要介護者が使うパソコンの柔軟な設置対応


公開 (UL): 2019-02-14
更新 (UD): 2019-02-14
閲覧 (DL): 2024-03-29

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時事川柳 News Senryu

パーティー券  
民意も一緒に
  蹴り返し
Kick back both party tickets and people's opinions.

 自民党の一部(?)派閥がパーティー券のノルマを上回る分の売上げを議員にキックバックしておきながら政治資金収支報告書に不記載だった問題が広がりを見せている。なるほど,こうしたことが党内で常套化していたのだとすれば,岸田総理はじめ同党政治家にことごとく「民意を蹴り返すクセ」が付いているのは当然という感じもする。これっぽっちも「悪いこと」と思わなかったのだろうな。そんな人たちに誰が票を入れるのだろうか。少なくとも,岸田の広島と「頭悪いねぇ」と暴言を吐いた議員を選出した長崎に「ふるさと納税」はしないことにしよう。
参考: 自民県 絶対しないぞ ふるさと税

今回はもう一句!

危機感の  
ワリに二階は
  誰も居ず
Having sense of crisis, but nobody takes shelter of 2F.

 大雨などで危機感を持ったら二階のような高い所へ避難すべき的な話を聞いたよーな気がするのだが? パーティー券のノルマ上回り分キックバックの政治資金収支報告書不記載問題で,安倍派は何人も辞任したのに,同じく捜索を受けている二階派に辞任する話があるかというと,今のところ誰もいない。総理は「危機感を持って」とか言っているらしいが,どこが「危機感」なのやら。

(⌚2023-12-19)

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 ある福祉施設の方から,要介護者向けのパソコン設置方法について,こんなご相談がありました。障害者向け視線入力対応のノートパソコンを使うにあたり,車椅子の人,ベッドの人と,様々な姿勢の方に適応できるような固定器具の選定で悩んでいるという話。「車椅子かベッドでパソコンを使う」といった単純な問題なら,障害者向け福祉機器で対応可能なものが既にあるかもしれませんが,今回の場合「視線入力のノートパソコン」という点で問題が複雑。というのも,車椅子ならチルトが上向きか下向きか,ベッドなら仰向けかうつ伏せかなど,どんな姿勢でもその人の「視線」を捉えられる位置と向きにパソコンを設置する必要があるため。柔軟に調整対応できる設置器具が必要になります。ところが,業者から提示されたものをはじめ,他の「障害者向け」のパソコン設置器具も調べたものの,どれも高価なわりには柔軟に対応できそうな製品がなく,購入申請を出す気になれず困っている,とのことでした。
 でも一方で,液晶テレビのような薄型画面を設置するためのスタンドや固定器具に目を向けると,一般向けの量産効果もあって比較的安価なうえに,種類も多種多様なのです。
 ここでは,そうした器具を利用して,ノート型などのパソコンを設置する工夫をご提案します。同様な問題を抱えている方以外にも,一般に要介護者がパソコンを使用する時の工夫として参考にできる点もあるかもしれませんので,それらも含めてまとめておこうと思います。

 なお末尾には,筆者が実際に「視線入力」を試した感想を記載しましたので,ご興味のある方は参考にしてください。

● 課題は「様々な姿勢(視線)」への対応

 コンピュータの性能の向上により,人の顔をカメラで撮影し,眼球の動きから視線の向きを割り出して「画面のどこを見ているのか」というデータをコンピュータに伝える装置が,比較的手に入れ易くなってきたようです。画面の位置をマウスで示す代わりに,この「どこを見ているのか」というデータを使えば,マウスやキーボードが使えない人でも,眼球が動かせて,画面上の対象位置をしっかり見つめられれば,パソコンを操作できる可能性があるわけですね。
 筆者は,障害を持つ本人やご家族の希望で週に何度かパソコン指導に伺う入所施設があるのですが,施設でその装置が試験導入されることになり,関連のご相談を受けました。その内容は,次のようなもの。

 特に最後の条件などは「施設」に特有のものですね。もし「特定の」障害者が,普段のコミュニケーションなどで,パソコンを日常的に使う道具としたい場合は,その人(一人)だけが使えるようにセッティングできれば済む話ですが,施設を利用している「様々な方」が試せるように……と考えると,そうはいきません。いちばんの問題は,パソコンを「支える器具」の側に,「どのような障害(顔の向き)でも」ある程度確実に視線を捉えられる位置に設置でき,しかも手に入れ易い製品などそうそうないということ。
 とはいえ,その手の製品は「そう簡単に手に入れ易い値段にはできない」という事情もあると思われます。というのも,日常的にパソコンを使用する方で,体に事情があってベッドの上や顔のすぐ横などで見れるようにする「支持器具」が必要な場合,その固定がうまくできなかったり,支えている支柱が折れたりして,パソコンが落ちて使えなくなってしまってはたいへん困ります。しかも,落ちて来るものをとっさに防ぐことができない方も多いですから,もしそれが体の上だったら,怪我の原因になりますし,責任問題化してしまいます。そこで,支えるアームには簡単に折れない丈夫な素材を使うとか,接合部分も確実に接合できているかどうか念入りな確認も要るでしょう。だからといって,取扱いが複雑では使ってもらえません。「しっかりと」だけど「簡単に」固定できる工夫も必要……と,介護の現場で使われるものにはそうした配慮が要ると考えれば,そう簡単にコストを下げられないのは仕方のない面もあるように思います。
 しかも,今回のように「様々な方に試してもらいたい」ともなれば,では「様々な場合を想定して,いかなる場合も事故が起きない工夫」をした製品(PC スタンド)などあるのか,というと……もう,どこかの鉄工所に特注しないとできないレベルではないかと思われます。何十万かかるんだ? という話。

