iPad が弱者を苦しめる?


公開 (UL): 2019-08-28
更新 (UD): 2019-08-28
閲覧 (DL): 2020-07-11

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 iPad などの「タブレット PC」画面のタップ操作を,障害児/者向けスイッチで実現するための器具に「iPad タッチャー」と呼ばれるものがある。最近,その手作り用のキットを「作りたい!」と希望する方をお手伝いする機会があったんだけど,少々複雑な構造で,そうした工作に慣れてなさそうなその方にとって,「作ろう!」と考えるだけでも,ちょっとした「冒険」だっただろうと感じた。
 ただ,あとで思い返して不思議に思ったのは,何でそんな「冒険」までして iPad を使おうとするのかってこと。というのも,iPad 以外のタブレットなら,「iPad タッチャー」と同様な機能を実現するのに,「冒険」なんかしなくても,もっと簡単に実現できる可能性が高いからだ。なのに,特に障害者福祉の分野で iPad を使っている人が多いような気がするのは,なぜなのか。

● いきさつ

 毎夏,障害児/者向けの自助具や福祉器具の自作講座的な催し物を開いているグループがあり,筆者もその講師要員としてお手伝いに行っている。
 今回(2019),初めてお手伝いした器具に,「iPad タッチャー」と呼ばれるものがあった。この器具は,その名の通り,使用者のスイッチ操作によって,iPad のようなタッチパネルをタップ(指で触れたことに)してくれるもの。……なんて言うと,何か「指」のような形をしたものが「カックン」と動いて,人の代わりに画面に触れてくれる「小型ロボット」みたいなものがイメージされそうだが,そうではない。予めタップしたい画面の位置に電極(「低周波治療器」のパッドの小さいのみたいなヤツ)を貼り付けておき,そこに接続してあるスイッチを操作すると,貼り付けた場所が「電気的に」触れたことになる仕組み。
 何とか完動品の組み立てには成功したものの,その「造り」がちょいと複雑だったうえ,作り方の写真も見づらくて,はんだゴテの作業には慣れているはずの筆者でも,少々てこずった。ましてや,そうした工作に慣れてはなさそうだったその製作希望者にとって,使えるものを完成させられるのかどうかもわからない,イチかバチかの「冒険」だっただろうと思った。

 ちなみに,もし指の模型みたいなものが「カックン」と動いてタッチしてくれるような器具があったとしても,最近のスマホや iPad などのタブレットに多い「静電容量方式」のタッチパネルでは通常使えない。一方「抵抗膜方式」と呼ばれるタッチパネルなら,その「カックン」の仕組みが使える可能性がある。この方式は「タッチペン」のようなものでなくても,どんな棒でも操作できる可能性が高い。その場合,筆者考案の器具「Wary-Basher(ワリバッシャー)」が使えるかもしれない。

▼ Wary-Basher(ワリバッシャー)
http://treeware.jp-help.net/?kwbs1

● iPad を障害に対応させる「コスト」と「リスク」

 「冒険」と言うと大げさに聞こえるかもしれないが,いろいろとその「iPad タッチャー」のために「費やされるもの」がバカにできない。
 じつはその「製作会」,会場は東京だが,北陸や中国地方など,かなり遠方から参加される方も少なくない。もしかするとその方も,来るだけでたいへんな思いをしているかもしれない。そうでなくても,作って「成功するかどうか」という「リスク」もある。もし完動品が作れなければ,わざわざ遠くから来た意味さえなくなってしまうかもしれない。そう思うと,手伝う者として,少々プレッシャーも感じたところ。
 そうした実際の出費をはじめ,費やす時間も「コスト」と捉え,失敗の「リスク」と共に列挙すると,以下のとおり。

 完成させることができず,「iPad を障害がある人に使ってもらう」という目的が果たせなかったら,かなり「痛い」負担になる気がする。
 しかも強いて言えば,その「iPad タッチャー」が手に入れられるかどうかはまた別のリスクでもある。誰かが作った「iPad タッチャー」が手に入れられればいいものの,そうでなければ,今回のような「製作会」があることを探し出し,それに応募できて,参加資格を得られない限り,手に入れる方法はない。そこまで辿り着かなければ,「iPad は持っていても,障害者向けに活用できない」ことになる可能性もある。これが「冒険」ではなかったら何なのかと思ったワケで。

