2011-04-03

「権威主義」の末路

石川 雅章

 まずは 2008 年7月下旬頃の「2ちゃんねる」への投稿からの抜粋をお読みいただきたい [1]。なお,括弧内は筆者加筆部分で,内容解釈が変わらない程度に空白や句読点を付加したり,改行の省略などを施した。文中の「w」というのは,“(笑)”のネット上での省略表現。専門用語などは後ほど解説します。

A 投稿
 元々手集計のデータ照合を、面倒だからってスクリプトにやらせて楽チンしてた。その会社を辞めることになって当然スクリプトも引き上げ、退職後すぐに「時間がかかってしょうがないんだけどあの処理はどうやればいい」って聞いてきたから「手でやれば早いんじゃないっすか?残業させてもコストゼロなんですしwww」ととぼけたのももう春香(遥か)昔の話だな。
B 投稿(A 投稿を受けて)
 あったなぁww そういうの。昔、安月給でさんざんこき使ってくれた上,残業代を払わないと宣言してくれたお礼に、定期的に餌をやらないと自作のシステムが停止する仕掛けを作りこんだことがあったな。
 残業代もでないのに残業するのは馬鹿らしいから、自分でシステム組んで、自分の業務の7割近くを圧縮。結果、定時で毎日帰ることができるようになったんだが、どんどん仕事が舞い込んできた。まぁ、それもどんどんそのシステムに組み込んでいったわけで、当初の仕事量の5倍近くまで膨れあがっても、俺はそれでも定時に帰っていた。
 そしたら、周りの人間が(まだ働いて)いるのに定時で帰る(とはけしからん!)とかなんとか抜かしはじめて、評定まで下げ始めたので、辞めさせていただきましたわw。もちろん、システムは別に作れと言われたものでもないですし、(「そのうち停止する」ことなど告げないまま辞職。そしたら,)仕事量を5倍こなしていた(自作の)システムのそれをどうやら、人員配置の際に計算に入れていたようで、俺がまぁ、辞めることになって、その数ヶ月後システムが機能しなくなり、業務破綻。
 とにかく、俺はファイル探すとか、手集計するとかくだらん業務がキライだったから、とことんDB(データベース)でシステム化を図り、リアルタイムで外部に対応していたので、それが出来なくなって、結果的には、人員を元の数まで戻したって話だ。

 ここで,A 投稿内の「スクリプト」というのは,簡単な「プログラム」のようなもののこと。特に,人間が記述したプログラムを,コンピュータが直接実行できる形式に直す「コンパイル」という手続きを必要としないものを「スクリプト」と呼ぶことが多い。厳密には「コンパイル」に相当する処理をしてから実行されるものが多いが,処理過程を見ていても区別できないため,人間が見てもある程度意味が分かる「プログラム」の記述を,直接コンピュータが実行してくれるような感じになる。そのため,使い方を知っているとかなり手軽にいろいろな処理をさせることができる。ウェブサーバで提供するサービスを構築する際などもよく使われるほか,パソコン上でも実行できるものがある。
 「スクリプト」の処理は,当然コンピュータのスピードであり,人が手作業でやるより格段に速い。たとえば,あるフォルダ内の全ての写真を,撮影した順に数枚ごとに小分けにして表示させるホームページを作るような場合,「あとはここに写真を入れさえすれば OK」という「ひな型」となるようなページを1つ作り,あとはそれをコピーして,画像の「ファイル名」の一覧から「撮影日時」を読み出して順番に並べ,定められた枚数ごとにハメ込んでいく「スクリプト」を作ってしまえば,たとえ写真が数百枚あっても,ほんの数秒で全てのページを作ることができる。手作業でやると,どんなに手際よくやっても「数時間」規模の作業が必要となるだろう。だから,A 投稿者が「スクリプト」に処理をさせていた作業は,いくら頑張っても,同じ時間に「手作業」で処理しきれるとは思えない。
 B 投稿の「餌をやる」というのは,たとえば「数ヶ月に一度『暗証番号』のようなものの入力が必要になる」仕組みを言っているのだと思う。それを入力しないとシステムが動作しないような仕組みを作れば,暗証番号を知っている人しか使い続けられないことになる。
 また,ここで言う DB(データベース)というのは,数千,時として数万ものデータをまとめて扱えるようにするコンピュータ上の仕組みのこと。たとえば,該当する一部の顧客に「お知らせ」を配布する必要があるような場合,顧客数が多いと,手作業では探し出す手間がたいへん。だからと言って,全ての顧客に「お知らせ」を配布すると,その「配布」のコストに加えて,「問い合わせ」への対応も考えなければならなくなる。でも,DB を利用すると,その「条件」を与えるだけで,該当する顧客の抽出が容易にできるようになる。顧客や取り扱い製品/商品が多い企業にはなくてはならない仕組みで,そのための「サーバ」が重要な設備となるが,パソコンでも,数百から数千程度の小規模なデータベースなら使えるようになっている。処理内容が同じであれば,その処理をするスクリプトと組み合わせることで,どんなに仕事の量が増えても,パソコンで処理できる量を超えなければ,処理にかかる時間はあまり増えないことになる。

