いやぁ~バレンタイン前夜(2021-02-13, 23:08)の地震は,さすがにビビった。なんたって揺れが長かった。じわじわ大きくなる揺れ具合に「このまま東日本大震災並に大きくなるのか?!」と不安を覚えた。布団で寝ていたのだが,周囲に倒れて来るようなものはないから,その点では心配はなかったが,少々古い木造の家なので,これ以上激しくなると,自分はよくても家のほうはちょっとヤバいかなと思っていた。
枕元のパソコンで速報を見ようとしたものの,まず Yahoo! はセキュリティ云々で接続さえできない。NHK はレイアウトが乱れていて,どこをクリックすれば地震速報を見れるのか分からない。何のためのネットだ!? 結局,いつも見ている気象庁の地震情報で確認した。
思い出したのは,1年半ほど前に来た台風 19 号(2019)で,避難のタイミングを見極めるため,当時住んでいた自宅の近くを流れる多摩川の水位をネットで監視していたら,ことごとく情報源が断たれたこと。やはり NHK はどこを見ればいいかよく分からず,Yahoo! や国土交通省の水位情報も,最寄り観測点の表示が「ゼロ」とか……嘘だろ。上流と下流の水位は上昇中なのに。役に立たんなぁ。何のためのネットだ!?
それを思い出し……「歴史は繰り返す」なんて言葉が頭をよぎった。
その台風で「迫り来る多摩川氾濫危機」の時の,手に汗握る(?)話は,以下を参照。長いので,ヒマな時に「読み物」としてでも。^^;
話を今に戻すと,その後のネット記事でも,やはり「東日本大震災を思い出した」という人がいた。今回のも,その地震の「余震」だというから,イメージがダブっても不思議ではない。両地震の震源も近いし。
思えば,その時の総理大臣は「菅(かん)直人」氏だ。そして,今の総理大臣は「菅(すが)義偉」氏……ん?! んん?!……よりによって同じ字だとぅ?! やはり「歴史は繰り返す」のか!?
● 繰り返される最新ブラウザの「強要」
結局,自宅では地震はそれ以上は大きくならず,何とか収まったものの,もっと大きな揺れの地域がありそうで心配になり,枕元のパソコンで速報などを見ようとしたが,こういう時に限って,うまくいかない。
まず,Yahoo! は確実にダメ。セキュリティが対応していないというメッセージが出て,接続さえできない。(詳細は後述)
NHK もなかなか表示しない。やはり同じ考えの人が一斉にサイトにアクセスし,遅延が生じているのかもしれない。ところが,やっと表示したと思ったら……非常に分かりにくいレイアウト。地震の詳しい情報を見るのにどこをクリックすればいいかなんて分かりゃしない。普通の人はここであきらめるだろうが,筆者もエンジニアの端くれ,他の手段もいろいろ考えることができる。この時は,RSS という「記事一覧の要約ファイル」を読み込み,そこから辿ってやっと見れたのだった。しかし直後の「速報」だったからか,大雑把な内容しか分からなかった。もしかすると,RSS で扱うのは一般ニュースまでで,詳しい速報などを扱う常設の防災コーナーの記事は掲載しないのかもしれない。だとしても,その時使ったパソコンでは,それを知ることはできなかっただろうが。
その後,気象庁サイトを呼び出し,震源と揺れの地域強度分布など,知りたいことがひと通りわかった。まぁ,気象庁サイトはいつも見ているから,どこを見ればいいかある程度分かっていたのもあるだろうが。
逆に言えば,少なくとも Yahoo! と NHK サイトは,「知りたい!」という時に,結果的にあまり役立たなかったことになる。
とはいえ,じつはその「枕元のパソコン」というのは,就寝前にフと思い立ったことを調べたり,あるいは,なかなか寝付けない時の暇つぶしとか,あまり頻繁に使うあてのない「サブ」のもので,OS も XP と古い。そのためブラウザも,古い機種でもわりと動作が早い Opera というものが入っているが,使っている人もそんなにいないためか,よく「サポート対象外」とされてしまうブラウザではある。Yahoo! や NHK
のサイトが役に立たなかったのも,その辺りが原因だろう。