 「だって他にないし……」などという声も聞こえてきそうだが,じつは「指でタップしないと使えない」のは iPad くらいなもの。「全部」とまでは言わないが,他のタブレット PC では,「iPad タッチャー」のような器具は必ずしも必要ない。述べて来たような「冒険」などせずに済む。なのに,「なぜ」わざわざこれほどまで「冒険」レベルの負担のかかる iPad が使われているのか,疑問でしかない。
 ひょっとして,「周りがみんな持っているから」とか,「補助で手に入るから」などの状況に誘引されて,「あればきっと何とか使えるだろう」感覚で,みんななんとなく iPad にしていたりはしないだろうか。でもそのために,述べたようなコストやリスクを負うハメになっているとしたら,それはかなり「無駄な負担」ではないだろうか。

● 「なぜわざわざ?」iPad

 たしかに iPad は「タブレット」の中でも多くの人が持っているが,述べたように,iPad を「障害者用スイッチ」で使おうとすると,通常は,「iPad タッチャー」のような器具が必要になり,様々なコストやリスクの負担がかかる。
 ただ,「iPad タッチャー」なんてものが必要になるのは,ほぼ iPad だけ。iPad 以外のタブレットは,従来からある「マウス(『トラックボール』など含む,以下同)」を接続すれば,多くはそのまま使える。マウスなら,障害者が使うような外付けスイッチでクリックできるようにする加工は「iPad タッチャー」を作るよりも簡単だし,実際,筆者自身も何度かパソコン向け加工を頼まれて来た。既にそうした加工済みマウスをパソコンにつないで使っている方は,iPad 以外のタブレットがあれば,そちらにつなぎ替えるだけで「iPad タッチャー」の代わりになる可能性は高い。うまく使えれば,述べてきた「コストとリスク」のうち「本体価格」以外全て不要になる。つまり,製作会を探したり,その参加資格を得るための費用を捻出したりする必要はないし,以下,交通費と移動時間+iPad タッチャー(キット)価格+iPad タッチャー製作時間+失敗リスクなど,全て気にかけずに済む。そもそも,本体は確実に使うものだし,価格も iPad より数万ほど安いタブレットはザラにあるのだから「リスクではない」と考えれば,ある意味 iPad 以外のタブレットなら「リスクなし」と言えるくらいだ。
 ちなみに,そのマウスの「外付けスイッチ接続加工」,筆者は加工費のみ「2千円(本体,送料別,2019 年)」ほどで受け付けている。

 もちろん,iPad しか対応していない機能やアプリ,操作性が必要なら,iPad を選ばざるをえない。でも,使いたい機能を実現可能なのが iPad「だけ」であると明確に分かるケースがどれほどあるのかは疑問。たとえば,単に画面に触らせて変化を楽しませたいとか,「シャッターを押させるだけ」の写真撮影に使う程度なら,iPad 以外のタブレットでも十分可能だ。
 実際,筆者がこれまで介護現場のパソコン入手に当たってアドバイスを求められた時は,結果的に iPad を薦めたことはほとんどなかった。たとえば,重度障害者もいる施設で聞いた要望といえば,画面を触って「何か視覚的反応があるものが欲しい」とか,「音の刺激があるようなものが欲しい」,そして「見易い画面がいい」などというようなもの。「見易さ」以外の機能は,別に iPad でなくたって実現できる。そして「見易さ」を「大きい画面」と解釈すると,iPad はどれも小さくて,むしろ希望に合わない。結果的に筆者が薦めたのは,20 インチ前後のタッチパネル対応デスクトップ機。もちろん「マウスが使える」から,障害者向けのスイッチを接続したい時でも「iPad タッチャー」などは不要。価格は iPad とほぼ同じか,画面が大きいのに安いものもあったくらい。画面に触って操作できるという点は iPad と同じだが,画面の大きさは約4倍。それを見ながらタッチして遊べる。現場の要望をよく聞き,iPad 以外の機種も選択肢に入れて選べば,結果はこうなる。
 他にも「タブレットが欲しい」という方から機種のご相談を受けたことがあったが,いろいろと要望を聞いた結果,やはり iPad ではなく,真っ平らではない,「フリップ」のついている機種をお薦めした。価格は iPad よりも数万円ほど安価だったと思う。その「フリップ」とは,本来は,立てかけて使いたい時に「スタンド」にしたり,空いている穴をフックに掛けてぶら下げて使ったりするためのもの。現在その方は,フリップをアームのついた「クリップ」ではさんで,車椅子の上の机に縦向きに固定して使っている。その「クリップ」も数百円だ。iPad の場合,そうした固定をする器具にいくらかかるだろうか。
  iPad では,前述したような「コスト」と「リスク」の他にも,こうした「固定法」などの事後的な負担がかかることもある。そこまで調べてアドバイスしている者としては,「なぜわざわざ iPad?」……そんな思いが込み上げるのは理解してもらえると思う。

