前回のブログでは「筆者は新聞の契約をしていない」などと書いた。
じつは筆者は,それどころかテレビも見ない。テレビを見ない理由は以下に書いた。
簡単に言えば,どちらも「見るに値しない」と感じているからだ。
前ブログでも,新聞記事の内容には「認識にズレがある」と書いた。ソニーやカワサキ(重工業)が遠隔操作ロボットを作って医療介護現場に導入すれば「障害者も活かせる」といった内容だが,だいたいこれまでも,様々な企業が,様々な先端技術を駆使し,様々な器具やシステムを医療介護の現場向けに開発してきた。にも関わらず,介護現場が抱え続けている問題……資金不足や人手不足は一向に改善されていないし,障害者の社会参加も進んでいない。それが,筆者が現場で見て来た現実だ。「遠隔操作ロボット」ったって,今までと何が違うのか。記事は,ソニーやカワサキといった大手メーカーの夢想話をただ真に受けて書いただけに見える。メーカーの主張鵜呑み記事を必死になって「読む価値があるか」と問えば……答えは「否」だろう。その記事もたまたま出先で読んだだけで,続きを読む気はしない。
なぜ企業が先端技術を駆使して何を作っても「進展がない」のかは,その前回のブログに記載した。ここでは,なぜマスコミがこうした現実とズレのある記事を掲載してしまうのかについて,考察してみたい。
● 「目隠し」に気付かない記者と役人
◆ マスコミが報道しないネット環境の悪化
筆者が以前より何度か書いていることに,ネット接続環境の悪化がある。ADSL という安価に提供されていた接続サービスが次々と打ち切られているのだ。実際,今年(2021)6月で筆者自宅で使っていた ADSL
接続がサービス終了。同年9月で,実家の ADSL も打ち切りとなる。
「サービス終了」となれば,業者から代替のサービスを提示してくるのが普通ではないかと思われる。全くなかったわけではないが……なんと,自宅向けは月々の料金が 2.5 倍もするものを提示してきたのだ。最初の3年間は2千円引きと宣っているが,それでも 1.5 倍……それを,今までの ADSL 利用者を対象とした「特別プラン」と言っている。「普通の考えではない」という意味で「特別」過ぎるプランではある。
実家も,プロバイダ(ISP)は異なるものの,ADSL の接続業者は同じだ。そちらは「代替サービス」の提示は無いに等しい。同じ接続業者のサービスの提示すらなく,やはり価格が 2.5 倍以上する光ファイバーが「乗り換えキャンペーン」対象という,むちゃくちゃな話。
安いから契約していたのに,安さがなくなれば契約を継続する理由もなくなる。結局,どちらもその「乗り換え」として用意された契約はしないことにした。
当然ながら,ADSL サービスを利用していたのは筆者だけではないはずで,他にも打ち切られる人がいるはず。そして筆者と同様に,高額なネット接続契約に手を出せずあきらめる人もいるだろう。今後も ADSL
の終了により,それらの人のネット環境も悪化していく可能性がある。
マイナンバーやらワクチンの予約やら,様々な手続きがネットで行なわれる昨今,ネット接続ができなくなれば,この先様々な制約がつきまとうことになるのは容易に想像できる。が,こういった実状を取り上げたマスコミの記事は見聞きしたことがない。
ひょっとすると,「きっと MVNO というものを知らないんだ……」と嘲笑している人もいるかもしれない。筆者も一応は技術者なので,知っている。モバイル通信設備のないネット接続業者が,設備を持つドコモなどのキャリアからデジタルデータ通信を「まとめ買い」する感じで,それを小分けにした「SIM カード」という通信用部品を作り,一般向けに「小売り」するようなものが MVNO だ。「まとめ買い」の価格がそれなりに安いらしく,キャリアと直接契約するより安い料金が実現する。
