今年も申告の季節がやってきた。筆者はいちおう「個人事業主」として確定申告をしている。
「決算書」を作る時,いつも提出用と控用の紙を重ねて,カーボン紙を挟んで書くのだが……やってしまった! カーボン紙を裏返しに挟んでしまい,しかもかなりの文字数書いてしまった。転写面枠外に裏返し文字をズラりと並べてしまい,消えない。書き換えるしかないか……。しかし,「替え」の決算書をもらいにいくのも面倒。他に何かいい方法はないかネットで検索していたら……国税庁のサイトに「確定申告書等作成コーナー」があると知った。どうやらマイナンバーの手続きをしていなければ使えないというものでもなさそうだ。筆者はマイナンバーとやらを利用するには困難と思われる理由が多過ぎるため手続きを渋っているのだが,それが関係ないなら試してみるか……というわけで,そのコーナーを使ってみた感想,いろいろモンクを交えて晒してみたい。
● 経緯
確定申告の書類のうち,どういうわけか「決算書」だけは,複写する用紙ではなく,提出用と控用の紙が別々だ。筆者がそれを書く時は,いつも提出用の紙と控用の紙を重ねてカーボン紙を挟んで書くのだが……やってしまった! カーボン紙を裏返しに挟んでしまったのだ! ちょっとくらいならホワイトで消して書き直して済みそうだが,自宅の借家の大家さんの住所と氏名や家賃など,けっこうな文字数を,記載枠外にまるまる裏文字で転写してしまった。しかも今回は引越しがあったんで,2件分も……あぁ。ToT; あ! でも,インクとは違うから,消しゴムでこすると見えにくいくらいにはなるかな?……と,こすってはみたものの,少々薄くはなるが,くっきりと読めるレベルだ。
他にも,できれば修正しておきたい点も見つかったから,結局は書き直したほうがよさそうなのだが……う~ん……またこの用紙を税務署までもらいにいくのも面倒だなぁ。じつは前日に管轄の署まで行って来たのだが,自転車で 40~50 分ほどかかった。近くで手に入れられないか検索してみたところ,税務関係の手続きできる場所は東京都の小平庁舎が一番近いみたいだ。そこなら自転車で 10~15 分くらいなのだが……都の庁舎だから都税を扱うところだろう。一方,確定申告は税務署……国税庁の管轄のはず。税務署に提出する「決算書」が小平でもらえるかどうかは同庁舎のウェブ記事には見当たらなかった。行っても置いてなければ時間の無駄よねぇ。
次に近いのは……管轄の税務署ではなく,反対方向の税務署だ。でも行ったら「管轄の税務署でもらってください」とか言われてもなぁ……まるっきり反対方向だから,余計に時間がかかることになる。
「決算書」の書類が,税金手続きするお役所ならどこにでもあって,もらうだけなら管轄区域は関係ないというのなら,そう明記してあれば気軽にもらいに行くところなのだが……こっちも他にやりたいことがいろいろとあるから,その合間をぬってもらいに行って「ないです」とか「管轄外はダメです」で追い返されていたのでは時間がもったいない。各お役所ごとにサイトはあるくせに,「できること」を明記せず,何ができて何ができないのか分からない。サイトの造り自体が「オヤクショ仕事」といった感じだ。
申告書の受付と徴税業務は自由化したほうがいいのではないだろうかと思う。述べたように,筆者の自宅から一番近い税務署は,地区管轄の税務署ではない。提出だけなら,どこの税務署でも,あるいは自治体の税務課辺りならどの役所でも受け付けられるようにして,利用者が多いところほど手数料収入が入る仕組みにすれば,「ウチでできますよ!」と競い合って宣伝するだろうし。あるいは,もうこの際だから,後述する「デジタル署名」を付ければ,誰でもオンライン提出できるようにしてもいいのではないかという気がする。
さて,では他に「今できる方法」は? ネットで検索していたところ……国税庁のサイトに「確定申告書等作成コーナー」があると知った。だが,新しいパソコンもロクに買えない底辺エンジニアの筆者は,他で不要となりもらったパソコンに(リナックス→)Linux を入れて使っているのだが……ブラウザは古いままだし,機械自体もかなり古いから,おそらく最新のブラウザは動かない。これで申告書が作成できるのか?
