,やはり「不公平」が生じる。その理由も後ほど説明する。
まず,A と B「だけ」の補償では,漏えいや悪用を防げず犯罪被害を生じさせる原因になった側と比較して,その被害を受けた側のダメージがあまりにも重過ぎる。前章でも軽く述べたが,もし個人情報の提示を「求めた側」内部に,裏で金銭を受け取れるとか何かで意図的に漏えいさせたり悪用する者が居た場合は,「補償に必要な額よりも悪用で得られる『稼ぎ』のほうが大きい」ような状態が起きうる。言い換えると,「悪用がバレてたとえ補償しなければならなくなったとしても,悪用したほうが儲かる」ような状態。「提示を求めた側」は,多くは市などの公的機関であり,通常は,悪用した本人……多くは「職員」個人にその補償の「全額的な」負担はないだろうし,負担が求められたところで,公務員の懲戒処分など上限が決まっているだろうから,懲戒処分で出て行ったり入って来なくなるお金より悪用で得られるお金が相対的に多ければ,たとえバレても手元に残るお金が多くなるから,悪用したほうが「得」ということになる。
しかも,これも述べたように,漏れた先の詐欺集団で「照合」により悪用されると,「漏れた元」を特定されにくくなる。そうなると「誰が漏らしたのか」が分からないから悪用し続けることができる。裏で漏らした稼ぎと市からの報酬を二重に受け取れるから,悪用をなるべく長く続ければそれだけ入ってくるお金も増える。バレて懲戒処分を受けた時の損失を考えても,悪用を続けたほうが大いに得になる可能性もある。
公務員の「懲戒処分」に必要だと思うのは,その「悪用が想定される『期間』や『被害の重さ』」相応に科されるべきではないかという点。長く悪事を続けていれば,懲戒処分も重くなって当然なのではないか。
でも,公務員がそんなことをするだろうか。実際,「持続化給付金」の詐欺では,公務員も中心的な働きをしていたらしい。「公務員は悪用しない」という保証はないのだ。果たして,今回発覚した以外に「悪用はない」と言いきれるのか。
悪用によって得られる「稼ぎ」が,被害の「補償」や「懲戒処分」よりも大きいようでは,防止効果などなく,今後も同様な事件が起き続けるのではないか。もし個人情報を「意図的に漏らした人」が特定できたら,漏らした「個人」にその「補償」の負担を命じ,確実にマイナスになるような明確なきまりが必要だ。C や D はその補償額に明確な根拠を付けたものだ。
◆ 最高報酬者相当の補償が必要な理由
だとしても,C の「(被害の原因者側の)最高報酬者同等の補償額」は何のために必要か。それは「格差拡大の防止」だ。
その責任は,漏えいや悪用に関わった職員だけでなく,上司にもあるのは言うまでもない。本来なら漏えいや悪用などしないように……というよりも「悪用できないような仕組み」をその部署に作っておくなどして,漏えいや悪用を防止するのも「上司の責任」のはず。漏えいや悪用が起きたということは,その責任を全うできなかったに他ならない。
仮にその「個人情報の提示を求めた側」が「市(自治体)」であり,時給換算の最高報酬が市長だったとする。最高報酬ということは,実質的にも最高責任者であり,相応の額としてその報酬があるはず。そしてやはり「仮に」補償制度として,市独自の規定があったとする。
問題だと思うのは,市の規定による C の計算結果……つまり「原状回復に費やされた期間」に対する評価として,責任を全うできなかった人が被害者よりも高くていいのかという点。被害が出たのはまさにその「最高責任者」が責任を全うできなかったためであって,いわば被害を生んだ原因のひとつ。被害を受けた人より,被害の原因を生んだ責任者の報酬が高額なままで「責任を負った」と言えるのだろうか。そうなるように「市の規定が作られる」ような状態に,問題はないのだろうか。
オヤクショは「格差の拡大は問題!」とは思っていないのか。
「市長がそんな末端の細かいところまで責任は持てない」と思われるかもしれない。
しかし,今ウクライナが様々な攻撃を受け,何人もの人が亡くなっているが,その「責任」はどこにあると判断されるだろうか。ロシア側は「そんな攻撃はしていない」的な主張をすることがよくある。が,もし戦争が一段落して様々な調査が進み,実際にロシア側の攻撃で人が大量に亡くなった証拠が出てきて,ロシアの大統領の責任が問われた時に,「軍の末端が勝手に行なった攻撃で,大統領がそんな細かいところまで責任は持てない」なんて主張が受け容れられるだろうか。
「戦争と違い個人情報が悪用されたからって人が死ぬことはないし」と思われるかもしれないが,そうした問題なのだろうか。では,誰かが個人情報の漏えいにより詐欺の被害に遭って財産を失ない,将来を悲観し自殺した時には責任を問われるということなのか。自殺でなくても,個人情報が漏れたことで過去に虐待を受けていた相手に住所を知られ,殺人事件にまで発展すれば責任を負うのか。「そうした問題ではない」と思うだろう。そうした問題ではないのである。最高責任者は,何であれ末端で起きたことに責任を持たなければならないということだ。
だからって,最高報酬者と同等までの補償額が必要なのか。
まず,改変されたり損傷を受けたりした物品の原状回復が必要な時,その物品が「自作物」であった場合,どのように「補償額」を算出すべきかの基準として考える必要があると思う。
たとえば,普段使用する消耗品で,本来は「廃棄される部分」などを集めて何かを作り上げて稼いでいたところに,情報漏えいにより作業場が狙われて盗難に遭ったり使えなくなったりした場合,再度作るとしても簡単ではない。しかも,本来廃棄される部分だとすると原料費はタダであり,自作となれば購入したわけではないから標準的な価格や製作費も具体的に決められない。「だから補償はなくていいだろう」ということにしていいのだろうか。実際に,廃材などを集めてアート作品を作る人もいる。作業場の所在地が漏えいして製作途中の作品を盗まれた時,「どーせ廃材なんだから補償なし」で済ませていいのかという問題だ。アート作品となると,製作にかかる時間は作品によりマチマチだろう。こうしたケースで,また材料を集め直したりする期間と時間に対して,どのように「補償額」を決めるべきか。「漏えいさせた側の最高報酬の者と同等」という原則があれば決め易いというのが,一つの理由。
また,最高報酬者と同等が必要なのは「格差の拡大」の防止のため。
ここ最近,「格差の拡大」が問題になっているのは衆知のとおりだ。被害に遭わせておいて,その原因を作った側の最高責任者が被害者より多くの報酬を受け取れる状態が放置されて「格差拡大を助長しない」と言えるだろうか。しかも,こうした「被害の補償額は責任者よりも低く設定する」ような「きまり」は,たいていは被害の原因を作った側……オヤクショによって作られている。そこが一番の問題だ。
どこかの大統領が,「我国に制裁をするような非友好国は攻撃していい」なんて「きまり」を作り,それに従って攻撃して「きまりに従っているのだから問題ない」と主張するのと,何が違うのかということだ。キング牧師の言葉に「ヒトラーがドイツでやったことはすべて合法だったことを忘れるな」というものがあるらしい。為政者側が自分に都合のいい「きまり」を作り,「それに従っているのだから問題ない」といった前例を積み上げていくことがいかに怖いことかということ。そして,そうした状態が放置されて来た今にあって,格差拡大が問題になっていることをよく考えるべき……キング牧師の言葉はそんなことを示しているように思う。犯罪被害の原因となった個人情報の漏えいや悪用を許した側が「補償は最高責任者より低くていい」的な「きまり」を作って,その被害により生活を壊され,補償を求める者に対して「補償はこれだけという『きまり』なので……」と一方的に低い額を提示して済ませ,原因を作った側の市長など最高責任者は,高額な報酬を受け続けて将来も安泰……ヒトラーやプーチンのやり方と何が違うのか。
