この記事は,令和3(2021)年 10 月 31 日執行の最高裁判所裁判官国民審査の公報の PDF を元にテキストファイルにしたものです。
審査対象は全部で 11 人。
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● 深山卓也(み やま たく や)
(1人め)昭和二九年九月二日生
◆ 略歴
東京都生まれ。練馬区立大泉南小学校、大泉第二中学校、都立富士高等学校を経て、東京大学法学部を卒業。
- 昭和五七年四月 判事補任官……以後、東京地裁、函館地家裁、公害等調整委員会事務局に勤務。
- 平成四年四月 判事任官……以後、福岡高裁那覇支部、東京地裁、東京高裁の判事として勤務するとともに、法務省民事局参事官、大臣官房参事官、大臣官房審議官、司法法制部長を務める。
- 平成二三年一月 東京地裁判事部総括
- 平成二四年九月 法務省民事局長
- 平成二七年一〇月 東京高裁判事部総括
- 平成二八年二月 さいたま地裁所長
- 平成二九年三月 東京高裁長官
- 平成三〇年一月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
★ 一: 〔一票の格差〕平成三〇年一二月一九日 大法廷判決
平成二九年一〇月二二日施行の衆議院議員総選挙について、小選挙区選出議員の選挙区割りは、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったとはいえず、公職選挙法の規定が憲法に違反するものということはできない(多数意見)。
★ 二: 〔タクシー残業代〕令和二年三月三〇日 第一小法廷判決
タクシー労働者の歩合給の計算に当たり残業手当に相当する額を控除し、その上で残業手当が支払われても、残業手当の額がそのまま歩合給の減額につながり、歩合給の額が〇円となることもあるなどの判決で示す事情の下では、労働基準法三七条の割増賃金が支払われたとはいえない(全員一致、裁判長)。
★ 三: 〔一票の格差〕令和二年一一月一八日 大法廷判決
令和元年七月二一日施行の参議院議員通常選挙について、選挙区選出議員の議員定数配分規定は、憲法に違反するに至っていたということはできない(多数意見)。
★ 四: 〔孔子は宗教か〕令和三年二月二四日 大法廷判決
市長が孔子を祀った施設の所有法人に敷地の使用料全額を免除した行為は、判決で示す事情の下では、市が特定の宗教に対して特別の便益を提供し、これを援助していると評価されてもやむを得ないもので、憲法二〇条三項に違反する(多数意見)。
★ 五: 〔石綿被害の損害賠償〕令和三年五月一七日 第一小法廷判決
労働大臣が石綿含有建材について労働安全衛生法に基づく規制権限を適切に行使しないなどの判決で示す事情の下では、国は、屋内の建設作業に従事し、石綿粉じんにばく露して石綿関連疾患に罹患した労働者及び一人親方に対し、損害賠償責任を負う。
石綿含有建材の製造販売メーカーが石綿粉じんの危険性等を建材に表示すべき義務を怠ったなどの判決で示す事情の下では、メーカーは、石綿粉じんにばく露して石綿関連疾患に罹患した大工らに対し、民法七一九条一項後段の類推適用により損害賠償責任を負う(全員一致、裁判長)。
★ 六: 〔夫婦別姓〕令和三年六月二三日 大法廷決定
夫婦が夫又は妻の氏のいずれかを称すると規定する民法七五〇条及びこれを受けて婚姻後に夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項としている戸籍法七四条一号は、憲法二四条に違反しない(多数意見、補足意見付加)。
◆ 裁判官としての心構え
最終審かつ法律審である最高裁判所に係属する事件は、憲法や法律の解釈を巡り見解の対立するものばかりですが、当事者の主張を傾聴するとともに、社会の状況や国民の意識の変化を踏まえて、公正かつ妥当な解決を導くためにどのような解釈によるべきかを探求する姿勢で事件に取り組んでいます。
……ここまで,みやまたくや 判事の記事。
● 岡正晶(おか まさ あき)
(2人め)昭和三一年二月二日生
◆ 略歴
香川県綾歌郡(現高松市)国分寺町という段々状の小さな田んぼが連なる山あいののどかな地域で、中学校の数学教師の次男として生まれ育ち、同町立国分寺南部小学校、同町立国分寺中学校(軟式テニス部)を経て、香川県立高松高等学校(バドミントン部)を卒業
- 昭和五五年三月 東京大学法学部卒業
- 同年四月 司法修習生(三四期、大阪で実務修習)
- 昭和五七年四月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
- 平成一六年六月 株式会社ニフコ社外監査役
- 平成一七年一〇月 東京大学法科大学院講師(倒産処理研究)
- 平成二〇年四月 第一東京弁護士会副会長