● 簡単に手に入れようとして見落とされる「リスク」

 「だって他を知らなかったから」……既に iPad を手に入れちゃった人からは,そんな声が聞こえて来そうだ。そこで問いたいのは,「では知っていたら iPad 以外を選んでいただろうか?」という点。
 質問のし方を変えると「iPad にした『決め手』は何か」。ひょっとすると,「周囲がみんな持っていた/勧められた」とか,「補助で手に入ったから」といった理由も多そうな気がする。しかしそれでは,iPad より安価な機種で機能的に十分だったり,あるいは必要な機能がそちらにあると分かっても,結局 iPad を選んでいたのではないかと思う。

 製品選びで重要な点は,「使用者に本当に必要なのはどんな機能か」を考えて,「それを実現できる手に入れ易い機種はどれか」を見極めて選ぶことではないかと思う。それをせずに,ただ周囲の人が持っているからとか,補助が出るかどうかという基準で機種を決めていたのでは,「使用者が本当に必要とする機能を持つ機器が行き渡る」割合が減ってしまう。これは福祉の現場の大きな問題ではないかと考えている。

 なぜそれが「大きな」問題なのか。
 まず,もし「周囲がみんな持っていた/勧められた」とか,「補助が出るから」なんて理由で iPad を手に入れたとすると,「使えるか」を調べたり考えたりして選んだわけではないから,当然ながら,使いたい機能があるかどうかは分からない。いざ使い始めて,結果的に使いたい機能がなかったと分かれば,「無駄な買い物」になってしまう。
 使いたい機能があったとしても,iPad では,それを「障害者向けのスイッチで操作したい」と思ったら,最初に述べた例のとおり,「iPad タッチャー」などという器具が必要になる。例に挙げた人の場合,筆者が直接製作を手伝える「機会」に恵まれたからいいものの,その機会に巡り会えなかった人は,「障害者向けに使いたい」と思って iPad を手に入れても,そうした使い方ができないままになってしまう可能性もあり,やはり「無駄な買い物」になってしまう。
 いずれにせよ,これでは iPad を入手した意味がなくなってしまう。
 もちろん「iPad タッチャー」があればいいわけだけど,それも誰かが作ったものが手に入れられたとか,「製作会」のようなものに参加できたとか,いずれにしても「運」も要る。参加できたとしても,述べて来たような「参加費,交通費」などの様々な「コスト」,そして,完成させたものが正常に機能するかどうかという「リスク」ものしかかる。「iPad タッチャー」を手に入れるための負担は,小さくはない。

 しかし,介護福祉の現場はどこも「資金不足」というような話ではなかったか。なのに,なぜわざわざ,述べたような「コストとリスク」のかかる iPad を使っている人が多いのか。この点がまず問題に感じる。

 本来,何らかの機器を入手する際は,それを実際に使えるようにするための負担全体を考えて,判断すべきだと思う。たとえば iPad なら,介護福祉施設などで,障害者用のスイッチで使いたいと思ったら,本体以外に「iPad タッチャー」のような器具がないと使えないのだから,「iPad タッチャー入手の諸々の負担までを含めて,iPad の導入はこの現場にとって本当に妥当か」を考えるべきだろう。そうしてこそ,その不足がちな資金を有効に使えるはず。

