「差別意識」を世に広め続けるタテワリ行政


公開 (UL): 2020-09-27
更新 (UD): 2020-09-27
閲覧 (DL): 2021-10-17

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● 児童を邪魔者扱いする教師

 ちょっと呆れたのだが,今どき,こんな教師がまだいることに驚く。「差別をなくそう」と言われて何十年経つのか。

▼ 「邪魔だと思う人は手を挙げて」支援学級の子に不適切発言……
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/628830

 要約すると,「特別支援学級(昔の『養護学級』)」の児童と一般の児童が一緒に受ける授業中に,教師がそうした発言をしたとか。そこで手を上げなかった児童の手首をつかんで,「あなたも支援学級に行きなさい」などと言ったりして,それに恐怖を感じた児童が数日学校に行けなくなるなどしたらしい。
 こんな言動をする人でも教員免許が得られる状態を放置している文部科学省の責任は重いと思うのだが,その責任が取り沙汰されたという話は聞かない。特別な支援が必要な人……つまり「何らかの障害を抱える人」に対する差別意識を生まない教育のできる教員の養成制度を整えるのが文科省の役割のはずだと思うが,この言動は逆に子供に差別意識を植え付けるようなもの。こうした教員を平気で世に送り出し続けている文科省の担当部署は「背任」に近いものがあるのではないかと,筆者は思う。それ以前に,その「学校に行けなくなった子」が,もし PTSD と診断されたなら,それはもう「業務上過失致傷」という刑事事件として扱えるレベルではないのかと思う。
 しかし,そんな状態を改善せずに放置しても,それらの人たちには,「国家公務員」としての報酬がバカスカ入ってくる。文科省は,差別的発言を平気でする教師を世に送り出しておきながら,その責任として何のペナルティも負わずに済むのだから,「改善」などという面倒なことをわざわざする気も起きないのだろう。結果的に「差別意識」を子供に植え付ける教師を世に送り出し続けているのだから,そりゃ「いじめ」の問題もなくなるはずがない。「特別支援学級」にいる障害者や,施設に入所している要介護者など,支援が必要な人たちに対する「差別をなくして QOL(生活の質)を向上させよう」と叫ばれてかなり経つと思うが,人を差別扱いする「いじめ」の原因を作るような教員が世に出続けている状態が放置されているのだから,実現するはずないように思う。QOL 以前の問題だ。

 ちなみにこのニュース,最初に「読売新聞」のオンライン記事で読んだのだが,一週間ちょっとで削除されていた。もっと前の記事は読めるものもあるのに,なぜかこの記事は……これが今どきの「マスコミ」。

● 「やまゆり園」×「タテワリ」=殺人思考の解明を阻害

 前述の教師の言動は,障害者 19 人が刺殺された福祉施設「やまゆり園」事件の犯人に通じるものを感じる。支援が必要な人を「邪魔だ」と言えるその神経は,障害者を「社会のオニモツ」と考えた犯人の思考そのものではないか。前述した教師に教えられた子たちが社会に出た時,犯人と同様な思考に傾倒していく可能性も高いのではないだろうか。
 ……などと思っていたら,実際,その犯人も教員免許を与えられていたらしい。「教員免許」と言えば,大元は文科省だろう。少なくとも,教員の質を確保する役割を果たしていたとは思えない。一方,一時期は犯人も働いていた「やまゆり園」のような福祉施設の管轄は厚労省だ。「施設」としての認可条件に,侵入者対策や,「変な考え」に至る職員が出ないような労働の管理などを盛り込んでいたかも疑問。それでも,それらの人たちには,「国家公務員」としての報酬がバカスカ入ってくる。あれほどの事件が起きたら,文科省は「犯人が過去に誰からどんな教育を受けてきたか,そこに極端な差別意識を抱く要因はなかったか」を調べるべきではないかと思う。そして,学校を出て犯人がその施設で働いていた期間については,厚労省が「どのような職場環境で,そこでどのような思考的影響を受けた可能性があるか」などをそれぞれ調べ,省庁間で密に情報交換と総合的分析をし,教員の養成課程の見直しや,介護施設の設備や労働の管理規定に活かすなどしなければ,あの凶行に至った根源は何だったのか分からないままになり,犯人に似た思考の人を生む要因が解消せず,また同様な事件が起きてしまうのではないか。省庁を越えて連携した「取り組み」がなければ,事態は改善しないのではないだろうか。
 しかし,「タテワリ」行政構造においては,「実効性のある連携」は全く期待できない。たとえ文科省と厚労省の間で連携を模索し,「やまゆり園」の犯人にあの行動を起こさせた意識が生まれた要因を解明するため,その生い立ちや意識変化について詳しく調べる合同チームを作ろうかということになる頃には,そんなことどーでもいい法務省の大臣が犯人の死刑にゴーサインを出し執行されるだろう。これぞ「タテワリ」行政。差別を生む根源が解明されることなく,残り続けるように思う。