さて,では逆に聞くが,その MVNO は,低収入の人はかなりの割合で契約できないことを知っているだろうか。「は? 何言ってんの? 何のために月額料金を安く設定していると思っているんだ?」と思われそうだが,ほぼ事実。MVNO の多くは,支払いが「クレジットカード(以下『クレカ』)」に限定されている。つまり,低収入で,特にフリーランスのような収入が安定しない人は,当然クレカの審査なんか通らないから,作れない。そのため MVNO の契約もできないのだ。
筆者は前述の実家の ADSL を「口座振替」で利用している。同じ業者が MVNO も取り扱っていて,中には「1日 1.4GB」という実質無制限の契約もあり,それが2千円台半ば。ADSL より数百円高いだけだから,サービス終了の ADSL の代替プランとして提案されてもよさそうだが,提案されない。なぜかといえば,それも支払いがクレカ限定だからだ。同じプロバイダでも「口座振替」では契約させてもらえないのだ。今は「デビットカード」といった「即決済」の方法まで確立しているのに,キャリアでクレカに限定が必要な「事務手続き」などあるだろうか。
これが,筆者をとりまくネット接続環境だ。おそらく MVNO というのは,低収入でもモバイルネット環境が使えるようにと,総務省あたりが主導して作った仕組みではないかと想像するが,現実はその主旨からはほど遠いということだ。
もし,今これを読んでいるあなたがマスコミの記者だったら,こうした事実を把握していただろうか。知らなかった方も多いのではないか。なぜ? 「安定収入」があるからだ。クレカなんか直ぐに作れるから,底辺フリーランスの筆者のように「クレカが作れない人がいる」なんて分からないし,そのことがどれほど制約になるかも知り得ないだろう。
それが,MVNO の提供元であり,通信インフラを持つ NTT ドコモなどのキャリアが「支払いをクレカに限定した理由」だと,筆者は考えている。つまり「MVNO の利用者を大きく増やさない」ことと,その増やさないようにしていることを「総務省やマスコミから見えにくくする」ことを両立するため「支払いをクレカに限定した」と考えれば,キャリアにとって一石二鳥だ。総務省の役人もマスコミ記者も,安定収入があるからクレカなど簡単に作れる。そうした人たちから見れば,「クレカなんて誰でも作れる」ように見えるから,支払いがクレカに限定されたくらいで影響などないと思っているだろう。見えにくければ,批判もされにくい。おかげでキャリアは,批判をかわして総務省からもニラまれずに,自社設備を安く使われてしまう MVNO に流れる利用者を引き止め,料金が割高な契約の提示をぬくぬくと続けられるわけだ。
これは,ドコモなどのキャリアに,役人とマスコミがまんまとハメられているようなもの。キャリアといっても,いち民間企業に過ぎない。一方で「マスコミ」は,公共性を重視すべき使命を持つはずだが,そのマスコミが,特定の民間企業に有利な報道の仕方をしている……正確に言うと,「じつは MVNO は低価格なのに低収入層が契約できないような仕組みだ!」といった,報道されるとキャリアが批判を受けたり総務省からニラまれたりする可能性のある詳しい調査や報道をせず,競争原理を妨げている……結果としてそのようなカタチになっているわけだ。
NTT 幹部から総務省の三役が接待を受けていたなんて話があったが,その場で「事務処理の都合で MVNO 決済はクレカ限定でいいですか?」などと言われ,つい雰囲気で「それくらいいいか」で承諾した扱いにされたのが「今の MVNO」ではないかという気がして仕方がない。
「目隠し」に気付かない。それが役人であり,マスコミだ。それと,高市(当記事執筆時自民党総裁候補,元総務大臣),お前はダメだ!
