この記事は,ダイハツ社サイトで公開されている PDF をテキスト化し,車種の五十音順に並べて,「音読ソフト」などでも聞き易くなるように意識して編集したもの。元ファイルは以下。ダウンロードした日は 2023-12-22 で,サイズは約 1.5MB。
● はじめに
今回のような不祥事が表面化する度に,いったいメーカーは消費者や安全性を何だと思っているのかと感じる。
で,こうした車種リストを公表するだけマシかと思いきや,案の定,PDF が公開されただけ。筆者は当サイトの他の記事でも度々指摘しているが,PDF というファイル形式は,テキストの検索や「音読ソフト」が正しく機能しないことがある。実際,この記事の元とした PDF をダウンロードして,テキストエディタやワープロなどに内容をコピペしてみれば分かるが,ところどころ順番がバラバラになり,そうした箇所では「車種→販売開始年月」の対応が正しくなかったりする。これを「音読ソフト」がその「正しくない対応」で読んでしまった場合,聞いた内容を真に受けると間違った認識をしてしまうことになる。
とはいえ,ウェブ記事を音読ソフトで聞く必要があるほどの人がどれほど自動車を運転し,その手の情報が必要なのかという疑問も出るかもしれない。ただ筆者としては,こういったことは様々な形式で知ることができるようにしておくべきだと考えている。たとえば視覚に障害がある人が,たまたま知り合いが乗っている自動車がダイハツ製だと知っていたとか,自分の利用している施設の送迎で利用しているものはどうか心配になったりとかした時に,もしこの記事のように「音読ソフト」で聞ける記事があれば,自分で調べることができて,該当する自動車であると分かれば,直ぐに伝えることができる。言い方を換えると,手段をなるべく多く提供することで,「調べられる人」が増えるわけだ。が,「音読ソフト」で正確に読まれない PDF のファイルのみでは,「正確な情報」を知ることができる人が減ってしまう。リコール対象となった時にそれを伝えてくれる人も少なくなるわけで,知らないままになる人も多くなり,後に事故につながる可能性も高くなる。だから,こうした情報は様々な形式で読めるようにしておくべきだと考えている。
というわけで,PDF を読める環境にない方,体の事情などで音読ソフトで聞いて確認したい方のため,ダイハツ社の PDF ファイルをテキスト化したものをとりあえずアップしておく。もちろん,当サイトの他の記事同様,URL の末尾(# より前)に“.txt”を付加して読み直すと,本文のみプレーンテキスト形式で読めるので,音読ソフトが HTML 形式では聞きにくい時などは,プレーンテキストもお試しのほど。
ただ,元のファイルが非常に分かりにくい。たとえば,「生産中」と「販売終了」の車種が別けて書いてあるのだが,どちらにも同じ車種が記載されていたりして,どう違うのかが分からない。具体例としては,「ジャスティ」という車種は3つ記載されているが,これは一覧の中で「生産/開発中」と「販売終了」と「エンジン搭載」の3箇所に記載されているため。しかも,販売終了の一覧内には「現在生産しているモデルでは採用していない仕様」と記載されているのに,「生産/開発中」の一覧にも記載があり,おまけにそれがどちらも発売時期が同じで区別がつかないというめちゃくちゃなリスト。
他にも,「生産/開発中」と「販売終了」など複数記載のある機種があったが,とりあえずそのままテキスト化して掲載したため,以下でもダブッている。生産/開発中のものは「販売開始」と記載,販売終了したものは「販売期間は……」と記載した。結局は販売開始まで同じ車種は一覧を見ただけでは何が違うか分からない……と,元の内容が非常に分かりにくいので,「メーカーに問い合わせる必要性」の判断のための「とりあえずのチェック用」程度に考えて利用してもらえればと思う。
自動車は人の命を乗せるもの。その命を乗せる消費者に正確に伝えようという意識は,メーカーにあるのだろうか。
● 五十音順の不正対象車種名
- iQ(トヨタの登録車 販売期間は 2008 年 11 月から 2016 年 3 月まで)
- アトレー(デッキバン含む)(ダイハツの軽自動車 2021 年 12 月 販売開始)
- アプローズ(ダイハツの登録車 販売期間は 1989 年 7 月から 2000 年 4 月まで)
- アプローズ(ダイハツ車搭載 HD 型エンジン 販売期間は 1989 年 7 月から 2000 年 4 月まで)
- オプティ(ダイハツ車搭載 EF 型エンジン 販売期間は 1994 年 9 月から 1998 年 9 月まで)
- キャスト(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2015 年 9 月から 2023 年 6 月まで,※ リコール対象: 2024 1/24 追記)
- グランマックス(ダイハツの登録車 2020 年 9 月 販売開始)
- コペン(ダイハツの軽自動車 2014 年 6 月 販売開始)