だが,今すぐできることは他に無い。この際だから試してみるか……というわけで,ここではその「作成コーナー」を使った感想や改善点,実現して欲しい要望などについて,考察を述べてみたいと思う。
● 「作成コーナー」サイトの感想
多くのサイトでは,筆者のように古いパソコンやブラウザで使うと,たいてい「最新のブラウザでご利用ください」とか何とか表示が出てきて拒否られるが,この「確定申告書等作成コーナー」は最後までエラーが出なかった。もう,それだけでスゴい! よくできている! 作った人はかなりのウェブ設計達人ではないだろうか。
しかし,考えようによっては,当然なのかもしれない。そうした書類の作成を義務付けているのはお役所側なのだから,こちらで円滑に書類を作成できる環境を整える責任があるし,義務であるとも考えられる。ただその「使命感」で設計したとすれば,当然とはいえ素晴らしい話。
逆に,書類作成を義務付けておきながら,パソコンやブラウザがちょいと古いと「最新のものをお使いください」とか表示が出て使えないような「作成コーナー」だったら……つまりそれは,「古いパソコンしか使えないような人は,(パソコンからは)申告しなくていい」といった主張とも受け取れる。「できない状態」を放置しているのだから。だがどちらかといえば,申告などは「デジタル化」したいのではないのか。そのためのマイナンバーでもあったような気もするのだが……。
当然,筆者が新しいパソコンを入手できるほど稼げるようになる前に「最新のものをお使いください」と表示が出るようになったら,「作成コーナー」の利用はできなくなる。マイナンバーもヘッタクレもない。この状態,いつまで継続するだろうか。
◆ スクリプト無効だと「何もできない」
もちろん,「もう少し改善できなかったのかな」と思った点がなかったわけではない。
最初に「(ジャヴァスクリプト→)JavaScript を有効にしてください」とメッセージが出た。じつは筆者は普段,ブラウザの JavaScript
(以降「スクリプト」)機能を無効にして使っている。最大の理由は,「ネット犯罪の防止」だ。偽装サイトへ誘導したり,「マルウエア」と呼ばれる悪さをするソフトをダウンロードさせたりするためによく悪用されるのが,そのスクリプトだからだ。それと,パソコンが古いために元々スクリプトの処理速度が遅いところに,そのスクリプトにより広告画像を次々読み込む機能が働いたりするから,遅くなる要因しかない。だから筆者は普段,スクリプトを無効にして使っている。
しかし,今回は機能が機能だ。金額を入力したら自動で合計を計算してくれるといった機能は,見ているブラウザ内でリアルタイムに処理ができる「スクリプト」でなければ実現できない。
しかもその「……有効にしてください」のメッセージが,デカデカと表示され,他に何かできそうな文言は一切表示されなかった。「スクリプトを有効にしないとこれ以上何もできないゾ」という強い意思表示を感じる。中途半端な警告で,その「有効にしてください」が画面の隅のほうに小さく表示されている一方,手続きできそうな画面も表示されていて,そこで手続きしていたら,最後の最後に「スクリプトが無効だったから使えません」的なことになるよりはマシなのかもしれない。
ただ,述べたように,マルウエアやらコンピュータウイルスやらは,多くはスクリプトで仕込まれるから,そうした被害の防止のためには,機能が多少落ちてもスクリプト無効のままで手続きを進められるような設計のほうが好ましい気もした。まぁ,筆者が使用しているブラウザは(ファイアーフォックス→)FireFox なので,スクリプトが原因でネット犯罪に巻き込まれるリスクは他のものより少ないとは思われるが。逆に言えば,他のブラウザでは,決算書を作るためにスクリプトを有効にした途端,マルウエアに襲われる……といった可能性も否定できない。どんなブラウザの設定だろうと手続きができるような設計にしておくことは,ある意味セキュリティを高めることにもつながると考えている。
ちなみに,筆者はよく w3m と呼ばれるブラウザも使う。これは文字しか表示しない画面で使うもので,スクリプトばかりか画像も全て読み込まないという特殊なブラウザ。その代わり処理が超早い。ニュースの記事を読むのにスゴく重宝している。申告書で扱うのはどーせほとんど数字なのだから,こうしたブラウザでも使えるとかなり便利だと思う。
◆ 表計算から「一斉コピペ」ができない
数少ない「改善の必要を感じた点」の1つに,表計算からのコピペができなかった点が挙げられる。……いや,コピペはできるのだが……。
筆者は表計算ソフトで帳簿を付けている。「仕訳帳」に当たるシートから,収入と仕入れ(材料費)などの支出を月ごとに集計するマクロも組んである。そのマクロを実行すると,別シートに月ごとの合計金額が求まるから,あとは「決算書」の月ごとの記載欄にその結果を書き写せばいいことになる。