 だいたい,「とにかく iPad を」なんて考えが先行すると,障害者のコミュニケーションの実現を,遅らせたり,困難にしてしまったりする可能性も考えられる。理由は既に述べてきたとおり,iPad があまりにもコストやリスクの負担が大きいため。述べたように,他のタブレットと比べて割高な iPad だから,予算確保のハードルも高くなって,手に入れるまでに多くの時間がかかってしまうことも考えられる。しかも,障害者向けスイッチで使いたいとなれば,そこに「iPad タッチャー」が必要になるわけだから,それをどうやって手に入れるのか,完成品が買えない時は,「手作り製作講座」に参加できるのか,誰が行くのか,交通費は出るのか,完動品が作れるのか……などの様々な問題を解決する必要がある。「旅費は出る? 誰か作る自信のある人,行かない?」などと話し合う時間が要るくらいなら,直ぐに予算が付きそうな安価なタブレットにしちゃって,マウスでもつないで使い始めたほうが,お金も時間も節約できるのでは? iPad にこだわり過ぎると,コミュニケーションの手段にも制限をかけてしまうことになりかねない気がする。
 念のために書いておくと,iPad 以外のタブレットなら,その「iPad タッチャー」のような器具は不要な場合が多い。

● 「みんなと同じ」,「補助で手軽に」が弱者を苦しめる

 不思議に思うのは,介護福祉の現場は,慢性的に「資金不足」と言われているような話を聞くわりに,なぜわざわざ「コスト」や「リスク」満載の iPad を選ぶのかということ。
 「でも iPad 本体は,どうせ『補助』で手に入ったから」……などという方も居るかもしれない。しかし,そのお金はどこかから出ているということを忘れてはいけない。しかも,その多くは「税金」。入手した機器が結果的に使えなければ,つまり税金を無駄遣いしたようなもの。

 この秋には消費税の増税が予定されている。その口実は何かといえば「増大した社会保障費への対応」。その「社会保障費」には,障害者に iPad を使わせるための「補助」なども含まれるだろう。そうした支出の増大が,消費税増税の理由にされているようなもの。

 一方で「消費税は問題が多い」と主張し続けている人も居る。それらの方の書いた文章を読むと,「逆進性」を根拠にしていることが多い。「逆進性」とは,収入が少ない人ほど負担が重くなる構造。
 とはいえ,「消費税」が導入された時は,「広く公平な負担である」的な説明もあったような気がする。実際,消費税率はみんな同じ。なのに,「収入が少ないと負担が重くなる」とはどういうことか。

 所得2百万でカツカツに生活している人を考えてみる。食費や家賃,光熱費など,本人の生活に欠かせない基本生活費が 150万 とすると,税込み 162万 だから,手元に残るのは 38万。この時点で,一人で生活していてこれしか残らないとなれば,子供ひとり育てるのもむずかしいだろう。消費税が 10% になると,手元に残るのは 35万 になる。税率が 2% 増えると,生活の余裕は 8% 減ってしまう計算。消費税の増税により,「少子化」もますます進むであろうことは,容易に想像できる。
 しかし,少子化が進めば,将来世代は少なくなるから,一人当たりの負担は確実に増える。一方,消費税の必要性を主張する人は「将来世代に負担を残さないため」とか言ってなかったか。だいたい,消費税率を上げて,その税率を維持するということは,増えた負担を「将来世代にまで引き継ぐ」ことに他ならない。増税分も,「現世代の」社会保証費が不足しないようにするために使うとすれば,将来云々の話ではない。「消費税率増税は将来世代の負担軽減のため」という説明は何の説得力もないむちゃくちゃな話。将来世代の負担を軽くするなら,一人当たりの負担が軽くなるよう将来世代を増やすべきで,そのためには,まず現親世代の負担を軽くして子育てし易くなるよう経済的余裕を与えるべきだと思う。が,今の政治家や役人は「消費税率増税」を平気で主張し,現親世代の子育てをもしづらくする。やることが真逆のように感じる。
 そうした主張が平気でできるのは,後々「本当に」苦しむ可能性のある将来の人のことまで考えるチカラが,今の政治家や役人にないからだろうね。本来,そんな人たちを政治家や役人にしちゃいけないと思う。「将来世代が~」とか言って消費税の正当性を主張する候補者には投票すべきじゃないし,役人も罷免すべきではないかと思っている。