 でも,一般的には,そうしたハードな仕様は必ずしも「全ケースにおいて必要」でもないでしょう。上半身を起こせる人は,ベッドサイドの机の上にパソコンを置けば十分見れることもあるでしょうし,車椅子で動ける人なら,一般的な低めの机に置いてあっても,そこまで移動して使える場合もあると思われます。いずれにしても,どっしりと床に置く重量級のスタンドなどは不要で,せいぜい置かれたパソコンが簡単に動かないよう固定されていれば済むでしょう。
 また,不随意運動がある方は,少しくらい身体が当たっても動かない程度にしっかり固定する必要がありますが,動きが小さい寝たきりの人が,手に持ったスイッチでパソコンを操作する場合などは,スイッチを強く引っ張って反動でパソコンが飛んで来る……ことはあまり考えられませんから,「見易い」程度に固定できれば済みそうです。

 ただ,今回の場合はパソコンが「使用者の視線を捉える」ことが必要なため,その「見易い向き」がけっこう重要。障害によっては「ただ机上に置いただけでは見にくい」場合も考えられるので,ノートパソコンを,たとえば「傾けて」とか,「ほぼ縦に」支持するような工夫が必要かもしれません。それでも,特定の人だけが使うことを考えるのなら,「特定の角度に固定」してしまえば済むことも多いでしょうから,何十万もする器具の必要性は薄そうですが,今回のご相談のように「様々な(症状の)方で試したい」となると,全ての……とまで言わなくても,多くの症状で使える「オールマイティ」な PC スタンドがやはり必要?……と考えると,「気軽に手に入れられるものではなさそう」な感じがしてしまうかもしれません。
 そこで「そんなものないよね」と断念してしまい,以降,試せるのはごく一部の人で,ほとんどの人は試す機会がないままになる……そんな「あきらめ」の繰り返しが,今の介護現場の閉塞感の元になっているのではないだろうか,と感じることがあります。

▼ 「障害者向け」製品は種類が限られる
「障害者向け」製品は種類が限られる

 「様々な対応が可能な支持具」で思い当たるのは,「VESA」という,液晶テレビなどの薄型画面に関する規格。この規格で定められた固定具には,テレビを壁に設置したり,向きを変えられる支柱に固定して高さや角度を調節可能にしたものなどが売られているので,「VESA 対応」と紹介されている画面なら,設置に様々な固定具が使えることになります。ただ,「薄型テレビ」のための一般向け規格であるせいか,あまり「障害者向け器具」で,大々的に「VESA 対応!」と謳っている製品は見かけません。

 では「ノート PC 台」的な一般向け製品などあるのか? というと,いちおう,キーボードを打ち易くするため,あるいは風通しをよくして冷却効果を高めるために,傾けて置けるような台が売られてはいます。ただそれは多少前傾させる程度のもの。ノート型パソコンは水平に近い状態で使うことが前提のようなところもあるので,視線の方向に合わせて,壁に掛けたり,横向きにして使うことまで想定されてはいません。たとえば,机の上に置かずに,「ベッドに寝た姿勢で見えるよう『下向きで』設置できる器具」などを探しても,結局は障害者向けのものしか見つからないかもしれません。「そもそも『画面』と違い VESA 云々ではないだろう」といったツッコミも聞こえてきそうですが。
 ところが,ご相談を受けて調べていたところ,ノートパソコンにそれらの様々な支持器具が使えるようにする方法もあるようなのです。
 どんな障害でも使える「オールマイティ」な介護用 PC スタンドなどなくても,こうした一般向けの器具をうまく組み合わせて,様々な対応ができるよう工夫する方法を考えてみようと思います。

● VESA 規格

 「VESA」というのは,正確には,薄型画面に関わる規格を定めている組織の名称らしいのですが,最も使われている規格は,その薄型画面を背面で支持するための「ネジ穴」。背面に画面を固定するための4つのネジ穴があり,その4つを線で結ぶと,一辺が 100mm,あるいは 75mm の正方形になるものが VESA の固定器具の規格です。近くにパソコンのモニターかテレビがあれば,背面を確認してみてはいかがでしょうか。

▼ 液晶 PC モニター裏面の固定用ネジ穴
液晶 PC モニター裏面の固定用ネジ穴

 で,多くの薄型画面がこの規格を採用しているため,この規格の「固定具」もまた様々なものが出回っています。机上に置くタイプはもちろん,床に置くタイプ,壁に固定するタイプ,向きや高さ,角度を変えられるアームの先端に画面を設置するタイプ……などなど。
 きっと「ベッドに寝ながらテレビを見たい!」と考える人(健常者)も少なくないと思いませんか? とすれば,そうすることができるような一般向けの固定具があってもおかしくないわけです。テレビの代わりにパソコンのモニターを設置してはいけない!……なんて規則などないですし,そもそも最近のテレビはパソコン用のモニターとしても使えますから,ほぼ同じものですし。

▼ VESA 規格の固定器具は多種多様
VESA 規格の固定器具は多種多様

 もうこの時点で,少なくとも「デスクトップ PC」の液晶モニターについては,一般向けに作られた様々な固定器具が使えることは容易にご理解いただけると思います。「ベッドに寝ながらテレビを見たい!」人のために作られた VESA 固定器具にパソコンのモニターを設置すれば,「ベッドに寝ながら」見れるパソコンができます。「VESA 固定金具」などで検索してみてください。画像検索をすると分かり易いでしょう。
 むしろ,あまりに様々な固定具があるので,使用を想定しているケースに適合するかどうかを見極めるのに「根気」が要るくらいでしょう。それでも,選択肢が「ない」よりずっといいのではないかと思います。

 「画面はそれでいいとして,パソコン本体はどこに置くの?」と思っている方もいらっしゃるかもしれません。もちろん,机の上や下など,固定器具と別に置いても問題ないならいいのですが,画面と本体がバラバラではケーブルの引き回しとか面倒……な気がするのも分かります。
 じつは一部の VESA 固定器具には,デスクトップパソコンのモニター固定に使われることを想定し,パソコン本体を設置するために取り付ける,金具や棚,ケースが用意されていることもあるようです。これは,特定の VESA 画面固定器具用に,パソコン本体も一緒に設置できるようにするためのもので,セットで手に入れれば,いくつかの懸念……たとえば「画面を設置するスタンドを置くとパソコン本体を置く場がない」とか,あるいは「本体と画面をつなぐケーブルに通せんぼされてひっかかる」といった点は改善されるかもしれません。ご興味のある方はそうしたオプションがあるかどうかにも留意しながら調べてみてください。床に置くスタンドタイプの VESA 器具に多いようですが,ここでは本題から外れるので詳細は割愛します。