 さて,ここで紹介した投稿をした方々は,働いていた会社にとってどのような存在だったのだろうか。少なくとも,B 投稿者は,どうも「煙たがられて」会社を追い出されたような感じがする。しかし,「仕事が増えても定時に帰れる」ほどの処理能力は,普通に考えれば「デキル奴」と評価されてしかるべきはず。ところが逆に「評定まで下げ始めた」という会社の扱いは,とうてい理解できない。
 結局,B の投稿をした人の作ったシステムが,数ヶ月後に「暗証番号がないと継続使用できない」状態になっても,煙たがって半ば追い出したような人に「暗証番号教えて!」と泣き付くことはできず,結果として会社の運営もガタガタになったことだろう。でもきっと経営者は「B が余計なシステムを作ったから,こんな目にあったのだ!」と逆恨みしていそうな気がするのは,私だけだろうか。「デキル奴」として大切にしていれば,会社はもっと繁栄したかもしれないのに。
 皆さんはどう感じただろうか。

 じつは私も1年ほど前,それまで数年間「週イチ」で非常勤で働いていた福祉施設から契約の打ち切りを告げられた。理由は「経営難」だ。
 その施設,寄付やら補助金やらでパソコンも5〜6台あり,「会報」の編集などに利用しているが,プリンタは2台ほどしかない。当初,プリンタが接続されていないパソコンで作った原稿を印刷する時は,一旦「フロッピー・ディスク」に原稿のファイルを保存して,プリンタの接続されているパソコンに移して印刷していた。プリンタが接続されたパソコンが別の作業でふさがっている時は,その作業が一段落するのを待っていた。それは,たとえ「試し刷り」の場合も同様だ。
 しかし,「ルーター」と呼ばれるネットワーク機器の導入後,私はネットワーク経由でパソコン同士のデータ通信をするよう勧めていた。たとえば「遠隔印刷」は,ネットワークを経由して,プリンタが接続してあるパソコンに別のパソコンからデータを送って印刷ができる仕組み。また「試し刷り」のように「印刷するとどうなるか確認するだけ」だったら,そもそも印刷の必要すらなく,作成した原稿ファイルをネットワーク経由で別のパソコンから呼び出して「プレビュー」すればいいだけの話。待ち時間も,インクも紙も必要ない。
 しかし,私が働いているウチにそれが実行されることはなかった。コピーする媒体が「USB 記憶装置」にはなったものの,職員は,相変わらずファイルをコピーし,プリンタが接続されたパソコンが空くのを待っていた。
 その施設は他にも,「百円均一店で買えますよ」と教えた LAN ケーブルを,わざわざ量販店で6倍近い値段で購入したり,補助金で入手した機器を,しまい込んでいるうちに「何に使うものか」が分からなくなり,同じ機能のものをまた補助金で手に入れようとしていることを,私が指摘するまで分からなかったり……といったことが度々あった。
 「待ち時間」をはじめ,インクや USB 記憶装置のコストを考えるように言っていた私が「経営難」で契約を打ち切られ,そうした意識もノウハウもない方々が残るのが実態。パソコンが「大の苦手」の代表者にとっては,私も「煙たい存在」だったのかもしれない。
 「福祉目的」だからと言って,寄付金や補助金が「有益に使われている」とは限らない。何事にせよ,「検証」は必要だと思う。