◆ ラジオを「聴かせない」ラジオ局
じつは筆者は,ラジオも聴かない。ただ,その理由は他のマスコミの理由とちょっと違う。聴きたくても聴けないのだ。今どき,ネットがつながれば「ウェブラジオ」で誰でも聴ける……と思われるかもしれないが,筆者が使っている古いパソコンや,アカウント登録のないスマホでは,日本の主要ラジオ局はことごとく聴けないのだ。
「全く聴けない」というわけではない。聴けるウェブラジオもあることはあるが……たいていは海外のもの。だから聴く時は,もっぱら海外の音楽専用ウェブラジオ局になる。
ではなぜ日本のラジオ局はネットで聴けないのか。理由は,サーバが公開されていないか,特殊な配信方式を採用しているためだ。
ラジオやビデオのように,音声や動画のデータを継続して受信しながら,同時に再生することを「ストリーミング」といい,それ用のデータを配信するためネットにつないでいるコンピュータは「ストリーミングサーバ」と呼ばれる。「サーバ」と呼ばれる点でも分かるように,ネットにつながっている以上「アドレス」を持っている。筆者が聴く海外のウェブラジオは,そのアドレスが公開されている。つまり音楽データを配信する「ストリーミングサーバ」そのもののアドレスが分かるため,「http……」で始まるそのアドレスをブラウザや音楽再生アプリに直接入力すれば聴ける。後述する「スクリプト」など不要だ。
ところが,日本の主要なラジオ局は,その「ストリーミングサーバ」のアドレスが分からない。公開されていないのだ。ブラウザの中で働く「スクリプト」と呼ばれる機能で複雑な手続きを経て接続するか,あるいは専用アプリで同様な手続きを経ないと聴けないようになっている。では「スクリプト」が機能すれば聴けるかというとそうでもない。スクリプトというのは新旧で動作に差があり,ブラウザのバージョンが対応していないと,たとえネットに接続していても聴けないのだ。古い機械を大事に使い続ける筆者は,自宅にある機械(パソコンなど)ではことごとく聴けない。ならば一般的な「音楽再生アプリ」ではどうかというと,そもそも「スクリプト」に当たる機能がないため,当然聴けない。
しかも,今聴けている人も,使っているパソコンなどの機械が古くなると,聴けなくなってしまう可能性を孕む。同じ機械(コンピュータ)を長く使っていると,ブラウザが古い機械を見限ってバージョンアップできなくなることがある。そこで聴けなくなる可能性が高い。つまり,日本のラジオ局は,「将来は聴けなくなる仕組みをわざわざ仕込んでいる」のだ。多くの人に聴いてもらうのがラジオ局の使命ではないのかと思うのだが,それを捨て,将来的に聴ける人が減る仕組みにしているということだ。
前述したものは,在京,在阪とそのグループの主要ラジオ局の場合。一方,ご当地 FM などのラジオ局はどうか。全部ではないようだが,やはりウェブでは聴けないところが多い。こちらは,やはりサーバのアドレスが公開されていないところもあるが,公開されてはいても聴けない局もある。原因はスクリプトではなく,「プロトコル」……つまり配信方式の問題だと思われる。
筆者が「よく聴く」と言っている海外のウェブラジオは,プロトコルが「Shout cast(シャウトキャスト)」か,あるいは「Ice cast(アイスキャスト)」と呼ばれる方式。どちらも,標準的に使われる HTTP という形式を基にしていて,多くはブラウザのアドレス欄に URL を打ち込むだけで聴ける。もちろん,サーバのアドレスが公開されていなければできないが,日本のご当地ラジオ局で,サーバのアドレスが分かっているのにこの方法で聴けないところは,「ブラウザだけで簡単に聴けない形式」が採用されている可能性がある。
しかし,特にこの「ご当地ラジオ局」というのは,地域に密着している防災情報を伝えることもあるのではないかと思うのだが,「聴きたくても聴けない」状態ということは,その防災情報が伝わる人が限られるということに他ならない。これを放置していいのかどうか考えないのかと思うが……考えないのが,今の役人ということだ。
実際,2019 年に首都圏の広範囲で河川氾濫を起こした台風 19 号では,筆者は当時,調布市という自治体に住んでいた。多摩川という川から 500~600 メートルのところだった。やはり地元のラジオ局を聴こうとしたが,どうやっても聴けなかった。国土交通省のサイトで,多摩川の最寄り水位計の数値が爆上がりするのを見て,氾濫の危機が迫り来るのを感じる中で,ウェブラジオで市の防災情報が聴けない状況にはたいへん焦った。後で知ったことだが,やはり下流の狛江市や世田谷区では氾濫があり,調布市内も部分的に水位が堤防を越えた場所があったらしい。ヘタをすれば筆者の自宅もアブなかったわけだ。
