じつは,筆者のウチには「来客」というものがない。おそらく最後に「来客」と呼べる人が訪ねてきたのは,十年以上前。そんなこともあって,気が付けばまともな椅子がなくなっていた。かろうじて,食事の時に使っていた椅子が1つあることはあるが,修繕を重ねてボロボロ。他に筆者が普段の作業時に腰掛けている「バランスボール」というものがあるが,そもそも「椅子じゃない」。「来客」がないから,それで別に困らなかったのだが……困ったことが起きてしまった。大家さんが管理会社の人と一緒に来るというのだ。すると,確実に椅子が足りない。
「椅子くらい買えばいいだろう」と思われそうだ。もちろん,「未来永劫客が来ない」なんて考えにくいから,買っておこうと思ったことはある。「○トリ」なんか行くと,けっこう安い。千円もしないものがいくつか陳列されている。ただ,少々「こだわり」があって結局納得いかず「買わずに帰る」なんてことを繰り返していた。しかし,納得のいく椅子を探し求め他の店を探し回るヒマはない。さて,どうするか……。
じつは,その「こだわり」を盛り込んだ「設計」は考えてあった。今はコロナ失業中でもあり,「必要なもの」なら製作する時間くらい作れる。ここはひとつ,その「こだわり」を具体化してみようと思った。
● 詳しい経緯
今の家に引っ越して1年ちょっと……これまで大家さんに会ったことがなかった。「どーやって契約したのか?」と思われそうだが,じつは入居後間もなく,家の持ち主が変わっちゃたのです。前のオーナーだった不動産屋さんには契約の時に訪ねているが,ちょうど新しい大家さんになった頃に,「コロナ」でいろいろと人と会いにくくなっちゃったものだから,気軽に会えずじまいになってしまっていたというわけ。
ここ最近,ワクチン接種者も過半数を超え,新規感染者も減少傾向になって来たところに,管理会社の担当者も決まったとかで,「状況見も兼ねて一緒にお伺いします」という話になった。
そこでちょっと困った。ウチには「椅子」と呼べるようなものが1つしかないのだ。
引っ越し前からそうだったのだが,筆者のウチにはめったに来客がない。家族と工事や点検の人を除くと,最後の来客はもう十年以上前だろうか……よく覚えていない。つまり,何人かで集まって話をすることがないから,「椅子」をいくつか置いておく必要性を感じなかったのだ。
もちろん,ずっと「1つだけ」だったわけじゃなく,一時期2つほどあったのだが,そのうち一つは,修繕を繰り返しているうち,とうとう腰掛けられないレベルになってしまった。もう一つも脚が壊れ,残った座面に角材で手作りの脚をつけ,かろうじて椅子の機能を果たしている程度。前の家では,台所で食事する時に使っていた。一方,パソコンなどの作業用には,「バランスボール」と呼ばれる,空気で膨らませるゴム製のボールに腰掛けているが,だいたいそれは「フィットネス器具」であって「椅子」ではない。結局,「椅子」と呼べるようなものは1つだけになってしまっていた。
今までそれで困らなかったのだ。なにせ「スキゾイドなプータロー」だもンで,「友人」や「同僚」に当たる存在がないから「来そうな人」がいない。「どーせ誰も来ないし」という,ある意味「安心感」に似た感覚があって,買いに行く気も起きず,長い間そのままになっていた。そこに,大家さんだけでなく管理会社の人も来るとなると,確実に椅子が足りない。お客さんに「こちらにどーぞ」ってその空気ボールを出して,上でポヨンポヨンしてもらうってのもなんだし……。
たいていの人は「買えばいいじゃん」と思うだろうが,筆者の場合は少々「こだわり」がある。かさばるものをあまり増やしたくない。それと,今はコロナの影響もあって,実質無職転落中なので,高価なものは買いたくない……となると,せいぜい折り畳み式スツールのようなものになるだろうか。だが「安価なスツール」というと,これまで手に入れてきた椅子がその手のもので,ことごとくぶっ壊れている。「折り畳み式」の機構はなかったが,そのぶんしっかりした造りかというとそうでもなく,結局安価なだけに大した耐久性はない。不具合が出る度に自分で修理していたが,限界が来てとうとう腰掛けられなくなったものもある。いい加減もう少し耐久性が欲しい。となると「安価で耐久性のある折り畳みスツール」ということになるが……そんなものどこで売っているのだろうか? というわけで,見つかる可能性もほとんどない椅子を「買うために探しに行く気」も起きないままになっていたのだった。
● なければこうする!