だから,こうしたことでサイトの管理者に「地震速報が正常に見れなかったぞ!」とクレームしたところで,たいていは「それはサポートの対象外です」と言われて終わりだ。サイト利用上の注意書きなどに,よく「ブラウザは最新の状態でご覧ください」と書いてあるのは,そうしたクレームに対する「言い訳」……いわば「予防線」みたいなものだろう。つまり,悪いのは「最新のブラウザで見ていない(閲覧者)側」ってことにしたいのだ。と言ったって,今さら XP に対応した「最新のブラウザ」などあるわけないし,あったとしても,そういった古いパソコンでも使えるブラウザは,Edge(エッヂ)や Chrome(クローム)などと同じような「サポート対象」の扱いはされないだろう。
しかし,もっと深刻な「緊急事態」がいつ起きるかなど分からない。今回は,筆者の住んでいるところは大事に至らなかったが,たまたまその場で使える機械が「古いものしかない」という状況下で「緊急事態」が起きない保証はない。普段使っているパソコンやスマホでも,故障で修理中とか,在庫管理用に古いパソコンがあるだけの倉庫のようなところでバッテリーが切れたりして,そこで使えるものが「アップデートもできないブラウザだけ」という状況は,いくらでも考えられる。そこで地震が来てしまい,津波があるか,避難すべきかどうか知りたい時に,Yahoo! や NHK は役立たないかも……それでいいのか,という問題だ。
筆者は他の記事でも度々触れるが,障害者などは古い機械を使い続けざるを得ないことも多い。その人の障害に合わせてパソコンを操作できるようにするソフトが,新しいパソコンに対応していなかった場合は,パソコンを新しくしてしまうと,当然パソコンも使えなくなるからだ。
そんな状況で「緊急事態」が起きたら……やはり Yahoo! や NHK のサイトからは情報を得られなくなる要因を含んでいることになる。
だから,Yahoo! や NHK のような「古いパソコンで見れない」サイト設計は,端的に言えば,「最新パソコンを使えない貧乏人や障害者は,防災情報など見れなくていい」という扱いをしているに等しい。当事者はおそらく「そんなつもりはない」と言うだろうが,「実質的に」そうなってしまっているのが事実。実際,古いパソコンで見れなかったのだし。サイトに書いてある「最新のブラウザでご覧ください」という注意書きは,「見れない人のことなど知らん」という明確な意思表示のように見える。その注意書きさえ掲げておけば,防災情報を見れなかった人が犠牲になっても,「最新のブラウザで見るように掲示していたのに,そうしなかったほうが悪い」と言える。つまり,経済的に入手困難であろうと,障害者用ソフトが未対応なためだろうと,理由はどうであれ,最新の機械を使えなかった側がイケなかったことにできるわけだ。
古い機械でも,せめて簡易な防災情報だけでも見れれば,避難の必要性に気づいて助かる人がいるかもしれないが,何も見れなければ,避難のタイミングを逃して死に至る人が出る可能性も考えられる。が,残念ながら Yahoo! や NHK では,そこまで考えられない人たちがサイトを設計していて,そこに防災情報も含まれているということだ。
● 繰り返される SSL の弊害
それでも NHK は,レイアウトは崩れつつも何とか見れた。一方で,Yahoo! のサイトは接続すらできなかった。原因は,たぶん「SSL」だ。
SSL というのは,データの供給元と要求側との間で送受信するデータを暗号化する方式。これにも様々な方式があり,「新方式」も考えられつつあるから,古いブラウザで対応できなくなることは十分ありうる。
しかし,これも度々記事に書くが,「パスワード」など,その人しか知り得ない,あるいは,他の人に知られてはいけない内容はともかく,「防災情報」など,広く多くの人に知られるべき情報を暗号化し,特定の(データを受信する)人しか読めなくする意味などあるだろうか。
筆者のパソコンは,古いとはいえ,SSL で接続できるサイトもある。Yahoo! に接続できなかったのは,たまたま Yahoo! が採用をしていた
SSL 方式に対応できなくなっていたためである可能性が高い。