ちなみに,その台風の時は,最終的には水位すら分からなくなって,避難のための判断材料はほとんどネットで得られなくなるという状況に陥ったのだった。そのことを詳しく記載したものが,以下にある。
で,上記記事の存在は調布市にも伝えたが,もらった返信に「こうすればラジオを聴けますよ」と書いてあった方法は,筆者が上記記事内に「聴けない」と書いたことそのものだったりした。これが調布市のオヤクニンの読解力。詳しくは,上記の次に書いたブログに記載してある。
なぜそうした,「誰でも」あるいは「ブラウザだけで」簡単に聴けるような配信方式を採用せず,聴けない人が出てしまうような形式を採用するのだろうか。筆者は「利権」絡みではないかと思っている。
おそらく,こうしたことは市の職員がサーバを手配したり配信方法を調査して決めたりしているワケではなく,どこかに「丸投げ」だろう。すると,その丸投げされた業者の都合で仕様が決まる。私企業ならば,1円でも多く「儲け」を出すことが目的だから,採用する方式は,なるべく安上がり……場合によっては「リベート」もらえるとか,条件のいい方式を採用するだろう。すると「誰でも聴ける」従来方式ではなく,一部のソフトウエア業者が後発で開発し,なるべく広く採用してもらって利益につなげたいと考えている方式を採用する可能性が高まる。たとえば,「当社開発の配信方式を採用していただいたら,専用のサーバを無料でお使いいただけます」みたいなものがあれば,それを採用してしまう可能性が高くなることが考えられる。もちろん,後発の配信方式となれば,古いパソコンでは聴けない可能性が高い。
それでも,業者からお役所には,「(最新の)パソコンならどれでも聴ける方式を採用しました」などと伝える。ただし,括弧内は明示的に伝えずに。それを真に受けたお役所は「聴けない人などいない」と解釈するが,もちろん,最新のパソコンを持っていない人は聴けない。これが実態ではないかと想像している。
すると最新機種を買えない低収入の人ほど,防災情報のソースが限られることになり,被害に遭うリスクを高める。が,そこまで調べないのがお役所だ。それで犠牲者が出ても,犠牲者が「ラジオが聴けていれば逃げられたのに!」などと証言することはできないから,たとえ実際に配信方式が特殊だったため犠牲者が増えた可能性があっても,事後的な調査で分かることではない。お役所は,「丸投げ」でラクできるうえ,ラジオを聴けなかったために犠牲になった者がいたとしても,その存在は知らずに済むし,業者は儲かる。Win-Win なのである。どんな形式で配信すれば多くの人に防災情報が届くか……行政にはそこまで考えるチカラがないのだ。むしろ,新しいパソコンやスマホも手に入れられない貧乏人は,多摩川に流されてくれたほうが,生活保護の相談も受けなくて済むから助かる!……などと思っているかどうかは知らない。
こんな状態を放置しているのが,日本の民間ラジオ局の経営者たちであり,ご当地ラジオ局を持つ自治体のお役人たちだ。ラジオ局の経営者や運営者は,「多くの人に聴いてもらう」というラジオの使命を忘れたまま,「ラジオ局」の運営者としての報酬を受け取り続けている。
● マスコミ自身による修正は不可
じつは,述べて来たような「使命を捨てた状態」を,マスコミ自身が内部から修正しようとしたところで,今さら無理だろうと思っている。なぜかというと,修正の方向から遠ざかる「力学」が働く構造にガッチリと組み込まれてしまっていると思われるからだ。
◆ 「打ち勝った証し」を批判しない理由
たとえば,前回のブログの冒頭で「(すが→)菅総理大臣が『コロナに打ち勝った証しとしてオリンピックやる!』と言って,それを撤回しないままオリンピックをしたことを,『もう打ち勝ったのだ』と解釈してしまっている人たちがいて,まともに感染防止対策をしないまま動き回って,感染リスクを増大させているのでは?」などと書いたが,それは筆者のような底辺エンジニアが個人ブログで追及するようなことではなく,本来はマスコミが「打ち勝ったワケでもないのに,発言を撤回しないまま開催してもいいのか?」と,世間に問いかける記事を出してもいいはずだ。特に,医療崩壊を防ぐためなら,それこそ,述べてきたような「打ち勝った証しとしてやる」という発言を撤回しないままオリンピックやっちゃう,などといった悪化要因を作ってきた政府与党の糾弾が必要だと思うし,そのためには,本来なら筆者がその記事で論じたような内容は,マスコミが書き立ててもいいような気がする。