犯罪の被害者が,その犯罪の原因となった側の最高額の報酬の者……たいていは最高責任者だろうが,それを下回らない……できれば上回るだけの「補償」が与えられることが「原則」でなければ,長らく問題になっている「格差の拡大」は解消しない。格差を拡大させるなら,それは憲法の「平等の原則」に反するはず。憲法に反するような「きまり」は,第九十八条規定により「効力を有しない」。もしそれで「格差拡大にはならない」と言うなら,オヤクショはその根拠を示す必要がある。
最高責任者は,何であれ末端で起きたこと全てについて責任がある。そのために,それ相応の高額な報酬を受け取っているのであって,その額に見合う責任が果たせないのなら,減額も当然だろう。だから,述べて来た「補償」も,最高責任者の報酬を減額して,その分を充ててもいいのではないか。それなら,「税金」からの拠出も節約できる。逆に,そうでもしないと,「決裁文書の書き換え」などの違法行為を強要したり,強要されて自殺した職員の損害賠償に平気で税金を使うようなオヤクニンが,ずっと高額報酬を受け続けることになるのではないか。
今後,それは法理論的に「原則」として考えられるべきではないかと思う。「責任」や「平等の原則」というものがそこまで厳密に……つまり「報酬」にまで踏み込んで考えられて来なかったため,「格差」がここまで広がったとも言えるのではないか。「原則」としないと,オヤクショは今後も自分たちだけに都合のいい「きまり」を作り,それを守ることで格差を広げ続けるだろう。「『きまり』を守り続けたヒトラーを見習え」と言うのと似たようなものだと思うのだが,どうだろうか。
◆ 未被害想定時の報酬の補償
「C. 原状回復のための労力相当の報酬」と「D. 原状回復完了までの間の報酬の補償」は,内容が重複しているようにも感じるが,これらを個別に扱わなければ,やはり「不公平」が生じる。なぜかと言うと,C
の「原状回復のための労力相当の報酬」というのは,マイナスをゼロにするだけのためのものであり,一方,被害に遭っていなければ,多少なりとも「プラス」もあるはずなのに,少なくとも C だけで「プラスになる」とは考えられないからだ。普通に働いて生活していて,「プラスが何もない」なんてことがあるだろうか。生活するには消費が必要で,そのためには「収入」が必要。本来,「被害に遭わずに」働いていれば得られたはずの「収入」は,生活に必要な消費をし,余れば,預貯金や「遊び」に回せたはず。それが「プラス」の部分。しかし「犯罪被害」というマイナスを負ってしまったら,ゼロに戻すまでの「原状回復」の完了までは,「プラス」の部分はほぼないに等しい。「プラス」がないのは犯罪被害に遭ったことが原因で,やはり責任はその原因を作った側にあるはず。当然,「プラス分の補償」も必要なのではないだろうか。
とはいえ,C を,述べた通り「最高報酬者」と同等の時給相当で計算すれば,被害者側の元々の報酬から比べれば,D がなくとも「プラス」となる可能性はある。が,それは結果論だ。本来なら「原状回復」は,被害を生む原因となった側がすべきことと考えるのが妥当だろう。原因となった側の最高責任者が,責任をもって「原状回復」してもいいくらいであり,それを被害者自身にやらせたなら,最高責任者の時給相当と同額をもって「ゼロ」と考えるべきではないかと思う。だいたい,もし最高報酬者より被害者の元の時給が高かったら,プラスにはならない。が,それも結果論だ。そのために D が必要になるわけだ。
だとしても,仮に被害者が元々高額報酬の者だった場合,それに合わせた「補償」をする必要があるのか……は,疑問に思うかもしれない。
犯罪被害ではなく,C の「原状回復」は不要な例ではあるが,たとえば仮に,少々いかがわしい感じのする商売で大儲けしている人がいて,オヤクショとしては「あんなことで儲けているなんてけしからん!」的に,あまりよく思っていなかったとする。そこで,少々無理のある理由を付け,たとえば「以前提出を受けた書類に不正と思われる記載があった」とか,「以前受けた申請と異なる事実がみられる」などと言って,立入検査やら是正勧告やら排除命令やら……いろいろオヤクショの権限を行使することは可能だろう。でも,元々「でっちあげ」たような理由なら,裁判に持ち込まれれば,そうした「権限の行使は不正」といった判決が出され,オヤクショ側が負ける可能性も高い。
しかし,その「大儲けしていた人」は,検査や勧告,命令やら裁判などの諸手続きに対処している間は,その「大儲け」ができていた活動はそれまでどおりにはできなくなる。もちろん儲けは減るだろう。
もう分かると思うが,これでは,「大儲け」側がたとえ勝訴したとしても,後にその活動が抑制されていた間の「稼ぎ」が補償されなかったら,儲けを減らされたのと同じになってしまう。つまり,「大儲け」をよく思っておらず,「あいつの『儲け』を減らしたい」と考えた一部のオヤクニンが,それを実現すべく,でっちあげでナンクセ権限を行使しさえすれば,そこで「勝ち」が確定してしまう。たとえ後にオヤクショ側が敗訴したとしても,「相手の儲けを減らす」という目的は達成できてしまうのだから。オヤクショはその権限を,いわゆる「(リンチ→)私刑」的に行使することができてしまうようなものだ。
でもそんな「オヤクニン」がいるだろうか。忘れないで欲しいのは,「持続化給付金」の詐欺に加担したり,ある省庁では,法的に書き換えできないはずの決裁文書の書き換えを部下に強要したりと,そんなオヤクニンが実際にいるということ。どちらも「自分の思い通りになればそれでいい」という考えをそのまま行動に移した典型。それらを見れば,「あいつの儲け方は気に入らねぇから減らしてやろう」という考えを,役所の持つ権限を使って「思い通りに」しようとするオヤクニンがいてもおかしくない。しかもその書き換えを強要し部下を自殺に追い込んだ省庁は,遺族が求めた賠償を全額受け容れて裁判審議を避け,賠償には税金を使うらしい。裁判で証言したくない……その「思い通りに」するために,国民が働いて納めた血税を平気で使う人たちだ。「自分の思い通りになればそれでいい」オヤクニンが,たくさんいるということだ。
本当に「ナンクセ権限」を行使するような「オヤクニン」がいるかどうかは,調べないと分からない。が,「大儲け」していた側には,やはり「調査権限」など与えられないから,オヤクショにそうした人がいるかどうかなど調べようがない。調べようがないから,実際にそんなオヤクニンがいたとしても何もできず,その後もその人は何かと「儲け」を妨害され続けてしまうかもしれない。
「いかがわしい儲け方するほうも悪い」という見方もあるだろうか。しかし,儲け方が「いかがわしい」かどうかなんて「どう見るか」的な主観の問題。たとえば過去には「ノーパンシャブシャブ」とかで接待を受けていたオヤクニンがいたし……それは古い話だが,最近でも某大臣補佐官が「エッチ女優と遊んでいた」なんて報道もあった。こうポツリポツリと出ていればそれは「氷山の一角」でしょ。他にもオヤクニンや大臣クラスの人がそうした商売のお客さんになり誰かを儲けさせている可能性がある一方,もしどこかのオヤクニンから「アイツの儲け方はいかがわしい!」と感じられちゃったら,指導などの権限の行使を受け,いわば儲けを「妨害」されてしまう……こんな不公平が起こりうる状態が放置されていて,「平等の原則」に則していると言えるのかって話。
でももし,オヤクショ側が裁判に負けた時に「権限の行使がなかった場合と同等の報酬を補償しなければいけない」ことが「原則として」あれば,「ナンクセ権限の行使」はできなくなる。オヤクショが敗訴した時には,その「大儲け」ぶんを補償しなければならなくなるのだから。
今述べた例は,「情報の漏えいと悪用による犯罪被害の原状回復期間相応の収入補償」とは少し違うが,でももし提示させた個人情報を裏で意図的に漏らして稼いでいるオヤクニンが本当にいたら,その人はそれで稼げる一方で,被害に遭った側は原状回復に手間ひまかけている期間は本来の仕事が制限を受ける……という,似たような構図になる。個人情報を提示させたなら,必要な「補償」ではないかと考える理由だ。
述べてきたことは,「C. 原状回復のための労力相当の報酬」と「D.