パソコンで「書き写す」と言えば「コピペ」だ。じつは筆者が作ったその表計算の「月ごとの集計」の表は,決算書を模してある。だから,収入の右に仕入れ欄が並び,1月から 12 月まで下向きに並べてある。サイズも決算書に合わせてあり,自宅にプリンタがあった頃は,合計も含めた 26 個の枠部分だけ印刷して切り抜き,決算書に貼り付けて提出していたくらい。コピペならぬプリペ(プリント→ペースト)である。それなら書き写し間違いがないから,正確なはず。
とはいえ,それも昔の話。筆者はあまり他の人と紙面をやりとりする機会がなく,結果,電子化がどんどん進んじゃって……数年前に壊れて以来,プリンタを置かなくなってしまった。イザとなったら,コンビニでも印刷できるし。そんな意味でも,今回のような「ブラウザで申告書が作れる」という仕組みは,おあつらえ向きではあるのだが……。
一方,この作成コーナーの同欄も,ほぼ並び方は同じだ。収入と支出が各月ごとに別々……つまり,24 の枠に分かれていた。合計の枠だけは記入できないが,それは月ごとの金額を入れると自動で求まるようになっているためだろう。すると,ひょっとして月ごとの 24 個の記入枠には一斉コピペできるのではないか……そんなことを考えた。それができれば,スゴくラクなはず。
だが,それはできなかった。まず表計算のマクロにより求めた月ごとの金額の「収入」列にある1月から 12 月までの 12 個の枠を選択してコピーしてから,申告書作成コーナーの「1月の収入」の枠にフォーカスを入れて「ペースト!」……その枠に複数の数値(金額)が挿入されただけで,下にある2月以降の欄は埋まらなかった。……残念!
まぁ,数値を1つだけ入力するための枠に,複数の数値をコピペしようとしたようなものだから,そうなるのは分からんでもない。ただ,他にも表計算ソフトで帳簿付けしている人もいるのではないか。だとすれば,やはり「利便性」を考えると,表計算ソフトから 12 ヶ月分を一度にコピペできるようになっていてもいいような気もする。
だが,そんなことができるのか。じつはやりように依っては可能だ。というのは,表計算の複数セルを一般的な文字列として扱う場所にコピペすると,一般的には,セルや行の境界が特殊なスペースに置き換わるため,それを認識して各項目に割り振る仕組みを作れればいいわけだ。具体的には,表計算で複数セルをコピペした時,右隣のセルとの境界には「水平タブ(HT)」と呼ばれる特殊な文字コードが挿入され,下の行との境界には「改行(NL,LF または CD)」に当たる文字コードが挿入される。どちらも一種の「スペース」として扱われる。
たとえば,以下のような状況だったとする。
1月から3月までの収入がそれぞれ1万,2万,3万で,仕入れの金額が月々 ¥5,000。
これを「決算書」と同じになるよう,表計算ソフトに,収入と支出を隣り合った列に並べ,縦に1月,2月,3月と並べた場合。この6つのセルをコピペすると,以下のような文字列として扱われる。
10000〈HT〉5000〈NL〉20000〈HT〉5000〈NL〉30000〈HT〉5000〈NL〉
じつは,キーボードにある [Tab] というキーを押すと HT に当たる文字コードを入力できるのだが,通常はブラウザでそのキーを押すと,「入力フォーカスを次の枠に移す」機能が働く。ということは,表計算からコピペした数値と数値の間に HT が挟まっているわけだから,そこで次の枠に移ってくれれば,複数の枠に次々と数値がコピペできるのではないか……と期待したのだが,まぁその思惑は外れたわけだ。
一方で,NL に当たるのは [Enter] キーで,こちらを押すと,通常は「全体を決定してフォームを送信する」機能が働く。結局は,どちらもフォーム記載枠内では,その特殊文字の入力や機能は働かないわけだ。
が! 例外がある。それは(テキストエリア→)TEXTAREA と呼ばれるフォーム枠。掲示板やブログなどの「コメント欄」がそれだ。たいていのフォームの記載枠は「1行だけ」だが,その枠は複数行を扱うことができる。当然,改行(NL)も受け付ける。ただ,HT の扱いはブラウザによって微妙に異なる場合もあるが,コピペした時だけは「HT コード特有のスペース」として扱われ,同枠内では幅の広いスペースで表示されることがある。すると,筆者がやったように「収入と支出」の2列のセルを 12 ヶ月分 TEXTAREA にコピペすると,中央に広めのスペースが挟まった2列の数値が 12 行入力される……そうした状態になることが多い。つまり TEXTAREA なら「コピペできないわけではない」ことになる。「やりように依っては」というのは,そういうこと。
今回の「決算書作成コーナー」では,収入と支出欄がそれぞれ月ごとにバラバラで,24 個もの入力欄に個別にコピペする必要があったが,もし「別の入力方法」として,TEXTAREA 欄から入力できるようになっていたら,24 個の数値が一度に入力でき,入力作業が数秒で済んでいたただろう。が! 残念ながらそうはなっていなかったわけだが。
