障害があるため,障害者向けの特殊な環境でウェブ記事を見る方は,使用する障害対応の操作機器の関係で,パソコンやブラウザを更新できない場合がある。使っている障害者用の操作機器やソフトがパソコンやブラウザの最新版に対応していなければ,パソコンやブラウザを最新版にしてしまうと「操作」ができなくなり,ウェブ記事を見れないどころか,何もできなくなってしまうからだ。ところが,そのまま使い続けたくても,サイトの記事側が最新版 HTML の凝ったレイアウトやスクリプトを採用してしまうと,使っている機器や音読ソフトが対応できなくなり,結局まともに見聞きできなくなったりする。「最新の状態でご覧ください」とか言ってサポート対象を新しいブラウザや機械に限るのは,バリアフリーを無視した一方的な都合の押し付けではないかと思う。
一方,ここでご紹介している「和易ゐ記(わいうぃき)」という記述方式は,元のファイルがプレーンテキスト形式。これは「文字のみ」の内容であるため,前述した「最新ブラウザでなければ使えない」ような機能は,仕込むことさえできない。
当サイトでは本文をこの形式で作成している。しかもその本文ファイルの置いてある場所が HTML の URL にもなる,実質的な CMS としても使っているため,URL の末尾に .txt(ドットティーエックスティー)を付加すれば,サーバ上のプレーンテキスト形式の本文を直接読める。障害者向けの操作環境が機械やブラウザの最新版に対応できず,どんなに古いものを使っている人でも,たいてい読める。
さらに,この「スクリプトが機能しなくても本文が全文読める」点と「プレーンテキストを直接読める」点をうまく活かすと,「ブラウザを使わず本文を読む」こともできる。ここではその方法を紹介したい。
● wget コマンドを使う
wget というコマンドがある。筆者が使っている Linux では最初から入っている。Mac でも入っているらしいが,Windows の場合は最初からは入っていないようだ。が,該当するソフトは配布されているようなので,「Windows wget」などで検索してみるといい。
wget というのは,ウェブから直接ファイルをダウンロードするコマンド。たとえば,今見ているこのページの本文は,コマンドラインから以下の命令を打ち込めば,ブラウザを使わずにダウンロードできる。
wget http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002.txt
成功すると,現ディレクトリ上に swai002.txt ファイルができる。上記ダウンロード後にエディタやノートパッドなどで開けば読める。
notepad swai002.txt
もし文字化けしたら,文字コード「UTF-8」を指定して開き直す。
これが,「スクリプト」などを使って,本文の一部を後から読み込む仕組みだと,この方法では,全ての記事内容を読むことはできない。
◆ ファイルとして保存せず直接読む
wget は出力先を指定できる。以下のようにするとファイルを作らず標準出力に直接表示する。(以下 Linux での指定例)
wget -O - http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002.txt
Windows の場合,“-O -”の部分を“-O CON”とする必要があるかもしれない。以降も同様。
ただ,これだと一度に全部の内容が表示されるため,スクロールしないと最後の部分しか読めない。1画面ずつ読みたいなら,こうする。
wget -O - http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002.txt |more
やはりこれだと,ウェブ上の「ホストコンピュータを探す処理」などのやりとりも表示され,最初の1画面は1画面の行数を越えてしまい,読みづらい。以下のようにするとそのやりとりの表示を抑止できる。
wget -q -O - http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002.txt |more
この場合,うまく読めなかった時でも何の理由表示もないので注意。
◆ 音読ソフトに直接読ませる
ファイル指定や入力を読み上げる音読ソフトがあれば,直接読み上げできる可能性がある。たとえば,音読ソフトの名前が ondoku ならば,それを上記 more の代わりに指定する。
wget -O - http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002.txt |ondoku
一旦ダウンロードしてあれば,そのファイル名を指定する。
ondoku swai002.txt
Windows で,クリップボードを読む音読ソフトを使っている場合は,入力をクリップボードにコピーするコマンド clip を使い,以下のようにすれば読む「可能性がある」。
wget -O CON http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002.txt |clip