- 平成二一年一一月 法務省法制審議会民法(債権関係)部会委員
- 平成二二年七月 日本弁護士連合会倒産法制等検討委員会委員長
- 平成二三年六月 全国農業協同組合連合会経営管理委員
- 平成二六年四月 事業再生研究機構代表理事
- 平成二七年四月 日本弁護士連合会副会長
- 同月 第一東京弁護士会会長
- 同年六月 株式会社三井住友銀行社外監査役
- 平成二八年八月 日本公認会計士協会品質管理審議会委員
- 平成三〇年六月 住友生命保険相互会社社外取締役
- 令和元年六月 株式会社三井住友銀行社外取締役
- 令和三年九月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
最高裁判事就任後日が浅いため、特に記すべきものはありません。
◆ 裁判官としての心構え
日本国憲法七六条三項の「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」を常に念頭に置き、仕事をするときの根本原理とします。
そして、従うべき「良心」の充実・向上に日々努め、「独立」はするが独善に陥らないよう常に自戒し、「職権」行使に当たっては「記録・資料をよく読み、自分の頭でよく考え、わかりやすく自分の意見を言い、同僚裁判官と多面的で深みのある熟議を尽くす」ことを信条に、一つ一つの事件に全力で取り組みます。
また同憲法八一条の「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」を心に刻み、この憲法上の職責を適切に全うします。
◆ 趣味など
ここ三年くらいですが、山歩き(トレッキング)を、シーズンには月二回を目標に楽しんでいます。丹沢・箱根・奥多摩・秩父など関東周辺の山が中心ですが、羊蹄山・斜里岳・羅臼岳、屋久島(縄文杉)・妙高山なども印象に残っています。
三〇年以上続いているものとして、チューリップ(毎年一〇〇個くらい植えます)、バラ(今の黒バラはパパメイアン)、嵯峨菊を定番としたプランターでの花栽培があります。二〇二一年は、余った種をプランターまわりの地面にばらまいたところ、朝顔が大群生しました。
弁護士時代、日本民事訴訟法学会、租税法学会、金融法学会に加入し、研究報告もさせていただきました。
……ここまで,おかまさあき 判事の記事。
● 宇賀克也(う が かつ や)
(3人め)昭和三〇年七月二一日生
◆ 略歴
東京都生まれ。練馬区立大泉南小学校、練馬区立大泉第二中学校を経て、東京教育大学(現・筑波大学)附属高等学校を卒業。
- 昭和五三年三月 東京大学法学部卒業
- 同年四月 東京大学法学部助手
- 昭和五六年七月 東京大学法学部助教授
- 昭和五八年八月 ハーバード大学客員研究員
- 昭和五九年八月 カリフォルニア大学バークレー校客員研究員
- 平成二年七月 ハーバード大学客員教授
- 平成六年八月 東京大学大学院法学政治学研究科教授
- 平成一〇年九月 ジョージタウン大学客員研究員
- 平成一三年四月 放送大学大学院主任講師兼客員教授を兼任
- 同年一〇月 日本公法学会理事
- 平成一六年四月 東京大学公共政策大学院教授を兼担
- 平成一八年七月 関税等不服審査会関税・知的財産分科会部会長
- 平成二二年三月 総務省代表自治紛争処理委員
- 平成二三年一〇月 東アジア行政法学会理事
- 平成二六年一月 IT総合戦略本部パーソナルデータに関する検討会座長
- 平成二六年二月 内閣府独占禁止審査手続懇談会座長
- 同年三月 東京都情報公開・個人情報保護審議会会長
- 同年四月 神奈川県情報公開・個人情報保護審議会会長
- 平成二八年二月 人事院交流審査会会長
- 同年四月 国立国会図書館資料利用制限審査会会長
- 同年一〇月 消費者庁消費者安全調査委員会委員長
- 平成三〇年七月 内閣府公文書管理委員会委員長
- 平成三一年三月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
★ 一: 〔ふるさと納税と寄附〕令和二年六月三〇日 第三小法廷判決
ふるさと納税制度に係る告示における寄附金の募集及び受領について定める部分は違法とした(全員一致)。
★ 二: 〔一票の格差〕令和二年一一月一八日 大法廷判決
参議院議員通常選挙時の議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は違憲であったとする反対意見を述べた。
★ 三: 〔地方議員出席停止懲罰〕令和二年一一月二五日 大法廷判決
普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は司法審査の対象になる(全員一致、補足意見付加)。
★ 四: 〔再審棄却に反対意見〕令和二年一二月二二日 第三小法廷決定
再審請求を棄却した原決定について、再審開始すべきとの反対意見を述べた。