 こうした話,それこそ「2ちゃんねる」なんかに上げられる程度の,そこいら辺の中小企業や施設に限った話……で,果たして済むだろうか。

 マサに今「渦中」であり「火中」でもある福島原発を抱える東京電力において,過去に「原子力の専門家の幹部を追い出していた」という話を知った時は,原子力に関わる問題について「何度呆れさせられるのか」と呆れた [2]
 要約すると,2002 年に発覚した「原発トラブル隠し」問題で,東電が社内の原子力関係者を「忌み嫌って」,福島第一原発所長として 20 年もの経験があった常務などを追放してしまい,取締役以上に原子力の現場関係者がほとんどいなくなっていたのだという。今回の東電の「後手後手の対応」の背景には,その「仕組みを熟知した専門家が,指示を出す立場に居ない」ことがあるという。
 しかし「忌み嫌って」とか,「追放」というのは,いったいどういうことか。「隠していた」のが,その追放された原子力関係者であるなら,「追放」ではなく「懲戒解雇」されていいくらいだが,そうは書かれていない。ひょっとすると,「発覚させた」のがその原子力関係者で,周囲の人間が,その後の似たような「発覚」を恐れたのだとしたら,そうした表現になったとしてもおかしくはない。まぁ「想像」の域を出ないが。

 私が共通して感じるのは「権威主義」だ。つまり,人事に影響を及ぼす強い立場にある人が,自分に都合の悪いことを言う人,やる人,気に入らない人を,その立場の優位性と感情に任せて,ことごとく排除してしまう。しかも,現場に必要な専門家や技術者,能力のある人までも容赦なく。述べてきたのは,その「典型的結果」のような気がしている。

 日本の産業は「(諸外国と比べて)コストが掛かり過ぎる」と言われている。その例として適切かどうかは分からないが,たとえば同じ「先進国」の製品でも,国産のスパゲティより,イタリアから輸入したもののほうが安く買えることも多い。いち時期「バイオ燃料」が注目されて小麦などの穀物価格が上昇し,その影響で「うどん」やパスタ類など,小麦粉を主原料とする製品がことごとく値上がりしたことがあった。その後少し落ち着き,輸入もののスパゲティは値上げ前の水準にまで下がったのだが,国産のスパゲティや「うどん」などは,それほど下がっていない。「円高」の影響もあるのかもしれないが,腑に落ちないのは,同じスパゲティでも,「国産」のほうが本場イタリアから輸入されたものより高いことが多いという点。だいたい,イタリアも「先進国」であり,それなりの「労働コスト」もあるはずである。それが,たとえ日本の「大手メーカー」の製品でも,輸送費も含めた輸入品より高いというのは,どういうことか。しかも,個人的には「イタリア産」のスパゲティのほうが美味しいような気がするのだ。
 その「割高なコスト」の中に,「頑迷固陋」な権威主義者達を温存させるための費用が含まれてはいないだろうか。

 「このままだと,日本は競争力を失う」とは,「有識者」と呼ばれている方々から異口同音に聞かれる認識。報道を賑わしている諸事案を見れば,「このままだと……」どころか「現在進行形」であることは一目瞭然のような気がするが,当の「為政者」達が気付かないまま,意識も変えず居座り続ける限り,この傾向が止まることはないだろう。


[1] 残業代不払いの報復 : 2chコピペ保存道場
http://2chcopipe.com/archives/51642022.html
[2] NEWSポストセブン|原発事故の原因の一つ 東電社内人事で原発専門家追放の過去
http://www.news-postseven.com/archives/20110331_16160.html