- コペン(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2014 年 6 月から 2019 年 9 月まで)
- コペン(トヨタの軽自動車 2019 年 10 月 販売開始)
- サクシード (*新名称 プロボックス)(トヨタの登録車 2014 年 8 月 販売開始)
- サンバー トラック(SUBARUの軽自動車 販売期間は 2014 年 8 月から 2020 年 8 月まで)
- サンバー (バン)(SUBARUの軽自動車 販売期間は 2020 年 9 月から 2021 年 11 月まで)
- サンバー トラック(SUBARUの軽自動車 2021 年 12 月 販売開始)
- サンバー(バン)(SUBARUの軽自動車 2021 年 12 月 販売開始)
- シフォン(SUBARUの軽自動車 2019 年 7 月 販売開始)
- ジャスティ(SUBARUの登録車 2016 年 11 月 販売開始)
- ジャスティ(SUBARUの登録車 販売期間は 2016 年 11 月から 2020 年 8 月まで)
- ジャスティ(SUBARU車搭載 1KR-FE エンジン 2016 年 4 月 販売開始)
- ステラ(SUBARUの軽自動車 販売期間は 2014 年 12 月から 2023 年 6 月まで)
- タウンエース (*旧名 ライトエース)(トヨタの登録車 2008 年 2 月 販売開始)
- タフト(ダイハツの軽自動車 2020 年 6 月 販売開始)
- タンク (*新名称 ルーミー)(トヨタの登録車 2016 年 11 月 販売開始)
- タンク (*新名称 ルーミー)(トヨタの登録車 販売期間は 2016 年 11 月から 2020 年 8 月まで)
- タント(ダイハツの軽自動車 2019 年 7 月 販売開始)
- トール(ダイハツの登録車 2016 年 11 月 販売開始)
- トール(ダイハツの登録車 販売期間は 2016 年 11 月から 2020 年 8 月まで)
- トール(ダイハツ車搭載 1KR-FE エンジン 2016 年 4 月 販売開始)
- ハイゼット (カーゴ)(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2020 年 9 月から 2021 年 11 月まで)
- ハイゼット カーゴ(デッキバン含む)(ダイハツの軽自動車 2021 年 12 月 販売開始)
- ハイゼット トラック(ダイハツの軽自動車 販売期間は 1999 年 1 月から 2011 年 11 月まで)
- ハイゼット トラック(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2014 年 8 月から 2020 年 8 月まで)
- ハイゼット トラック(ダイハツの軽自動車 2021 年 12 月 販売開始)
- パッソ(トヨタの登録車 販売期間は 2016 年 4 月から 2023 年 9 月まで)
- パッソ(トヨタ車搭載 1KR-FE エンジン 販売期間は 2016 年 4 月から 2023 年 12 月まで)
- ピクシス エポック(トヨタの軽自動車 2017 年 5 月 販売開始)
- ピクシス エポック(トヨタの軽自動車 販売期間は 2017 年 5 月から 2018 年 8 月まで)
- ピクシス ジョイ(トヨタの軽自動車 販売期間は 2016 年 8 月から 2023 年 6 月まで,※ リコール対象: 2024 1/24 追記)
- ピクシス スペース(トヨタの軽自動車 販売期間は 2013 年 7 月から 2017 年 1 月まで)
- ピクシス トラック(トヨタの軽自動車 販売期間は 2014 年 8 月から 2020 年 8 月まで)
- ピクシス トラック(トヨタの軽自動車 2021 年 12 月 販売開始)
- ピクシス バン(トヨタの軽自動車 販売期間は 2020 年 9 月から 2021 年 11 月まで)
- ピクシス バン(トヨタの軽自動車 2021 年 12 月 販売開始)
- ファミリア バン(マツダの登録車 2018 年 6 月 販売開始)
- プレオ プラス(SUBARUの軽自動車 2017 年 5 月 販売開始)
- プレオ プラス(SUBARUの軽自動車 販売期間は 2017 年 5 月から 2018 年 8 月まで)
- プロボックス (*旧名 サクシード)(トヨタの登録車 2014 年 8 月 販売開始)
- ブーン(ダイハツの登録車 販売期間は 2016 年 4 月から 2023 年 12 月まで)
- ブーン(ダイハツ車搭載 1KR-FE エンジン 販売期間は 2016 年 4 月から 2023 年 12 月まで)
- ボンゴ(マツダの登録車 2020 年 9 月 販売開始)
- ミラ(ダイハツ車搭載 EF 型エンジン 販売期間は 1994 年 9 月から 1998 年 9 月まで)
- ミラ イース(ダイハツの軽自動車 2017 年 5 月 販売開始)