なぜそれをしないのか。1つは,ズブズブだからだろう。
まず新聞。前ブログで述べた日経に限らず,新聞各紙は「軽減税率」という庇護の下にある。総理大臣の発言を批判するような記事を出し,「ほ~ん,では近いうち『軽減税率』対象から外すわ~」なんてことになるとマズいのだ。片や「電波入札制度(オークション)」なんてものが導入されると出費が増えてしまうテレビ局は,少しでも出費を抑えて手元に残るお金を温存するため「電波利権」を保持したい。ニラまれそうな「政府や大臣の強い批判」の報道は避ける……そんな背景だろう。
「打ち勝った証し」の発言を撤回すれば,「過ちを認める」ようなものだから,総理は辞任を迫られる可能性が高まる。だから,「撤回しないままオリンピックをやる」という暴挙に出たと考えれば分かり易い。ズブズブなマスコミは「『打ち勝った証し』って言ってましたよね?」なんて世間に過去を思い出させるような記事は書けない。むしろ,発言をなるべく忘れ去るよう仕向ける記事を書く傾向になるだろう。いまでもマスコミはその発言を検証しようとしない。なぜかはお察しだ。
加えて,「オリンピック」という「ネタ」満載のコンテンツから外されたくない,という思いもあるだろう。開催を批判して「だったら取材もするなよ」と突っ込まれるのは避けたいという「力学」も働くと思われる。が,筆者としては,開催の妥当性と,参加アスリートの活躍ぶりの紹介は,本来は次元の異なる議論だと思う。残念ながら,一般人はその辺を混同しがちだ。
こうした「力学」は,マスコミ自身が「使命」より「保身」を優先するため発生するのだろうと考えている。総理の発言の問題点を指摘して注意喚起しなかったら感染者が増えてしまうかも……でも,それを指摘すると「お上」の機嫌を損ね,「軽減税率」とか「電波優先割り当て」などの「ご加護」が受けられなくなるかも……この場合,たとえ感染者が増える可能性がありそうなことでも,注意喚起する報道はせず既得権を死守するほうを選ぶ。そのため,マスコミ内で多少は思考能力のある記者が,「発言の撤回をしないまま開催することは問題では?」などといった記事を出そうとしようものなら,たぶん「『上から』待った!」がかかることだろう。「軽減税率」や「電波優先割り当て」に甘んじるマスコミは,実質的に上司が政府に代わり「検閲」してくれるわけだ。
◆ 「ネット通信環境の悪化」を報じない理由
さらに,「力学」は政府やオリンピックに限らず,他でも働く。たとえば,最初に紹介した「ADSL サービスが打ち切られ,代替の接続サービスも高額過ぎて,継続契約をあきらめる人が増えてネット環境を悪化させるかも」とか,「MVNO はクレカ支払いのみのために,低価格にも関わらず低収入の人は契約できず矛盾している」などといったことも,たとえ知ったところで,記事にできない可能性がある。なぜなら,それら通信業者は,またマスコミの「お得意さん」でもあるからだ。
その「打ち切られる ADSL」の業者はソフトバンク,MVNO は主に NTT
ドコモだが,どちらも大口の広告主ではないだろうか。それらを相手に「それはおかしいのでは?」なんて記事が大っぴらに書けるだろうか。本来は広告主だろうと何だろうと,「社会の木鐸」としての意識があるなら書くべきと思うが,今のマスコミは「広告収入」を優先するのだ。
◆ 利権を優先するラジオ局
では「ウェブラジオ」はどうか。行政が運営するご当地ラジオ局については,「丸投げ先の業者の利権ではないか?」と書いたが,他の主要民放ラジオ局も似たようなものではないかと考えている。