 それはさておき,所得が2百万の十倍の2千万ある人を考えてみる。所得が十倍だからと言って,生活費も十倍かかるわけじゃない。必ずしも十倍の家賃の家に住んでいるわけでもないし,だいたい,毎日十倍の量の食事など摂れっこない。「いいものを食べている」としても,全てにおいて十倍高い食品ばかり買い続けていることもまず考えられない。所得が十倍だからといって,生活費も十倍とはいかないはず。仮に5倍の生活費(750万)を使っていたとすると,税率 8% で 810万 だから,手元に 1190万 残る。税率が 10% になると,残りは 1175万 となり,減るのは 1.3% ほどということになる。つまり,たとえ生活費を5倍も「浪費」している人でも,負担増分の影響は,収入2百万の人の6分の1以下。消費税率は同じように増えたとしても,高収入の人ほど負担増分の影響は小さい。これが「逆進性」。
 では,障害を持つ人やその家族は,上記のどちらが多いのか。2百万か,2千万か。2百万どころか,もっと少ない人も多いかもしれない。たとえ2百万以上「収入」があっても,介護にかかる費用などを差し引けば,「所得」はずっと低くなるから,負担増感も「重い」ほうになるだろう。つまり,消費税の増税は,収入の低い障害者やその家族の負担を重くしてしまう可能性が高いと思うのだ。
 話を「なぜ消費税を増税するのか」に戻すと,それは「社会保証費の増大に対応するため」と言われていて,その「社会保証費」は何かと言えば,iPad などを手に入れるための「補助」などが含まれる。
 構図としては,「補助などの社会保証費が増大し,それを賄うために消費税率が上げられて,低所得の障害者などの生活が更に圧迫される」ような感じ。

 もちろん,その「補助」が役に立っているならいい。福祉介護の現場に補助で調達された iPad が行き渡り,どこでも「iPad タッチャー」のような器具もあって,障害者の生活に活かされ,QOL(生活の質)の向上に貢献しているなら,意味のある「補助」だ。
 逆に,「補助で手に入れられるから」というだけで手に入れた iPad が,使いたい機能がないことまでよく調べていなかったとか,あるいは「iPad タッチャー」のような器具が手に入れられなかったため「結果的に障害者向けに活用できない」ようなケースがあったとしたらどうだろうか。その補助は「役立った」のか?……言い換えれば,補助としての機能を果たしたと言えるのか?
 その「補助」は「税金」であり,「社会保証費」であり,消費税増税の口実でもあることを考えれば……あまり深く調べず「補助で手に入るから」などの動機で iPad を手に入れようとすることが「大きな問題」と考える理由がここにある。述べたように,消費税の増税は,低所得な人ほど,負担が重い。障害があっても何とか自立しようとして,自分にできそうな働き口を見つけ,細々と生活している……そんな人ほど増税が重くのしかかる。「使えるかどうか」をよく吟味せず,安易に「補助だから」といって対象機器を選ぶ行為が,巡り巡って,結果的に障害者の生活を苦しめてしまうのではないかという気がしている。

 iPad 自体の「補助」でなくて,「周りがみんな iPad を持っているから」などの理由で手に入れた場合でも,似たような結果になることは十分に考えられる。「実際に使える機能があるかどうか」を考えて手に入れているわけではないから,「結果的に使いきれない」という状況が起こりうる。何とか活用しようとすると,「iPad タッチャー」がないとダメ……ともなれば,その「製作会」を探す手間とか,その参加費や移動時間といったコストやリスクがのしかかってくる。資金不足が叫ばれる介護の現場に,そうした iPad のコストやリスクを受け入れる余裕などあるのか。iPad 本体1つと「iPad タッチャー製作会」参加云々のコストを合わせた額で,他のタブレットと「外部スイッチ接続マウス」を複数手に入れられる可能性もある。いくつも必要なければ,1つだけにして,余った予算を別の活動に充てることだってできる。でも,iPad にしてしまうとそうはいかない。その費用を無理に捻出することによって,他の活動にしわよせが行くことは十分に考えられるし,だいたい,「iPad タッチャー」が手に入れられるとも限らない。手に入らなければ障害者向けの活用ができなくなってしまう可能性もあり,そうなると費やした費用が無駄になってしまうことも考えられる。iPad の障害者向けの活用方法をよく調べず,「周りがみんな使っているから」程度の理由で iPad を手に入れることには,「施設」などの限られた組織内で資金不足を助長する問題があるように思う。
 多くの人が同様な状況になると,「みんな欲しがるのだから補助対象にしろ!」ということになって,結局,「補助だのみ」になっていくことも考えられる。そしてその「補助」がバカスカ使われるようになれば……やがて増税の口実にされ,苦しむのは誰なのかは,述べたとおり。