★ 五: 〔収容中の診療情報開示〕令和三年六月一五日 第三小法廷判決
刑事施設の被収容者が収容中に受けた診療に関する保有個人情報は、行政機関個人情報保護法に基づく開示請求の対象になるとした(全員一致、裁判長、補足意見付加)。
★ 六: 〔夫婦別姓〕令和三年六月二三日 大法廷決定
夫婦同氏を義務付ける民法七五〇条及び夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項とする戸籍法七四条一号の規定は憲法二四条に違反するという反対意見を述べた。
◆ 裁判官としての心構え
大学を卒業して以来、四〇年以上にわたり、法律学の研究教育に携わるとともに、審議会等で様々な法律・条例の制定・改正作業に従事してきました。これまでは、判例を批評する立場でしたが、裁判をする側に立つと、その責任の重さに身が引き締まる毎日です。様々な意見に謙虚に耳を傾け、一つ一つの事件を真摯に検討していきたいと思います。
……ここまで,うがかつや 判事の記事。
● 堺徹(さかい とおる)
(4人め)昭和三三年七月一七日生
◆ 略歴
和歌山県田辺市生まれ。地元の小学校、中学校、和歌山県立田辺高校を経て、東京大学法学部を卒業
- 昭和五七年四月 司法修習生
- 昭和五九年四月 検事任官……以後、札幌地検、札幌地検室蘭支部、大阪地検、大津地検、法務大臣官房司法法制調査部、東京地検八王子支部、東京地検の各検事、旭川地検次席検事、最高検事務取扱検事などとして勤務
- 平成二〇年九月 東京地検交通部長
- 平成二二年一月 東京地検公安部長
- 同年七月 東京地検特別捜査部長
- 平成二四年七月 福島地検検事正
- 平成二五年七月 東京地検次席検事
- 平成二六年七月 東京高検次席検事
- 平成二八年九月 東京地検検事正
- 平成二九年九月 仙台高検検事長
- 平成三〇年七月 次長検事
- 令和二年七月 東京高検検事長
- 令和三年七月 退官
- 同年九月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
最高裁判所判事就任後日が浅いため、特に記すべきものはありません。
◆ 裁判官としての心構え
私は、最高裁判所判事に任官して間もないですが、最高裁判所は「憲法の番人」とも呼ばれ、大変重い役割を担い、事案によっては社会に大きな影響を与えることもあります。その最高裁判所の判事の一人として、誠に重い責任を担っていることを常に意識しながら、緊張感をもって職務に当たっています。
最高裁判所判事に任官する以前は、主として検察の現場で検察官として刑事事件に携わりました。複雑困難な事件の捜査・公判に関与する中で、事件の真相解明に必要な専門的知識を獲得してきたのみならず、会社など組織の有り様や事件の背景となった様々な事柄に関しても学ぶとともに、検察官として最善の判断に達するためにいろいろな観点から考え、知恵を絞ってきました。
最高裁判所は変化が著しい現代社会において、種々の視点から検討を行い、紛争解決のために適正妥当な判断を下すことが求められます。私としては、これまでの検察官としての経験を最高裁判所判事の職務に生かすことによって、この重い職責を果たし、公平・公正で紛争解決として妥当な裁判を実現して国民からの期待と信頼に応えたいと思っています。
そのためにも事件の当事者の言い分に十分耳を傾けるとともに、同僚の最高裁判所判事との評議の中で思考を深めながら、学び続ける意識と謙虚な姿勢で誠心誠意職務を遂行していきたいと考えています。
……ここまで,さかいとおる 判事の記事。
● 林道晴(はやし みち はる)
(5人め)昭和三二年八月三一日生
◆ 略歴
東京都生まれ、同所で過ごす。東京教育大学(現・筑波大学)附属駒場中学校、同高等学校を経て、東京大学法学部を卒業
- 昭和五五年四月 司法修習生
- 昭和五七年四月 判事補任官……以後、東京地裁、最高裁民事局、厚生省(現・厚生労働省)(出向)、札幌家地裁に勤務
- 平成四年四月 判事任官……以後、東京地裁、最高裁民事局参事官、同課長、東京高裁、東京地裁判事(部総括)、司法研修所教官、同事務局長を務める。
- 平成二一年八月 最高裁民事局長兼行政局長
- 平成二二年七月 同経理局長
- 平成二五年三月 静岡地裁所長
- 平成二六年九月 東京高裁判事(部総括)
- 同年一一月 最高裁首席調査官
- 平成三〇年一月 東京高裁長官
- 令和元年九月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
★ 一: 〔検死の電磁的記録〕令和二年三月二四日 第三小法廷決定
文書提出命令の申立人の父の死体について司法警察職員から鑑定の嘱託を受けた者が当該鑑定のために必要な処分として裁判官の許可を受けてした当該死体の解剖の写真に係る情報が記録された電磁的記録媒体であって当該司法警察職員が所属する地方公共団体が所持するものは、民訴法二二〇条三号所定のいわゆる法律関係文書に該当する(全員一致、裁判長)。
