2010-12-14

死因は「暑さ」だけか?


石川 雅章

 さすがに今年の夏は「このままではヤバい」と思った。
 ある日の昼間,例によってかなりの暑さだったが,いくらお金がなくて冷房できないからといって,ボーっとしているわけにもいかない。とにかく少しでもできる仕事を進めようと,少々無理して机に向かって作業をしていた。
 ちょっとキリがついたので,一息入れるついでに汗を拭こうと洗面所に行きかけた時,手が濡れているのに気付いた。それが,汗のように「全体にじっとり」と濡れているのではなく,「局所的にびっちょり」といった感じ。もちろん,手を濡らすような作業などしていないし,そもそも液体など周辺には置かれていない。しかもよく見るとその液体,「糸をひいている」。「なんだろう,これは」と,濡れていないほうの手を顔に当てた時,口の周辺も「ぬるぬる」であることに気付いた。どうやら「無意識によだれを垂らしていた」ようなのだ。
 「このまま意識を失ってしまうのが『熱中症』なのね」……この夏の暑さに「恐怖」すら覚えた瞬間だった。さすがにその後は,暑い時には無理して机に向かう作業はせず,他の作業中心に切り替えた。

 とはいえ,何も対策をしなかったわけではない。
 自宅には冷房はないが,「冷風機」というものはある。しかし,エアコンほどパワーがなく,暑い時に使っても全然効かないので,これまであまり使う気が起きなかった。
 ただやはり今年の暑さは,「なんとかうまく使う方法はないか」と考える気を起こさせた。いつも作業をする6畳の部屋は無理でも,もっと狭ければ何とか冷やせるかもしれない。そう思って,自宅で最も狭い空間を冷やすことを考えた。既に「無線 LAN」が使える環境は整っているから,どこでもパソコン作業はできる。あとは,置く「机」が欲しい。でも,狭い場所にも置けそうな机など,なかなか市販されていない。そこで,板材やら角材やら金具やらを買ってきて,ドリルやら鋸やらを持ってトンカントンカンと「木工作業」をしたのだった。
 かくして「トイレ事務室」が完成した。[1]
 「冷風機」の噴出し口をトイレに向けて作動させると,案の定,「控え目に設定した冷房」程度に涼しい。「これで,これからは作業も順調に進められる」……と,思ったのも束の間,30 分ほど動かしたところで,無情にも,内部の冷却用コンプレッサーだけが停止してしまった。どうやら,外気(と言っても屋内)の暑さのため,内部に熱がこもって安全装置が働いたようだ。「冷風機」は「熱風機」と化した。

 とりあえず他の対策も考えていた。
 自宅で机に向かって作業をしていると,暑さで頭がボーっとして来るのだが,横に敷いてある万年床に寝転がると,少しマシになる感じがする。どうやら「トタン屋根」のためか,熱気が部屋の「上半分」に溜まるようなのだ。とはいえ,寝たまま作業をするわけにはいかない……と考えるのが普通なのだろうが,天邪鬼の私はつい逆をしたくなる。
 「寝たまま作業ができればいい。」
 まぁ,これも「暑さのせい」なのかもしれないが。
 たとえば,寝た姿勢で使えるパソコン台があれば,書類の作成や事務作業くらいはできる。もちろん,そんなパソコン台など市販されていない。そこで,板材やら角材やら金具やらを買ってきてトンカントンカン……(以下同様)。
 かくして「ゴロ寝用パソコン台」が完成した。[2]

 ところが,いざ実際に使ってみると,「暑さ」云々とは違う効果を発見。「腰がラク」なのだ。
 これまで,机に向かってキーボードを叩いていた時は,すぐに腰が痛くなっていたが,「ゴロ寝用パソコン台」では,1時間以上パソコン作業を続けてもあまり苦にならない。というわけで,この台は夏が終わった現在も(「今」も)重宝している。
 ちょっと話が反れるが,私はいつも「インターネットラジオ」を聞いている。通常のラジオと違い,特定のジャンルの曲ばかり放送するラジオ局が多く,一日中好きな音楽だけ聴いていられる。受信に使うのは,「もう使わないから」と言われてもらってきたパソコンとスピーカー,そして,中古屋で2〜3千円で揃えた無線 LAN などの通信機器。スピーカーを枕元の両脇に置いて間に寝転がり,好きな音楽に包まれながらパソコンで作業をすれば,これはもう「至福の」貧乏生活。もうしばらく「カネ」にも「女」にも縁はなさそうだ。