- ミラ イース(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2017 年 5 月から 2018 年 8 月まで)
- ミラ トコット(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2018 年 6 月から 2023 年 12 月まで)
- ムーヴ(ダイハツ車搭載 EF 型エンジン 販売期間は 1994 年 9 月から 1998 年 9 月まで)
- ムーヴ(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2014 年 12 月から 2023 年 6 月まで)
- ムーヴ キャンバス(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2016 年 9 月から 2022 年 6 月まで)
- ムーヴ キャンバス(ダイハツの軽自動車 2022 年 7 月 販売開始)
- ムーヴ コンテ(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2013 年 7 月から 2017 年 1 月まで)
- ライズ(トヨタの登録車 2019 年 11 月 販売開始)
- ライズ(トヨタの登録車 販売期間は 2019 年 11 月から 2021 年 10 月まで)
- ライトエース (*新名称 タウンエース)(トヨタの登録車 2008 年 2 月 販売開始)
- ルーミー (*旧名 タンク)(トヨタ車搭載 1KR-FE エンジン 2016 年 4 月 販売開始)
- ルーミー (*旧名 タンク)(トヨタの登録車 2016 年 11 月 販売開始)
- ルーミー (*旧名 タンク)(トヨタの登録車 販売期間は 2016 年 11 月から 2020 年 8 月まで)
- レックス(SUBARUの登録車 2022 年 11 月 販売開始)
- ロッキー(ダイハツの登録車 2019 年 11 月 販売開始)
- ロッキー(ダイハツの登録車 販売期間は 2019 年 11 月から 2021 年 10 月まで)
◆ リコール対象車種(2024 1/24 追記)
以下の2車種はリコールの対象。
- キャスト(ダイハツの軽自動車 販売期間は 2015 年 8 月から 2023 年 6 月まで)
- ピクシス ジョイ(トヨタの軽自動車 販売期間は 2016 年 8 月から 2023 年 6 月まで)
● 不正の背景
上記リストの元にした PDF と共に,第三者委員会による調査報告書もダウンロードして見てみた。データはこちら。
特に,「なぜ不正があったのか」について触れた部分について,少し詳しく調べたので以下に挙げておきたい。
◆ 第 2. 不正行為が発生した直接的な原因及びその背景
主に,社内アンケートの内容を挙げてみた。かなり生々しい。
- 1 過度にタイトで硬直的な開発スケジュールによる極度のプレッシャー
なんとか力業で乗り切った日程が実績となり、無茶苦茶な日程が標準となる。縦割りで、問題が起これば責任部署がつるし上げられる - 2 現場任せで管理職が関与しない態勢
管理職は表向きは『何でも相談してくれ』というものの、実際に相談すると、『で?』と言われるだけで相談する意味が無く、問題点を報告しても『なんでそんな失敗したの……(中略)……』と(管理職側が)詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれるわけではない - 3 ブラックボックス化した職場環境(チェック体制の不備等)
実験報告書と認証の届出結果について、整合性を確認する体制はなかったため、そこまで辻褄を合わせずとも、発覚するとは考えにくかった - 4 法規の不十分な理解
規適合性を確認する業務の担当者でありながら、「認証法規に関する研修を受けたことはなかった。」、「担当者として任されて、正解が分からない中で資料作成だけを行っており、本当に正しく業務をやっているのか分からないまま進んでいる。」などとして法規の理解が十分ではないとの供述をする者が散見された。 - 5 現場の担当者のコンプライアンス意識の希薄化、認証試験の軽視
本来自力着火でエアバッグを展開すべき届出試験方式の認証試験でタイマー着火を用いた案件については、試験実施担当者等は、認証試験では自力着火でエアバッグを展開すべきことは基本的な知識として認識していたにもかかわらず、開発日程と天秤にかけた上で安全性にも問題ないと自己正当化しており、認証試験を軽視していたと考えられる。
念のために言っておくと,2 にある「管理職に相談すると『で?』と言われるだけ」の部分は,筆者が「分かり易くするため」にあえて少し大袈裟でくだけた表現にしたワケではなく,ホントに「報告書」にそう書いてあるもの。ちょっと「管理職」としての思考レベルとは思えず,他にも,読んでいて「コント」か何かの台本かと思うような内容があちらこちらにあり,時々吹き出しながら報告書を読んだのだった。
◆ 第 3. 現場の実情を管理職や経営幹部が把握できなかった原因