原状回復完了までの間の(未被害想定)報酬の補償」を別の性質のものとして考え,しかも両方が補償されなければ「不公平」となる理由だ。
裁判官は,「平等」というものを「法理論」の中心に据えて,あらゆる観点から見て「どういった状態が『平等』といえるのか」を考えて,判決を出すべきなのだと思う。
◆ 物価高騰の背景にあるもの
ちょっと話が逸れるが,ついでに伝えておきたいことがある。
物価が高騰して,いろいろな人が困っているが,元を(ただ→)糺せば,燃料費や原材料費が上がっていることがかなりのウエイト。中でも「石油」は,ガソリンや軽油などの輸送手段の燃料であり,ポリエチレンなどのプラスチック製品の原料でもありと,石油の値上がりが,他のあらゆる値上げの要因になっていると考えることができるだろう。
さらに元を辿ると,概ね「ウクライナ危機」に行き着くのは,多くの人の共通認識ではないかと思う。これも,それなりのウエイトを占める産油国であるロシアに経済制裁を科している影響で,ロシアからの石油輸入が絞られ供給が減ってしまっているから,結果として石油が高騰するのは,需要と供給の経済原理からして当然と言える。
ただ,あまりにも知られていない気がするのだが,日本には既に石油を製造する技術がある。「生産」ではなく「製造」ね。「生産」と言うと,石油の場合,普通は「油田」が必要で,それなりに「埋蔵」された場所でなければできないが,「製造」というのは原料から作ることで,「工場」みたいな場所は要るが,「埋蔵」されている必要はない。
しかし筆者が子供の頃は,「石油がどうやって地中で作られるのかはナゾ」とされていた。だから,ヘタするとあと数十年でなくなるかもしれないから,「大切に使ってねー」みたいなことを言われ続けていた。それをどうやって「製造」するというのか。詳しくは,「ボトリオコッカス・ブラウニー」とか,「オーランチオキトリウム」などで検索した結果のサイトを参照してもらいたいと思うが,簡単に言うと,どちらも植物の一種「藻類」の仲間で,有機物などを取り込んで「炭化水素」を作るらしい。というと,糖分とかでんぷんとか……何だか作り過ぎると「メタボ」になりそうだが,それは「炭水化物」で,「炭化水素」とは何かというと,ガソリンになる「オクタン」とか,ポリエチレンやポリプロピレンといったプラスチックの原料になる「エチレン」や「プロピレン」などが「炭化水素」。それが作られるのだから,ほぼ「石油ができる」と言っていい。それらは「石油を作る藻類」と言えるだろう。
ちなみに「炭水化物」のほうは,原料になる「有機物」に当たる。うまくやれば,「食べ残し」などから石油を作れちゃったりするわけだ。
そうした藻類があることは以前より知られていて,おそらくある程度性質も把握されているだろうから,もう既に量産体制ができていてもおかしくない気がする。
すると,不思議に思う人もいるだろう。なぜ石油の価格が上がっているのか。「作れる」なら,不足する心配などないはずだ。
考えられる理由のひとつは,「作れる」とは言え十分な「量産体制」までは整っていない可能性。安く大量に作れる技術がまだ確立されていないのかもしれない。しかし,筆者がそれらの藻類の存在をウェブ記事で知り,「日本が産油国になっちゃうかも……」なんて話を読んでもう何年にもなる。石油は「枯渇するのでは」と言われて久しいのだから,将来を考えれば,既に少量の量産設備くらいあってもよさそうなのに,製造石油の流通の話が聞かれないのは,不自然な気がしないだろうか。
そこで考えられる別の理由は,「量産体制を作れない」何らかの事情がある可能性。その「事情」とは何か。石油が安く大量に作れちゃうと「困る人」がいるのかな……と。それは誰? 「石油が安くなっちゃうと困る人」……つまり「石油が高い状態ほど儲かる人」だ。と言えば,うじゃうじゃいそうな気がしないだろうか。石油で儲けている人であれば,それなりに付き合っている政治家や石油の輸入を扱う役所の幹部に知り合いがいたりするのではないか。そこで,その親しい政治家やオヤクニンに,「石油を製造する設備なんか作ったら,今の石油流通のシステムに混乱を来たし,多くの国民が大打撃を受けるが,あなた方はその責任をとれるのか!!」なんてことを言っておけば,政治家やオヤクニンたちは「責任を負いたくない」から,「それはたいへん! 慎重にしなきゃ!」ということになり,石油の量産体制の整備は先送りされる。それが「量産体制を作れない事情」であり,その結果が,今の石油価格の高騰ではないかって気がしている。
何でこの話を出したのかというと,やはり,オヤクニンの性質である「自分の思い通りにしたい」傾向が根底にあるような気がするから。ポイントは「責任を負いたくない」というところ。決裁文書書き換え強要で部下を自殺に追い込んだ省庁は,なぜ「書き換え」を命じたかといえば,どっかの学校法人の建設に関連して,当時の安倍総理が,「夫婦どちらかが関わっていたら総理大臣を辞める」と言ったことで,その文書から「関わったか」のような際どい内容をなくしたかったためみたいな話を聞いている。しかし「決裁文書」と言えば,もう書き換えが許されない文書を意味する。その法律を無視して,「総理が辞める要因になって,責任を問われないようにしたい」という「思い通りにする」ため,書き換えを強要したのだろう。後に,自殺した職員の「遺族の損害賠償に全額応じる」ことになる。一見責任を認めているようだが,全面的に受け容れれば裁判審議がないから,省庁内で誰がいちばん責任が重かったかなどを根掘り葉掘り訊かれて証言をせずに済むわけだ。もし本当に責任を認めるなら,真っ先に謝罪したり,内部調査して結果を公表したり,それで関係者を処分したりするところだろうが,少なくともそんな報道は聞いたことがない。最も深く関わったらしき職員は退職しているが,退職金の数千万のうち,減らされたのは数十万だったか。それがあのオヤクショの「自殺させた責任」の額……命の値段か。おそらく遺族もそこに不信感を抱き,責任をはっきりさせようとして損害賠償訴訟を起こしたのだと思うが,それを全額受け容れてでも「証言したくない,責任をはっきりさせたくない」という要望を「思い通りにする」ことを優先するのが,オヤクニンということだ。それも,税金を使って。
石油の場合も,「責任を負いたくない」……その「思い通りにする」というオヤクニンの意識が強く働けば,「石油製造設備など作って石油流通が混乱したら責任が問われるぞ!」と言われれば,それを避けようとすることは,十分起こりうることのような気がするのだ。
石油会社に知り合いがいると,「石油を安く安定的に製造し流通させる仕組みの整備」なんて前に進めにくいかもしれない。悪く思われて,「計画を進めるならば縁を切る!」なんてことになってもイヤだろう。しかし,石油やエネルギー関係省庁のオヤクニンの「責任」とは何か。知り合いの石油会社の儲けを保証することなのか。そうではないはず。消費者に安定供給できるようにすることであり,そのために「製造」という選択肢が考えられるのであれば,整備することではないだろうか。その消費者が納める税金から報酬を得ていることを忘れて欲しくない。だから,たとえ石油会社の人と縁を切っても,納税者でもある消費者側を向いて仕事すべき。でなければ,全納税者に背を向けることになる。憲法には「平等の原則」の他に,「公務員は全体の奉仕者」ともある。
すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない。(初項,第③,④項省略)
広く納税者に目を向けず,一部の石油会社の人たちだけ一方的に儲かるような状態を放置し,石油製造技術があるのに安定製造と供給できる仕組みを整備しないままで,将来「責任はなく,違憲でもない」なんて判決が出るだろうか。政治家やオヤクニンの皆さんが「責任を負いたくない」と思っているなら,このままでいいのか考えるべきだろう。