だが,別のパソコンでは,そんなに古くないのに Yahoo! が使えないという現象も見たことがある。それはある病院の休憩室に置かれていた共用のパソコン。筆者が使った XP よりも2世代ほど後のものだったと思う。壁に「Yahoo! はつながりません」と貼紙がしてあった。当然,そこで緊急事態が起きたら,Yahoo! サイトは役に立たない。
なぜか。「おそらく」だが,その病院のネット環境で,特定の接続が制限されていたためではないかと思う。SSL の接続では,「認証局」と呼ばれる第三者による確認を必要とする。だから,その「認証局」への接続が何らかの理由で制限されていたら,Yahoo! への SSL 接続もできないことになる。たとえ Yahoo! への接続は制限されておらず,パソコンとブラウザが Yahoo! の SSL 方式に対応していても……である。
ここで大きな問題だと感じるのは,「つながらない」ということを,データの供給側……つまり Yahoo! 側から知ることはできないのではないかという点。Yahoo! からデータを欲しいブラウザが,Yahoo! が指定する SSL の「認証局」に接続できなければ,Yahoo! へのデータ要求もできずに終わることになるが,Yahoo! からは,ただ単にデータ要求が来なくなっただけにしか見えない。つまり「データは要らないのね」という解釈になる。じつはデータを要求する側は要求を持ち続けていたとしても,それが「認証局」への接続ができないため要求を出せない,と判断できる材料は,Yahoo! 側は手に入らないものと思われるのだ。
突然ですが,ここでガラっと話題変更! 3つのお店が軒を連ねていて,ある日,端の店が「日本一安い店!」という看板を掲げた。それを見た反対側の店が「世界一安い店!」という看板を掲げた。で,それらを見た真ん中の店は……「↓入り口はこちら」と看板を出したとか。
もしここで両側の店に客が入って来なくなったとして,そこの店の人は店の中からその理由を知ることができるだろうか。来たお客に来店の理由を聞くことはできるが,来ない客には何も聞けないのだ。
閑話休題,Yahoo! にデータ要求されない理由を,Yahoo! が内部から知る手段があるだろうか。Yahoo! がデータの要求者に対して「お前に渡すデータなんかねぇ!」というレスポンスを返すのならば,そこには
Yahoo! なりの理由もあるだろうが,述べたように SSL では,ブラウザ側で,Yahoo! が採用した SSL 接続に対応できないと分かった時点で,単純にブラウザが要求を出さずに終わるだけ……つまり,前述の「お客が来ない」のと似たような状態になる。その理由を,アクセスが来なくなった Yahoo! から知ることは困難と思うのだ。それでも,3軒のお店の例では,表に出て看板を見れば理由が分かるかもしれないが,述べたように,多くはこうしたサイトは「サポート外」としたブラウザは動作確認もしない……つまり「外を調べない」のが普通。「見れないぞ!」とクレームしたって,「SSL 未対応ブラウザはサポートしない」ことになっていれば,調べられることはないのだ。クレームを出す人は全体のごく一部だろうと考えれば,SSL にブラウザが対応せずつながらない人は何十倍もいると予想されるが,Yahoo! の中の人は,その事実に「目隠し」させられたも同然だ。この状態が続く限り,その SSL 未対応のブラウザを使う人たちに,Yahoo! の防災情報が役に立つことはない。
これが,「SSL 接続を常用するリスク」だ。
しかし,これはあくまで SSL 接続の場合の話。「SSL 接続」というのは,URL(ウェブアドレス)の最初が https だが,現在でも,SSL を使わない http で始まる接続もある。だから,早い話,防災情報のような「誰でも見れて当然」の情報には,SSL 接続を使わなければいいだけだと思うのだが。
Yahoo! も元々は,「ログイン」などを除き SSL 接続ではなかった。おそらく前述の病院でも,その頃は見れたが,トップページが SSL を採用した頃から接続できなくなったのではないか。せめて,トップページと,そこからリンクする防災情報のページなど,誰でも読めるようにすべき記事は,SSL にしなければよかった話……のような気がするが,今さらサイトの設計を変えるのは,やはりむずかしいのだろうか。