たとえば……あくまで「たとえば」の話だが,どっかの広告代理店が各ラジオ局に対し,「放送圏の広告に深く関わる地域に限定してウェブ配信する方法をご提供します!」などと,さも「これこそベスト!」みたいな提案をして来たら……けっこう乗ってしまうのではないかという気もする。その「方式」は,サーバのアドレスを公開してしまうと「どこでも聴ける」ことになっちゃうから,公開はせずに,「スクリプト」や「専用アプリ」を使って,聴こうとしている地域を検知して,ラジオ局ごとに指定された地域以外には配信をしない仕組みにすることになるだろう。しかし述べたように,スクリプトやアプリは,ブラウザや機器が古くなると機能しなくなることがある。筆者は節約とゴミ減量のため「買い替え」を極力せず,使えなくならない限り同じ機械(パソコンなど)を使い続けるのだが,その筆者が「ほぼ全ての主要ラジオ局が聴けない」理由もそこだ。でも,その「広告代理店」とやらが,大口広告主の窓口になるような有力な会社だと,「聴けない人」をなくすことよりもそっちが重視される。なぜなら,広告受注を減らしたくないからだ。とりあえず広告発注を継続してもらえるような,入って来るお金をビタ一文減らさないことを優先するだろう。
しかし前述のように,ラジオ局というのは「少しでも多くの人に聴いてもらう」ことが使命だ。しかもラジオは,防災情報を放送する可能性もある。どこでも聴けるウェブラジオなら,たまたま放送圏外に住む人が聴いていて,圏内に住む知り合い近くの川の氾濫や津波などの危険を知って,安否を気遣い電話やメールで連絡して助かる可能性も考えられるが,聴ける地域を限定してしまっていては不可能だ。今の日本の主要ラジオ局は,ほとんどその「地域限定」配信だ。防災情報を聴ける人が限られるわけで,つまり,助かる人を減らしている可能性もあるのだ。
あ,あくまでも「たとえば」の話だが。でも,もしこれに近い背景があるのだとすれば,結果的に人の命より「広告収入」を優先しているようなもの。今どきのラジオ局の経営者は,そこまで考えられないのだ。
たしか,前回のブログで記事を話題にした日経新聞も,独自のラジオ局を持っていなかったか。もちろん,それも筆者は「聴きたくても聴けない」わけだが,おそらく日経の記者や社員は,筆者のような「聴きたくても聴けない」人がいることなど知らないだろう。最新のパソコンやスマホをいくらでも買い放題な報酬があるから,たとえ前述したような「古い機械で聴けない」ような仕組みでも,「聴きたくても聴けない」状態になるような人が社内に出ないから,聴けない人の存在を知ることもなく,調査する意識さえ生まれないというのが実態だろうと思う。
● 「使命」を忘れたマスコミ
「マスコミ」と言えば,末端の現場で何が起きているかを「取材」して公開することが,いわば「使命」ではないかと思うわけだが,どうも最近のマスコミは,その使命を忘れてしまっているように見える。
述べてきたことに共通する点は2つ……それは「現場をよく見ない」ということと,「利権や既得権を優先している」ということだ。
◆ 現場を調べず記事を書く
ユニクロを批判した本を書いた人に対し,社長が「当社で働いたことがないからだ」と言ったんで,著者は「それじゃあ……」ってンで改名までしてユニクロに潜入して実際に働き,また「こんな実態じゃやはりダメだろ」という本を出した方がいる。実際にその社長の発言どおり,現場を見て書かれたわけで,図星を突かれたからかどうか知らないが,それについての社長のコメントは聞こえてこない。一般的なマスコミの記者は,そこまで調べない。現場をよく確認しないのだ。
実際,述べてきたような「安価な接続サービスが打ち切られてネット環境が悪化しつつある」とか,「日本のウェブラジオは最新機器を持っていない人は聴けず,防災情報も伝わらない」など,末端に生じているわりと深刻な問題は,どのマスコミも記事にしないのだ。それは「見ていない」からであり,「見えなくされていることに気付かない」ために「見えない」からでもある。MVNO の「クレジットカード支払い限定」もその一例だ。実態は,「収入が安定せずクレカを作れない=支払いができず契約できない人」が多くいても,役人やマスコミの記者あたりはクレカなど簡単に作れるから,「誰でも作れるものだろう」と思っているわけで,調べようとは思わない。「契約できない人」の存在は気付きにくくなるわけだ。「気付かない」ということは,結局は「現場を見ていない」ということだ。安価に提供されていた ADSL という接続が次々とサービス終了するのに,同じく安価な MVNO 接続に乗り換えできない人が多くいれば,ネットを自由に使える人が減っていってしまう可能性も考えられるが,マスコミは「見ていない」のか「気付かない」のか,話題にしない。それでいて「ネットで××ができます! 利用しましょう」なんて記事ばかり目立つ。なんだかちぐはぐな感じだ。
「クレカ限定」という方法を考えた「NTT ドコモ」は,いいところを突いたのだ。そして,こうした状態を許してきたのが,主に与党自民党の歴代総務大臣であり,その一人が「高市早苗」氏だ。「現場を見ない人」に将来を託すと悲惨なことになると思う。