しかし,本当にそうした「石油を安く安定的に製造供給できる設備の整備」を妨害するような人がいるだろうか。それは調べなければ分からない。が,個人情報の漏えいと同様,一般消費者に「詳しい調査権限は与えられない」のだ。石油に関係の深いオヤクニンと親しい石油会社の知り合いがいるかどうか……調べようとしても,オヤクニン側が「守秘義務だ」とか何とか言えば,いくらでも隠せてしまう。これでは,本当に「石油製造設備の整備」の妨害をしている人がいたら,どーせ誰にも調べられないから,バレずに妨害し続けることができてしまう。するとどんなに安い石油製造技術ができても,末端の消費者はその恩恵に(あずか→)与ることができないまま,その知り合いの石油会社だけが儲け続けることができてしまう。実際,それら「石油を作る藻類」の存在が知られてもう何年も経つのに,ロシアからの輸入が止まっただけで石油の値段が上がるほど,「製造」の整備が進んでいなかったのが現実だ。石油を安く製造する技術が進んでいないから,今回のように石油輸入が少し止まるだけでも価格が上がり,収入が低い人は出て行くお金が増えてますます生活が苦しくなり,石油で儲けて来た人は入って来るお金が増えるからますます儲かる。これで「格差が拡大するのはナゼ!」とか言っていないか? 石油製造を進めなかったのは誰か。政治家やオヤクニンは胸に手を当てて考えたほうがいい。……まぁ,考えるチカラがあれば,少しくらい製造技術も進んでいたのかもしれないが。
● これからの「平等の原則」
述べてきたような状態を「平等」と言えるのか。「平等の原則」というものを,もっと厳密に解釈すべきではないかと思う。
オヤクニンは,言いたくないことは「守秘義務がー!」で拒否できると思っているかもしれないが,それは「なんちゃら公務員法」の規定であり,一方「平等の原則」は「憲法」である。どちらが優先される法律かよく考えるべきだろう。つまり「守秘義務」を貫こうとすると「平等の原則」が破られるような場合,それは「憲法違反」であり,すると,第九十八条の規定により「効力を有しない」と考えるべきだ。縮めれば「平等の原則が破られるような守秘義務(の規定)の適用は効力を有しない」ということ。これが筆者の法解釈……というか,「憲法」の持つ「最高法規」という性質上,「当たり前」のような気もする。
この考え方を基本に据えて来なかった結果として,最近のゴタゴタがあるのではないか。今これをお読みの方が「法曹」でおられるのなら,今後はこれをスタンダードとして判断されることを,強く希望したい。
でなければ,また「決裁文書の書き換え強要」みたいなことが起き,「自殺者」が出て,遺族が詳しい事情を知ることができないまま責任がうやむやになるのではないか。本来,「上司と部下」と言ったって,人としては「対等」のはずで,「平等の原則」から考えれば,「決裁文書の書き換え」などという違法行為を命じられた部下は,「そりゃダメでしょ」と言って突っぱねてよかったはず。でもそこに「やらなきゃ査定を下げて報酬を減らすゾ!」などという脅しのようなものをチラつかされるとそうはいかなくなる。しかしそれは「パワハラ」であり,「平等の原則」から言えば効力なんかないはず。しかししかし,実際に拒否して報酬を減らされそうになったところに,「守秘義務があるんだから,公言するな」とか,「裁判なんて起こしたら守秘義務違反だゾ!」などと言われ,「それもそうだ」と思わせれば,上司は「その指示には絶対服従」的な地位になってしまう。その結果,「自殺」という最悪の事態が起き,遺族もその「守秘義務」によって,なぜ自殺にまで至ったのか詳しく知ることができないままにされてしまっているのが現実だ。
もし「平等の原則は『憲法』なのだから,『なんちゃら公務員法』の守秘義務の規定より優先される」と広く認識されていれば,違った結果だったような気がするのだ。その「違った結果」がいい方向に働いていれば,もしかするとそのパワハラ上司を法廷に引きずり出すこともできていたのではないかと……。他にも「守秘義務」が「パワハラ隠し」に悪用されているケースがないと言えるだろうか。
ちなみにその「決裁文書書き換えを強要して自殺に追い込んだ上司」は,遺族から民事訴追されているらしい。でも,オヤクショ側が全面的に損害賠償に応じたから,「個人の責任は問えません」的な……論法か判例かで,訴えを却下するように求めているみたいだ。しかしそれも,おそらく「なんちゃら公務員法」の規定か何かではないか。少なくとも「公務員個人の責任は問えない」なんて規定は「憲法」にはない。
だいたい,自殺するほどの「パワハラ」があって,「個人は訴追されない」とかといったその「なんちゃら公務員法」の規定により加害者の責任がうやむやになり,その自殺した方や遺族は「個人として尊重される」といえるだろうか。個人の尊重を謳う憲法に違反するのであれば,やはり憲法第九十八条規定により,その「なんちゃら公務員法」の規定は「効力を有しない」と考えるのが妥当ではないだろうか。
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
「公務員個人の責任は問えない」規定に近い憲法の条文は,第十七条あたりか。
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体にその賠償を求めることができる。
だから,国か公共団体が応じれば「それで終わりにしろ」と受け取られそうだが,でもこの条文は「一般市民が」公務員の「公務で」損害を受けた時の話ではないか。「公務として」行なった行為で損害を受けたのなら,それは「公務として行なわせた国か公共団体側に責任がある」のは当然。重要な点は,その「国か公共団体の意向」によって行なわれたものとみなされることだ。
「決裁文書を書き換えさせる」というのは,述べたような「安倍首相婦人が関わったかのような記述を残して,首相を辞任に追い込む事態の責任を負いたくない」……それを思い通りにしたいという,一部の人の私利私欲的な動機に基づいた命令であり,さらに,部下がその違法行為を拒否したくても,直属上司がそれを許さない……これでは,とうてい「オヤクショとしての意向」とは考えられず,「公務」とは言えないのではないのか。「公務」でないなら,憲法第十七条も関係ないだろう。
ひと言で言えば,「パワハラが『公務』扱いでいいのかどうか」だ。パワハラが「国として」行なわれたと認めるのなら,それは「国が賠償に応じたからもう終わり」といった判断を裁判所がするかもしれない。ただ,その判断のためには「オヤクショ全体の意向があったかどうか」は調べる必要はあるだろう。審議を一切せずには分からないことのような気もする。で,「パワハラも公務」ということになれば,あのオヤクショ全体が「パワハラ組織」だとも認めるようなもの。そうなったら,そんなオヤクショはもう潰して,新たに「歳入庁」でも作って移行したほうがいいのではないか……まぁ,筆者の個人的な考えだが。いっそのこと「収税業務」も一部自由化して「手数料収入」を許可し,コンビニやカード決済,携帯電話などの会社間で競争できるようにしちまえよ。
一方,今回のような,オヤクショ内の「上司と部下」関係で起きたことは,普通に「人間関係」のゴタゴタと同じく,憲法の「平等の原則」に則って,「人として対等」であることが優先的に考えられるべきで,当事者間で議論されるべき問題ではないだろうか。憲法は「なんちゃら公務員法」よりも優先されるのだし,行政訴訟ではなく「民事」なのだから,却下されずにキッチリ審議されるべきことではないかと思う。
個人情報において「裏で稼ぐために意図的に漏らしたりしている人が守秘義務を根拠に隠し続ければ,ずっと得をし続けてしまう」のと同様に,「守秘義務」とか「個人は訴追されない」規定を盾にすれば,オヤクショ内で起きている不都合なことをずっと隠し通せてしまう。「やらかした人」は「法の下に晒され」て,それなりのペナルティが科されるような法的判断がなければ,「次はどの省庁で自殺者が出るか」なんて問題になるのではないか。人命尊重のためにも「なんちゃら公務員法」の守秘義務や「個人は訴追されない」といった規定は,「平等の原則」や「個人の尊重」に反するようなケースでは「効力を有しない」ものとして法的判断がなされるべきだと思う。憲法は最高法規なのだから。