◆ 「タテワリ構造」が温存される理由

 しかし,死刑が執行されてくれたほうが,文科省も厚労省も「調べる必要がなくなる」という点でラクができる。犯人の死刑は確定しているらしいから,調査するなら急ぐべきなのだが,おそらく「合同調査班」的なものを作るとしても,「タテワリ構造を崩さなければできない調査は『絶対にしない!』こと『前提で』調査するにはどうするか」などといった,ある意味「調査以前」の検討を延々と議論していたりなんかして,かなりしばらくしてから「執行前に合同調査の必要性を認識した」とか何とか言い始めるのではないか。で,間もなく死刑が執行されて,「対象者死亡により継続調査不能」という結果報告で終わるのだろう。
 これでは,犯人の「差別意識」を生んだ要因は未解明のままになり,新たな「やまゆり園」事件を起こすような人が出てくる可能性も残ってしまう。そこを解明すべき「合同調査」のはずだが,「タテワリ構造」の維持が優先されて,こうした対応になることは十分に考えられる。
 それでも「オヤクショ」にとっては,「何もしようとしなかったわけではない」という主張はできる。結果的に何も調べられなくても,調べようとはした,という「姿勢」はアピールできることになる。
 そこなのである。つまり「タテワリ」というのは,「オヤクニン」にとって,何かと「する必要がなくなる」ことを増やし,その分,責任を負うことを減らせる。でも「やろうとはした」とアピールできるから,「職務怠慢なのでは?」といった疑いも持たれずに済んで,都合がいいのだ。他省庁の権限を侵害するからとか,他省庁との調整が必要だから今直ぐには無理だとかいった「できない理由」を付けられる……そう,「タテワリ」というのは,長年かけ構築されてきた「やらずに済ます」ための巧妙な仕組みと言えるだろう。と同時に,それでその人たちには「国家公務員」としての報酬がバカスカ入ってくる仕組みなのである。
 しかし,「オヤクニン」を目指す人の中には「国民の役に立ちたい」との(当たり前の)意志を持った人がいてもいいはず。しかししかし,そういった人がイザ入省したとして,目にするものは,「タテワリ」という国民のためにならない仕組みが「ガッチリ」と出来上がり,それに「ドップリ」と甘んじている省庁の現実。称して「ワリ・チリ・プリ」状態。「これは自分の目指すお役所ではない」と感じるのが,ある意味「正常な」感覚ではないだろうか。当然,そうした人は長続きしない。つまり,「国民の役に立ちたい」と思う人は省庁内に長く居られないわけで,「国民なんてどうでもいい」人ばかり省庁に残る。「タテワリ」のシステムは,そのシステムを好む職員だけがそこに残れて,国民のために働いてくれそうな職員を排除する「システム持続機能」もバッチリなのである。

◆ 「タテワリ解消」への狭い道

 だから,組織の問題の実態を解明するなら,まず「辞めた人」に話を聞くべきではないかと思う。何かが「ダメだ」と思って辞めたわけで,つまり,問題を強く感じた人たちのはずだからだ。それは「タテワリ」問題に限らない話だ。以下の記事の最後のほうでは,日大のアメフト部で起きた「危険タックル問題」の話をしている。問題を起こした監督の就任直後にアメフト部を「辞めた学生」が相当数いるということだが,やはりそうした学生に詳しく話を聞くべきではないかと考えている。