◆ 「利権」や「既得権」が優先
もし,筆者が述べてきたようなことが「社会的問題だ」と一部の記者が気づいたとしても,おそらく記事にはしづらい。それは,指摘が自分たち(マスコミ)の,「利権」や「既得権」と対峙するものだからだ。言い換えると,マスコミが「社会的問題を悪化させる仕組みにガッチリ組み込まれているから」だ。
たとえば,前回のブログで指摘した総理大臣の「コロナに打ち勝った証しとしてオリンピックやる」という発言。明確に撤回しないまま開催に踏み切ったということは,その事実だけを見て「コロナに打ち勝ったんだ!」と解釈される恐れがあるわけだが,マスコミはそうした指摘はしない。なぜなら,新聞は「軽減税率」,放送は「電波優先割り当て」という「甘い汁」を吸わされているからだ。大臣の発言を論理的に批判しようものなら……そうした「甘い汁」を吸わせてもらえなくなるのではないかと,恐れているのだろう。結果として,オリパラの開催を見て「打ち勝ったんだ!」と間違った認識で動いてしまう人を抑制できず,それが原因で感染者が増える可能性があっても,報道しないのだ。実際そのオリパラ期間中に,感染者数がどうなったかは,周知のとおりだ。
他にも,社会的問題になりそうなことなら,事態の悪化を防ぐためにも積極的に取り上げるべきなのに,今のマスコミがそれをしないのは,やはり「利権や既得権を優先し,社会の悪化要因かどうかを考えない」からだろう。たとえば「安価な接続サービス打ち切りによるネット接続環境の悪化」や,本来その代替となってもいいはずの MVNO も「低収入の人はクレカが作れずに契約できない仕組みになっている」とか,また「ウェブラジオの聴取地域を限定することにより,防災情報が聴けない人が出る」ことなど,たとえ知ったとしても報道するかは微妙だ。理由は,そうした接続サービスを提供している通信業者や,ウェブラジオの聴取地域を限定する仕組みの運営業者が,いずれもマスコミの大口広告主……いわゆる「ステークホルダー」で,それらが「問題」として取り上げられると,マサにその「それまでお金を得ていた手段」が問題視されてしまい,問題解消のためその手段が使えなくなれば,お金が入って来なくなる可能性が考えられるからだ。そのため,ネット環境が悪化しようと,MVNO が契約できない人が出ようと,ウェブラジオで防災情報が聴けず避難が遅れたことで犠牲者が出る可能性があろうと,「問題」として取り上げない。たとえ社会的悪化の防止のために必要な報道も,そこに「ステークホルダー」の主導権,集金手段を害する要素があれば報道しないのだ。防災情報を聴けなかった人が災害の犠牲になる可能性があっても,誰でも聴けるラジオ配信をしないのが今のマスコミだ。
一言で言えば,「マスコミは社会的問題を悪化させる仕組みにガッチリ組み込まれている」ということになるだろう。
だから,前回のブログにある「ソニーとカワサキが製造するロボットが医療介護分野へ導入されれば障害者の活用が進む」といった記事も,「真に受けた」感じで掲載してしまうのではないかと思う。まぁ,それは記者が実際にそう思っているわけではなく,ソニーとカワサキが共同で設立する会社の社長になる人の話ではあるが,ソニーやカワサキともなれば大口の広告主でもあるだろうから,「そうはうまくいかんだろ」なんて批判的な内容の記事は簡単には書けんわな。ただ,読んだ筆者としては「現場を見ずによく言うよ」といった感覚しか起きないわけだ。
● まず隗より始めよ
前回のブログで紹介した日経新聞の記事には,『古びた規制の大胆な改革が欠かせない。必要なのは……(中略)……「常識」を崩し,人口減に合わせて社会をデザインし直す覚悟だ』とある。「まず隗より始めよ」……人口減で購読者が減るのは確実なのだから,日経をはじめとする各紙も,「軽減税率」なんて政府の庇護に頼らずに,社内改革によるコストダウンで購読料を下げて読者を獲得したらどうだ? 日経ならば「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の特集くらいよくやるだろう……読まないから知らないけど。特集するくらいなら,まず自社で導入し,コストダウンを図って値下げし,「軽減税率」を突っぱねてみてはどうか? まさか,自社(日経)では導入しないとか? それとも,導入はしても,軽減税率対象でないと売れる自信が無いとかなのか?