 さて,そんな「超横着」なパソコン作業の仕方をするようになって少し経った頃,フと考えた。「ひょっとするとこんな台があれば仕事ができるようになる人が居るかもしれない」と。
 ちょうどその頃,気になるニュースを見つけた。それは「76 歳男性,熱中症死」というもの。[3] なんでも,それまでその家の収入は亡くなった方の年金のみで,何年もの間,電気もガスも使わずに生活していたとか。長男が同居していたものの,その長男も腰を患っていて就ける仕事が見つからなかった,という話。
 他人事ではない。幸い「電気やガスを使えない」ほどではないものの,インターネットの記事で見た写真のような「薄っぺらい屋根」の直ぐ下の部屋に,エアコンを使わず,たいした仕事もできずに生活している点などは,私もほぼ同じ。

 とはいえ,「仕事」に関しては,長男は「腰を患っているために仕事に就けなかった」のだという。確か「職安にも行ったが……」という話だったと思う。私のような「横着グセ」から来る努力不足ではない。一方で「腰」に関しては,痛めているわけでもない私が,寝転がって「極楽状態」で作業ができる環境を得ていて,逆に,少しでも働いて養うべき家族もいたその長男は,なす術がなかったわけだ。
 「なんとかならなかったのだろうか」という思いが込み上げた。もし私がこの台を作った直後あたりにその長男の人と出会っていたら,そして「腰が痛くてもできることはありますよ!」と言って,この台を譲ってあげていたら……。長男は,自宅でパソコンでできる作業にも求職先を広げられると,希望を持てたかもしれない。それを前提に職探しを再開したり,電気を再契約していたかもしれない。そして,父親の「熱中症対策」のために扇風機を回すことくらいできたかもしれない。そんなことを考えた。

 同時に思ったのは,「『職安』って何をする所なのだろうか」ということ。もし,企業に「求人票」を出させて,それを「求職者」に見せるという,いわば「右から左へ書類を回す」だけが仕事であるなら,何も「オヤクショ」がやる必要はない。ウェブサーバ上に企業が職種の分類や諸条件などを入力できるフォーム(入力ページ)を設置し,受け付けたデータを蓄積して,求職者が検索可能なシステムを作れば,人手など要らない。
 だいたい,そうしたものは民間で既にあるのではないだろうか。とすれば,ある意味「オヤクニンがやるまでもない」こと。もちろん「人を相手に話さないと気が済まない」求職者もいるだろうから,「人がそこにいる」意味もあるかもしれないが,別にそれは「オヤクニン」でなくてもいいはず。

 では,なぜ「職安」は「オヤクショ」なのか。そもそも「職安」とは「職業安定所」,つまり「安定して職業に就かせる」ための様々なサービスの提供をする「公的機関」であるはず。税金から給与を受け取っている「オヤクニン」がするからには,単なる「斡旋」や「紹介」とは格が違うものでなければならないような気がする。
 「職業訓練校の紹介」くらいはしているのかもしれないが,では前述のような「腰が悪い」とか,他にもたとえば「握る力が弱い」とか,「声が出せない」といったようなハンディキャップを持つ方に対してはどうなのだろうか。
 まず,前述の「寝た姿勢でパソコンが使える台」を使えば,腰が悪くてもパソコン作業くらいできるはず。過去にも私は,障害者やその関係者の方からの相談で,「電動スタンプマシン」とか,「VOCA(ヴォカ)」と呼ばれる「録音した声を出す装置」を作ったこともある。[4][5] 応用すれば,握力がなくても出来る作業があるかもしれないし,同じセリフばかり連呼する「呼び込み」や,駅前での「ティッシュ配り」程度なら,言葉が不自由な人でも,ある程度できるのではないだろうか。
 別に私が作ったものでなくたって,巷にはいろいろな福祉機器や補助器具が溢れている。そのままでは働き口が制限されてしまう人でも,その「ハンディキャップ」を補助するような道具が与えられれば,就ける職種が格段に広がる可能性だってあるはず。