じつは筆者サイトのサーバも,SSL 接続に対応している。が,一般の記事にその接続を使っていないのは……つまり,そういうことである。今は何かと「SSL 接続」が推奨される傾向があるが,疑問でしかない。
◆ 気象庁の「切り捨て」フラグ
今回の地震では,とりあえずは気象庁のサイトで情報を見ることができたものの,残念ながら気象庁も,他省庁や民間企業並に「切り捨て」の方向なのかなという感じがしている。
じつは筆者は現在「スマホ」というものを持っていない。厳密に言うと,持ってはいるが,家族の「おさがり」の iPhone のために,やはり古い。接続契約もない……たぶん古くて「できない」。それで気象庁のサイトを見ていると,残念ながら,あちらこちらにこんな画面が出る。
▼ 気象庁の未対応ブラウザ表示 |
前述のものは「以前から」だが,ちょうど最近(2021-02-20)「気象庁サイトがつながらない」というニュースがあった。24 日から新しいサイトの運用が始まる予定だったらしく,臨時にそちらに切り替えていた部分もあったらしい。それが原因かどうかは分からないが,レーダーやアメダスの画面で「画像だけが表示されない」という現象が起きた。下の画像のように,一番見たい情報が見事に表示されていなかった。
▼ 気象庁のレーダー/アメダス画面 |
しばらくしたら,表示されるようになっていた。つながらない不具合が復旧したのだろうか。ということは,ひょっとすると,その「新しいサイト」になったら,また表示されなくなるのかもしれない。
じつは他のサイトでも,やはり画像だけ見れないという現象が起きることがある。その原因は,画像の SSL だけうまくアクセスできないためのようだ。気象庁の「新しいサイト」がそうでないことを祈りたい。
気象庁といえば,大雨や地震など,災害に直結するデータも扱う。時として命に関わる情報だ。だがこのままだと,筆者の自宅周囲で何らかの災害が起きた時,たまたま使える機械がこの iPhone だけになってしまったら,避難のための情報が得られなくなってしまう。筆者だけではなく,新しい機械に未対応のソフトを使わざるをえない障害者や,特に緊急時は,「たまたま古い機械しか使えない」状況も起こりうる。防災に直結する情報は,それを見る機械が新しかろうと古かろうと見れるようになっていなければ犠牲者が出そうに思うのだが……やはり気象庁も「最新の機器でご覧ください」とか言って切り捨てるのだろうか。
念のため言っておきたい。緊急事態ともなれば,バッテリー切れ,水濡れ,紛失などで,「最新機器が使えない」事態も起こりうることを。
● なぜ「繰り返される」のか
東日本大震災の時に,NHK の放送をネットで流した人がいたらしい。そこだけ見れば明らかに「違法」だと思うが……その後,当の NHK が何をしたかといえば……じつは筆者は見ていないが(たぶん,パソコンが古くて見れない),NHK 自身がネットで同時配信を始めたらしい。
なぜそうしたのか。それは「防災情報」だからだ。多くの人に知られてしかるべき情報だったからだろう。つまり「多くの人に知らせるべき情報」は,「知らせる手段」も多様であるべき……そうした判断があったから,NHK もネットで流されたことを責めないどころか,同時配信まで始めたのではないだろうか。
そんなことがあったくらいだから,防災情報の発信における「媒体の多様性」の重要性……つまり,防災情報は様々な手段で得られるようになっているべき,という考えは,東日本大震災の時点で気付かれていてもよさそうな気がする。それなのに,防災情報を扱うサイトで「古いパソコンしか使えない人に合わせる必要などない!」と言わんばかりに,サポート対象を新しめのブラウザに限定し,古いブラウザではまともに表示しないサイト設計がまかり通っているのは,述べてきたとおりだ。
こうした実態がなぜ起こるのか。そこには,ウェブサイトに限らず,ネットサービスなど,諸々のシステム開発が,極端な「トップダウン」で構築されるという構造的問題があるように思う。