また石油についても,「守秘義務」が拡大解釈されている今の状態では,「じつは上司は石油会社に親しい知り合いが……」などとオヤクニンがバラすことはないだろうから,その会社から,述べたような「石油を製造して流通が混乱したら責任とれ!」などと脅されていても闇の中で見えないままになる。「責任をとりたくない」と思ったオヤクニンは「石油製造技術」を進めないから,安定供給するための製造石油の流通の仕組みもなかなか作られない。すると将来,今よりもっと大きな石油危機が起きた時,石油会社でも対応できない社会的パニックになる要因となるのではないか。その時になって「石油を製造して流通に組み込む整備をしておけばよかった……」と思っても遅いのだ。「守秘義務」が適用されるのは「オヤクショの権限で知り得る企業や個人の事情」までで,関連する役務に深く関わる交流……たとえば「石油エネルギー関連の省庁幹部と石油会社に深く関わる人物」などは,「癒着防止」のためにも「公開が義務」レベルにすべきだと思う。公開を怠ったら「違憲,懲戒免職,退職金没収」でいいのではないかと。
個人情報の話に戻せば,オヤクショが個人情報の提示を求め,それが漏えいして起きたと思われる犯罪で被害に遭った人が,「調べさせろ」とオヤクショに求めても,「守秘義務」などに阻まれて,調べられずに泣き寝入りするしかなければ,著しく「平等の原則」に反する。でもこの場合は,調査権限を与えると,その人と関係ない個人情報も見られる可能性がある。調査権限を与えられない以上,「守秘義務」を主張するオヤクショ側に「漏えい/悪用がないことを客観的に証明する」責任があると考えるのが,「守秘義務」を守りつつ「平等の原則」との整合性を確保できる「唯一」とも言える考え方だと思う。証明できなければ,「漏えい/悪用があった」として責任を負うべき。その責任は漏えいさせたオヤクニンはじめ,直属上司からトップに至る管理責任にも及び,被害者は述べたような A~D の「補償」をされるべき。そうしないと,やはり被害者は損害を負ったまま「泣き寝入り」しなければならなくなるうえ,もしオヤクショの中に「意図的に漏えいさせて裏で稼いでいる人」がいると,そちらにはほとんどペナルティがないから,「悪用するほど稼げる」ことになる。こうした状態が起こりうる可能性が放置されていて「平等の原則」に則していると言えるのかが問題だ。
● 個人情報の提示を求めた側の責任
まとめれば,「平等の原則に著しく反する状態」にならないようにするためにも,個人情報の提示を求めた側には,以下のような責任があることを「原則」とすべきだと考えられる。
個人情報の提示を求めた側が,守秘義務などを理由に漏えい/悪用の調査を拒否できる場合は,提示を求めた側に「漏えい/悪用はなかったことを客観的に証明する責任」があり,証明できなければ,それが原因と思われる犯罪被害者には補償をしなければならない。
その「補償」の内容については,以下の通り。詳細は前述『「責任」と「補償」』の章を参照のほど。
- A. 被害額
- B. 原状回復の実費
- C. 原状回復のための労力相当の報酬
- D. 原状回復完了までの間の報酬の補償
述べてきたように,これらが全て補償されないと,「格差の拡大」を助長して,ますます「平等の原則」に反することになると思う。
◆ それが「管理に必要なセキュリティ」
「そんな補償など無理だ」と思う人もいるかもしれないが,裏を返せば,オヤクショの個人情報の管理の仕組みやセキュリティは,述べたような「補償」が必要なまでに至る事案などめったに起きないほどに強化されていてしかるべきということ。実際に補償の必要のある事案がほとんど起きなければ,これだけの保証もできるはず。それを「無理だ」と感じてしまうのは,元々のセキュリティ意識がその程度である証左だ。今や個人情報というのは,漏れたが最後,どう悪用されるか分かったものではない。時として他から漏れたデータと「照合」されて,様々な手で次々と詐欺を仕掛けられ,ヘタすると「財産」をゴッソリ持っていかれる。となると,述べたような補償もできないセキュリティや管理体制で個人情報の提示を求めることは「財産権の侵害」とも言えると思う。
財産権は、これを侵してはならない。(第②,③項省略)
筆者に言わせると,この意識……つまり,「個人情報は国民の財産に関わる事項」という意識が欠如しているから,管理が甘くなり,あちらこちらのオヤクショで漏えいが絶えないのだ。「デジタル庁が」メールの宛先を間違えるような初歩的ミスで漏えいが起きちゃう程度だから,当面は堅固な個人情報管理など望めそうにない。「むやみに個人情報を提示しない」ようにして防ぐしかないのが実態ではないかと思う。
述べてきたような責任や補償を「保証する必要はない」というなら,その道義的……少なくとも法的な根拠を示すことが必要になると思う。が,憲法には「平等の原則」,「個人の尊重」,「財産権の不可侵」などが謳われている。他の法律でどう定められていようと,これらに反する内容は「効力を有しない」ことが「最高法規」で定められているということを踏まえて対応すべきだと思う。
◆ 「悪用防止」の現在・過去・未来
とはいえ,果たして「照合」による悪用など実際にあるものなのか。既にリンクを示したマイナンバーの危険性の記事内では,筆者が過去に身に覚えのない勧誘らしき電話を繰り返し受けた例を述べている。もしかすると,どこかで別のデータと「間違って」照合されたのではないかということ。逆に「照合」的なことがされなければ起きない間違いだ。
間違われたのが「自衛隊」だったからまだマシで,「高額収入者」とかと間違って照合されていたらどうなっただろうか。投資や高額商品の勧誘やら,次から次へと電話が来たかもしれない。いや,勧誘ならまだいい。中には詐欺とか,あるいは住所も一緒になっていたら,「盗み」目的で直接自宅が狙われていたかもしれない。もっとも,「××荘」的なおよそ金持ちは住みそうにない住所だったけど。でも「間違われ方」によっては,もっとややこしいことになった可能性があるのは想像できるだろう。だから,「照合」されにくくするためにも,個人情報はむやみに外部に伝えないのが無難だと,身に染みているというわけだ。
ただ,他でも漏れたデータが実際に「照合」で悪用されているのかどうかは分からない。されていないかもしれない。「なら,対策など必要ないだろう」と思うだろうか。「悪用防止対策」というのは,過去から現在に至るまでに限った話ではなく,今後も含めて考えるべきなのだ。つまり,どんな悪用をされるリスクがあるか,可能性を「先回り」した対策を考えるべき……いわゆる「予防」である。コンピュータと通信の発達によって,一度に大量のデータを扱えるようになった。つまりそれは,一度「漏えい」が起きると,その影響も大規模になる可能性を示している。起きてしまってからでは遅いケースも多々考えられるだろう。「最初から悪用されにくい仕組みに作るべき」ということなのだ。
◆ 「フェイルセーフ」を考えるべき
とはいえ,筆者は「漏えいは完全には防げない」ものと考えている。個人情報の提示を求めたということは,それを元にした連絡や本人確認などは,どこかで「人が扱う」からだ。人が扱う以上「100%」はない。
では,どうすればいいか。「フェイルセーフ」を考えるしかないだろうと思っている。どういうことかというと,「たとえ漏れても悪用されにくい方法で普段から扱う」ようにすることだ。いくつかのヒントは,既に紹介したマイナンバーの危険性を指摘した記事にも書いているが,たとえば,住所や氏名などの項目それぞれに照合用の番号を決めたら,それをそのままではなく「暗号化して異なる番号になる」ようにして,それを「項目ごとに別の場所で保管する」ような方法。データを使う時は,その暗号化された番号を照合用の番号に戻して照合して使う。こうしておけば,「データが漏れた」としても,一つの場所から漏れるデータは「住所だけ」とか「氏名だけ」で,それだけでは利用価値がない。他から漏れたデータと照合しようとしても,それぞれの項目に付けてある番号が異なるから,その「照合に使う計算方法」が分からない限り,データ同士が結び付かず悪用は不可能になる。これが,個人情報の扱いにおける「フェイルセーフ」の考え方一例。
逆に,直接書き込む番号1つで個人を特定でき,他から漏れた情報と照合し放題な今のマイナンバーがどれほど危険かは,言うまでもない。
ただその「照合に使う暗号化」で,簡単にはバレないような計算方法の開発は,そこそこ高度な技術が必要。マイナンバーほど大規模になれば,それなりに投資してバレにくい計算方法を開発することは意味があるが(ただし,今のマイナンバーは番号を暗号化せずそのまま記載するから,その面のセキュリティはほぼゼロ),一般でそこまでの投資をして計算方法を開発するには無理がある。