 いずれにせよ,パソコンの液晶モニターなどを固定するスタンドは,VESA という規格に添っていれば,一般向けの安価で様々な製品から選べる……ということです。
 あ,もちろん,既にあるパソコン用にスタンドを用意する際は,そのパソコンの画面に VESA 規格のネジ穴があることを確認してください。

● ノートパソコンで使うには

 一方で,今回のご相談は「ノートパソコン」です。述べた通り,壁に掛けて使うことなんてないですから,そのままでは「VESA」対応の固定具で使うことはできません。
 ところが「ノート PC VESA」などの語句で検索すると,VESA 規格の固定具にノートパソコンを載せて使うための製品が何件か出てきます。「ノート PC トレイ」という商品名が多いようです。これら製品の存在は,述べてきたような様々な VESA 規格のスタンドに,「ノートパソコンを設置して使える」ということを意味しています。

▼ VESA 規格 PC トレイを組み合わせると
VESA 規格 PC トレイを組み合わせると

 障害のある方が,ノートパソコンを障害に合った姿勢で使いたいと考えた時,探せば「障害者向けノート PC 台」として売られている製品もあるかもしれませんが,やはり種類は限られるうえ,述べているような価格的負担の大きさ,さらには「一度手に入れたら,(どんなに使いづらくても)しばらく替えられない(使い続けないといけない)」事情も重なると,なかなか手を出しづらいことも多いと思います。
 一方で,VESA 規格の固定器具に取り付ける「ノート PC 用トレイ」があれば,一般向けに売られている安価な VESA 規格の薄型テレビ固定具でノートパソコンを使える可能性があることになります。多種多様な VESA 規格の固定器具にノートパソコンが設置できるのですから,様々な位置や向きに対応させるための選択肢が増えることになります。特定の方のケースで,その方に合わせた位置と向きでパソコンを設置したいと考えた時,この「VESA 対応ノート PC トレイ」を合わせて使うことを前提にすれば,あとは希望に近い固定のできる VESA 規格の固定器具さえ見つかればいいので,実現も容易になると思われます。
 たとえ最初に手に入れた固定器具がうまく使えなくても,トレイ側は変えずに,固定具側だけ多種多様な VESA 器具の中から選び直して付け替えればいいので,「もっと最適な位置に固定できる製品」を探す試行錯誤のハードルも低いでしょう。「障害者向け」に限って探した場合と比べ,「最適」に出会う可能性はどちらが高いかだと思います。

◆ 「様々な」対応を可能にするには

 忘れてはいけないのは,今回のご相談内容にある「様々な姿勢に対応させたい」という要望。
 とはいえ,半ば答えは出ていて,つまり VESA 規格の固定具は種類も価格も多種多様で選択肢が多く,「最適」を探すためのハードルが低いのですから,様々な姿勢に対応できるよう,VESA 固定器具を数種類ほど揃えておくことは「施設」であればさほど難しくない……というか,むしろ「重要」なように感じます。限られた予算内で,「障害者向け」としてガッチリ作られた製品が1つ手に入ることと,安価な一般向けの製品が数種類ほど用意できることとで,「施設として」どちらがいいかを考えると,様々な方に試せる環境を実現できそうなほうがいいような気がするわけです。

 じつは結局,今回その施設で入手したのは,支持器具とトレイがセットになったものでしたが,お伝えした点は意識していただいたようで,「福祉機器」に限定せず,一般的なパソコン周辺器具のメーカー製品を中心に探したらしく,結局そちらから選んだようです。

▼ VESA 対応と思われるノート PC トレイ
VESA 対応と思われるノート PC トレイ

 関節が多いので,かなり柔軟に位置や方向の調整ができそうです。
 念のため書いておくと,これは福祉器具メーカー製品ではないので,「障害者向け器具」で探していたら見つからなかったかもしれません。

▼ トレイの連結部分は VESA 規格に見える
トレイの連結部分は VESA 規格に見える

 よく見ると,支持部分とトレイを連結している箇所は,VESA の規格のように見えます。本当に適合しているのかどうかは実際に試してみる必要がありますが,ネジ間は 100mm でしたから,「VESA 互換器具」として検索で出る可能性もありますね。
 これは机に設置するタイプですが,もし今後「床置き型スタンド」や「ベッド柵取り付け型」などの VESA 対応液晶テレビ支持具が手に入れば,この部分で外してトレイの側だけそちらに付け替えることで,床に置いたりベッドで寝て使えるノート PC 台として使ったり,逆に VESA 対応のデスクトップパソコン画面を,この支持器具に取り付けて使ったりできる可能性があります。
 ただいずれの場合も,それぞれの製品の「耐重量」などの仕様はしっかり確認したうえで「使いまわし」をする必要があります。

◆ 「正方形」の利点……横向き設置

 VESA の固定器具の規格は「ネジ穴が正方形の頂点にある」と述べましたが,これもひとつの利点です。というのは,90°横向きにしても,とりあえずネジ穴の位置が合うため。つまり,場合によっては,トレイを 90°横向きにした固定も可能であることを意味します。横向きに寝た姿勢しかできない障害を持つ方にとって,「横向きで使える」のは,かなりありがたいのではないでしょうか。
 もちろん,この場合は,製品が「正しい向き以外の設置は禁止」されておらず,トレイの側にも,横向きにしても落ちないようにパソコンを固定できることが必要です。そのように固定できる金具が元から付いている製品を選ぶか,あるいは,なんとかトレイから落ちないよう,現場で工夫できる必要があります。

 以下は,述べている施設で,横向き,あるいは,顔がかなり傾いている方のために考えた設置例です。

▼ 横向きの設置例(寝た姿勢への対応など)
横向きの設置例(寝た姿勢への対応など)