ここまで大きな会社となれば,本来は「内部通報制度」などの仕組みがあっていいはずで,それが適切に機能していれば,不正の温床となるような事案は,その「管理職や経営幹部」に速やかに届いて対策がとられていたはずだろうが,この会社はそれが機能していなかったという点が指摘されている。
下記の「2」に至っては,内部通報者の「犯人探し」を避けようとして匿名で通報すると,(たとえ通報者に連絡可能な場合も)調査や対策の結果は伝えない取り決めだったそう。つまり「犯人探し」されるようなきわどい案件ほど匿名で通報される可能性が高いのに,どーせ匿名は報告が要らないから調査も対策もせずに済む……といった仕組みだ。
なんだか,最近あちらこちらで問題が浮上している「いじめ自殺」の背景に似たようなものを感じる。「いじめ」が疑われていながら,教育委員会あたりは「なかった」ような会見をして,あとになって背景的な面が「表沙汰」になる事例に通じるものがないだろうか。
- 1 現場と管理職の断絶による通常のレポーティングラインの機能不全
相談しても「どうする?自分で考えろ」が多く、相談にならないことがある。適正にコミュニケーションできるメンバー数を超えたGr 構成……(中略)……部長のテリトリーが広すぎ、部下に任せぱなし - 2 補完的なレポーティングラインである内部通報制度の運用の問題
内部通報を行っても、監査部が直接事実確認する事は無く、当該部署の部長・室長・GL に確認の連絡が行のみで、隠ぺいされるか、通報者の犯人探しが始まるだけです。(本文まま)
「社員の声」制度では、匿名での通報も可能になっている。しかし、結果通知については、匿名通報者の場合は、連絡先を把握している場合であっても、匿名通報は信憑性が低いという考え方等から結果通知を行わない運用が行われている。 - 3 開発・認証プロセスに対するモニタリングの問題
試験成績書と実験報告書の突合等は行っていなかった。品質保証部の品質監査でも認証プロセスそれ自体に対する監査は特段行われていなかった。監査部による内部監査は,認証申請書類の閲覧や業務プロセスの確認の結果、「型式認証の審査については、社内外のがんじがらめのチェックを受けており、データ改ざん等の不正の余地はないと判断」との監査結果となっており、衝突安全試験の認証プロセスにおけるチェック体制の不備を発見・是正するには至っていない。(要約)
● 管理職や経営者の責任は?
で,報告書でも当然,管理職や経営者の責任を問うているわけだが,果たしてそこら辺を当事者たちはどう認識しているのだろうか。だいたいこういった問題が起きた時は「職責を全うする」とか「健全化に努めたい」とか何とか言ってそのポストに居座ろうとする人がほとんどなのだろうが,それは「今後の話」として,それ以前に,このような不正が起きたということは,管理職や経営者に管理能力も経営能力も無かったことを意味すると思うのだが。つまり「管理」職とか「経営」者としての機能を果たしていなかったということ。だったら,その「管理職」や「経営者」として受け取っていた報酬分は返上してしかるべきではないだろうか。報告書にはそれらの方々の言動が「不正を誘因した」ような記載も見受けられる。これはある意味,その方々が不正の一因だったようなものだと思うが,するとそうした不正の原因を作った時期に,その不正の原因となった方々に対して一般社員よりずっと高額な「管理職」や「経営者」としての報酬が与えられていたことになるが,それでいいのかという問題だ。
ダイハツのサイトのトップページには「サスティナビリティへの取り組み」というリンクがある。「サスティナビリティ」と言えば SDGs が有名だが,たしか「貧困をなくそう」とか,「人や国の不平等をなくそう」などというスローガンが含まれていなかったか? 不正による経営不振からリストラを余儀なくされて,末端の労働者を切り捨てて貧困の危機に陥らせるようなことはないのか。その一方で,不正の原因を作り会社の信用を失墜させるような「管理能力」も「経営能力」もない方々が「管理職」や「経営者」として一般社員より高い報酬を持って行ったまま返さず,その後も引き続き持って行ける状態が「不平等ではない」と言えるのか? それでいて「サスティナビリティ」がどーのこーのとか言えるのかって話だ。
格差が生まれるのは,えてして「サスティナビリティ」を声高に叫んでいるような人が元凶ではないかと思うことは多い。
それにしても,何だか今の日本企業の悪い点を凝縮したみたいな感じがする。一部 SNS では「日本企業あるある」などと書かれていたが,それじゃ困るでしょって。
筆者は今(2023 年 12 月)でもコロナの影響でまともな仕事がないが,だからと言ってこんな会社で働いていたら「悪事に加担している」ような気がして病気になると思う。だいたい,人の命を乗せる製品作りでまともに検査しないとか,ありえないだろう。
他の日本企業がみんな似たような環境であるなら,つまり,どの会社もいずれ不正が発覚するということだ。筆者が気持ちよく働ける企業は「ない」に等しいということなのだろうか。