だからって,そこいらの表計算ソフトで「無防備に」扱っちゃったりすれば,「漏えい」のリスクを暴上げさせる要因となる。これまで「エクセルファイルで漏えいした」なんて記事をいくつ見たことか。
とはいえ,一般で「バレにくい暗号化の開発」など無理があるとなると,どうすればいいか。じつは筆者は,表計算での個人情報保護におけるフェイルセーフに関してアイデアを持っている。長くなるので詳細は省くが,ご興味があれば以下を参照。
◆ 元データを使わず確認する手法
一方で,今回提示を求められている旧住所などは,そもそも住民票に記載されているものだから,役所側で確認できるはず。ではなぜ旧住所の提示が必要なのか。もし本当にそこから転居した本人かを,住民票に記載のものと一致するか「確認だけ」するために提示を求めたなら……デジタル通信では,元データを直接扱わずに「本人確認」する方法がある。「CRAM(Challenge and Response Authentication Mechanism)」と呼ばれている手法は,比較的小さなデータで,双方が持っているものが一致するかどうか,元のデータを直接やりとりせずに確認する方法。認証 ID とパスワードなどのデータは,直接受け渡しをすると,傍受されてしまったら直ぐに悪用できてしまう。そこで,それらデータを元に「ハッシュ」と呼ばれる特殊な方法で計算した結果を受け渡しして,それらが双方で同じになるかどうかを確認する。「ハッシュ」は「逆算」が困難で,元のデータが何なのかは分かりにくくなるようにできているので,その計算値が漏れて外部に知られても悪用は困難というわけだ。
旧住所のデータも,直接伝えずに CRAM と同様な方法の「計算結果」を伝えて,役所にある住民票の旧住所のデータと照合して「本人だ」と確認してもらえれば,その伝えたデータが漏れたって問題ないのだが。
「そんな特殊な方式なんか使えないよ」なんて声が聞こえて来そうだが,「特殊」なのは計算方法だけで,じつは既に広く一般に使われている。今やメールは「使わない人」のほうが少ないだろうが,そのメールを扱う「サーバ」と呼ばれるコンピュータを利用する際,そのサーバに登録してある人以外に使われるのを避けるため,「本人確認」するのに
CRAM が使われることがある。つまり,メールソフトにはたいてい CRAM
の仕組みが組み込まれていて,メールを使う人は既に普段から使っている可能性があるということ。CRAM 自体は特殊でも何でもないのだ。
「だからって,計算だけ利用するなんてできないだろう」とか言われそうだ。じつはその特殊な計算「だけ」をするソフトがあり,たいていのパソコンで元から使えるようになっている。使うためのソフトの購入やインストールなども必要ない。使い方が知られていないだけなのだ。
まぁおそらく,個人情報そのものを伝えずに確認ができ,しかも直ぐ使える方法がある……と,たとえ伝えられても,使いたくない人たちはいろいろ「使えない理由」を探し出すだろうね。しかし,それらの理由が事実ではなく,「誰もが直ぐ使える方法だ」と伝えられても,どーせ無視するだろう。ひょっとすると「誰がその責任をとるのか?」と言うかもしれない。もちろん,そのセリフを言った人だ。そんなことを言う人ほど,もし提示された個人情報が漏えいして被害が出ると,「そんな方法の使い方まで知らなかったから仕方ないだろう」と平気で言いそうだ。その方法を使っていれば被害は避けられた可能性があったにも関わらず,方法があると知っていて使わずに出た被害は「誰がその責任をとるのか?」。使わなかった人……つまりそのセリフを言った人だろう。
きっとその使い方を知ろうとせず,セキュリティ向上に努めずにいても罪にならないと思っているだろう。ただ,今まではそれで通っていたかもしれないが,今後どうなるか分からないけど。というのは,先日,東京電力の福島原発事故当時の旧経営陣に対する判決では,一人平均3兆円を越える額の損害賠償が命じられた。「経営者として事故を防止できなかった」ことに重点を置き,被害額をそのまま賠償額にしたような感じだ。今後,個人情報の提示を求めた側も,漏えいで被害が出ればその額をそのまま賠償を命じられることは十分考えられるだろう。セキュリティ向上を考慮せずにいて罪にならない……そんなことがいつまでもまかり通ると思わないほうがいいのではないか。
こんな筆者の知識を活かせる場があれば,給付金の対象になどなっていなかった気もするけどね。ただ,オヤクショからは,旧住所の提示を求めた理由の説明がないから,実際にこの CRAM で「確認が済む」かどうかは分からない。そうした意味でも,理由や取扱い方針の説明は重要と言えるが,それが「ない」ということは,オヤクショは重要と思っていないのだろう。まぁ少なくとも,何の説明もせず旧住所の提示を求めて来るようなオヤクショには,こうした知識を「必要」と感じる部署はなさそうだが。だからたぶん,オヤクショというところは,スゴくハイリスクで面倒な「手続き」ばかりだろうと思う。「CRAM のような手法がある」と知って利用すれば,リスク回避や手間削減が期待できる作業もあるかもしれないが,知らないから,今の作業を「その方法しかないもの」と思い込んで続けている。で,長年「日本の作業効率は先進国中最低」と言われていて,こうしたセキュリティについて知っている筆者のような者は仕事がなく給付金の対象で,国民の収入も先進国中最下位で,一方でオヤクショの人たちは,あちらこちらで漏えいを起こして,数百万かの報酬がある……これが今の日本社会の実態だ。
◆ 読んでくれた方を守るため
ここまで読んでもらえれば,守秘義務などを根拠に調査を拒否できる「オヤクショ」的な組織に属する方が個人情報の提示を求めた場合は,「漏えいや悪用が疑われた際,客観的に証明する責任」と「被害者への補償」がその組織の側に必要になることは,理解してもらえたと思う。
ということは,今この記事をお読みの方がそういった立場の方だった場合,当記事を読んで以降に「提示を求めた」からには,それら「責任と補償」が必要である旨を理解したうえでのこと,ということになる。言い換えれば,この記事を読んで以降に個人情報の提示を求めた時は,「証明する責任と補償」も同時に「保証」したものと解釈できる。
たとえば,この記事を読んだ後に,誰かに「マイナンバーの提示」を求めて,後にそれが漏えいして悪用されたと疑われる事案が起きて被害が出た場合,「求めた側から漏えいも悪用もなかったことを示す客観的証拠を出せなければ,マイナンバーがそこから漏れて悪用されたものとして,被害を補償する責任」がある。当記事を読めば悪用される可能性は認識できるのだから,そのうえで「マイナンバー提示」を求めたということは,そういうことになるだろう。
述べているように,マイナンバーは,直接記載する番号一つで個人を特定できるから,他から漏れたものと「照合」による悪用がいくらでもできる。「漏えいも照合もない」という客観的証明が困難なものの提示を求めれば,「いずれ責任を負うことになる」と考えるべきだろう。
悪いことに,その責任は今この記事を読んでいる「あなたが」負わされる可能性がある。というのは,「提示を求めたらそうした責任負担や補償が必要」と理解できているのは当記事を読んだ人だけで,理解できていない人の責任を追及するのはむずかしいからだ。だから,もしあなたに上司がいれば,当記事を上司にも読ませたうえ,「個人情報の提示を求める」際は,その上司の「指示を受ける」形式にしたほうがいい。あるいは,国などの上の組織からの指示なら,やはりその指示を出した部署の担当者に,「こうした責任を求められている」としてこの記事の
URL を伝えるなどして読ませて,読んだうえでの指示であることを確認しておくべきだろう。可能ならば,その指示は「書面で」受け取るか,書面を嫌がるなら,指示をボイスレコーダーなどに録音しておくべき。そうしないと,読んでいないフリをしたり,指示をあえて残さないようにする上の人間は,後で「あなたが(勝手に)したこと」とか言っていくらでも「責任逃がれ」ができてしまう。逆に,当記事を読んだうえでの指示であることが明確ならば,その指示もこの記事内容を理解のうえでのことと解釈できる。だから,上の人も当記事を読んだことと「責任は全て指示を出した側にある」との確認を,書面やレコーダーでの会話で明確に取り上げ,残しておくべきだろう。もし読ませた後に「指示」というかたちを避ける上司や上層部だったら……それは責任を下になすり付けられるように予防線を張るパワハラ案件だ。「俺が信じられないのか!」などと迫る上司や上部組織は,信じてはいけない。絶対に。