★ 二: 〔一票の格差〕令和二年一一月一八日 大法廷判決
令和元年七月二一日施行の参議院議員選挙当時、平成三〇年法律第七五号による改正後の公職選挙法一四条、別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものとはいえず、同規定が憲法一四条一項等に違反するに至っていたということはできない(多数意見)。
★ 三: 〔地方議員出席停止懲罰〕令和二年一一月二五日 大法廷判決
普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる(全員一致)。
★ 四: 〔袴田事件〕令和二年一二月二二日 第三小法廷決定
(いわゆる袴田事件についての)再審請求を棄却した原決定に審理不尽の違法がある(多数意見、裁判長)。
★ 五: 〔違法収集証拠〕令和三年七月三〇日 第三小法廷判決
違法収集証拠として証拠能力を否定した第一審の訴訟手続に法令違反があるとした原判決に、法令の解釈適用を誤った違法がある(全員一致、裁判長)。
◆ 裁判官としての心構え
事件に多角的な観点からアプローチし、その背景事情や経緯などから、裁判で取り上げられている紛争や事件の実態や真相を十分把握し、それに適合する解決や判断をするように、この二年間の執務において努力してきました。現在、新型コロナウイルス感染症の影響により社会の在りようが根幹から変容を迫られており、今後に予想されることも念頭におきながら、より柔軟な姿勢で事件に向き合っていきたいと考えています。また、最高裁は、書面審理が基本ですが、法廷で弁論の期日が開かれる事件では、当事者(代理人)による活発な弁論がされるよう工夫をしています。いまだ試行錯誤の段階ではありますが、当事者はもちろん、傍聴されている人にとっても分かりやすい審理となるよう引き続きその工夫努力を続けていきたいと考えています。
……ここまで,はやしみちはる 判事の記事。
● 岡村和美(おか むら かず み)
(6人め)昭和三二年一二月二三日生
◆ 略歴
東京都生まれ。荒川区立尾久宮前小学校・尾久八幡中学校、都立白鷗高校、早稲田大学法学部を卒業。ハーバード・ロースクール修士課程修了。
- 昭和五六年四月 司法修習生
- 昭和五八年四月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
- 平成元年三月 米国ニューヨーク州弁護士登録
- 平成一二年五月 検事に任命……その後、法務省刑事局国際課長、法務省大臣官房参事官、金融庁証券取引等監視委員会事務局国際・情報総括官、最高検察庁検事などを務める。
- 平成二六年七月 法務省人権擁護局長
- 平成二八年八月 消費者庁長官
- 令和元年一〇月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
★ 一: 〔参院選の特定枠制度〕令和二年一〇月二三日 第二小法廷判決
参議院(比例代表選出)議員の選挙について、いわゆる特定枠制度を定める公職選挙法の規定は、憲法四三条一項等に違反するものではないとした(全員一致、裁判長)。
★ 二: 〔一票の格差〕令和二年一一月一八日 大法廷判決
令和元年七月施行の参議院議員通常選挙当時、公職選挙法の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったとはいえず、同規定は憲法一四条一項等に違反するに至っていたとはいえないとした(多数意見)。
★ 三: 〔地方議員出席停止懲罰〕令和二年一一月二五日 大法廷判決
普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となるとした(全員一致)。
★ 四: 〔権限所有者の電磁的記録アクセス〕令和三年二月一日 第二小法廷決定
電磁的記録を保管した記録媒体がサイバー犯罪に関する条約の締約国に所在し、同記録を開示する正当な権限を有する者の合法的かつ任意の同意がある場合に、国際捜査共助によることなく同記録媒体へのリモートアクセス及び同記録の複写を行うことは許されるとした(全員一致)。
★ 五: 〔孔子は宗教か〕令和三年二月二四日 大法廷判決
市長が都市公園内の国公有地上に孔子等を祀った施設を所有する一般社団法人に対して同施設の敷地の使用料を全額免除した行為は、憲法二〇条三項の禁止する宗教的活動に該当するとした(多数意見)。
★ 六: 〔夫婦別姓〕令和三年六月二三日 大法廷決定