 写真のトレイは柔軟に回転(上下,前後,左右軸)できる構造でしたが,元々トレイに付いているパソコンの固定金具が「手前」だけしかなく,ある程度以上横(前後軸)に傾けるとパソコンがズリ落ちて来てしまい,下で支えるものがないと使えなさそうでした。ある意味「横向きでは使えない」ものでした。
 そこで,「パソコンを」横向き(写真ではトレイに対して画面を左向き)に置いて,トレイは逆の横向き(画面が見えるよう右に回転:上下軸)にしてみました。この乗せ方だと,トレイを下に傾ける(左右軸)ことでパソコンが右に回転(前後軸)し,固定金具も「下から支える」状態になるので,これならなんとか使えるのではないかと思います。
 こうした工夫ができないタイプのトレイや,全く回転できないタイプの固定具で「横向きで使いたい」ような場合は,前述したような「90°ネジ穴をズラした固定」の方法が使えるかもしれません。
 なお,ノートパソコンを設置する方向に関する工夫については,後述「ノート PC 用トレイの注意点」の節もご参照ください。

 様々な需要に対応している「VESA」の製品をうまく利用することで,「障害者向け」に限定するよりも柔軟で幅広い応用が考えられます。

◆ 「唯一」ではないほうがいい

 VESA で使えるノート PC トレイがあれば,多種多様な一般向け VESA 対応薄型テレビ固定器具でパソコンが使えるようになります。すると,固定器具の種類,乗せるパソコン,その設置方法という様々な面で多種多様な組み合わせができ,「障害者向け機器」に限定するよりも柔軟な対応ができる可能性があることは,もうご理解いただけると思います。
 今回は,様々な姿勢に対応したい……とのことで,VESA の固定具を提案しました。これなら,その「種類が多く手に入れ易い」という特徴のおかげで,「様々な姿勢」を想定して複数の固定具を入手しておくことも,比較的容易に実現するでしょう。
 じつはこの「複数用意し易い」ということには,さらなる重要な点があります。「どのようなものを手に入れればいいか」的なご相談を筆者が受けた時,「どのような……」というより,「それが『唯一のもの』にならないように」と意識したアドバイスをよくします。今回の場合も「他になさそうな」障害者向け器具ではなく,種類が多種多様な一般向け VESA 規格の製品を中心に探すことをお勧めしました。なぜかというと,「唯一のもの」では,それが使えなくなった時に「何もできなくなる」ためです。

 筆者は過去,私立の福祉施設で,パソコン関係のアドバイザを兼ねて非常勤で働いていたことがあったのですが,公的補助でパソコンが手に入れられることになって,何がいいかと聞かれた時に,「同じ金額なら(高価な)最新鋭のパソコン1つではなくて,(安価な)1つか2つグレードが下のものか中古を2~3台にしたほうがいい」とアドバイスしていました。何度かそんな状況があった気がしますが,そのアドバイスが受け入れられたことはなく,結局は最新パソコンが1台「ド~ン!」と来ていた気がします。とはいえ,最新の機能を使いこなすわけでもなく,これまでできずにいた作業が,「1台」増えたパソコンでできるようになった程度。そして,やがて不具合が起き,そのパソコンに頼っていた作業は全てストップ。時として筆者は臨時に呼び出されて,修理に出す前の HDD のデータ救出をしたこともありました。
 もちろんそのパソコンに頼っていた作業は,他のパソコンで対処できなければ,修理から返って来るまでスタッフはすることができません。救出されたデータも,それが他のパソコンで使えなければ,「データを最初から作り直す業務」の負担が増えていたでしょう。まぁ,そうなったところで,それは「必要な業務」の扱いで,正規の給与を受け取っている常勤のスタッフが,勤務時間内に一生懸命やったのでしょうけど。
 言うまでもなく,ほぼ同じ仕様のパソコンを複数手に入れていれば,作業やデータを分担/分散できます。どれか1つが使えなくなっても,特定業務が「全てストップ」したり,以前と同じデータを「全部」作り直す必要も生じませんから,その作業に正規の勤務時間を費やすこともなく,効率低下を防ぎ経費の節約にもつながる……そうした思いも込めたアドバイスでしたが,聞き入れられなかったわけです。いつも「資金不足」を訴えて,補助金の増減にピリピリしていたのに。
 結局,しばらくして筆者は「雇い止め」をくらったのですが,その時に告げられた理由は……「財政難」とのことでした。
 ひょっとすると,最新鋭のパソコンが欲しかったのに,「グレードが下のパソコンのほうがいい」などと,希望と異なるアドバイスをしていたことが嫌われたのかもしれません。でも,機械は不具合を起こすものですから,起きてしまった時にダメージが最小限になるようアドバイスしたつもりだったわけで,小さい施設ではあっても「組織」ですから,そうした「危機管理」対策も必要だとも思ったわけです。残念ながら,こうしたアドバイスを受け入れない運営者は,自身の考えることと方向性が異なることには聞く耳を持ちません。実際に不具合が起きたところで,「起こるとは思わなかったのだから『仕方ない』」で済まされて終わりでしょう。
 それは,電力会社の社長が,原子炉の安全に関わる「唯一の」設備が津波で機能しなくなる危険性を指摘されても,「信じられない」と言って対策をしないまま,結果として多大な被害を出して,なお「信じられなかったのだから仕方ない」と主張し続けるのと似た構図。もし「唯一のパソコン」のリスクを想定してアドバイスした筆者と同様,「津波を想定して対策をしておくべき」と主張した社員がいたとしても,やはり追い出されていそうな気がします。そうした想定のできる者が,想定できない上司から切られて路頭に迷い,切った側はその後も居座り報酬を受け続けられるのが今どきの組織の仕組み。たいていそうした方々は,いざ一大事が起きても,「想定できなかったのだから責任はない」という主張を平然とできる思考の持ち主。
 機械は不具合を起こすもの,天災は忘れた頃にやって来るもの,それを見据えた対策ができてこそ「危機管理」のはず。あちらこちらの企業で製品検査の不正などが噴出していますが,近頃の「経営者」にはこの意識が欠如しているのではないかという気がすごくするのです。
 現場はどこも,資金や人員の不足,業務の過多などの問題を抱えています。でも,その私立施設の運営者や,諸企業の経営者を見るにつけ,当事者達がその原因をどう捉えているのか,疑問を禁じえません。