残念ながら,筆者は「守秘義務」のあるオヤクショ内で何が起きているかなど知る由もない。部下に責任をなすりつけることだけが超一流な上司がいたとしても,筆者は部下のあなたを直接助けることはできないから,せめてこうした「事前の対策」を伝えておきたいと思った。なぜ伝えようと思ったかって? 某オヤクショで自殺した人がいたからだ。
● SDGs を掲げる人が拡げる格差
これほど「セキュリティ」について慎重だと,おそらく筆者がどこに働きに行っても,「そんなセキュリティじゃダメです!」と指摘し出した途端に追い出されるだろう。だから職がなく給付金の対象者になっているようなところがあるわけだが,ではその給付金の申請に「旧住所」を提示するよう求めたオヤクショ側の個人情報管理セキュリティはどうだろうか。提示を求めたからには,述べたような「補償」も胸を張ってできるレベルに堅固なセキュリティであるべきだと思うが,少なくとも筆者に「旧住所」を求めた理由や「取扱い方針」は示されていないし,セキュリティについても詳しい説明はない。なぜか。
「IT 人材不足で詳しい人がいないからどうしていいか分からない」なんて声が聞こえて来そうだ。どこもそんな感じではないかと思うが,でも筆者の元には「その辺のセキュリティについて教えて!」といった仕事の話は,どこからも来ない。公開しているセキュリティについてのいくつかの記事には「詳しく知りたい場合はお声掛けください」的なことも書いているが……結局,詳しく知ろうとする「人がいない」のだ。で,筆者は「給付金」の対象レベルの収入だ。自分たちのセキュリティが大丈夫なのかよく知らないまま給付金申請で個人情報の提示を求め,理由も取扱い方針も説明しない方たちのほうが高額報酬を得る社会だ。
みんな揃って「自分がセキュリティに詳しくても仕方がない」と思っていないか。そうではなく,「ひとり一人が知っていないから」漏れるのだ。それがあちらこちらで起きている「漏えい」だと言えるだろう。デジタル庁が典型的な悪例。メールを扱った人が「宛先の種類と性質」をよく知らなかったから,漏えいが起きたのである。2度も。
これが今の日本の実態。セキュリティやら IT やらを「知らない人」が「方針を示し,指示を出す」立場にいて,知らないから,じつは自分たちのセキュリティに問題があっても,分からないままで「危機感」を感じない。そのため,お金を出してまで「知っている人に確認しよう」という気も起きないから,知っている側には仕事が来ない。知らない人が知らないままだから,「デジタル庁」のように,「宛先を間違える」なんて基本も理解していないような原因で情報漏えいが起きるわけだ。困ったことにそうした方は,「知らなかったのが悪かった」とも感じないから,そんなことが起きてなお,お金を出してまで「知っている人に確認しよう」とせず,いつまでもセキュリティは低いままになる。だからデジタル庁のアドレス漏えいも「繰り返された」と見れば合点がいくだろう。で結局,筆者のような「知っている者」には仕事は来ない。
それで「SDGs! 貧困と不平等をなくそう!」とか「格差を解消すべき!」とか言っていないか? でも,そう声高に叫んでいるのは,たいてい優位な側にいる人たちだ。実際,市の広報紙には SDGs のマークが描かれているが,その市は筆者に「旧住所」の提示を追加で求めていながら,理由の説明も「個人情報取扱い方針」の開示もなく,万一漏えいがあった時の責任の話も補償の話もない。すると,その情報が市の側から漏れて犯罪被害が出たら,こちらは泣き寝入りするしかなく,漏えいさせた市の側は何も補償せずに済む。念のために言うと,損害を負ったこちらは「給付金の対象」となるほど低収入で,原因を作った市の側はオヤクショだから年収は数百万。こうして,どんなに格差が広がる状態を放置しても,優位な側にいて苦しくないから,ファッション的感覚で
SDGs を「掲げるだけ」になり,実質的に有効な格差解消策を考えられないのだ。だから「オヤクショに提示した個人情報の漏えいや悪用による犯罪被害で生活を破壊された人がいても補償はほぼなく,その原因者側の総責任者である首長の報酬は高額のままほとんど減らされない」とか,「決裁文書の書き換えを強要して部下を自殺させた上司は,いくらでも税金を使って裁判の審議を回避できる」など,確実に格差が拡がるような「制度を運用する側に都合のいいきまり」を作り,見直すことはないのだ。ずっと優位なままでいられるからだ。それが放置されて来た結果が,今の格差だ。ヒトラーが「ユダヤ人は滅亡させるべき」という「きまり」を作り,実際に殺しておいて「きまりを守っているのだ!」と主張するのと,何が違うのか。「平等の原則」とは何なのか。
「司法」はいつまで「平等の原則」を原則から外し続けるだろうか。
● 後日談
ホントは前章までで記事を公開するつもりでいたのだが,9月6日に市から給付金について電話があり……いろいろと呆れたので追加。
最初に受け取った書類に「4月の末日までに申請を」とあったんで,それに間に合うようには出したのだが,返送されたものには特に締切りの記載はなかった。だいたい,2度の返送はどちらも4月を過ぎていたし。他にやりたいこともあって,この記事を書いたりとかもしていて,提出を先送りしてしまっていたら,電話で「9月の末日が期限で……」なんてこと言われた。まぁ,何ヶ月も先送りするつもりもなかったが,締切りまで1ヶ月切ってから言われると,唐突な感じがしなくもない。とはいえ,求められていたのは旧住所の確認だけだから,その点では,そんなにかからないだろうと思われていたとしても責めるつもりもないけど……。ただ,他の点でいろいろ呆れたんで,追記したい。
◆ ネットが見れない
問題に感じたのは,その「締切り」をこちらで知ることができたかどうか。電話で聞いたところ,「市のホームページや市報に記載が……」とのことだった。
で,聞き返したのは,まず「市のホームページ(のアドレス)はどこで知ることができたか」という点。その給付金についての記事の直リンクくらいは載せてあってもよさそうな気もしたが,少なくとも,返送された書類のどこにも URL も QR コードも記載はない。給付金についての記事そのものどころか,市のサイトの URL さえない。少なくとも,返送用の書類を見てネットで締切りを知るのは不可能。調べたところ,かろうじて最初に送られてきた書類に QR コードの記載があった。でもその書類,半年以上前に届いたもの。書類に記載の締切りは4月末日だから,既に過ぎているうえに,これから返信するものに対する有効性も疑問。しかも,QR コードは記載されているものの URL の記載はない。結局,「給付金」の最新記事の URL を知りたい場合,まず Google などの検索サイトを呼び出し,検索ワードとして市の名前を入力して市のサイトを検索して呼び出して,次に市のサイト内で「給付金」といったワードで検索して,該当の記事を探してクリック……これでは,寝たきりや車椅子生活など,身体に障害があって自由に動かせない人にとってかなりのハードルではないかという気がする。かろうじてトップページに給付金のリンクはあったが,他にも様々なリンクがあるから,それらに埋もれて気づかなかったらそれまでだ。スクロールしないと見れない位置だったから,自由に操作できない障害者は見落とすかもしれない。しかも,リンクはあるものの「給付金」という文言が掲載されていないから,ページ内の検索では見つからない。これで「周知させたつもり」なのだろうか。「バリアフリー」とか言っちゃったりするのだろうか。
初期段階で記事の URL をキッチリ決め,返送したものにも記載し,「ここを見てもらえさえすれば分かります」という状態にしておけば,済んだのではないかという気もする。期限一ヶ月を切って電話する必要性もそんなに生じなかったのではないかと思うのだが。わざわざ電話で連絡しないと知ることができない状態を作っておいて,「業務が多いので,ご理解を……」などと言いワケしたりしないだろうか?