以前見たイラストで印象に残っているものがある。大手の製造業で,AI システム導入に際し陥りがちな状況を示したもの。それがこちら。
解説と,「理想的な開発体制」を示した図はこちらから。
注目して欲しいのは,上記記事内の「理想の開発体制」にある図は,矢印が双方向である点。一方「現実……」のほうは,全て片方向だ。
上記は「大手メーカーの AI 導入」での話だが,別に AI に限った話でもないような気がする。「社長の思いつき」から実際に「システム」として機能させる末端の設計をする「フリーエンジニア」に至るまで,どういった人や業者の手を経るのか。上記を参考に,筆者が,今ドキのシステム開発一般にあてはまりそうな図にしたものが,こちら。
▼ システム開発 |
図の上から順に,以下のような人や部署,業者の手を経るのが,最近の「システム開発」の傾向なのではないかと考えている。
- 思いつきだけで「金儲け」しかアタマにない社長が,アバウトな指示を出す
- それを聞いて,指図したいだけで「分析力」のない部長が,一次下請けに発注し,できたシステムを使うよう現場にも指示を出す
- じつは実績が欲しいだけで「現場」をよく知らない一次下請けは適当に二次下請けに仕事を割り振る
- ただ仕事が欲しいだけで「エキスパート」のいない二次下請けは知り合いのフリーエンジニアに部分的な製作を再依頼
- お金が欲しいだけで「セキュリティ/バリアフリー/人命尊重」など知ったこっちゃないフリーランスのエンジニアは,細かいことは知らされず,ただ言われたとおりの動作のものを作って渡すだけで,それが何か不都合の原因になろうと知る由もない
- 指示に従うだけで「問題点」を上げられない現場は,一次下請けが現場の事情をよく知らないまま作ったシステムを押し付けられて,結果的に問題が増えたりして,疲弊していく
そして図では,一次二次の下請けと現場,部長あたりとの間に複雑に矢印が絡み合う。こうして「責任」の所在があいまいになっていくような気がする。そこで,そこに「責任ロンダリング」と書いてみた。
現実はどうだろうか。
一昨年(2019)あたりから,様々なスマホ決済が登場したが,次々と不正利用が発覚した。まず一昨年初頭,スマホ決済である「ペイペイ」の不正利用が大量に発覚し,問題になった。その数ヶ月後,今度は「セブンペイ」という決済システムで大量に不正が発生。さらにその数ヶ月後,また「ドコモ口座」という決済システムで不正が起きた。
筆者が描いた図で,この場合の「現場」は決済を利用する場と考えると,一次下請けが実質的にそうした決済を「使わせる」という意味で,矢印が現場に向いているが,逆向きは描かなかった。これは,たとえば「サービスがうまく機能しないぞー!」とクレームしても,「サポート対象の機器以外はサポートできません」とか言って,いくらでもサポートの対象から外せるからだ。つまり,現場から運用会社に向けた声は,聞き入れずに済む構造になっているというわけだ。
そして,エキスパートのいない二次下請けから,そこで対応できない部分をフリーエンジニアに依頼する部分も,矢印は一方通行だ。依頼を受けたフリーエンジニア側で,「もし言われた通りのままのものを作ったらセキュリティの脆弱性が残る!」と気付いても,「こんな設計では不正使用されますよ」なんてことを言おうものなら,「そうか! では二度と頼まん!」と言われると弱い立場だ。そうした欠点を詮索せず,どんな欠陥があろうと「モンク」を言わず,ただ言われたままのものを作って上げてくれるエンジニアが重宝されるだろう……といった意味。
さて,セブンペイは,たった3ヶ月でサービス終了に追い込まれた。