夫婦は婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称するとする民法七五〇条及び夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定めた戸籍法七四条一号の各規定は憲法二四条に違反して無効であるとはいえないとし、夫婦の氏に関する法制度については、国会において、国民の様々な意見や社会の状況の変化等を十分に踏まえた真摯な議論がされることを期待するとした(多数意見、補足意見付加)。
◆ 裁判官としての心構え
裁判の最終的な判断が求められている最高裁判所の判事として、日々、重大な責任を感じております。
価値観が多様化した現代の日本では、解決が難しい紛争が増え、また、社会の複雑化・科学技術の進展等にともない、新しい法的問題も生じています。このような課題について、行政機関での執務等これまでの経験も生かし、事案を多角的にとらえて論点を深く検討することを心がけて、より妥当な判断に至りたいと考えております。
これからも、公正な裁判のために、努力を続けてまいります。
……ここまで,おかむらかずみ 判事の記事。
● 三浦守(み うら まもる)
(7人め)昭和三一年一〇月二三日生
◆ 略歴
兵庫県神戸市に生まれ、東京都大田区、小平市等で過ごす。麻布高等学校、東京大学法学部を卒業。
- 昭和五七年四月 検事に任命……以後、東京、宇都宮、福岡、名古屋の各地検、長野地検上田支部等に勤務するほか、法務省刑事局刑事法制課長、法務省大臣官房審議官等を務める。
- 平成二一年七月 那覇地検検事正……その後、最高検検事
- 平成二二年一二月 法務省矯正局長
- 平成二五年一月 最高検監察指導部長……その後、同公判部長
- 平成二七年一二月 札幌高検検事長
- 平成二九年四月 大阪高検検事長
- 平成三〇年二月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
★ 一: 〔諫早湾干拓事業〕令和元年九月一三日 第二小法廷判決
諫早湾における潮受堤防の排水門の開放を命じた確定判決に対する国の請求異議について、前訴時の共同漁業権に係る請求権の消滅のみでは異議事由にならないとして、原判決を破棄して差し戻した(全員一致)。
★ 二: 〔運転手所属会社への求償〕令和二年二月二八日 第二小法廷判決
トラック運転手が、会社の業務中に起こした交通事故により第三者に損害を加え、これを賠償した事案において、相当と認められる額について、会社に対して求償することができるとして、原判決を破棄して差し戻した(全員一致、補足意見付加)。
★ 三: 〔一票の格差〕令和二年一一月一八日 大法廷判決
最大較差三・〇〇倍の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定について、合憲状態・合憲とした多数意見に対し、投票価値の不均衡は違憲状態にあったとする意見を付した。
★ 四: 〔孔子は宗教か〕令和三年二月二四日 大法廷判決
市が管理する都市公園内に孔子等を祀った施設を所有する法人に対し、その敷地の使用料を全額免除した市長の行為は、憲法二〇条三項に違反するとした(多数意見)。
★ 五: 〔B型肝炎薬害〕令和三年四月二六日 第二小法廷判決
集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染して発症した慢性肝炎の鎮静化後の再発による損害について、その再発の時が除斥期間の起算点になるとして、原判決を破棄して差し戻した(全員一致、裁判長、補足意見付加)。
★ 六: 〔夫婦別姓〕令和三年六月二三日 大法廷決定
夫婦同氏制を採用する民法等の規定を合憲として抗告を棄却した多数意見に対し、法が夫婦別氏の選択肢を設けていないことは憲法二四条に違反するとの意見を付した。
◆ 裁判官としての心構え
司法は、国民の主権に由来し、その信頼に支えられるものです。時代とともに、社会の在り方等が変化する中で、様々な問題や困難も生じており、法の支配と個人の権利利益の救済という、司法が担う責任の重さを痛感しています。一つ一つの事件について、誠実に、事実を見定め、公平で公正な判断を目指したいと思います。
そのためには、高い壇の上から見下ろすという姿勢ではなく、それぞれの当事者の立場や思いを理解し、その主張に十分耳を傾けることが、何よりも大切なことと考えています。そして、自らの良心に問いかけながら、広い視野の下に、多角的な検討と深い洞察を行うことができるように、今後とも研鑽を重ねたいと思います。
……ここまで,みうらまもる 判事の記事。
● 草野耕一(くさ の こう いち)
(8人め)昭和三〇年三月二二日生
◆ 略歴
千葉県千葉市生まれ。千葉大附属小・附属中、県立千葉高を経て
- 昭和五三年三月 東京大学法学部卒業、四月司法修習生
- 昭和五五年四月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
- 昭和六一年 ハーバード大学修士(LL.M.)