また,ラジオ局やテレビ局でも,「大口広告主」や「電波の優先割り当て利権」に甘んじていないで,しっかりした内容の番組を製作して,視聴者や収入アップにつなげ,正々堂々と「電波入札」したらどうだ?
それらが資本主義の「正常な競争」だと思うのだが。
まぁ,日経に限らず,どこのマスコミも「正常な競争」など無理だと思うが。述べたように「利権」や「既得権」という「力学」の働くシステムにガッチリ組み込まれているからだ。それはどんな「チカラ」かと言えば,たとえば「傾斜のあるサッカー場」みたいなもの。当然,重力は「傾斜の上」にあるゴールに有利に働く。「軽減税率」とか「電波の優先割り当て」など,一方的に「有利に働く」チカラのかかる競技場を政府が用意する。大手マスコミは「上のゴール」を優先的に使わせてもらえるから,そこに働くチカラを有利に利用できるが,一般市民や後発のメディアは傾斜の下にあるゴールで勝負させられる。どんなに必死で守ろうと大量失点は必至だ。これが,弱い者の「逆転」を困難にして,引いては「社会を悪化させる要因」となると考えられる。大手マスコミは,その自分たちに有利な「競争の場」の存続を願うため,政府を強く批判できなくなるわけだ。「正常な競争」などできるワケないし,ましてや政府与党を糾弾する報道なんかするワケがない。大手のマスコミが「大本営発表」を繰り返すのも,ある意味当然だろう。またラジオ局も「多くの人に聴いてもらう」という使命を捨てる。「防災情報などは,流す広告とあまり関係ない圏外の人でも,聴いてもらえばそこから情報が伝わり犠牲者が減る可能性もある」ということまで考えが及ばない。目の前にぶら下がる「広告収入」というニンジンしか見ていないのだ。
特に「防災情報」などは,避難が必要な人に届くルートや手段が多いほど助かる人も多くなるのは,言うまでもないだろう。非常時となれば「使える情報源がたまたま古いスマホだけ」とか,「使えるアプリもブラウザだけ」なんて状況も起こりうる。そんな時に防災情報が見聞きできるか否かが生死に関わるだろうことは,誰でも分かる。ところが,今のマスコミがしていることは,「安価な接続契約を使えずネットできなくなる人の存在を問題視しない(記事にしない)」とか,「古い機械では聴けないラジオ配信方式を採用する」とか,新しい機械でも「聴ける地域を限定してしまう」とか……今のマスコミの経営者は,その「誰でも分かる」ことを考える思考能力さえ失なっているような気がする。
先日お亡くなりになった経済学者の「内橋克人」さんは,筆者も何度かラジオで話を聴いたことがあるが,いつも「悪貨が良貨を駆逐する」状態を嘆いていた。そうした状態を作るのは,今現在,あるいはこれからやろうとしていることが「悪い状態の助長につながらないか?」つまり「その『悪貨』ではないだろうか」……とまで考えなかったり,あるいは,そうと気付いてもそれを押し殺し,ただお金を得られる方向だけ見て仕事する人たちではないかという気がする。感染拡大を防ぐために大臣の発言の矛盾点を指摘して一般読者に注意喚起したり,防災情報を含む放送をより多くの人に届けるのが,本来のマスコミの使命だと思うが,それを捨てて平気でいる人たちがマスコミ内にたくさんいる限り,その報酬の元になる新聞の「購読料」やテレビを見るための「受信料」なども「悪貨」な気がする。筆者は今後もしばらくどちらも見ないだろう。「悪貨」に手を出せば日本がいい方向に向かうことはないからだ。