 現在「iPad タッチャー」が補助対象かどうかは,筆者は知らない。少なくとも,最初に述べた「製作会」は,自腹参加か,よくて施設代表としての参加で,交通費くらいは出るかもしれない。しかし,その参加費用と,述べて来た様々なリスクは受け入れなければならないわけで,それだけの「財政的余裕」がある個人も施設もそう多くはないと思う。なのに「なぜわざわざ iPad?」……やはりそう思ってしまう。

 繰り返しで恐縮だが,iPad 以外のタブレットであれば,「iPad タッチャー」は不要な可能性が高く,不要ならコストもリスクもない。

● 問題解消の鍵は「補助適用の仕組み」

 「補助」の悪口ばかり言っているようだが,もちろん,役立っている補助もあるだろうから,全否定する気はない。
 本来,「誰にどういった機能を持つ機器が適切か」を考えて,確実に役立ちそうな器具を選んで使用者に充てがう役割が「補助を出す側」にあるべきだと,筆者は考えている。「補助の有効な使い方」を考える,一種の「コーディネート」だ。うまく機能すれば,今まで「結果的に使われなかった機器」に出していた補助を出さなくて済むことになる分,「有効に使われる補助」が増えるはず。補助にかかる費用を増やさなくても,有効に使われる機器が増えるわけだから,「社会保証費」の増大も抑制できて,「増税」の必要性も軽減されるのではないか。

 しかし「公的補助」の場合,適用の判断基準は「制度」として作られることになるのだろうが,役人や政治家が作る制度で,果たして「適切なコーディネート」の判断ができるだろうか?……まぁそれは,現在の制度によって「今,補助が活かされているか」を見れば,今後も「補助が適切に使われる制度」など作れるとは思えないわけで。そこは,制度で定めた「判断規定」で全て処理しないで,補助の有効な活用を考える「コーディネーター」を設けてもいいような気もする。まぁ,そうした考えができないから「増税」という安易な対処になるのだろうけど。
 でもそうした「安易な対処」が,むしろ社会保証費の増大を助長し,福祉分野の問題を大きくするのではないかと,筆者は懸念している。
 社会保証費の増大への対応で,補助の使われ方を「コーディネート」するということは,いわば,出て行くところの無駄をなくして,「社会保証費が不足する事態を防ごう」という考え方。一方「増税」は,入って来るところを増やそうとする方法。でもこれだと「無駄」になっている部分はそのまま残る。結果的に活用できなかった iPad の補助などに充てられてしまうような「無駄」が一定割合あった場合,それを放置したまま入って来るものが増えれば,その「無駄」のほうも同じ割合で増えることになる。「みんなが欲しがるから」といった理由で補助対象が広がると,その「無駄」の割合も増えて,有効に使われる社会保証費が減ってしまう可能性がある。となると,また入る側を増やすために……と,際限のない「増税」につながっていくのではないだろうか。それの「しわよせ」が行くのはどんな人たちか……は,述べてきたとおり。

 補助対象でないものは自費で購入しなければならない。使いたい機能のない機械を買ってしまうと「無駄な出費」となり,「痛み」を伴う。だから,そんな製品を選ばないよう慎重になるだろうから,そう簡単にお金も出さないだろう。
 ところが一旦「補助」の対象になってしまうと,お金は「補助」……つまり「税金」からドカドカ出てくるようになる。やがて「どーせ補助だから自分の懐は痛くないし,みんなも持っているし」といった考えが蔓延すると,実際に役立つ機能があるかどうか事前に考えたり調べたりせず,単に「補助対象だから」というだけで手に入れたがる人が増え,その補助が「バンバン」使われることも考えられる。対象の機器を作るメーカーにとってはかなり「オイシイ」はず。
 穿った見方をすれば,今どきの補助制度は,「使いたい人に使うべき機能を持つ機器を行き渡らせる」ことができないばかりか,「補助」を取り付けた企業に社会保障費を送り込むだけの「ポンプ」に成り下がっているような気がする。「補助を取り付ける」ことで稼ごうとする業者が居たとしてもおかしくない。