◆ 一度にコピペ可能にする
じつは,筆者が使っている「表計算ソフト」は,エクセルではなく,OpenOffice と呼ばれるもの。このソフトは,セルに指定する式として「インライン行列定数」を指定できる。これは,複数列,複数行のセルの値を1行にまとめる記法で,これを使うと,たとえば前出の例Aだったら,以下のように書ける。
{10000;5000|20000;5000|30000;5000}
これだと1行で記述できるから,TEXTAREA は要らないことになる。問題はこの文字列をどう作るか……それは,考えようによっては簡単。これが A1:B3(2列3行)の範囲に記載されているなら,どこかのセルに以下の式を書けば,そこに上記「インライン行列式」が表示される。
="{"&A1&";"&B1&"|"&A2&";"&B2&"|"&A3&";"&B3&"}"
実際は 12 ヶ月分を記載しなければいけないからもっと長くなるが,こういうのは,1度式を記載してしまえば,あとはコピーして使い回せば,毎年コピペ1回で 24 の数値が間違いなく転載できることになる。最初の年にその式を記述するのがちょっとたいへんなだけだ。
OpenOffice では,セミコロン(;)と縦棒(|=バーティカルバー)をそれぞれ列と行の区切りとして使っているが,別にそれに準ずる必要もなく,他の記号でもいいのかもしれない。ただ数値では,カンマ(,)は桁区切り(千,百万,十億……)として,ピリオド(.)は小数点として使うから,そのどちらでもない区切りは無難なのかもしれないが。
申請書作成コーナーの「決算書」で,月ごとの収入と支出の入力欄の「オプション」として,「一括入力」が選択できるようにしてあって,TEXTAREA に複数行記述されたら「ひと月=1行(つまり全 12 行)」として,{} で囲まれていたりセミコロンや縦棒などがあればインライン行列記述として扱い,コピペ入力できるようになっていれば,申告書作成もラクになる。それは,ブラウザのスクリプトで行と列を分解して数字を拾い,それぞれの月の収入,支出として解釈し該当枠に入れてくれる仕組みがあればいいわけだ……まぁ,あくまでも希望的な話だが。
応用すれば,他の項目にも使うことができるのではないか。述べてきた例Aは,月ごとの収入と支出に限った話だが,筆者の作った表計算の表は,PL(損益計算書)への記載が必要な他の経費についてもマクロで個別に合計される。今回も,PL にあるそれら記載箇所に,場所を確認しながらコピペした。たとえば,水道光熱費は PL の 10 番,交通費は同 11 番で,通信費は 12 番の項目に転載……といった具合いだ。
それらの月別の経費は,マクロによって「月別」という名前のシートに月別に合計され,年の合計額が PL を模した別のシートに表示されるようにしてある。仮に,表計算で以下のセル位置と額だったとする。
水道光熱費(PL の 10 番目の項目)……セル C13,4万 旅費交通費(PL の 11 番目の項目)……セル D13,5万 通信費(PL の 12 番目の項目)…………セル E13,6万
同じシート内のあるセルに,たとえばこんな式を設定する。
="PL10="&C13&"PL11="&D13&"PL12="&E13
すると,例Bは以下のようにまとまる。
PL10=40000PL11=50000PL12=60000
前出の例Aと合わせるとしたら,こんな感じ。
IO={10000;5000|20000;5000|30000;5000}PL10=40000PL11=50000PL12=60000
「作成コーナー」側に,これをコピペすれば該当枠に自動的に入力されるような仕組みがあれば,入力すべき項目が何十個あろうとも一発でコピペできることになる。申告書の作成もずっとラクになるだろう。
◆ 「誰でも利用できる」規格にすべき
今回使ったサイトでは,入力したデータを“…….data”というファイル名で自分のパソコンに保存しておける仕組みになっていた。一日で全部入力しきれなかったり,後日間違いに気づいた時など,再び「作成コーナー」サイトを呼び出して,保存したファイルをそこにアップすれば,作りかけたところに追加したり修正したりできるから,それはそれで便利! しかし,それはある意味,上記で述べてきたような「一度に複数の項目を入力できるようにする」ことと似たことをしている気がする。“…….data”というファイルは「バイナリ(表示できる文字ではないデータを含んだもの)」のようだが,バイナリではなく,述べてきたような「文字形式」の規格を作って公開し,ファイルを自作できるようにしてもよさそうな気がした。たとえば,こんな感じ。
NAME=誰野何某 ADDR=東京都東京市東京町 1-2-3 TM=DARENO-Tech TEL=03-1234-2234 IO={10000;5000|20000;5000|30000;5000|……} PL10=40000 PL11=50000 PL12=60000 PL25:備品=6500 PL26:送金手数料=220 :