- 平成一六年 西村あさひ法律事務所(当時の名称「西村ときわ法律事務所」)代表パートナー
- 平成一九年 東京大学大学院法学政治学研究科客員教授
- 平成二五年 慶應義塾大学大学院法務研究科教授
- 平成二六年 ハーバード大学法科大学院客員教授
- 平成三〇年 東京大学博士(法学)
- 平成三一年二月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
★ 一: 〔諫早湾干拓事業〕令和元年九月一三日 第二小法廷判決
漁業権に基づく潮受堤防排水門の開門請求に対する請求異議を認容した原判決を破棄した多数意見の結論に賛同しつつ大要以下の内容の意見を述べた。
〈経済的利益を化体した権利(漁業権はこれにあたる)に基づく物権的請求権の行使は、①権利侵害を除去するために要する費用が除去することによって回避できる損害額を上回り、かつ、②請求権者が被った損害(将来被る損害を含む)が全額弁償されている場合には、別段の事由がない限り、権利濫用の法理によって抑止されるべきである。〉
★ 二: 〔運転手所属会社への求償〕令和二年二月二八日 第二小法廷判決(裁判長)
運送会社の従業員(トラック運転手)が就労中に起こした交通事故に関して当該従業員が被害者に対して賠償金を支払った場合にはその金額の全部又は一部を会社に対して求償し得るとする法廷意見を述べたうえで大要以下の内容の補足意見を付した。
〈求償権の被請求者が大手上場会社であり、請求者が同社専従の従業員である場合、被請求者は支払われた賠償金の大半を負担すべきであり、全額を負担すべき場合もあるであろう。なぜならば、賠償金の支払いを当該従業員の私的負担とすれば同人に著しい不利益が生じるのに対して、多数の運転手を用いて運送事業を営む会社は変動係数の小さい確率分布に従う偶発的財務事象としてこれに合理的に対応することが可能であり、さらに、当該会社の最終的な利益帰属主体である同社の株主は分散投資を行うことによって自らが負担するリスクを自己の選好に応じて調整することが可能だからである。〉
★ 三: 〔タトゥの施術〕令和二年九月一六日 第二小法廷決定(裁判長)
業としてタトゥーの施術を行うことが医師法違反となるか否かが問われた事件において、医師法違反にはならないとする法廷意見を述べたうえで大要以下の内容の補足意見を付した。
〈タトゥーの施術が医行為にあたるという解釈をとればタトゥーの施術を業として行う者は本邦から消失する可能性が高い。しかしながら、健全な動機からタトゥーの施術を求める者も少なくないことを考えると(公共空間におけるタトゥーの露出の可否について議論を深める余地はあるとしても)タトゥーの施術に対する需要そのものを否定すべきいわれはなく、そのような需要が満たされることのない社会を強制的に作り出すような法解釈を行うことは福利の最大化という立法の理念に反している。〉
★ 四: 〔一票の格差/夫婦別姓〕その他の主要な裁判
参議院議員の議員定数配分規定の合憲性が問われた令和二年一一月一八日大法廷判決及び選択的夫婦別氏制を採用しない現行の民法及び戸籍法の合憲性が問われた令和三年六月二三日大法廷決定において、それぞれ意見及び反対意見を述べた。
◆ 裁判官としての心構え
法の解釈が異なれば人々の行動が変わり、人々の行動が変われば社会のありようが変わります。司法にはこのような働きがあることを心に刻み、微力ながら、豊かで公正で寛容な社会の形成に資する判決・決定の作成に傾注したいと考えています。
……ここまで,くさのこういち 判事の記事。
● 渡邉惠理子(わた なべ え り こ)
(9人め)昭和三三年一二月二七日生
◆ 略歴
福島県生まれ。父の転勤に伴い、福島県、宮城県、山形県、新潟県で育つ。宮城県第一女子高等学校(当時)を卒業
- 昭和五八年三月 東北大学法学部卒業
- 昭和六一年四月 司法修習生
- 昭和六三年四月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
- 平成六年六月 ワシントン州立大学ロースクール修了(LL.M.)