 話がちょっと反れましたが,お伝えしたい根本的なところは同じで,目的の達成に必要な道具/器具の存在が「唯一」という状況は,何らかの要因でそれが機能しなくなった時の影響を抑えるためにも,避けたほうがいいと思うわけです。「A」というパソコンの固定器具しかなく,それでしか視線入力ができない場合,その後の活動をAの器具でずっと続けられれば問題ないのですが,その器具が使えなくなってしまうと,もう活動できなくなってしまいます。でも,他にも「B,C,D」という器具も試すことができ,入力の効率さえ落ちるものの,Aの次に効率がよかったのがB,次がCで,うまく入力できないのがDだけだったとすれば,とりあえずはBやCを使って活動を続けることができます。
 しかも,からだは変化していく可能性もあるので,それまでAで使えていたのに,障害の症状が変化し徐々に使いにくくなったり,あるいは他の症状が発症して急に使えない要因ができてしまうかもしれません。もし同じ要因でBもCも使いづらくなってしまった時,ひょっとするとそれまで使えなかったDの出番が来るかもしれません。
 特に今回の場合,「様々な姿勢の障害者が使う」とのことですから,「様々な」障害を持つ方の「様々な」視線の方向を捉えるため,「いくつかタイプの異なる設置器具が試せる」ほうが,柔軟に対応できるであろうことは,容易にご想像いただけると思います。逆に,たとえどんなに「障害者向け」にガッチリ作ってあったとしても,それが「唯一」の器具では,適用範囲は限られますし,使えなければそれまでなのです。
  VESA 器具は多種多様です。一方,ノートパソコンを直接固定できる器具が「障害者向け器具」の中にあったとしても,種類は限られます。VESA 対応の「ノート PC トレイ」で様々な固定方法を利用できれば,「他に使える製品はない」といった状況に陥るケースも減り,介護活動も安定すると思うのです。

◆ ノート PC 用トレイの注意点

 とはいえ,「どれでも OK」というわけでもなさそうです。検索結果の画像をいくつか見たところでは,ノート PC 用トレイには,大きく分けて「乗せるだけ」のものと,「『パソコンの』固定具」がついているものがあるようです。

 視線入力の認識方法にもよりますが,ノートパソコンの画面を正視した状態でないと正しく認識できない場合,首が傾いている方はパソコンもその方向に傾けて設置する必要があります。目線が上を向いている方では,ノートパソコンをほぼ立てて,しかも,そのうえ画面を下向きにする必要が生じる場合もあると思われます。また,横向きに寝た姿勢で使う方では,横に倒した状態でないと使えませんし,仰向けで視線が上を向いている方は,全体を下向きに設置する必要があります。これらの場合,「乗せるだけ」のノート PC トレイでは,傾けて置けば滑り落ち易いですし,ほぼ立てた状態では前に倒れて来る恐れがあり,そもそも横向きや下向きでは乗せられません。
 まぁ,「完全な横倒し」や「下向き」ではむずかしそうですが,それ以外では工夫次第で何とかなるケースもあるかもしれません。「少し」斜めとか,「少し」立てた状態にすれば済みそうなら,「滑り止め」を挟んで,紐や「結束タイ」などでトレイにパソコンを縛り付けて対応できる場合もあるかもしれません。「乗せるだけ」のタイプは安価なものが多いようなので,「どれほど斜めにする必要があるか」など,現場で程度を見極めて適宜対応していただければと思います。

 ただ安全面を考えると,「パソコンの固定具」がついているトレイのほうがいいように思います。トレイの両側などにネジで締め付ける金具などが付いているものは,そのタイプである可能性が高いです。仕様を確認して,使うパソコンがトレイの適応サイズ(幅や高さ,重量などの許容範囲)に合致するかどうか確かめて決めます。

◆ 自作の可能性

 ネット検索で見た何件かの中には,自作している方もいました。障害者向けではなかったですが。
 ただ,そもそも VESA の固定器具の規格で定められている内容は,述べた通り,一辺 100mm または 75mm の正方形の頂点の位置にネジ穴があることと,ネジは直径 4mm のものと定めている程度なので,ホームセンターなどで,パソコンを乗せられる大きさと重量に耐えられそうな板材と直径 4mm の「サラ頭(詳細後述)」のネジ4本を座金とナットと共に4組ほど買って来て,板に正方形を描いて,頂点の位置にネジを通す穴を開ければ,前述した「乗せるだけ」のノート PC トレイに近いものは作れるわけです。

 ただ,やはり多少は日曜大工の経験があったほうがよさそうですが。
 まず,「サラ頭」のネジは,ねじ込んだ時に出っ張らないよう頭が平たくできているため,パソコンを置く時などに都合がいいわけですが,ねじ込む穴に「面取り」をしておく必要があります。「面取り」とは,ネジの頭が板の上に出っ張らないよう,ネジの頭がはまる程度に,すり鉢状に穴の周囲を削っておくことで,通常は専用の工具が必要です。
 「落ちないようにする工夫」が必要になる場合もあるでしょう。斜めに傾けたり,立てた状態に近い設置方法をしたい場合に,ヒモや「結束タイ」で縛り付けただけでは心許ない時は,板の縁に角材を取り付けて「堤防」のような枠を作るか,あるいは「ステー」と呼ばれる金具の中からL字型のものを取り付けたりして,板に乗せたパソコンが滑り落ちないようにする工夫が必要になってきます。
 とはいえ,多少はこの手の加工をしたことがある方なら,そう難しくないような気もします。

 自作のメリットは「使うノートパソコンに合わせられる」という点でしょうか。前述した「パソコンの固定具」付きトレイの場合,市販品は特定のパソコンを想定して作られているわけではないため,たとえば,「側面にある DVD ドライブや USB 接続が,パソコンの固定具に覆われてしまって使えなくなる」といった状況が起こり得ます。
 事前にどのパソコンで使うのかが分かっていれば,前述の DVD ドライブや USB 接続のある「覆ってしまいたくない箇所」を避けて,縁や固定具を取り付ける場所を決めることもできるでしょう。