ファイルにせず,TEXTAREA でコピペに対応することも可能だろう。
今回,この申告書作成サイトでは,入力したデータから PDF を作成して,それを印刷して提出することになるが,PDF にするとデータ量が増える。たとえば数字は1バイトだが,PDF のデータでは全ての文字を UNICODE と呼ばれる文字コードの4桁の数字として保存するため,文字1つに4バイト必要とする。百万(1000000)ならば7桁だから,単純ファイルなら7バイトだが,PDF ファイルにすると 28 バイト使われるわけで,申告書などほとんど数字だけのデータ保存にはかなり非効率。そこに,紙面サイズはどうだとか,フォントは何を使っているかとか,特に申告書のように罫線があればその図形データなども含むため,4倍どころではない。一方,もし上記のようなデータに,実質的に作成者と決裁の証明となる「デジタル署名(詳細後述)」などしてそのまま提出できるようにすれば,保存領域も少なくて済み,お役所側も管理がラクなのではないかと思うのだが。何より,内容の確認がコンピュータでできるし,しかも PDF のデータを読むより確認もし易い。ただそれは,後述「デジタル署名」のような本人確認方法が許されればの話。「それよりもマイナンバー使え!」とか言われると,話はややこしくなるが。
電子申告には控除があるらしいが,控除を受けるためには,税務署で定めた規格をパスしたソフトを使う必要があるらしい。ザッと調べてみた限りでは,対応のソフトはそれなりの値段だ。筆者のような底辺エンジニアにとっては,スゴく高いハードル。いや,それ以前に筆者の使う
Linux パソコン用なんかなさそうだし。筆者でなくても細々と活動している多くの個人事業主にとって同じだろう。この延長上にマイナンバーのシステムがあるとしたら,我々にはほとんど何の恩恵もない感じだ。
一方,もし述べてきたような仕組みがあれば,個人で作成した表計算ファイルやマクロに組み込んだりして使える。ソフトが何か,Linux かどうかに関係なく,手続きを迅速に進められる可能性が出てくる。細々と活動する多くのフリーランスにとって助かるのではないだろうか。
でも,「表計算への式の入れ方」が分からない人もいるだろうから,「作成コーナー」でこの方式を使えるようにしたら,同サイトで上記の式がコピペできたり,その式が埋め込んである表計算のシートがダウンロードできたりなんかしたら超便利だと思うのだが……。
◆ 数値として扱ってくれないケース
筆者が手元に作ってある表計算ソフトの表は,金額を示す数値の先頭に‘¥’が付加される。じつは前述の「月ごとの収支」もそうしてあった。金額を個別にコピペしていた時,どうやらその‘¥’記号がついているかいないかで,合計金額が違っていたようだ。‘¥’記号があると数値として扱われず,合計に足されないらしい。いちいち‘¥’を取り除く作業が余計にかかった。
それくらいスクリプトで取り除いてくれればいいのにと思ったが……ただ,じつは‘¥’を示す記号は文字コードが3種類あるという点で,多少ややこしいかもしれない。具体的には,以下の3つの文字コード。
- 日本語用 ASCII フォントの 5C(\→\)
- 8ビット用フォントの A5(¥→¥)
- A5 の全角に相当する UNICODE の FFE5(¥→¥)
このうち 5C は,英文用フォントではバックスラッシュ(\)として表示されることもある。ただ,いずれにせよ,先頭にこの記号がある時に取り除いた値を得るスクリプトは,さほどむずかしくない。以下のような感じ。
val.replace( /^(\x5C|\xA5|\uFFE5)/, '' );
正規表現の使えない古いブラウザでも,こうすればイケる。
val.substr(("\x5C\xA5\uFFE5".indexOf(val.charAt(0))<0)?0:1)
すると,疑問になってくるのは,「全角」の数字は扱ってくれるのかどうか。表計算に埋め込んだ式で求まる「合計額」などの数値ならば,たいていは半角だからあまり気にする必要はないかもしれない。実際,筆者が「作成コーナー」でしたコピペでその手のエラーは出なかった。が,あとで部分的に修正をしたり,あるいは,手入力のほうが手っ取り早かった時に,全角で入れてしまう可能性は否定できない。ただ,そのスクリプトも,数字に限れば比較的簡単に書ける。詳細は以下を参照。
● 手続き上の難点
今回は「引越し」が重なり,昨年までと管轄地域が異なるため,行く税務署自体が「初めて」。おまけに,コロナで非常事態宣言中。いつも税務署に行くと長い行列ができているが,今回行ったら「整理券」的な紙を渡され,青天井の下で待った。そんなに寒くなかったからいいものの……まぁ,寒い時期を避けたのもあるが,これが受付開始直後の2月中旬あたりだとしたら,どうなのかなと思った。室内でも待てるらしいが……きっと「密です」よね?