ネット掲示板などを読んでいると,セブンペイで使われたコード……この場合の「コード」というのは,ネット上で使われるコンピュータ用のプログラムのことだが,そのコードが公開されていたという話もあった。それを知ったソフト担当の会社が,慌てて「公開しないよう」請求を出したとか。事実なら,「内部でどのように本人確認しているか」などが,バレバレだったかもしれない。末端の「フリーエンジニア」がどうやってコードを書いているかを上が関知していないことがよく分かる例だ。この手のフリーエンジニアは,黙って仕事を受け取り,言われたままを形にするだけで,公開コードでも何でも利用するだろう。仕事をもらえなくなるとマズいから,上からの指令の欠点……たとえば,認証方法のアマさに気付いても,それを指摘することもない。ただ言われた通りに動くものを黙って作ればいいだけだから,公開されているコードを使うリスク……たとえば,認証方法がモロバレとか,古いパソコンに対応できなくなって利用できる人が減る可能性など,潜在的な悪影響も気にせず使うのではないか。その一端が「セブンペイ」の話だと考えると,不正が起きるのも当然。こうして,セキュリティの脆弱性が残り,と同時に,古い機械に対応しなくなり,利用できる人は減っていく。今まさに,様々なシステムで起きていることではないだろうか。
そして,筆者の図には「責任ロンダリング」などと書いたが,そこから上……つまり,部長や社長に向かう矢印が全くないのも,最近の日本のシステムの特徴だ。ペイペイの時点で,不正が起きる要因を知る機会があったにもかかわらず,セブン,ドコモと似たような失敗が繰り返されたわけだが……これらの問題で,どこに責任があるか詳しく調べられただろうか。部長,社長クラスの役職の人が,何らかの形でその責任を負っただろうか。筆者は今のところその手の記事を読んだことがない。
こう書いて来ると,COCOA について触れないワケにもいかないような気もする。「COCOA」とは,厚生労働省から公開されているスマホ用のアプリで,同じアプリを入れたスマホを持った別の人が,一定時間以上近くにいたら,そのことを記録し,その中の誰かが新型コロナウイルスに感染していたことが発覚した時に,記録を辿ってその人の近くにいた人に通知するアプリ……のはずだったが,昨年(2020)の9月以降は,機能していなかったという話だ。
もっとも,このアプリの場合は,元々「有志」が作ったものと言われている。本当にそうなら,タダ同然のはずだが……それを,管理のためとか何とか言ってアップデートしたのが昨年の9月で,そこで何社かの企業に3億円ほど税金をつぎ込んだらしい。
本来なら,正しく機能して,通知された人がとりあえず出歩くことを控えるなどしてくれれば,感染拡大を防止できていたはず。通知されていなかったということは,濃厚接触者が気付かずに出歩き,感染拡大を阻止できていなかった可能性も高い。では,その責任はどこにあるか。実際に元々が「有志」による開発なら,筆者が描いた図でそれに相当する末端の「フリーエンジニア」は,ここではほとんどタダ同然なのだから,責任を負わせられるものではない。かと言って,図で部長や社長に相当する厚生労働省には矢印は向いていないから責任を取ることはないだろうし,請け負った何社もの会社間で「責任ロンダリング」も「キチンと」働くだろうから,たぶん責任の所在はうやむやになる。そうなれば,費やされた国民の税金3億円は,ただ水の泡と化すということだ。
こんなことをしていて「コロナが一段落したら,対策に費やした分を回収するため消費税を 15% にしよう」という案が出ているのだとか。働く気を失ない「ニート」が増えるだけのような気もする。
COCOA アプリ入れるより,抗ウイルス性があると言われているココアを直接飲んだほうが,対策として正解ではないかという気もする。ちなみに筆者は毎日愛飲している。
Yahoo! や NHK など,地震があっても速報がまともに見れないウェブサイト設計をはじめ,何とかペイにしても COCOA にしても,不具合が出る要因には筆者が描いた図と同様な構図があるのではないかと思う。トップは「思い付くだけ」で,ネットのシステムや IT の仕組みをよく知らないから,下に任せっぱなしになる。結局その「下」というのも,細かい部分までは分からず,知っている「さらに下」に任せてしまう。知らないまま任せるから,責任がどこにあるのか分からなくなる。分からないまま,お金だけは持っていけるという仕組みを作り,その仕組みを作った人たちの間でお金が行ったり来たりしているだけなのが,今の社会構造。