▼ 七十歳台の危機管理意識
http://treeware.jp-help.net/?dblg4#sect6.2

 新内閣(菅〔スガ〕内閣,2020)が発足し,「縦割り 110 番」などという「チクリシステム」の運用を始めたようだが,長い時間をかけて構築された「タテワリ」という堅城鉄壁を,果たして新内閣の閣僚の中でも,ギリギリ若手(なのか?)の河野太郎氏が,「チクリシステム」ごときで打ち崩せるのかは,かなり疑問。たとえばこの件については,「死刑囚が何らかの調査対象となっている(なりそうな)間は,執行にゴーサインを出さない」よう法務大臣と密約しておくとか,いろいろと「裏工作」の必要もあるのではないかと思う。

 他に打ち崩す「突破口」はあるだろうか。「タテワリ構造」というのは,あくまでも「オヤクショ内部の都合」である。「内部の都合」が,公の場……たとえば「裁判」などでどこまで通用するのかは未知数。
 「やまゆり園」のような事件を例にすると,厚労省管轄の施設で重大事件を起こした人物に,それまで受けてきた教育の影響が疑われても,「タテワリ構造」に阻まれて文科省などとの合同調査,諸制度の見直しや改善もされないまま,「もし似た事件が再発してしまったら,責任はどこにあるか」だと思う。裁判になった時,「重大事件の再発防止」と「タテワリ構造維持」とで,「どちらを優先すべきだったのか」が争点になることを考えるべきだろう。「タテワリ構造維持のために調査できなかった……だから重大事件が再発する前に『関連する制度の見直し』に至らなかったのは仕方がない」という理由が裁判で通るだろうか。
 では「責任はどこにあるか」……「タテワリ構造」を温存しようとして起きた問題については,関わった全ての省庁が「責任を負わなければならない」と解釈すべきではないか。言い換えると,重大問題の責任を負いたくないなら「(過去に起きた)重大問題の原因究明や,再発要因の解消を妨げるような『タテワリ構造』があってはならない」と。この認識を省庁内に浸透させておくべきだと考える。もう少し具体的には,「やまゆり園」のような過去の「重大問題」を分析し,その原因究明や要因解消のための調査,再発防止のための対策や制度改善にあたって,その障害になる可能性のある「タテワリ構造」の具体例をなるべくたくさん挙げて,「ここに挙げた『タテワリ構造』が解消されないまま重大問題が再発したら『責任』を負わされるぞ!」ということを周知させ,意識してもらうべきだろうと考えている。