ちょっと心配なのは,筆者サイトのテキストファイルの文字コードは UTF-8 という国際標準である一方,筆者の知る限り,Windows の標準は Shift-JIS である点がひっかかる。手元に Windows の最新版がなく,実際に試せないのだが……これでまともに読み上げてくれればいいが。
● wget 以外で読む方法
◆ ワープロなどに直接取り込む
ウェブ記事を,印刷用に書式設定した文書にしたい場合や,文書内で引用として記載したい時など,ワープロに直接読み込めることがある。
ワープロには,文章のまとまりを「セクション」として挿入する機能があり,普段からネットにつながっているパソコンなら,その内容として http://…… などの URL を指定できる場合がある。
じつはこの方法で読める形式はプレーンテキストに限らず HTML でも可能で,書式設定された HTML ならばワープロに取り込んでも同じ書式になることが多い。ただ,「スクリプト」などを使って,本文の一部を後から読み込む記事の場合,この方法では全ての内容を読めない可能性が高い。当サイトの HTML では内容に関する部分にスクリプトは使っていないので,この方法で全文を読める。反面,当サイトでもそうだが,一般的にサイトから読む HTML の記事は,関連する「新着記事」などの付加情報を含むことも多く,そのままワープロの文書として使おうとすると,そうした本文とは関係ない部分も読み込んでしまう。それを避けるには,通常は一旦ブラウザに記事を表示させて,必要な部分をコピペして対応することになるため,少々手間がかかる。
一方,当サイトのプレーンテキストは「本文のみ」であるため,「セクション」として該当プレーンテキストの URL を指定すれば,そうした付加情報のない文書の作成が可能になる。前章の,末尾に .txt のある URL を指定すれば,プレーンテキストのセクションを挿入できる。
同様に,エディタなど他のソフトでも,もし URL の内容を読み込める機能があれば,プレーンテキストの URL を指定することで,「新着記事」などの付加情報のない「本文のみ」の読み込みができる。
◆ w3m ブラウザ
w3m というソフトがある。このソフトは「ブラウザ」なので,厳密に言えばこの記事の「ブラウザ以外で読む」という主旨から外れるかもしれないが,スクリプトが機能せず,「文字のみ」を扱うターミナル上で動作するため,近いものがあるように感じたので,ついでにご紹介しておきたい。(インストール方法は,この節後半)
とは言っても,述べてきた wget の代わりに指定するだけの話。
w3m http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002.txt
[↑] キーで上に戻って読むこともできる点で,more よりも便利。
なお「ブラウザ」であるため,HTML も扱える。だから,末尾の .txt
を省いた HTML 版もいちおう読める。こちらは「リンク」も機能する。
w3m http://treeware.jp-help.net/ssss/swai/swai002
w3m のインストールは,Linux の GUI 環境なら Synaptic といった「パッケージマネージャー」で可能。筆者もその方法でインストールしたが,コマンドラインからは以下のようにすればいいらしい。
sudo apt install w3m
一方,どうやら,直接 Windows 上で動作する w3m はなさそう。調べると,Windows で Linux アプリを動作させる環境上での使い方ばかりが出てくる。筆者の手元には最近の Windows がなく,試せないので,詳しい内容については,それらの記事に譲りたい。
なお,w3m の公式サイトは,以下のもよう。
● おわりに……情報バリアフリー
当然ながら,述べてきた方法は,「プレーンテキスト」がベースで,スクリプト使用も抑えて構築してある当サイトだから利用できる方法。たいていの他のサイトでは通用しないので,ご了承のほど。
◆ 「バリアフリー無視」のサイトがはびこる
冒頭でも述べたように,障害を持つ方の場合は,その障害に合わせてパソコンを使えるようにするためのソフトや機器が,ブラウザやパソコンの新しいバージョンに対応できなくなるリスクがあるため,「アップデート/アップグレード」などが気軽にできず,古いブラウザやパソコンを使い続けざるを得ない障害者も多いだろうと思っている。
一方で,今ではどのサイトも「ブラウザ××のバージョン○○以降をサポートします」などと,新しめのブラウザにサポート対象を限定してしまうことが多い。それで,いざ「見れないぞー!」とクレームしようものなら,「アップデート(アップグレード)してご覧ください」などと,何も悪びれることなく言われる。見る側の事情などほとんど気遣わない人たちがサイトを運営し,それで報酬を受け取っている。
筆者に言わせると,HTML の書式に凝りまくったり,スクリプトやらを駆使したりして,音読ソフトでは聞きづらいとか,ブラウザがちょっと古いとまともに表示しないとか,諸事情を無視した状態を放置しておいて「バリアフリー」もへったくれもないだろうと思う。
特に「スクリプト」は,問題が多いと思う。
たとえばランサムウェア(他人のパソコン内のデータを勝手に暗号化し,元に戻すための身代金を要求する犯罪)を仕込んだり,個人情報を流出させたり詐欺などに使われるウイルスに「感染させる仕組み」として悪用される可能性があるのが「スクリプト」だ。