◆ 障害者用パソコン設置の重要なヒント

 これまで,主に「視線入力」のためにノートパソコンをどう設置するかを中心に述べて来ましたが,もっと一般的に考えを広げれば,通常の「置くだけ」ではパソコンの使用はむずかしい障害を持つ方が,何とか使えるように設置する方法を考える時のヒントにもなるでしょう。
 重要な点は,支持器具の選定対象を「障害者用」に限ってしまうと,選択肢もかなり絞られてしまい,障害に合った姿勢で使えそうなものを見つけることも困難になる可能性があること。一方,VESA と呼ばれる「薄型テレビ設置器具」の規格は,様々な位置や角度に調整できる製品が豊富なうえ,一般向けの量産効果もあって比較的安価。デスクトップパソコンのモニターはもちろん,VESA 規格の固定具にノートパソコンを乗せられる「トレイ」を利用することで,そうした様々な調整ができる VESA 器具でパソコンの使用を検討できます。「障害者向け」に限定せず,VESA のような一般向け製品についてもよく調べて,どうすれば活用できるか,選択肢を広げるような方向を探るべきでしょう。

▼ 一般向け VESA で「使い方」が広がる
一般向け VESA で「使い方」が広がる

● 介護福祉現場の改善はひとりひとりの意識から

 述べてきたことは,いくら障害があるからといって,「障害者向け」の製品ばかり探しても,種類が限られるため,使用者の障害に合うものを見つけるのは至難の技。あったとしても,製品に介護現場への様々な考慮が盛り込まれて高価になり,手に入れにくいことも多いわけです。
 一方,VESA のような一般向け製品に目を向ければ,「量産効果」もあって価格的に手に入れ易いものも多いうえ,「障害者向け」より選択肢も多種多様な場合も多いですから,そちらを含めて……というより,「まず」そちらを探さない手はないのではないかと思うのです。

 それにしても,福祉の現場によく出入りしている技術者として疑問に思うのは,なぜこのような多種多様な一般向け製品に目が向けられず,「障害者向け」として製造されている限定されたものばかり検討される傾向が強いのか,という点。そのために,介護を受けている人が「不便を強いられる」ケースが減らず,ひいては「人手不足」も軽減されず,むしろ深刻化させているのではないかと感じることがあります。

◆ 補助という「束縛」

 たとえば筆者は,この記事に掲載したような図を描く時,「マウス」の代わりに「トラックボール」と呼ばれる器具を使うことがあります。機能はマウスと同様,画面上で位置を指定するものです。異なる点は,マウスはその器具自体を持って動かすことで位置決めしますが,トラックボールは器具に設置されている球を転がすとマウス・カーソルが動きます。といっても,ビー玉のように転がしてどこかへ「移動させる」のではなく,「その場で回転させる」だけで,器具自体は動かしません。そのため,マウスは「動かす場所の確保」が要るのに対して,トラックボールは器具とピッタリ同じ大きさの置くスペースがあれば OK。もちろん,接続方法もほぼ同じで,マウスと差し替えるだけ。

▼ トラックボール
トラックボール

 このトラックボール,考えようによっては,障害があって手を動かせる範囲が限られるような方などに,非常に有用ではないかと思うのですが,知らない方も多いようです。手が不自由な障害のある方の保護者の方にお見せしたところ,「それはどこで売っているのでしょうか?」と聞かれたので,家電量販店などで普通に売られていることを伝えたら,複雑な顔をされました。その方,過去には,「マウス」に当たる手頃で使えそうな器具を手に入れようとして,あちらこちらの「福祉機器展」をぐるぐる巡るなど,たいへんな思いをしたそうです。
 この1年前後ほどの間に,似た境遇の方と二人ほどお会いしました。トラックボールはマウスとほぼ同時期くらいから存在するというのに。

 VESA 固定器具にしてもトラックボールにしても,なぜこのように,一般向けの多種多様な製品に目が向けられないまま,種類の少ない「福祉機器」ばかり検討対象とされることが多いのか。
 大きな要因としては,「障害者が使えるものは,障害者向けに作られた製品(いわゆる『福祉機器』)だけ」という「思い込み」が強くあるような気がします。小さな手の動きでパソコンを使えるようにする方法を探して,福祉機器の展示会をぐるぐる見て回っていた方が,一般的な量販店で売られているトラックボールを知らなかったのはその典型例。
 また,そうした事態を誘発する要因として,おそらく「補助(金)」の存在も大きいのではないか,という気がしています。

 まず「補助を受けられる製品が前提」で選ぶことを考えてしまっている可能性が考えられます。障害と関係ない製品に使われても困るので,補助の対象が「障害者向け製品」に限定されていることも多いと思われますが,そんな状況下では,どんなに一般向けで使えそうな製品があっても,補助を受けたかったら「障害者向けの製品」を選ぶしかありません。家電量販店の VESA 固定器具やトラックボールなどの一般向け製品の売り場を見に行くといった発想すら起きないでしょう。
 でも「全額補助」ならともかく,「一部補助」の場合,高額な障害者向け製品の補助適用後の値段よりも,補助対象ではない一般向け製品のほうが安く済むこともあるのではないかと思います。たとえば,九割の補助を受けられる障害者向け機器が十万円だった場合,多種多様な一般向けの製品の中に,一万円未満で使えそうなものがあれば,そのほうが安いわけです。そればかりか,補助を受けるために書類を準備したり,送付したり,場合によってはあちらこちら「手続き」に走り回る必要に迫られるとしたら,その手間や送料,交通費,時間なども加味して,一般製品を自費で買うのと比べ「どちらがたいへんか」を考えたほうがいいように思います。
 ちなみに,筆者が買ったトラックボールは ¥3,800(税込)程度。同様なマウス相当の福祉機器が,たとえ九割補助としても,原価が4万円超えなら,むしろトラックボールの自費購入のほうが安くて気軽です。

 それでもやはり,補助対象製品のほうが負担金額が少なくなることも多いでしょう。特に「全額補助」で手に入れられるような場合。
 ただ,そうだとしても,述べてきたように,「障害者向け機器」という「限られた選択肢」の中で,果たして,「しっかりと使える製品」が見つかる可能性がどれほどあるのか,よく考えるべきではないかという気がします。多種多様な一般向け製品をよく吟味して自費購入することより,「どうせ全額補助だから『損はしない』よね」的感覚で,実際に使えそうかどうか吟味もされないまま補助対象製品が優先されることが多いとしたら,社会的損失につながるのではないかと思うのです。