● 「不正を黙っていられる人」ほど報酬が入る社会構造

 筆者は,障害者にパソコンを指導している……いや,してい「た」。今はコロナウイルスの影響で現地へ出向いての指導はできなくなってしまったが,まぁ他にも,要介護者に役立ちそうな自助具や福祉器具などを簡単に「手作り」する方法を考えて,作り方を公開したりしている。「福祉機器」として売られている製品は,ちょっとした器具でも数千から数万円と価格的に手に入れにくいものも多いが,筆者が提案する似た機能の器具を手作りすれば,材料費の数百円程度で済んだりする。介護や支援が必要な人は,そうでない人……いわゆる「健常者」のサポートにより QOL 向上が図られるべきだと思っているから,「こんなに簡単な方法でサポートすることもできますよ」と提案しているつもりなのだが,注目度は低く,ほとんど収入には結びついていない。
 一方,支援すべき人を邪魔者扱いする人でも,文科省の制度で「教員免許」さえ得れば,教師として報酬を受け取れる。「QOL 向上」なんか一切考えない業者でも,厚労省から介護福祉施設として認可を受けさえすれば報酬を得られる。これが今の社会構造。たとえ差別意識を生もうと,QOL を低下させようと,それで報酬をもらえている人はその方向を「変えよう」とはしないだろう。変えようとすると手間がかかってたいへんだし,変えなくても報酬はもらえる。むしろ改善を訴えたり不正を糾(ただ)そうとした人がその組織から追い出される話が絶えない状況の下では,変えようとすると「報酬」を受け取り続けられるか分からないから,変えようとしないことが「報酬を受け続けられる最善手」なのである。だから,差別的発言をするような人でもいつまでも教師でいられるし,補助金や助成金システム目当てで入所者の QOL や安全性まで考えない「形だけ」の介護サービス業者も増えているような気がする。とりあえずは「公益通報者保護法」という法律はあるから,「正義感」で不正や事故などを報告したことの「逆恨み」で施設から追い出されるような事態には「まった」がかけられるかもしれないが,不正があまりにもひどかったりすると,ヘタするとその施設自体が閉鎖され,通報した人は収入を失なってしまう。その後までは「保護」されないだろう。結局は,収入を得続けるためには,不正や事故は「報告しない」に越したことはないことになり,施設で働き続けているのはそうした人ばかりになる。だから最近の施設では,内部の不正や事故などは「誰も報告しなくなる→実質的な『隠蔽』状態になる」ことも多いのではないか。
 施設の不正や事故を黙ったまま平気でいられる人とはどのような人だろうか。多少なりとも「正しい状態は何か」を考えるチカラがあれば,黙認に耐えられず辞めてしまうと思う。目の前の不正や事故をスルーしてしまうような「考えるチカラがない人」ばかりがそこに残れば,そんな人の中に,働いているうちどんどん差別的な思考に傾倒していって,突然「やはり障害者なんて世の中に居ないほうがいい」といった考えに至り,短絡的な行動に出る人がいても不思議ではないような気がする。「やまゆり園」事件がアタマをよぎる。第二の「やまゆり園」を出さないようにするためにも,この「黙っていられる人だけが報酬を受け続けられる」ような構造は,早急に是正されるべきだと思う。
 少なくとも,このままだと永遠に「QOL 向上」などないように思う。

● QOL 向上の鍵は「現場の」主体的行動

 述べてきたように,問題を改善しようとして個人が声を上げたところで,ヘタすると収入を失なって終わりだ。社会を構造的に変えないと,「差別の温床」や「重大事件の要因」になるようなものは根絶されないと思う。こうした社会構造を構築しているのは,「オヤクショ」が作る「制度」によるところも大きいと思われるのだから,本来は管轄の省庁が,日夜,改善に向けた検討を続けていて欲しいところなのだが……。
 残念ながら,文科省も厚労省も「オヤクショ」としての性質は同じようなものだろう。何もしなくても,それらの人たちには「国家公務員」としての報酬が税金からバカスカ入ってくるから,わざわざ「差別意識を持つ教員が世に出ないような対策」とか,「障害者や要介護者のための QOL 向上対策」なんかしない気がする。ヘタに対策しようとして,うまくいかなければ責任を追求されたりして面倒だから,何もせず報酬だけ受け取っていたほうがラクなのだ。その点でも,「省庁間の調整に時間がかかる」などの「できない理由」を作れる「タテワリ構造」は,何かと「しないで済ませる」ことができる絶好の口実なのである。
 筆者は,この文章を書いている時点から 15 年ほど前,障害者福祉を主題としたフォーラムに呼ばれて講演したことがある。やはり「手軽に手作りできる器具で QOL 向上を実現しよう」というテーマだったが,もしも「オヤクショ」が何か対策していたなら,筆者が講演してからの 15 年の間に,もう少し「QOL 向上」が進展していてもいいような気がする。しかし,今だに同じことが叫ばれ続けているのは,ほとんど進展していない証拠であり,「有効な対策」ができていないために他ならないからではないかと思う。
 少なくとも,介護福祉の分野で QOL を向上させたいなら,「オヤクショ」が何らかの「制度」を作ってくれることを待っていないで,お金や手間をかけずに「現場でできる方法」を模索すべきだと思っている。そのためにも,この活動は続けていきたいと考えている。
 ただ,「コロナ」の影響がいつ頃まで及ぶかは分からない。コロナが収束するのが先か,貯金が底を尽き筆者が餓死するのが先か……見えない相手とチキンレースしているような気分である。



© M.Ishikawa; TREEWARE 2021.