◆ LINE による来署予約
行って初めて知ったのだが「ラインで予約できます」的なことが掲示してあった。そういうことは,行く前に知ることができないと意味がないのではないだろうか。2度以上来る人なら,税務署に掲示してあるのを見て2度目以降は予約するかもしれないが,その必要のある人がどれほどいるのだろう。申告書を自分で書ける人なら,書いて持って行くだけだから,1回行けば終わる。行って掲示を見て「予約できる」と知っても意味がないわけだ。
「それくらい封筒に書いてあるか」と思って,筆者の元に送付されて来た申告書書類の封筒をよくよく見てみたのだが,見当たらなかった。税務署で順番が来て,担当者に「ライン云々はどこを見れば分かるのですか?」と聞いたところ,「封筒内に書いてある(と思います?)」的なことを言われた。じつは筆者はまだ開封していなかった。開封すりゃ分かると言われても分かるわけない。
「いやいや,開封くらいしろよ」と思われるかもしれないが,今回は「引越し」をはさんでいる。前の住所に転送届けを出してあったので,転送されてきていたのだ。で,封筒にはこう書いてあったのだ。
※ 宛名や住所が違う場合には「開封せずに」税務署へご連絡をお願いします。
わざわざ「開封せずに」と括弧付きで書いてあったから,それに従い開封せずにいたのだ。中に書いてあったって,分かるわけないだろう。
で,担当者から最初に言われたことは……「開封してくたざい」だった。「え? いいの?」と確認してしまった。「開封せずに」と括弧に括って強調されていたのは,何だったのか。
しかも,その「ラインで予約……」云々は,内容物のどこにも見当たらなかった。これで信用されると思っているのだろうか。
とはいえ,じつは筆者は,「ライン」のアカウントを持っていない。つまり,事前に知っても結局は予約できなかったことになる。しかしこれでは,「ライン」のアカウントを持っている人を優遇していることになるのではないか。
「ラインくらい使えるようにしとけばいい」と思われそうだが,じつは筆者は,なかなか新しいパソコンを気軽に買えるほどの稼ぎがないので,古いパソコンに Linux という OS を設定して使っていて,その手のパソコンでは,どうすれば使えるようになるのか分からない。ザッと見た限りは,ラインのサイトに Linux 用アプリは見当たらなかった。
だいたい「ライン」は,私企業が提供するサービスだ。特定の私企業と「契約のある人だけ予約可能」にすることに正当性があるだろうか。しかも,韓国にサーバがあると聞いている。つまり,税務署とのやりとりが韓国のサーバで扱われる可能性もある。
ちょうどこの記事を書いていた頃,ラインに登録してある個人情報が中国から丸見えだったというニュースがあった。以前より元が韓国企業だという時点で信用度的に疑念を持っていたが,「確信」に変わった。以下にニュース記事を抜粋しておく。
LINEなどによりますと、アプリのシステムの管理を中国の会社に委託していますが、2018年から中国人の技術者が日本国内のサーバーに保管されている利用者の名前や電話番号、それにメールアドレスといった個人情報のほか、利用者の間でやりとりされたメッセージや写真などにアクセスできる状態になっていたということです。
個人情報保護法で,この手の「取扱い」は利用者の同意を得る必要があったらしいが,それをしていなかったとか。ニュース記事で問題視されいるのはそこだが,本当の問題は違うだろうと思っている。
1ヶ月半ほど前,筆者の元に「詐欺メール」が送られて来たのだが,その発信元が中国だった。そこから考えると,中国で「自由に見れる」状態だったということは,もうあとは「いつ悪用されるか」という段階ではないかと思う。会見では「悪用された形跡はない」的な発言をよく聞くが,悪用する側は,「悪用しました!」とすぐ分かるような悪用の仕方などしないだろう。そんなことをすれば「やっぱりその情報を読めたアイツが怪しい!」とすぐに足が付く。直後に悪用するのではなく,しばらくの間「他から入手した別の情報と照合」などする時間をとり,漏えい元一箇所だけの情報では起こり得ない悪用の仕方をすれば,どこも「その悪用は当社から漏れた情報では不可能だ!」と言えるわけだ。すると,ある意味会社に責任はないような話にできるから,当然,調査の必要性も揉み消されるだろう。調査されなければ,社内にその漏えいを手助けする者が居ても,足が付かないまま繰り返して「悪用」できて好都合だ。「悪用された形跡はない」とは,そうした意味ではないか。つまり,形跡が「出ないように」悪用されているわけだ。これで「悪用された形跡はない」と平気で言える人が社長でいて問題視されず,社長としての報酬をまるまる持って行くのが,LINE など今ドキの企業だ。