じつはそうした攻撃に対する対策は簡単。ウェブ記事を見るブラウザ側でスクリプト機能を無効化すればいいだけの話。そうすれば,少なくともスクリプトを悪用した攻撃は効力がなくなる。つまり,スクリプトを無効化するだけで,セキュリティのリスクはかなり低くなる。実際,筆者は普段,無効化している。
一方で,サイト運営者などは,「セキュリティ向上のためにも最新の状態で!」などと言う。前述したように,セキュリティを最大限考慮するなら,スクリプトを無効化すればいい。だが,サイト運営者はそうは言わない。むしろ「スクリプトを有効にしてください」などという表示が出る。なぜか。おそらく,見せたい/読ませたい部分は「スクリプトによって読み込まれる」ような仕組みでサイトを構築してしまっているために,スクリプトを有効にしておいてもらわないと,見せたいものを見てもらえなくなったりするのだろう。実際,広告などはスクリプトの実行によって読み込まれる仕組みであることも多いようで,無効化している筆者のブラウザは,広告の表示は極端に少ない。広告を見せたい側としては,スクリプトを有効にしておいて欲しいわけだ。スクリプトが有効の状態で,しかもセキュリティを保つには……新たなスクリプトの悪用手口を潰すべく,常に「アップデート」を繰り返さなければならなくなる。そう,だから「最新の状態」を強要する……おそらく,これが実態だ。「スクリプト」という,セキュリティを危うくする要因を使わせておいて,「セキュリティ向上のためアップデートして最新版を使って!」と言っているのは,じつは「広告を見せたい」か,「スクリプトなしで見せる技術がない」かのどちらかか,その両方だと思われる。
しかし何より,スクリプトはブラウザの新旧で動作に差ができ,閲覧者によって正確な表示をしなくなるなどの影響が出る。たとえば「続きを読むにはここをクリック」と表示を出して,クリックされたら続きを表示する仕組みの場合は,それが古いブラウザでは使えないスクリプトの機能だったら,表示されないままになる。実際,2022 年1月現在,スクリプトの機能を切っている筆者のスマホで NHK サイトのニュースを読もうとすると,全文は表示せずに,「続きを読む」と表示された枠が出ることがある。が,そこを何度タップしても続きは表示されない。ところが,同じ記事をパソコンで読むと「続きを読む」の表示は出ず,初めから全文を表示する。もちろん,そちらもスクリプトの機能は切っている。ある時,たまたまスマホを横にして見たら,全文を表示した。どうやら,ブラウザの幅の違いで表示が異なり,幅が狭い時は一部だけ表示し,タップするとスクリプトが機能して全文を表示するようになっていたらしい。スクリプトを切っているために表示しなかったわけだ。ただ,「横にすれば全文を読めます」なんて告知はどこにもなかった。気づかずに読むのをあきらめた人もいるのではないかと思った。
特に「音読ソフト」では,表示されない部分は読み上げない可能性がある。画面が見れないために音読ソフトに頼っている人は,「クリックする」ことが分からず,その先を聞けないかもしれないわけだ。
また,筆者の手元には古い iPhone もあるが,気象庁の防災情報をそれで見ると,レイアウトが乱れてかなり見づらい。災害が迫り,何らかの事情でたまたま使えるものがその iPhone だけになってしまったら,正確な情報が得られるのかどうか微妙なところ。スクリプトを駆使して「見易くした」つもりなのかもしれないが,一方でそれは,前述の w3m
などのスクリプトが使えないような環境から,正確な防災情報の入手をどんどん困難にしているようなものだと思う。せめて当サイトのように「HTML が読みにくければ,プレーンテキストでも読めます」といった低レベルな情報源が用意されていればいいが,筆者が見た限りは分からなかった。用意されていなければ,新しい機械やブラウザでは操作できなくなる障害者や,そもそも経済的理由などで最新機を手に入れられないような人から,災害の犠牲になる可能性を高めてしまうように思う。
◆ 情報バリアフリー
当サイトでも HTML 形式の表示でスクリプトを利用しているが,一部の便宜的なものに限定しているため,スクリプトが機能しなくても閲覧できる内容はほぼ同じになっている。また,当サイトで独自に開発した「和易ゐ記」という記述方式は,CMS としても利用しているため元ファイルの「プレーンテキスト形式」も読める。「文字のみ」の低レベルな情報源だから,ブラウザや機械がどんなに古かろうと,また紹介したように,時としてブラウザ以外でも直接読める。
当サイトが,そうした低レベルな情報源をベースとし,また HTML のスクリプト使用も限定的である理由は,もうご理解いただけると思う。一言で言えば,「情報バリアフリー」のためだ。障害があって,使える機械やブラウザを新しくできず,どんなに古いものを使っていようと,場合によっては「ブラウザが使えない!」なんて人だろうと,同じ情報を入手できる手段が用意されていてしかるべきだと思うのだ。
しかし多くのサイトは,「見れない」と言われた時の対応で「最新の状態にして見てください」で済ませていないか? それは「最新の状態にできないならあきらめなさい(見なくていいです)」と門前払いするようなもの。そんなサイトが「バリアフリー」を掲げているとしたら,ちゃんちゃらおかしい。何が「さすてぃなぶる」なのかと言いたい。