これで「トリクルダウン」など起こるはずないわけで,当然「子作り世代」に,子供を生み育てられるだけのお金が行き渡るはずもないように思う。ある意味,子供を育てられるだけの収入が見込めない時に結婚も子作りもしないのは「考えるチカラがある人」ではないか。一方,COCOA の不具合の責任云々の前に「コロナ後は消費税を 15% にしよう!」などという案を出してくる政府は,同時に「少子化でたいへんだ!」などと騒いでいたりしないか。COCOA を無用の長物にするために3億円を費やすくらいなら,不妊治療の補助に充てたほうが,よほど少子化対策になる気がするが。「考えるチカラ」の程度が知れる。
述べたような構造がセキュリティの脆弱性を生むとか,障害者が自分の障害に対応させるために古いパソコンしか使えない場合もあるから,なるべく古いブラウザでも同じ画面を見れるようなウェブサイト設計にすべきだ……なんてことを筆者が主張したところで,まず受け入れられることはない。クレームを入れたところで,「サポート対象の最新のブラウザで見ればいい」と言われて門前払いされるだけだ。
なぜそうした対応になるのかといえば,どうすれば古いパソコンでも同じ内容を扱うことができるようになるかとか,セキュリティについてどれほどの安全性なのか,といったことは,「責任ロンダリング」の中で,その責任がどこにあるか分からなくなっているからだろうと思う。筆者の図で,末端のフリーエンジニアから上に向かう矢印がないから,どうすれば古いブラウザにも対応させられるのかも,セキュリティがどうなっているのかも,コードを作った人から伝えられず分からなくなるのだ。末端のエンジニアが作ったコードが,最新ブラウザでしかまともに動かなければ,サポートをそれに限るしか打つ手がないわけで,それで不具合が出てしまったら,どこが悪いのかも分からないわけだ。
◆ 最新テクノロジーが作る「愚かな世代」
最近のシステムは複雑で,不具合が出た時,末端のどこに原因があるのか特定もむずかしい。それは逆手にとれば,責任をうやむやにできるということ。「責任ロンダリング」構造は,関係する業者にとってたいへん都合のいいものでもある。「お金だけ持っていける」からだ。
しかし,こうした構造を温存させていて,社会が「いい方向」に向かうだろうか。アインシュタインは,こんな言葉を遺しているらしい。
テクノロジーが人間を上回る日を私は恐れている。世界は愚かな世代でいっぱいになるだろう
ネットや(コンピュータ)通信の仕組み,セキュリティなどよく知らなくても,ネットサービスの提供を始めることができて,稼ぐことができてしまう。なぜなら「下請け」に全て丸投げして,コードを書かせればいいからだ。セブンペイ不正事件の記者会見で,社長がセキュリティの「二重認証」について聞かれた時,首を傾げていたのだとか。
一方,ネットや通信の仕組み,セキュリティなどよく知らなくても,スマホさえ持っていれば,そのサービスを利用できてしまう。
仕組みをよく知らない人がサービスを提供し,仕組みをよく知らない人がそれを使う。マサに「テクノロジーが人間を上回る」状態になってしまったように見える。まずは,アインシュタインの「恐れ」の段階はほぼ現実化していると言えそうだ。
そして,それらの仕組みをある程度知っている人たちが,その知識を悪用し,知らない人たちをおとしめる犯罪に走る。その結果が,一連の「何とかペイ」の不正使用や,次々と出てくるフィッシング詐欺と考えれば分かり易いだろう。
サービス提供側も「仕組みを知らない」から,どこに問題があるのか調べる能力もない。その結果,似たような失敗を繰り返す。何とかペイで,いったい何度「不正使用」されたことか。そこで犯罪の被害に遭ってしまった人が,サービス提供者にその補償を迫ったところで,「実質的に開発をしたのは自分ではなく,悪用される点も知らなかったのだから,責任はない」的な主張を平気でしてしまったりする。
実際に,世界は愚かな世代でいっぱいになりつつあるように見える。
さて,「マイナンバー」の一部データが中国に渡っていたという話が出てきているらしいが……誰がどう責任を取るのか……取らないのか。