「たまたま LINE がそうだったからって……」と感じる方もいるかもしれない。しかし筆者は,今どきの企業や省庁,諸々の組織に,概して同様な傾向を感じる。「みずほ銀行」では何度システムトラブルが起きたか。全日本私立幼稚園連合会の会長は何億円も行方不明にし,検察庁長官は賭け麻雀に興じていた。総務大臣はその管轄に深く関係する通信会社の社長と会食していたうえ,しかもどうやら「歴代」だとか。管理能力や倫理観が疑われるようなことを平気でする人がトップに居座り,それなりの報酬を持っていけるのが今の社会なのである。
……なんてことを書いていたら,やはりある方が筆者と同様に LINE
の実状を危惧して Yahoo! に書き溜めていた記事が,全て削除されたという話が出てきた。行政がしていたら「検閲」であって憲法違反だし,そうでなくたって「表現の自由」を侵害しているように思う。今ドキの会社は,こんなことを平気でするということだ。
少なくとも,個人情報管理やコンプライアンス意識がこの程度の企業グループを「税務署」という公的機関が利用することに問題ないのか。なくはないと思うが。実際,今回の中国への漏えいを受けて,ラインを利用した行政の手続きが次々停止しているとか。信用がその程度と判明したのだから当然。ただ利用者の中で「ラインで直ぐ手続きできるから大丈夫」と,今後も同サービスを使えることを期待していた人たちは,突然それをアテにしない生活に考え直さなければいけなくなったことになる。つまり,こうした民間企業のサービスを利用するということは,企業が何かやらかす度に,その「考え直さなければいけなくなる」状態を繰り返し利用者に押し付けることになるのである。
不祥事というのは,いつもこのように突然発覚するもの。民間のサービスを利用するからには,「利用が突然打ち切られる」という状況は,今後も同様に起きうるわけで,その度に別の方法を考え直す必要が生じることになる。この手の民間サービスを公的サービスに利用すべきではないと,筆者は思う。
いずれにしても,税務署の「予約」ができるのは「ライン」のアプリが動作する程度に新しいパソコンやスマホを持てて利用できる人だけ,ということになる。新しいパソコンも買えない底辺事業者は,予約などできなくてもいい……税務署はそういうスタンスと受け止めている。
こうしたことも考えられなくなっているのが,今の省庁の「中の人」だとしたら,非常に残念。そりゃ,「もうそれ以上書き換えてはいけない」とされた「決裁文書」の書き変えを部下に強制し,自殺に追い込むような人が長官をやっていたくらいだし。「ライン予約」のような疑問点が出続けているうちは,信用回復などないと思うのだが……。
◆ 「密」を避けるべき時に返信用封筒がない
これまで毎年,税務署に申告に行くと,提出する人たちが列を作っていた。そのままなら「密」ですわ。ただ,昨年からいちおうは対策されて,受付の期間は延長され,窓口の間隔も広くとられるようになった。しかし,可能なら並ばずに済んだほうが安全性は高い。で,思い出したのが,いつも同封されていた「返信用封筒」だ。
ちょうど移転の手続きのために開封したところだったので,封筒の中を探したのだが……出てこない。担当者に聞いたところ……今回からなくなったとか。はぁ? この「密」を避けるべき時に,「返送用封筒が同封されていない」だとぅ?……ということは,コロナの非常事態宣言の下でも,郵送せずに,感染のリスク冒して並べとか? だいたいその「リスク」は,むしろ職員のほうが大きいと思うのだが……。
もっとも,使われるかどうか分からない封筒を同封するのにもコストや手間がかかるし,「並ばずに電子申請してください」と言いたいのも分かる。が,時期が時期だ。電子化への対応が十分進んでいると言えない状況で,しかもコロナの拡大防止を優先すべき時に,郵送しづらくすることが妥当だったのかは大いに疑問。
やはり,そうしたことまで考えられなくなっているのが,今の省庁の「中の人」なのだろうか。
◆ 「デジタル署名」による作成者の本人確認
「経緯」の章や「誰でも使える規格……」の章でもちょろっと述べたが,「(デジタル)署名」と呼ばれる仕組みがある。これは,メールの本文や添付したデータ,あるいはサイトからダウンロードしたデータなどが,マサに「作成者が作ったものと違いない」ことを確認/証明するための仕組み。企業向けの有料サービスとして S/MIME と呼ばれるものが,また一般向けで無料で使えるものに GPG と呼ばれるものがある。
作ったデータが,マサに提出者本人が作ったものであるという証明になるなら……もう申告書の提出はこれでいいのではないかという気がするのだが,どうだろうか。これなら,マイナンバーのカードリーダーやら何やらの設備もほとんど不要で,申告書の提出に該当する手続きは,個人の持つパソコンなど,どんな端末からも手軽にできるようになる。
筆者はてっきり,マイナンバーのカードは「本人確認のためのもの」だと考えていたのだが,なんでも別に本人確認が必要だとか。かえって面倒になっているのではないか。今回は,「作成コーナー」を利用して
PDF を作ったわけだが,そのデータに作成者の本人確認を付けられるのだから,それこそ「デジタル署名して提出」すれば済む話ではないか?