 この十月に消費税がどうなるか,そうやって今後も税率が上げられると,低収入でも自立を目指そうとする障害者にどんな将来が予想されるかは,述べたとおり。そうした人たちが,QOL の向上や,安心して自立生活を送れる社会の実現が,「ドカドカ出される補助がバンバン使われる」ことで遠退いていくような気がしてしかたがない。

 ただ,「我慢すべき」という話ではない。「実現したいこと」が明確で,その実現により「進展」が期待でき,また諸々の「リスク」も伴わないと分かっているのであれば,そのための器具の入手をためらうことはないと思う。
 「問題だ」と述べてきたのは,あくまでも,そこまで確実に分かっていないのに,「手に入れたい!」と思ってしまう傾向だ。手に入れようとしている機械などが,「実現したいこと」を達成できるのかどうか,しかも達成に際して,あとで「iPad タッチャーがないと使えない!」といった「リスク」などがないかどうか,「しっかり調べるなり考えるなりしているか」という点。
 そこまでせず,「周りがみんな持っているから」とか,「補助で手に入るから」といった理由で iPad のような機械を手に入れてしまうと,結局は役に立つ機能がなくて使えないままになってしまったり,「iPad タッチャー」がないと使えないことにあとから気付いて,追加でコストやリスクを負うハメになる可能性が高くなる。それを受け容れる余裕が今の介護福祉の現場にあるのか,という現実の問題。そして引いては,そうした「無駄」が繰り返されることにより「社会保証費」が増大し,将来また増税の口実にされ,結果的に細々と生活している障害者のような低所得者の負担を重くしてしまうかもしれない,という将来の問題。この2つの問題があると思っている。
 だからこそ,「手に入れようとしている器具に,使う人が本当に必要とする機能があるかどうか」をよく調べ,「補助」云々よりも優先して選考を判断すべきではないだろうか。

 ひょっとすると,現場の問題は,その「考えたり調べたりする方法」なのかもしれない。「どう調べればいいの?」という感じ。ただ,筆者はいくつか福祉系のメーリングリストに登録しているが,そうした質問なり相談なりが投稿されることはめったにない。何か機器を手に入れる前に,「××したいのだけど,どの機種ならできます?」的な質問やら相談やらの投稿があってもよさそうなのに,不思議と見ない。それでいて,「リスク満載」の iPad という機械はみんなけっこう持っていたりする。これでは,「資金不足」もある意味「当然」のような気もする。限られた資金の有効利用のためにも,もっとこういったメディアが活用されてもいいように思う。

 筆者はその「コーディネーター」的な役割を果たしていきたいと考えている。使う人が本当に必要とする機能を持つ機器を考え,アドバイスしていきたい。実際,某施設で「iPad のようなタブレットではなく,タッチパネルのデスクトップ機がお薦め」と言ったように,時々顔を出す施設では何とか機能しているつもりはある。他から相談は来ないが。
 まぁ筆者のことはともかく,「補助は使わないと損だ!」なんて単純な発想をしないで,まずは使う人が必要とする機能は何かを考え,それを実現する機械はどれかをしっかり調べ,あとで「iPad タッチャー」などといったコストやリスクのかかる器具を探し求めなくても済むような機器を手に入れるようにすることこそ,結果的に,介護福祉の分野で不足しがちと言われる資金の有効利用になるのではないかと思う。

 まとめると,よく調べずに,「周りにあるから」とか「補助が出るから」などの理由で入手した機器では,結果的に「使いたい機能がない」とか,「使うには別に器具が必要だけど,それを手に入れる費用や手間まで手が回らない」といった状況が起きる可能性があり,そうなると,手に入れたものが使われないまま無駄になってしまう。それを「資金不足」が叫ばれる介護の現場で容認できるのか,という現実の問題。そして,「補助」とは「社会保証費」すなわち「税金」であり,補助で手に入れた機器がもし活用できなければ,それは「税金の無駄遣い」にほかならず,そうした無駄な「社会保証費」の支出が増えると,また消費税増税の口実にされ,ひょっとすると,自立を目指している障害者など,低収入で細々と生活している人々をさらに苦しめてしまうことが懸念される,という将来の問題。これら2つの問題を大きくしないようにするため,介護福祉の現場の方々が「役立つ機能は何か」を考えて,「その機能を有する機器はどれか」をよく調べ,確実に役立つ機器/器具に,資金が有効利用されることを願うばかり。



© M.Ishikawa; TREEWARE 2020.