しかも,自分のそうした「こだわり」でいろいろ制約を付けちゃっているところに,来客まで数日しかないというね……あちらこちらのお店に行って「こだわり」に合うものを探し回っている時間もないわけだ。
そんな時どうするか……筆者の答えは「作る!」。
じつは,述べたような「こだわり」は以前からあったので,「自分で作るとしたら……」と思い,設計はしてあった。「いつ実行に移すか」をなんとなく先送りにしていたような段階だった。
だがもう迷っている暇はない。パソコンで作っておいた設計図をコンビニで印刷し,ホームセンターに持って行って材料を購入。木材はカットコーナー担当者に設計図を見せ,カットしてもらって来たのだった。
▼ 折り畳みスツール部品 |
使った材料は,1×4(ワンバイフォー)と呼ばれる規格材が1本と,断面が 3×4cm の角材が2本,いずれも「6尺もの」で,長さは 180cm
ちょっと。金具類は直径 8mm のネジ4セットと木ネジが 30 本程度。材料費は ¥1,500 ほどだった。
完成したものは,座面が 36cm 角程度,畳んだ時の長さが約 62cm,厚みが 6cm というもの。この程度の厚みならば,ちょっとした隙間に納まることも多いだろう。
▼ 自作折り畳みスツール |
設計や製作過程は,機会があればいずれ詳しい記事としてアップしようと思うが(機会があればね),作った感想としては……「よい!」。なかなか良い。「安定感」が欲しかったんで,開いた時に座面より足の位置が少し広い位置に来るような設計にしたのだが,おかげで安定感はバツグン! 市販品で ¥1,500 くらいの「折り畳み式スツール」でこの安定感は,ちょっと期待できないだろう。
いつか作ろうと設計しておいたおかげもあり,何とか数日で完成させることができた。大家さん達に「立ち話」させずに済んだのだった。
● うれしい副作用
話はちょっと替わるが,引越し後の自宅は台所が致命的に狭い。食器戸棚と冷蔵庫を置いたら,少なくとも一般的な食卓は置く領域はない。それでも調理用の作業台は欲しかったため,やはり自作してあった小さな机を置いたが,もう椅子を置く場所などなかった。椅子まで置いちゃうと,確実に料理する時に邪魔になる狭さ。だから,引越し後の食事はずっと「立食」になっていたのだった。
一方で,その作った椅子は,元々来客用に作ったつもりだったから,その後も接客用の部屋に置いておこうと思っていた。しかし! それは「折り畳める!」。6cm の隙間さえあれば突っ込んで収納できる。
「これはもしや『立食』とオサラバできるか?!」と思い,接客用の部屋から台所に持ち込んだところ……「よい!」。なかなか良い。何がいいって,「使わない時に折り畳めて場所をとらない」ということが,狭い場所でどんなに便利か……ということを再認識した。
いつか作ろうと設計しておいた「折り畳み式スツール」が,狭い台所でも使える椅子として大活躍! 「立食」ともオサラバしたのだった。
● 「折り畳める」効用
考えてみれば,公民館などの公的施設にある机や椅子は,ほとんどが「折り畳み式」だ。なぜそうなのか,よく分かった。スペースを柔軟に使えるわけだ。全部畳んでおけば部屋が広く使える。会合や会食の時に広げれば,事務机になるし,「立食」にもならずに済む。
あと「運搬」のし易さもある。台所に「自作した机を置いた」と書いたが,じつはそれも折り畳み式に作った机。台所にも畳んだ状態で持ち込んでから,広げて使っているわけだが,もし折り畳めなかったら……持ち込む気になったかどうかは微妙。というのは,途中の廊下もかなり狭く,幅 70cm ちょいくらい。しかも引越し後,まだ収納しきれていないものが積んであったりする。一方その机は,幅が 60cm,高さも 65cm
ほどある。もし折り畳めなかったら,その大きさの机を周囲のものにぶつけないよう運ぶとか,何の「テレビチャレンジ番組」かって感じだ。折り畳めたから台所に持って来て使う気になったのだろう。
椅子も同じような気がする。今までも椅子はあったわけだが,台所に持って来ないで「立食」していたのは,折り畳めない椅子を,その「かさばる状態」のまま持って来る気にならなかったことが一因かもしれない。だから逆に,折り畳めるから,来客時にまた台所から接客用の部屋に持って来ることも気軽にできるわけだ。
新しい家具を使い始めると,生活が変わることがある。しかもそれが「折り畳み式」だと,生活空間に柔軟性が生まれると知ったのだった。