それでも「マイナンバー」にこだわるとすれば,理由は何だろうか。何だか「利権」のにおいがする。たとえば「カード」の技術を持つ企業を「利用しないとダメな仕組み」にどうしても持っていきたい……その背景に,「カードリーダー」のメーカーやシステム開発会社と,マイナンバーを主導する省庁の幹部あたりがズブズブの関係で,とにかくその製品を「買わせる」ため,何があろうとも「マイナンバー」を使わせる方向に突っ走っているとしたら……たとえ漏えいが発覚しようと,年金機構の人が「確認しません!」などと「責任放棄」とも受け取れることを平気で断言してしまう理由もそこにあると受け取られても仕方ないだろう。しかし,そうしたしがらみがあるうちは,真に納税者の利便性を考えた申告制度など実現しないのではないかと思う。税務署はちょっと考えたほうがいいのではないだろうか。
詳細については,以下記事の「どうすべきか」の章を参照のこと。
● 「申告書作成コーナー」まとめ
ホントは,この「作成コーナー」のことに続いて,「マイナンバー」についてもいろいろ問題に感じる点を書き並べていたのだが,そちらがあまりにも長くなってしまったので,前述の URL で別記事にすることにした。ここではとりあえず「作成コーナー」についてまとめよう。
全体としては,どこのサイトでもありがちな「最新のブラウザでなければ利用できない」こともなく,その点ではよくできていると感じた。
一方で,不満……というか「要望」としては,こんなところ。
- マルウエアの侵入や詐欺サイトへの誘導などを防ぐためブラウザをスクリプト無効にしてあっても,多少機能は落ちてもとりあえずのことはできるようになっていると,セキュリティ上安心。
- 表計算アプリから複数の項目(セル)を直接コピペできるようなフォームの造りになっていると助かる。
- 記入項目のデータとしてテキスト形式のものを作り公開し,利用者が作ったその文字列をアップ/コピペすれば,自動で申告書が出来上がるような仕組みがあると,表計算アプリやマクロ,その他のスクリプトなどでその文字列を作れる者にとっては助かる。
- GPG などのデジタル署名による作成者の本人確認を認めて,前項のようなデータに署名したファイルを,メール添付や,ウェブでアップロードして済めばすごく助かる。これは,受け付ける側にとっても確認が容易になるなどの利点があると思われる。
それと,じつは筆者は昨年度は大赤字で,赤字申告用の「第四表」というものの記載も必要になったのだが,その「第四表」も作成コーナーで作成できるのかまでは,パッと見では分からなかった。ひょっとするとできたのかもしれないが,もう少し「パッと見」で分かるようになっていれば,利用者も増えるのではないかと思った。
とはいえ,筆者がこの「作成コーナー」の利用ができるのは,今回が最初で最後かもしれない。というのは,通信環境が悪化しつつあるからだ。今年前半で,筆者が利用している ADSL というサービスが打ち切られるのだが,代替契約として提示されたものの料金が,2.5 倍もする。スゴく継続しづらい。だから,それに代わる接続契約が見つからなければ,ネット接続環境はあきらめざるをえなくなり,電子申告は遠退く。
こうしたことを許しているのは,通信を管轄する「総務省」だ。で,マイナンバーとやらを主導しているのも総務省ではなかったか。何だかやっていることがちぐはぐな感じがする。その点についても,前述したマイナンバーの記事に詳しく書いたが,省庁内はもちろん,省庁間でも共通した分かり易い「方針」を持って納税者に示してもらわなければ,混乱するだけである。各省庁は心して欲しいところだ。