 しかし,今の「職安」が,そのような「適当な道具を宛がって働ける可能性を広げる」ようなことまでしているだろうか。まぁ,腰の悪い長男の働き口を見つけられなかったということは,そこまでする気など全くなかったためであろうことは容易に想像できる。「その人をより働き易くするには何があればいいか」などには一切目を向けないまま,「できる仕事はないです」と言って追い帰してしまっているのが,今の「職安」の実態ということだろう。

 ただ,どういったハンディキャップにどのような機器が適当かを調べるのは,それなりにたいへんであろうことは,想像に難くない。「私(石川)が作ったものだけ」を対象に「使えるか,使えないか」を判断すれば済む,というわけにはいかない。市場に溢れる全ての「福祉機器」や「補助具」などを対象に,その人に合いそうなものを探し出すのは,かなりの手間になるだろう。
 でも「やるべき」ではないだろうか。職業「安定」所なのだから。「安定」と称しながら安定させられないなら,それは「職務怠慢」であり,「責任放棄」であり,公務員としての「義務違反」のように思う。何のために,国民が納めた税金から給与を受け取っているのか。

 しかし残念ながら,「いくら国民のためとは言え,『たいへんな思い』はしたくない」というのがオヤクニン根性。改善される望みはほぼゼロ。それは,年金の管理がどうだったかを見れば言うまでもない。
 最近では「名ばかり長寿」がいい例。大阪市には 152 歳(1857〈安政4=江戸時代〉年生まれ)の男性を歳高齢に,ほかにも 120 歳を超える人が 5125 人も,戸籍上「生きている」ことになっていたとか。[6] この程度の管理能力と意識だ。で,その職員の平均年収は 700 万円弱ほどあるとのこと。もちろん,大阪市に限った話ではない。
 考えてみれば,こうした「オヤクニン」が,今まで「世界一の長寿国」を示す数字も出して来たわけだ。自殺者はジワジワ増え続けていて,原因として「いじめ」や「集団自殺」の話がある一方で,「過労死」や,子供の「虐待死」などのニュースも多い。とすれば,亡くなっているのはある程度若い世代が多いのではないか。でも,寿命は「伸びている」という。「名ばかり長寿」の問題は,その辺りの「からくり」を垣間見たような気がする。

 その「オヤクニン」がする仕事だから,もちろん職安にも「黒い噂」が付きまとう。あるサイトで「酷い求人」として記載されていたものとしては,「月給8万事務」とか,「実務経験6年時給 \750」などといったものがあるという。[7] そこだけ見ても「労働基準法」を満たしている職場なのかどうか不安になるが,実際に紹介されている求人であるなら,職安のオヤクニン様方はスルーしているのだろう。
 当事者に言わせると「膨大な求人票をいちいちチェックするのはたいへんなの!」という声が聞こえて来そうだが,「だったら 700 万円も持っていくな」と言いたい。人一倍持っていくなら,それなりの仕事をこなせていてしかるべき。

 結論として「職アン」とは,レベルの低い職場斡旋で将来の見通しも暗くする「職業暗低所」,あるいは「労わり(いたわり)」の精神などとっくに破壊された会社を,ノーチェックで輪のごとく悪循環させる「破労輪悪(はろうわあく)」と言ったところだろうか。