 ちょっと話が反れますが,筆者はこの記事を書いている時点では特にどこの「研究機関」に属しているわけでもなければ,調査報告,データ分析,書類作成のアウトソーシング的な依頼も来ないので(「開発」はちょっとだけしたことがありますが……にしても「人手不足が深刻」と言われていることが筆者には理解不能),今のところこうした提案記事は直接収入にはつながっていません。恥ずかしながら,収入は一般平均の半分にも満たないと思います。確定申告による課税額はほぼゼロですが,そんな筆者でも「消費税」は納めていることになります。
 その「消費税」も今年の 10 月に増税される予定ですが,その口実はといえば「社会保障費の増大」。その中には,福祉機器の補助なども含まれていると思われます。
 「消費税」というのは,収入が「少ない」どころか,障害があって働けないような,収入が「ない」人からも徴収されます。収入があろうとなかろうと関係なく徴収された税金が,機器購入の補助に使われる……もちろん,補助対象製品が全て有効に使われるなら問題ないですが,人によっては「どうせ全額補助だから『損はしない』よね」的感覚で「使えるかどうか分からない」製品の補助申請を出し,結局役に立たなくても「負担無しで助かったね」と考えてしまっているかもしれません。
 「自己負担ゼロ」と言っても巡りめぐって納税者の負担になります。前述のような考えの方が多くいて,補助の申請があちこちから出され,再び「社会保障費がー!」と騒がれ消費税が増税されることになれば,巡りめぐって,経済的ダメージを強く受けるのはどんな人たちなのか。繰り返しで恐縮ですが,「消費税」というのは,障害者など収入がない人からも徴収されます。増税によりダメージを受ける人が増えることも考えられます。ある意味「社会的損失」ではないかと思うのです。
 たとえば,何らかの固定器具を「障害者向け製品」の中から探すと,不随意運動のある方が時々ぶつかっても大丈夫なようにガッチリ作られたものも多いでしょうし,どれもそれなりの価格でしょう。でも使う人がほとんど動けない障害のある方だった場合,その「時々ぶつかっても大丈夫」に作られた製造コストを誰かに負担させることが適切なのかどうか……ひとりひとりが考えるべきではないかと思うのです。

◆ 「人手不足を生んだ元凶」と決別すべき

 どういうわけか,障害者や介護現場で使う器具は「障害者向け,あるいは介護製品から選ばないといけない」といった考え方をされる傾向が強くあります。背景には,「補助(金)」の対象が「障害者向け製品」に限られ,しかも,実際に活用できる製品かどうかではなく,とにかく「補助の対象」になる製品を求めることが「目的化」している場合も多いのではないか,そしてそれが「社会保障費の増大」ひいては増税につながり,生活が苦しい人をより苦しめる方向に向かわせてはいないか,といった懸念があります。

 それだけでなく,介護福祉分野で長く懸案になっている「人手不足」にも悪影響を及ぼしているような気がしています。「人手不足」が叫ばれ始めてかなり経ちますが,果たして政府が進めているような外国人労働者の受け入れで解消するでしょうか。
 ネットでこんな記事を読んだことがあります。ある農家では,これまでも外国人労働者を受け入れていたものの,「人手不足」は一向に改善してはいないという話。「なんで?」と思って読み進めたら,行方不明になってしまう人が絶えないらしいです。
 きっと,脱走される度に,新たな「外国人労働者」を受け入れているのかもしれませんが,筆者はそれ以前に「なぜ脱走される原因を考えないのだろうか」と感じます。脱走される原因を解消しないまま,新たな外国人労働者を受け入れても,また脱走されるだけで,人手不足は永遠に解決しないのではないかと。
 「人手不足」を訴えている分野は,概して似たようなことをしているのではないかと思うことがあります。つまり「人手不足を招いている原因」を解明しようとしないまま,安易な「対処療法」に走っていると。
 たとえば「風邪を引き易くて悩む人」向け対策として,とにかく風邪薬を買い与えて症状を抑えようとする感じ。原因を調べ,汗っかきだとか,普段が薄着と分かれば,まず汗を拭き取るなり,保温性の高い服を着せるなりで,「風邪を引かない」対策をすべきでしょという話。それをせず薬だけ飲ませても,どうせまた風邪を引きますよ。「対策」と称した風邪薬の購入は,果たしてお金の「有効」な使い方なのかどうか。
 農家の例が示すとおり,「外国人労働者の受け入れ」も似たようなもので,「根本的解決」にはほど遠い気がするところ。