最初に受けた書類に「QR コード」の掲載はあったが,それも曲者。過去に市から届いたチラシに掲載されていた QR コードで,読めないものがあったため。言い方を換えれば,その読めない QR コードを掲載したチラシの製作費用と送料,そしてその先にある読まれないウェブ記事製作のために税金が使われたことになるわけだ。詳細は以下を参照。
上記記事にも書いたが,筆者は1年ほど前までは QR コードを読めるスマホなどは持っていなかった。以前よりパソコンは使っていたから,ウェブ記事はもっぱらそちらで読んでいた。だから,QR コードの記載だけで URL の記載のないウェブ記事はほとんど読めなかった。最初に送られてきた給付金の書類も,QR コードだけで URL の記載はなかったから,もし1年前の筆者だったら,読めないままだっただろう。今でも「パソコンで大きな字にできれば読む」なんて人は,QR コードだけが掲載されていても読みそうにない。URL を併記すべきだろうと思う。
で,給付金についてのウェブ記事もあることはあったが,返送書類に URL の記載がないから,読む人は限られるだろう。ウェブ記事を読める人が多ければ,締切りを知って早めに対応できる人もいるだろうから,わざわざ電話で連絡が必要な人も減った可能性があるが,そうはなっていなかったわけだ。前述記事にある QR コードも,それを読んでウェブ記事から内容を把握できれば,問い合わせずに済む人もいると思われるが,読めない QR コードが掲載されていたわけで,やはりそのぶん問い合わせへの対応が必要になったはず。どちらも省けた可能性のある手間を増やしているようなもの。「オ・ヤ・ク・ショ・シ・ゴ・ト」の典型といった感じがする。筆者には,税金の無駄遣いに見えるが,この市はそんなに資金が潤沢なのだろうか。
でもこれでは結局,ネットを見れない人はその「期限」を知ることはできない。
◆ 市報が見れない
ただ,もう1つの方法「市報」が見れれば何とかなる。が! 筆者の元には,8月1日号を最後に市報が届いていなかったのだ。
8月1日号の次は 15 日号なのだが,「お盆」ということもあって,休刊なのだろうとばかり思っていた。ただ,月が明けて,9月1日号も来ていないことに気づいたのだが,筆者に関係のありそうな記事が市報に載っているのなんかまず見たことないから,気にしていなかった。
8月1日号も,ザッと見た限りは,「給付金の期限」の記事は見当たらなかった。やはり掲載されるとしたら 15 日号以降だろうか……。
いずれにせよ,やはり市報でも知ることはできなかったことになる。電話がなければ「9月末が期限」と知ることはできなかったわけだ。
電話では「(市報は)各戸に配布しています」と言っていた。いかにも「期限を知る手段は与えていますからねー……見てなきゃそっちのせいですよー」と言いたげ。いや,来てねーし。よくもまぁ「思い込み」で話をするなぁといった印象。「そう言うつもりはない」と思うのだろうが,そんなふうに受け取れる言い方……これぞ「オヤシクョ対応」。
「各戸に配布している」と言ったって,その「システム」がどうなっているやら。今回,「市報の配布を受けていない」ということは,その配布システムが正しく機能していないことになるわけだ。転入の届けは出しているのだから,配布担当者にだけでも住民票を元に配布先の住居リストくらい与えられていてよさそうな気もするが,それもないのか。システムがうまく機能していないことが判明した今,市は調べるだろうか。あるいは,「たまたまだろう」で調べないか。
◆ 増やされ続けるトラップ
それにしても,最初のほうで述べた「指定された本人確認書類が用意できずにあきらめる人」がいる可能性があったりとか,「締切りを知る手段」がなかったりとか……どうしてこう「トラップ」ばかり仕掛けるのかねぇ。まぁ,申請が無効になるトラップに引っかかってくれる人が多いほど,市としては支出が抑えられるから助かるのだろうけどさ。
「そんなつもりはない!」と言いたいオヤクニンもいそうだ。でも,実質的にそう思われても仕方がない状態であることは事実だろう。
その理由は,前述した「期限を知る手段は与えていますからねー」みたいだと述べた「思い込み」があるのではないかと思う。QR コードの記事にも書いたが,QR コードを載せさえすれば「誰もが見る」と思い込んでいるのではないか。市報に載せさえすれば「誰もが見る」と思い込んでいるのではないか。市のサイトで記事を公開しさえすれば「誰もが見る」と思い込んでいるのではないか。それだけ全部やれば「見れない人などいない」と思い込んでしまっているのではないか。
実際は,述べたような「本人確認書類を持てない」ケースがあったように,QR コードを読める機器を持っていない人がいるとか,QR コード自体がうまくできてなくて読める人がほとんどいないとか,市報が届かないとか……様々なトラップがあるわけだ。広く周知させたいと思っているなら,そうしたトラップがないかを調べて,あれば解消してこそ,末端まで周知されるものだと思うが,そもそも「調べたか」が問題だ。たとえば,QR コードを掲載するのはいいとして,では QR コードでアクセスできる人が何パーセントいるのか調べたうえで掲載したのか,ということ。今回の場合は特に,給付金の対象となるような低収入な人のうち,QR コードを読める機器を持っていて,しかも通信が自由に使える環境にいる人は何パーセントだったかが問題だ。それを調べたうえで
QR コード「だけ」の掲載にしたのか?
あ,念のために言っておくと,「調べる」といっても,政府あたりが公表している調査結果の資料を見ても,正しい判断ができない可能性が高いので,あまりアテにしないことをオススメ。というのは,たとえばもう何年も前になるが,麻生太郎氏が総務大臣だった時に,「インターネットの普及率が 100% になった」という調査結果に,大臣が評価するコメントを発表していたのを見たことがあるが,その調査方法が「インターネットによるアンケート」だとかで,ネット上では呆れ声が多数。知らぬは大臣ばかりなり……と言ったところ。筆者は他にもそんなのいくつか知っている。オヤクニンの「調査結果」ってそんなもん。彼らはそんな調査でも報酬を受け取れるが,筆者には仕事が来ないのである。
末端がどんな状況なのか実態を調べないまま,「××で伝えたのだから知ってて当然だ」と思い込むから,「トラップ」になるのだと思う。筆者が他の記事でもよく書く内容に「検証する仕組みを一緒に作れ」ということがある。たとえば,市で配布したチラシ掲載の QR コードが,市民の持っているスマホなどで何パーセントくらいアクセスが可能か,調査しただろうか。まぁ,していたら前述の「読めない QR コード」なんて掲載したチラシを郵送してくることなどなかったろうけど。これもたぶん,「QR コードを掲載しさえすれば誰もが見れる」と思い込んでいたのだろう。実際は正しくない QR コードを掲載していたようなのだが,せめて配布後にそれを調べれば……つまり「検証」をしていれば,「うまく読めていない」と気付いて,フィードバックすることで,次のチラシ作成時に活かせることもあるだろうが,おそらくそれもしない。だから,トラップが1つあると,ずっと残り続ける。その後も,調査をせずに「××で伝えたから,いいだろう」といったものを増やすから,トラップも増えていく。調べないから,「トラップになっている」と気が付かずに繰り返す……トラップが多い理由は,もう分かるだろう。
今回の給付金でも,もし申請書を出していない人がいた場合,それが「指定された本人確認書類が用意できない」ためにあきらめてしまった人ではないかとか,「検証」する仕組みはあるだろうか。ないのなら,そうした人の「申請を出さなかった原因」も判明しない。筆者の場合,本人確認書類を同封せずに申請を出したため,返送されて来て,その中で,本人確認は「他の書類でも OK」なものがあると分かったが,最初の段階で申請を出さなかったら「返送」もないから,その「他の書類」も分からないままになる。つまり,最初の説明での本人確認書類である「運転免許証……」などを持っていないために申請をあきらめた人は,「他の書類」の存在も知らされないまま給付金をもらえなくなってしまうことになる。
じつはかろうじて,最初の締切り月である4月の上旬,「まだ申請を出していない人はお早めに……」といったお知らせが来ていた。ただそこにも,最初の説明にあった「運転免許証……」など以外で,本人証明に使える書類の記載はなかった。「申請を出せない理由」を察して,他の書類を追加指定していたら,違っていたかもしれない気もする。
「なぜ申請しなかったのか」が調査されなければ,そうした人の存在も分からないままになる。原因が解消されず同じようなことが繰り返されれば,「出さない人」が増えていく可能性もある。
まぁ,「出さない人」が多いほど,市の財政的には助かるのだろうけどさ。そうした人が餓死することがないよう祈るばかりだ。
「格差拡大」も,「検証しない」ことが一因ではないかと思う。
◆ 「検証しない」と災害犠牲者も増える
ちなみに,筆者は時々ウェブラジオを聴く。地元ラジオ局があるのは知っているが,聴きたくても聴けずにいる。市はその「配信方式」が,何パーセントの人が聴けるものか調べて採用したのかな? やはりこれも,多くの人が聴ける配信方式を調べて採用しなければ,聴きたくても聴けない人がたくさん出てしまう。筆者は確実にその中の一人だ。
で,やはり「調べる」とは言っても,丸投げした配信業者自身の調査結果は,100% に近い数値を平気で言うと思う。麻生太郎総務大臣時代の「ネット普及率調査」と似たようなもので,そうした業者もおそらく自分に都合のいい数字が出る調査方法をするだろう。「リスナーへの」アンケートの結果とか,そこまでひどくなくても「サポート対象機器を持っている人に限定した」調査結果などを平気で出して来そうだ。その数字がどんなに高くても,「サポート対象機器を持っている人の割合」が少なければ,実際に聴ける人は少ない……ということになる。調査すべきは「実際にどれほどの人が聴けるのか」であって,そのためには,ネットにつながる何らかの機器を持つ人全てか,できれば,持っていない人も含めた全ての人を対象にする必要があるはず。「聴けない人」がいれば,防災情報も聴けないから,災害で犠牲者が出る可能性も高くなる。「聴ける人調査」はそのためにも重要なはずだが,「自分の優位性さえ示せればいい」程度の意識の人たちに調査させて,少ないリスナーを多く見せているウチは,災害犠牲者を生む要因が残り続けるだろう。
あまり「聴かれたくない」ということなら,無理に聴かないけどさ。でも,放置されると,当然「防災情報」も聴けないよなぁ。筆者ひとり取り残されて洪水に立ち向かう日が来るのだろうか……。