 では,その「オヤクショ」の出す「(完全)失業率」とか「有効求人倍率」といった数字は何なのだろうか,と疑問を持った。調べたら,なんと,実態より「いい数字」が出るような仕組みになっているらしい。[8] 「完全失業率などの数値が実態を反映していない」という,政府の「内部文書」まであるほどだとか。
 いわゆる「ニート」と呼ばれている「修学も就活もしていない人」は,「失業率」算出時に「分子(被除数)に含まれない」ことが,欧米とはかなり「考え方が」違うようで,小さな数字になる一因らしい。単なる「失業率」ではなく,「『完全』失業率」などという特別な用語を用いているのもそのためのようだ。しかし,こうした数字の求め方を問題視する声は,既に数年前に聞いていた気がする。
 「有効求人倍率」というのも,報道では「求人数 ÷ 求職者数」のように報じられてるが,実際は「ハローワークへの求人数 ÷ ハローワーク利用者数」だという。つまり「ハローワークで把握していないものは対象外」なのだとか。詳しく言うと,分子(被除数)には,前述のような「どーでもいいブラック求人」が含まれ,分母には「ハローワークを(たとえば『信用できない』などの理由で)利用しない人」は含まないので,実態より高い数字になるという。
 そんな数字でも,近頃は出した側が「かなり悪い」と言っているくらいだから,どんだけ「不況」なのか。もう少し緊迫感があってもいいように思うが,そんな感じは伝わって来ない。

 さて,じつはここからが問題の本質。
 秋口,急激な円高が問題になり,輸出に頼る企業の多い日本は「さらに業績が悪化する」と騒いだ。ところが報道に依ると,円高の原因の1つが「低い失業率」だという話。「失業率が低い→日本は欧米ほどの不況ではない」と見られているのだとか。

 つまりは「官製不況」だ。いや,今は「菅政不況」と書いたほうが合うかもしれない。

 しかも,このようなことを平気で放置する方達の平均年収が 700 万円もあって,それを平気で税金から受け取っているのかと思うと,なんだか情けなくなる。せめて,一般サラリーマンより少し多いくらいの 400 万程度まで下げて,差額で人を雇って,ブラックな求人を排除する「仕分け」をしてもらえば,「給与もらい過ぎ」の批判をかわし,「ブラック求人企業」も排除でき,「雇用の創出」にもなるから,一石二鳥・三鳥でしょ。書類を見て「賃金が低過ぎないか」などを判断する作業くらい,「腰が悪い」程度なら問題なく雇えるはず。
 まぁ,既述の通り「身を削ってまで納税者のために働く気などない」のが「オヤクニン」気質だ。
 「身を削る」云々と言えば,「経営者」もどうかと思う。某自動車会社の社長で,9億円近い報酬を受け取っている方が居たようだが,自分がそれだけ受け取る前に,一部でも広く社員に分配して,雇用をつなぎ止めることはできなかったのだろうか。
 もちろん,その自動車会社に限らず,高額の報酬を受け取っている人は他にもいるわけだが,そういう方達はそのお金を「何に使う」のだろうか。だいたい,使い切るのか。たとえ半分も使い切れないような報酬を受け取っていないで,その半分ずつでも社員に分配して,消費に回るお金を増やし,雇用をつなぎとめるくらいのことを全経営者がやっていれば,日本の景気もここまで悪くならず,前述の「熱中症死」などもなかったのではないか。
 報道では,経営者に意見を聞くと「景気が悪いから政府は対策を」と口を揃えるが,実質的に消費を冷え込ませているのは誰なのか。

 これで「若者が働く気を失っている!」と嘆いているのだから,ちゃんちゃら可笑しい。「失うほうが『正常』ではないか」とすら思えるのは,私だけではないだろう。


参考


[1] トイレを事務室に!?
http://treeware.jp-help.net/WCOffice.jpg
[2] ゴロ寝用パソコン台
http://treeware.jp-help.net/goronePC.jpg
[3] 炎暑,弱者襲う 熱中症死の76歳,電気ガスなし10年〔朝日新聞〕
http://www.asahi.com/health/news/TKY201008190509.html
[4] どなーるキット
http://treeware.jp-help.net?ednl
[5] エスコアール−製品(電子機器 1)
http://www.escor.co.jp/Products_E_donall.html
[6] 大阪市の最高齢152歳 戸籍上120歳以上5125人〔朝日新聞〕
http://www.asahi.com/national/update/0825/OSK201008250071.html
[7] ハローワークの黒い噂 酷過ぎる求人「月給 8 万事務」……他
http://himo2.jp/1395400
[8] 政府発表より実態は悪い? 完全失業率とは
http://allabout.co.jp/career/economyabc/closeup/CU20090512A/