じつは先月下旬,筆者の元にもカード会社を装う詐欺メールが届いたのだが,発信元は中国だった。中国にマイナンバーのデータが渡ったということは,オンライン登録をした人は,同様なリスクが高まったということかもしれない。その実際に受信した詐欺メールを例に,詐欺かどうかの判断方法や,詐欺メールと分かった時の通報先など,以下で詳しく説明している。
一方で,「ムーミン」の中には,こんな言葉も出てくるらしい。
お金を持ってる人々は、指示を与えてきたり、与えようとする。しかし花は持たない。
この言葉,筆者はこう解釈している。
お金持ちが自分を優位にしようとして,他の人に何かしたり,させようとしたりすることに,人を幸せにするチカラはない。
NHK サイトでレイアウトが見にくかったのも,Yahoo! サイトが SSL
未対応で全然見れなかったのも,高収入の「上司」からの指示で,やたらと凝ったレイアウトにしろとか,最新の SSL を採用しろとか言われたのかなと思う。おかげで,地震速報もまともに見れなかったわけだ。幸せになるどころか,むしろ身の危険が増した人が増えたのである。
こうした構造が温存されたまま,「社長の思いつき」や,省庁など,「上が」自分たちの都合だけで作ったシステムにただ従っているだけでは,末端の現場,引いては社会がいい方向に向かうとは思えないのだ。下請けの民間企業が,現場からのクレームに対し「最新の機器でご利用ください」的なことを言い,サポートをいくらでも避け続けることができるうちは,まともなサポートなどできない。COCOA の不具合に4ヶ月も気づかなかったのも,そうやって現場の声が軽視されたからだろう。
ひょっとすると因果関係が逆のこともあるかもしれない。つまり,まともにサポートする能力がないから,「最新の機器でご利用ください」的なことを言って,サポートせずに済むようにしているのかも。末端のエンジニアがどんなコード書いているかまでしっかり管理できていなければ,そうした状況も十分に考えられそうだ。たとえ機器が最新でも,たとえば Yahoo! ならソフトバンク系だから,「接続会社がソフトバンク以外の場合は調べられません」とか言えば,サポートをせずに済んでしまう。実際は調べることができたとしても,利用者側からそれを知る術はないのだから,言いたい放題できる。これも一種の「責任ロンダリング」のような気もする。
筆者が描いた図は,「弱者切り捨て」の構造でもあり,しかもそれが「弱者切り捨て」につながっていると気付かれにくいため,放置されているというのが,今の社会の現状だと思う。障害者向けソフトが新しい機械に未対応だとか,あるいは経済的理由などで古いパソコンしか使えない人のことなんか,システムを作る側の「お金持ち」たちにとって,知ったこっちゃないのだ。たとえ命に関わる可能性のある防災情報であろうと,「最新のブラウザ」でなければ見れないサイトに平気で載せ,見れなくなる弱者を切り捨てているのが実態だ。
いつの時代も,一部のお金持ちや権力者などの「強い者」が,自分の都合だけで指示を出し,弱い者が犠牲になる。歴史は繰り返すのだ。
筆者サイトは,なるべく既存コードを使わず独自設計している。今後も極力「弱者」を切り捨てない設計を続けていきたいと思っている。
最初に,東日本大震災と,その余震と言われている先日のバレンタイン前夜の震度6強レべルの時のそれぞれの総理大臣が,「菅(かん)」さんと「菅(すが)」さんと同じ字で……歴史は繰り返すのか,などと書いたが,「菅(かん)」さんと言えば,O157 という病原性大腸菌が原因と思われる集団食中毒が起きた時に厚生大臣だった。「食材として共通していたのはカイワレ大根だ」などと確認しきれていないうち公表してしまい,業者の反発を買って,それを払拭すべく,カイワレ大根をパクついて見せていたのが印象に残っている。そして総理大臣になった時,東日本大震災が起きたのだが,少し後に,福島の野菜が放射能汚染されているとの風評が広まって……今度は福島産のきゅうりか何かをかじっていた映像を見かけたりした。やはり「歴史は繰り返す」のか。
「菅(すが)」総理は何かパクつくのだろうか……GoTo Eat! で?