 この記事で書いたパソコン固定方法についても,もし適当な器具で,パソコンを点けたまま見える場所に設置できて,介護を受ける本人がいつでも一人で使えるようにしておければ,あとは,パソコンから簡単な操作で補水や摂食,排泄などの希望を何人かにメールで同報できる仕組みさえあれば,「必要が生じた時だけ,自分で他の場所にいる人に要件を伝えられる」ことになります。メールを受け取った人の中で,その時にたまたま近くに居た人や,手の空いている人が対応すればいいわけですね。すると「常に誰かがそばにいて様子を見る」必要性も軽減され,限られた介護の人員を有効に活用できるのではないかと思うわけです。
 ひょっとすると,「そんな仕組みがあればいいね……でもないから」と思われそうな気もしますね。筆者が現在使っている Thunderbird(サンダーバード)というメールソフトには,「テンプレート」という機能があります。これは,受信者と件名,本文記載済みメッセージをいくつか登録しておき,送信したいメッセージをダブルクリックすると,同じ内容が記載された新規メッセージが作られて,あとは「送信」ボタンを押すだけで,登録した内容が受信者全員に同報されます。クリック3回だけで,特定の内容のメールを特定の人たちに同報できるわけですね。無料ソフトなので,ダウンロードと設定さえすれば,今すぐ「そんな仕組み」を試せます。簡単な操作で特定の要件のメールを送信する方法は他にも考えられるので,「そんな仕組み」については「あればいい」ではなく,既にあります。「(今)やるかやらないか」の問題。あとは,パソコンを「いつでも」使えるようにできれば,「張り付き」の必要性が減り,人員も有効に活用できるのではないかと思うわけですが……。
 ところが,製品選定を「行政が指定する補助対象の福祉機器」に限定してしまい,他の多種多様な一般向け製品に目を向けない傾向が,その「人員の有効活用」を阻んでいるような気もするのです。前述の場合,本人が一人で使えそうな位置にパソコンを設置する器具を,VESA などの一般向け製品まで選考対象を広げず,「福祉機器」に限定して探していたのでは,適当なものが見つからない可能性も高まります。見つからなければ,パソコンを使える時間は,扱える人や見える位置に持っている人が居る時に限られます。でも,人手不足となれば,その頻度もそう多くはできません。「いつでも」パソコンを使える状態にもできませんから,「必要な時だけ自分で要件を伝えてもらう」ことも実現は困難。「『誰かが』様子を見る」頻度も必要性も下げられないまま,人手不足の中,結局その「誰か」にまた人員が必要になると思うのです。
 「メールくらい,誰かがいる時にできればいい」という問題ではありません。その「誰か」が不足しているのですから。そもそも,人がそこに居れば,摂食やら排泄などの要望を「メールする」必要などないわけで,でもそれでは「張り付き」の必要性が軽減されず,「人手不足」であり続けると思うのです。解消するには,「(『誰か』がいなくても)本人がひとりで伝えられる」ことを増やす必要があり,その手段のひとつが「パソコン」だと思うわけです。もし,「ちょうどいいパソコンの設置器具がない」ことが理由で使われていないとしたら,その「元凶」は何なのかを考えたほうがいいと思うのです。
 重要なのは「補助対象かどうか」ではなく,「その人が使えるかどうか」であるはず。パソコンの設置方法は,VESA 規格の器具も含めれば多種多様に考えられます。選定対象を,種類の少ない「補助対象の福祉機器」に限ってしまい,なかなか適切な器具が見つけられないことが,介護福祉の分野で「人手不足」をはじめとする様々な負担が軽減されない一因ではないかと思う理由です。

 今にちの「人手不足」の状態を生んだのは,行政が作った「制度」の問題でもあります。裏を返せば,行政の「制度」に従って来た結果が,「人手不足」とも言えるような気がします。「補助(金)」にしても,どの製品を補助対象とするかは,たいてい行政が決めています。器具の選定なども含めた諸々の方針を,「人手不足」を生んだ「行政の意向」に従っている限り,「人手不足」であり続けるのではないかという気がします。人手不足の「根本的解消」は,「現場の人達」自身が考えて,賢く行動するしかないのではないかと思います。

 障害者をはじめ,要介護者を抱えた生活の苦しい人の負担が重くなる一方,人手不足はなかなか解消しない……こうした「悪循環」の根源には,社会的負担が減らないことがあるように思います。この「悪循環」を絶つには,福祉の現場で機器を選ぶ際に,「補助の対象かどうか」や「福祉機器だから」で判断するのではなく,一般向けも含めた様々な製品もよく調べて「使えそうか」を見極め,ひとりひとりが確実に役立つ賢い製品選びをすることで,少しでも社会的な負担の軽減につなげていくことが重要なように思うのです。「消耗品枠」で手に入れられそうな VESA 固定器具やノート PC トレイを探してみてはいかがでしょうか。

● 筆者が「視線入力」を試した感想

 じつはその施設で該当機が来た後,筆者も少し試させてもらいましたが,一言で言うと「不思議な感じ」がしました。ペイント(お絵描き)やワープロのソフトを起動しておくと,目で見ているだけで線が描けたり,文章が作れたりするのですから。さすがにお絵描きで思い通りの線を描くのはむずかしかったですが,それに比べて文字は「修正」が簡単なので,多少時間はかかるものの,概ね思い通りの文が作れました。
 今まで,キーボードを打つかマウスを持って動かすか,何かに触れないと操作できなかったパソコンが,腕組みしたまま微動だにせず,ただ画面を見ているだけで文章ができていく……というのは,何だか「テレパシー使い」になったような気分。

 筆者が文章作成で試した方法は,視線入力ソフトの「マウスモード」を起動しておいて,「IME パッド」ツールの「ソフトキーボード」の中にある五十音表を表示させて,そこを見つめる……という方法。

▼ IME パッドの五十音表
IME パッドの五十音表

 「IME パッド」をご存知の方は「あんな小さなクリック領域を『見ただけ』で認識できるのか?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが,そこは「視線入力ソフト」側でうまく対処されていました。入力したい文字を見つめているとその周辺が拡大表示されるようになっていて,その表示でも目的の箇所を見続けることで,「位置が確定」するようになっていました。ただ,まだその時点ではクリックしたことにはならず,もう一度同じ箇所を見つめる動作を繰り返すと「クリック」扱いになりました。おそらく誤認識により頻繁に間違ってクリックされることの防止,あるいは「ドラッグ」と区別するためかと思われます。
 試したのはこの程度ですが,この「マウスモード」は一般的なマウスと同等の操作ができそうなので,ひょっとすると,アクセシビリティの「スクリーンキーボード」でも使えるかもしれません。

 とはいえ,こうしたものは人によって使い方が違うので,「問題点」がなくなることはないのでしょうけど。筆者の場合やはり「入力効率」的な点が気になりました。「拡大表示」されるといっても画面全体に広がるわけではなく,部分的なので,やはり誤入力は頻繁でした。これならむしろ,画面全体か下半分に表示した五十音表から「かな入力」できる視線入力用 IME 的なアプリがあってもいいのではないかという感じ(気づいていないだけで既にあるかもしれませんが)。この場合は「マウス」ではなく,「キーボード」の代替となるアプリになりますね。
 でも,体を全く動かさ(動け)なくても操作できるのは,やはり魅力ですね。今後,もっと手に入れ易くなって欲しいと思ったのでした。



© M.Ishikawa; TREEWARE 2024.