- 同年九月 海外法律事務所勤務
- 平成七年一〇月 弁護士登録取消
- 同年一一月 公正取引委員会事務総局勤務
- 平成一〇年九月 弁護士登録(第一東京弁護士会)
- 平成一六年四月 慶應義塾大学法科大学院教授
- 平成一九年四月 内閣府官民競争入札等監理委員会委員
- 平成二四年三月 日本放送協会経営委員・監査委員
- 令和元年一一月 司法試験考査委員(経済法)
- 令和二年九月 国立大学法人お茶の水女子大学監事
- 令和三年七月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
最高裁判事就任後日が浅いため、特に記すべきものはありません。
◆ 裁判官としての心構え
最高裁は「法の番人」として、ひとつひとつの事案について公平・妥当な判断を行うことがまず重要であり、同時に、最高裁の判断が先例・規範としてどのように使われていくか、様々な事案においてひとりひとりの国民や社会経済に与える影響を想定し、「法」が正しく機能するよう最善の努力をしていく役割を担っていると考えます。
これまでの弁護士としての職務、公的活動等での経験及び日々の生活を通じ、価値観が多様化する中で、まず、そして常に、「法」は何かと問われてきており、最後の拠り所としての「法」の重要性が高まってきていると感じてきました。裁判所はこのような期待に応えていくことが重要であり、私は、最高裁判事として、ひとつひとつの事案において、それぞれの主張とその拠って立つところを丁寧に検討し、また、同時にその判断の意味するところを大局的に考えながら「法」と向き合って、当該事案の解決とあるべき法の解釈とに向けて一所懸命に努力していきたいと考えています。
これまで、弁護士としての職責を果たす上では、女性か否かというよりは、ひとりの弁護士として、依頼者や同僚から信頼される仕事をしたいと考えてきました。裁判官となっても司法の一翼を担う裁判官のひとりとして信頼して頂けるよう職責を果たしたいと考えています。しかしながら、やはり最高裁をはじめとして女性法律家の数が増えること、また、法律家に限らず女性全体に機会が与えられることはとても重要なことであると考えます。私は、これまで先輩方が切り拓いてくださった道をたどることで現在に至っています。このたび最高裁判事として働く機会を頂くことができ、今度は私が、より若い世代の女性の礎、ささやかですがその一石となるよう励んでいきたいと思っています。
……ここまで,わたなべえりこ 判事の記事。
● 安浪亮介(やす なみ りょう すけ)
(10 人め)昭和三二年四月一九日生
◆ 略歴
奈良県大和郡山市で生まれ育ち、私立東大寺学園中学校、同高等学校を経て、東京大学法学部を卒業
- 昭和五八年四月 判事補任官
東京地裁、広島地裁、最高裁行政局、同広報課兼秘書課、神戸地裁で勤務 - 平成五年四月 判事任官
神戸地裁判事、東京地裁判事、最高裁行政局課長、同人事局課長、東京地裁判事(部総括)、東京高裁事務局長等を務める。 - 平成二三年一月 最高裁人事局長
- 平成二六年九月 静岡地裁所長
- 平成二八年二月 東京高裁判事(部総括)
- 平成三〇年一月 東京地裁所長
- 同年一二月 大阪高裁長官
- 令和三年七月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
最高裁判事就任後日が浅いため、特に記すべきものはありません。
◆ 裁判官としての心構え
「心構え」として最も重要なことは、最終審である最高裁の判断の重さを常に自覚した上で、様々な分野の一つ一つの事件について、中立公正な立場から、誠実に真正面から向き合って判断することだと考えています。その際には虚心坦懐にじっくり記録を読み込み、多くの人の意見を謙虚に聞くことが大切であると思います。
変化が激しく、価値観の多様化が著しい現代社会においては、判断の難しい事件が飛躍的に増えています。グローバル化が加速する中、国際的な紛争も裁判所に持ち込まれています。そのような時代にあって、我が国の社会のこれまでの歩みを正確に認識して将来の在り方をしっかり見定めるとともに、世界の動きについても的確に理解することが重要だと考えています。このように、時間的な広がりと空間的な広がりとを座標軸にして考えることを絶えず意識しながら、一つ一つの事件について、幅広い視野と柔軟な発想をもって、バランスがとれたよりよい判断ができるように心掛けていきたいと思います。
これまで、長年にわたって地裁と高裁で民事裁判を担当してきました。その間、数多くの事件を担当しましたが、どの事件についても当事者の方たちとの議論を十分に尽くし、証拠を丁寧に検討し、少しでも納得性の高い審理と判断が実現できるようにと色々な工夫を重ねてきました。それと同時に、裁判を担当することへの「畏れ」の気持ちを忘れてはならないと思ってきました。
最高裁判事に就任してから日が浅いため、関与した主要な裁判はありません。しかし、下級審において積み重ねてきた経験やその当時の心構えを踏まえ、これからは、最終審を担う一員として、さらに大きな視点に立って物事を考えるように努めたいと思います。
好きな言葉として「熟議」という言葉があります。この言葉の意味するとおり、最高裁において、たくさんの知恵を出し合って評議を尽くしてまいりたいと思います。
……ここまで,やすなみりょうすけ 判事の記事。
● 長嶺安政(なが みね やす まさ)
(11 人め)昭和二九年四月一六日生
◆ 略歴
東京都保谷市(現・西東京市)生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)附属駒場中学校、同高等学校卒業
- 昭和五二年三月 東京大学教養学部教養学科(国際関係論分科)卒業
- 同年四月 外務省入省
- 昭和五五年七月 英国オックスフォード大学社会科学特別ディプロマ取得
- 同月 外務省経済局……以降、アジア局、条約局、在米国大使館にて勤務
- 平成二年八月 内閣法制局参事官補
- 平成四年三月 内閣法制局参事官
- 平成七年一月 外務省欧亜局西欧第二課長……以降、同条約局法規課長、在インド大使館参事官、後に同公使、在英国大使館公使として勤務
- 平成一四年九月 外務省北米局参事官……以降、国際法局審議官、総合外交政策局審議官として勤務
- 平成一九年八月 在サンフランシスコ総領事
- 平成二二年八月 外務省国際法局長
- 平成二四年九月 駐オランダ特命全権大使
- 平成二五年七月 外務審議官
- 平成二八年七月 駐大韓民国特命全権大使
- 令和元年一〇月 駐英国特命全権大使
- 令和三年二月 最高裁判所判事
◆ 最高裁判所において関与した主要な裁判
★ 一: 〔夫婦別姓〕令和三年六月二三日 大法廷決定
民法及び戸籍法にある婚姻に際しての夫婦の氏の定めに関する規定が憲法二四条に違反しないと判断した(多数意見)。その上で、夫婦の氏に関する法制度の合理性に関わる事情の変化いかんによっては、これらの規定が同条に違反すると評価されるに至ることもあり得るが、このような法制度については、関連制度も含め、民主主義的なプロセスに委ねることによって、合理的な仕組みの在り方を幅広く検討して決めるようにすることこそ、事の性格にふさわしい解決であるとした(補足意見付加)。
★ 二: 〔心神耗弱状態での責任能力〕令和三年九月七日 第三小法廷判決
被告人が、心神耗弱の状態にあったとした第一審の事実認定に誤りがあるとして、何ら事実取調べをせず完全責任能力を認めて自判した原判決には、法令違反があると断じ、破棄差戻とした(全員一致、裁判長)。
◆ 裁判官としての心構え
一つ一つの事件に誠実に向き合い、その事件の背景、事情などを把握し、法律の適用に誤りのないように努め、もって、適切な判断に至ることができるように精励したいと考えています。これまでの行政官、外交官としての経験を生かし、国際的側面を有する事件を含め、個別の事件の解決のために積極的に取り組むと共に、諸外国に共通な課題である高齢化、価値の多様化、デジタル化、グローバリゼーションなどが社会に及ぼす影響と司法による問題解決の在り方といった今日的な問題の検討にも力を注ぐよう、今後とも努力していきたいと思います。
……ここまで,ながみねやすまさ 判事の記事。